里山資本主義が地域活性化に貢献するためには

新書大賞2014に「里山資本主義-日本経済は安心の原理で動く(藻谷浩介・NHK広島取材班)」が選ばれ(*1)、「里山資本主義」が広く知れ渡りました。グローバル化した資本主義の元で大都市の経済が拡大した一方、地方の経済は衰退傾向が見られます。そんな中、これからの地方の地域活性化の考え方として里山資本主義が提言されています。本記事では里山資本主義の考え方を説明し、国内外の事例を紹介します。最後に里山資本主義が地域活性化に貢献するために必要な要件を述べます。

里山資本主義について

「里山資本主義」の名前は、NHK広島局の番組タイトルから生まれました。既にNHKで制作されていた番組「マネー資本主義」のタイトル名を元に、「マネー」の部分を「里山」に置き換えたとの事です(*2)。まずは「マネー資本主義」について説明し、次に「里山資本主義」を説明します。

マネー資本主義とは

サブプライムローンに端を発したリーマンショックと、リーマンショックに連鎖した金融危機を扱った番組をNHKが制作しました。番組タイトルには「マネー資本主義」という言葉が使われました(*3)。資本主義経済はお金(マネー)を媒体としたシステムで、本来は実体経済の拡大により、社会全体の生活が豊かになるのが理想です。「マネー資本主義」という言葉は、資本主義経済のグローバル化により、システムが暴走したときの被害が世界規模で発生してしまうリスク、及び「お金がお金を生む経済」を強調して使われています。

里山資本主義とは

里山資本主義とは地域内(市町村レベル)でお金、資源を循環させ、地域社会を未来につなげるという考え方です(*4_56P) 。推計によると2040年には全国896の市町村が「消滅可能都市(人口流出・少子化により存続できなくなる可能性のある自治体)」に該当し、内523市町村は人口が1万人未満となり、さらに消滅の可能性が高い状況です(*5_4P)。 そこで、里山資本主義による地域活性化が議論されています。(例:*6,*7,*8)
なお里山資本主義は、現在の経済発展を導いたマネー資本主義を否定している訳ではありません。マネー資本主義のサブシステムとして機能し、地域の資源、お金を地域内で循環させることを狙っています(*4_56P)。 例えば、地域内の資源を利用した発電・熱利用の利用率を上げることにより、電気料金や燃料費など地域外への支出を減らし、地域内に循環する資金を増やすイメージです。

里山資本主義の話題を国内外に発信

創刊120年余の歴史を持つジャパンタイムズは「Japan Times Satoyama推進コンソーシアム」を設立し、里山資本主義が掲げるビジョンの実現に関する活動を発信しています。里山資本主義に関する活動を国内外に知ってもらうことによって、既存の産業とのマッチングや、新たな物産の販売・流通のネットワーキング、インバウンド観光客への対応に寄与することを狙いとしています。(*9)*(*10)

Japan Times Satoyama推進コンソーシアムの活動指針は次の通りです。(Japan Times Satoyama推進コンソーシアム設立趣意 https://satoyama-satoumi.net/about/ から引用)

・里山資本主義の実践者を支え、つなぎ、増やしていき、その活動を持続可能なものにしていくこと。
・里山資本主義が、マネー資本主義のオルタナティブな選択肢として機能するようにすること。
・里山資本主義への支援や関与が、企業や自治体等の国内外での価値を高める環境をつくること。

里山資本主義が掲げるビジョンの実現事例(国外)
オーストリア・ギュッシングでのバイオマス利用による地域活性化

引用: 日経BP 新・公民連携最前線
「第12回 オーストリア・ギュッシング――世界中から視察が来るバイオマスの地産地消モデル」
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/080200047/070500018/

隣国ハンガリーと接するオーストリア・ギュッシングは、元々目立った地元産業がなく、人口流出が止まらない状況でした。1992年にペーター・バダシュ氏がギュッシング市長に就任し、ギュッシングの経済復興における課題は「620万ユーロ/年も地域外に流出するエネルギーコスト」であることに着目しました。地域外に流出するエネルギーコストを低減するため、ギュッシング内のバイオマス資源によりエネルギーを賄う政策を推進しました。(*11)(*12)

(1)木質バイオマスを用いた熱供給、発電
ギュッシングの年間平均気温が約10℃と低いため、暖房によるエネルギーが大きい地域です。そこで化石燃料を用いた暖房から、木質チップを用いたバイオマスボイラーと熱の供給網を導入しました。また木質チップの節約のため、太陽熱温水器の導入も行われています。木質バイオマス熱併給発電事業も開始しました。

(2)牧草などを燃料としたバイオガス精製、及び発電
牧草などを発酵させることで発生するメタンガスを生成するプラントをシュトレムに建設しました。メタンガスを燃焼させることによる発電を行い、500kWの電力、600kWの熱を作り出すことができます。また、ギュッシング内の複数の施設で食品ゴミ、畜産排泄物を利用したバイオガス、バイオディーゼル燃料の製造も行っています。

(3)バイオマス活用の実証サイト
さらなるバイオマスの活用に向けの実証も行われています。例えば、約850℃の高温水蒸気で木質チップを水素と一酸化炭素にガス化させる技術開発が行われています。水素と一酸化炭素からメタンガスを合成することができるため、メタンガス燃焼による発電、メタンガスの直接供給などが可能となります。

ギュッシング内のバイオマス資源によりエネルギーを賄う政策を行う前は、地域外に620万ユーロ/年の支出がありました。しかしバイオマス活用による地域活性化により、地域内での消費が盛んになり、また他の地域への余剰エネルギー供給が可能になりました。これにより1300万ユーロ/年(2016年)の収益が得られるようになりました。また約4000人の人口の地域であるギュッシングで、1000人以上の雇用創出にも貢献しています。

里山資本主義が掲げるビジョンの実現事例(国内)

バイオマスとは生物から生まれた資源を指し、森林の間伐材、家畜の排泄物、食品ゴミ廃棄物などを指します。このバイオマスはエネルギーとして利用でき、地域活性化に役立つ可能性も持っています。地域が主体となった主な活用事例は下図の通りです。(*13)

引用:経済産業省 資源エネルギー庁
知っておきたいエネルギーの基礎用語~地域のさまざまなモノが資源になる「バイオマス・エネルギー」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/biomass.html

他にも多くの事例があります。しかし「里山資本主義」の実践には地域ごとにそれぞれの課題があり、必ずしもすべてが成功していないのが現実です。補助金終了後の事業継続性が担保されない例も見られます。地域住民の自発性、好意に過度に依存していることも考えられます。里山資本主義に基づいた事業においても、通常の事業と同じように一定水準の営利性の展望と、状況の変化に対応した判断ができる仕組みが必要です。(*6_2P)

岡山県真庭市における木質バイオマス事業

岡山県真庭市は中国山地のほぼ中央に位置し、人工は約4万9千人(2014年)、主要産業は木材産業です。木材の加工時に発生する木質系廃材や林地残材を活用する考えに基づき、エネルギー自給率の向上が進められています。(*8_6P)

(1) 木質バイオマス利用の連携拡大
地元・銘建工業(株)の代表者である中島浩一郎氏を塾長として、1993年に「21 世紀の真庭塾」が結成されました。1998年、真庭塾に「ゼロエミッション部会」が立ち上がり、バイオマス利用が加速されました。2001年には林業・製材業を中心とした地域内での産業連係が進められ、この後市全体での木質バイオマス活用の推進に拡大しました。(*8_7~8P)

(2)木質バイオマス利用の拡大
1998年の木質バイオマス発電(出力 1,950kw/h)がバイオマス活用のスタートでした。2005年、NEDOの「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」に選ばれ、林地残材や樹皮等を燃料化する実証実験が実施されました。この後、木質バイオマス活用地域エネルギー循環システム確立事業がスタートし、発電用蒸気ボイラ1基、熱利用蒸気ボイラ 11 基、温水ボイラ 14 基、ペレットストーブ・薪ストーブ 155 台が導入されました(*8_8P)。2013年に真庭バイオマス発電株式会社が設立され、10,000kW(一般家庭22,000世帯分)の発電能力を持つ、木質チップを燃料とした発電事業がスタートしました。(*14)

(3)今後の活動
有機廃棄物資源化事業も進められており、生ごみ資源の肥料化(資源化)、廃食用油のバイオディーゼル化が進められ、1.5 億円/年の処理費用削減に繋げることを目標にしています。捨てていたものを有効利用し、処理費用の削減ができるのであれば、まさに一石二鳥といえるでしょう。また、バイオマス事業の見学メニュー充実による観光収入の向上も図っています。(*8_9P)

まとめ

里山資本主義とは地域内(市町村レベル)でお金、資源を循環させ、地域社会を未来につなげるという考え方です。補助金に頼らないビジネスモデルを構築し、地域活性化につなげることが大切です。このための要件は以下の点と考えられます。
・地域の個性を生かしたビジネスモデルを確立し、地域外に流出する地域の資金を抑える仕組みを構築(地産地消)。
・地産地消の次は地域外への外販(地産外消)による収益拡大。なお、外販事業も地域メンバーで行い地域外への資金流出を防止。
・事業を推進する人材育成・組織づくり、地域中小企業への資金融資などの環境整備。

里山資本主義の考え方が人口減少に悩む地方を活性化させる解決策となるよう、引き続き事例の蓄積・活用が必要です。

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参照・引用を見る

*1
中央公論新社
https://www.chuko.co.jp/special/shinsho_award/
*2
国連大学「マネー資本主義から里山資本主義へ」
https://jp.unu.edu/publications/articles/from-money-capitalism-to-satoyama-capitalism.html
*3
NHK 「マネー資本主義」
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20090419
*4
慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科
SDM特別講義 2015年度 春学期: 「里山資本主義」とはなにか?
www.sdm.keio.ac.jp/motani.ppt
*5
国土交通政策研究所
「地域消滅時代」を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について
https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-141105_2.pdf
*6
関西学院大学
「里山資本主義」と地域活性化
https://www.kwansei.ac.jp/i_industrial/attached/0000084670.pdf
*7
全労連
駒澤大学「地域資源を活かした循環型産業振興政策による地域活性化」
http://www.zenroren.gr.jp/jp/koukoku/2018/data/258_02.pdf
*8
信金中央金庫 地域・中小企業研究所
「新たな産業創出が期待されるバイオマス産業都市」
https://www.scbri.jp/PDFsangyoukigyou/scb79h26F04.pdf

*9
「The Japan times Satoyama推進コンソーシアム」
https://satoyama-satoumi.net/
Japan Times Satoyama推進コンソーシアム設立趣意
https://satoyama-satoumi.net/about/

*10
The Japan times 「SATOYAMA CONSORTIUM」
https://www.japantimes.co.jp/satoyama-consortium/

*11
日経BP 新・公民連携最前線
「第12回 オーストリア・ギュッシング――世界中から視察が来るバイオマスの地産地消モデル」
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/080200047/070500018/
*12
事業構想大学院大学 事業交渉プロジェクトデザインオンライン
「オーストリア・ギュッシング 人口4000人の寒村に起きた奇跡」
https://www.projectdesign.jp/201503/localenergybiz/001962.php

*13
経済産業省 資源エネルギー庁
知っておきたいエネルギーの基礎用語~地域のさまざまなモノが資源になる「バイオマス・エネルギー」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/biomass.html

*14
一般社団法人 中国地域ニュービジネス協議会
中国地域ニュービジネス優秀賞 :木質チップを燃料とした「バイオマス発電事業」
http://nb.cnbc.or.jp/wp/pdf/h28_award/03_biomass.pdf

【新書大賞2014 ベスト5 画面の画像】

Photo by Markus Spiske on Unsplash

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