地域活性化と環境保護を実現するエネルギー自治が普及するためには

東日本大震災後、自然エネルギーの活用などエネルギーに関する議論や活動が活発化しています。エネルギーに関する議論は、環境面の他、経済性や地域活性化の要素も加わり、より多岐化しています。(*1_2P)

議論の中で、エネルギー自治という言葉が多く使われるようになりました。自然エネルギーを活用した発電などのエネルギー事業が地域活性化の有効な方法として期待されているためです。

本記事では、まずエネルギー自治の考え方を説明します。続いて国内外の事例を紹介し、最後にエネルギー自治の普及に必要な要件をまとめます。

エネルギー自治とは

2012年7月、三菱UFJリサーチ&コンサルティングより「季刊 政策・経営研究 2012 Vol.3 特集 エネルギー自治」が発表されました(*1)。以降、国内で「エネルギー自治」の議論が活発化しました。(*2_66P) 本書によると、エネルギー自治は下記のように定義されています。

「エネルギー自治」は「住民福祉の、平時における向上および、有事における確保のために、地域自らがエネルギー需給をマネジメントし、コントロールできる領域を現実的なレベルで増やしていこうとする試み」(*1_1Pより引用)

また、都留文科大学研究紀要 第83集(2016年3月)に記載されている、「エネルギー自治の理論的射程」によると、エネルギー自治は下記のように定義されています。

行政、事業者、住民といった地域に根差した主体が、エネルギーの需給にまつわる規制・振興及び事業経営について、地域の利害の観点から関与すること (*2_79Pより引用)

さらにエネルギー自治の理解を深めるため、「住民自治」と「エネルギー事業」の観点から説明します。

住民自治の力量向上

地方自治は「団体自治」と「住民自治」に分類することができます。団体自治とは「地方自治体が、国から独立して自ら行政を行う形態」であり、住民自治とは、「住民参加の元、住民の意思と責任に基づいて行政を行う形態」です。

地方分権推進法(1995年に制定された5年間の時限立法)の施行後、地方への分権改革が行われてきました。これは「団体自治」のあり方の改革でした。一方、「住民自治」は、目に見える制度だけでなく、住民の意識や行動力など、把握しにくい要素を有しています。今後の高齢化、人口減少、国内市場縮小に対応するには「住民自治」の力量を向上することが重要です。

エネルギー自治の実現のためにも、住民主体で事業を立ち上げ、収益を上げ、収益を地域に再投資するプロセスを継続的に行う必要がある、と諸富 徹氏(京都大学大学院 経済学研究科教授)は述べています。 つまり、住民自治の力量が求められているのです。(*3_5P)

エネルギー事業との関係

上記にもあるように、住民自治による持続可能な経済基盤の確立において、エネルギー事業に注目が集まっています。発電などのエネルギー事業を地域で主体的に運営することで、地域での資金循環が期待でき、地域固有の資源を活用することが可能だからです。

もちろん、地域の経済基盤確立の方法はエネルギー事業だけではありません。しかし、エネルギー事業は公共性が高く、地方自治体が関わりやすく、安定的な収益を上げやすい特徴があります。(*3_4P)

エネルギー事業の中でも、自然エネルギーを活用したエネルギー事業は、地域固有の資源活用、及び事業規模の観点で有効です。極端な例で言えば、原子力発電事業は地域での管理は不可能ですが、太陽光発電、バイオマス発電等は地域レベルで事業運営が可能です。

エネルギー自治に関する国外の事例
ドイツ

ドイツ全体をカバーする広域送電網が整備されていなかった時期は、各地域の協同組合により発電・供給事業が運営されていました。19世紀後半には、協同組合は電気だけでなく、ガス、上下水道、通信インフラ、交通インフラなどの公共性の高い事業も行うようになりました。「シュタットベルゲ」と呼ばれる地域のエネルギー供給公社の始まりです。(*4_2P)

その後、各地域のシュタットベルゲの多くは大企業によって買収されましたが、ドイツ政府による自然エネルギーの固定価格買取制度(FIT)により、シュタットベルゲを再度、地域で所有する動きが活発化しました(再自治化と呼ばれています)。また、市民によるエネルギー事業の協同組合が増加しました。近年、ドイツでのエネルギー自治では、「再自治化」と「市民エネルギー共同体(共同組合)」の2形態が展開されています。(*4_2P)

引用:公益社団法人 日本経済研究センター「エネルギー自治なくして脱原発なし ~ドイツにみる合意形成の姿~」
https://www.jcer.or.jp/jcer_download_log.php?post_id=51941&file_post_id=51942

また、ドイツではエネルギー自治によるエネルギーの自立をめざした「100%再生可能エネルギー地域(100ee-Region)」プログラムが2007年にスタートし、2015年10月時点で150自治体が参加しています。「100%再生可能エネルギー地域」は、省エネ改修プログラムの有無など29項目の取り組みを評価し、表彰するプログラムです。地方の自治体だけでなく、フランクフルトなどの大都市も参加しており、国土の約3割を占めています。(*5_74P)

引用:島根大学法文学部 人文社会学科研究科「ドイツにおけるエネルギー自立地域づくりの実態と諸効果」
https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/ja/list/niitype/Departmental%20Bulletin%20Paper/p/438/item/34955

エネルギー自治に関する国内の事例
長野県 飯田市

飯田市は人口約10万人で森林の面積が市全体の84.6%を占める町です(*6_3P)。2004年2月に創設された「NPO法人南信州おひさま進歩」から、市民による自然エネルギーへの取り組み、及び地産地消の活動が本格化しました。

同年12月には「おひさま進歩エネルギー有限会社」が設立され、飯田市域を対象とした太陽光発電事業がスタートしました。特徴的な取り組みの1つが「おひさま0円システム」です。これはおひさま進歩エネルギー有限会社が、3.5kW程度の太陽光発電システムを初期投資なしで住宅所有者に導入するサービスです。毎月1万9,800円を9年間負担する必要がありますが、節電して売電量を増やせば、毎月の負担金を減らすことができます。このサービスは、地元の金融機関である「飯田信用金庫」の資金協力により実現しました。つまり、不動産等の担保をとらず、負担金の定期的な支払いが行われる契約を踏まえて、低金利融資を実施しました。この決断により、おひさま進歩エネルギー有限会社は運営資金を得る事ができました。(*3_7P)

引用:長野県飯田市市民協働環境部 「飯田市におけるエネルギー自治の推進」 8P
https://www.jiam.jp/case/16441_01.pdf

飯田市では、太陽光発電だけでなく、ペレットストーブ設置の普及、小水力発電の取り組み、LED防犯灯の独自開発、省エネ住宅の普及なども行っています。(*6_8P)

北海道 下川町

下川町はオホーツク海に近く、真冬は零下30度になります。人口約3,500人の町で、スキージャンプの葛西紀明選手などオリンピック選手が多く輩出されています。森林面積は町全体の9割を占められており、製材・木製品が最大の産業です。

下川町では環境と福祉を融合させた「環境未来都市づくり」に取り組んでいます。町内で最も人口減少、及び高齢化が進む「一の橋地区」では、木質バイオマスによるエネルギー供給、及び多様な世帯の集住をめざして、新しい住宅地区が開発されました。具体的には木質バイオマスボイラと熱導管で構成される地域暖房システムを導入しました。また地域の中心にカフェを作り、地域の交流拠点となっています。(*7_5P)

なお、地域に熱導管を導入するには巨額の費用が発生します。下川町全体で導入を進める場合、公的資金の投入の正当化、つまり、地域全体に及ぶ公益的な機能をどのように発揮できるか考えていく必要があります。(*7_8P)

まとめ ~エネルギー自治の普及に必要な要件~

エネルギー自治の普及には、それぞれの地域に合ったエネルギー事業を住民主体で立ち上げ、収益を上げ、収益を地域に再投資するプロセスを継続的に行う仕組みが必要です。仕組みを構築するための要件は以下の通りです。
①住民が自主性を持って課題に取り組む力量(住民自治の力量向上)
②住民自治の組織化と地方自治体との連携
③金融機関の良好な協力関係

エネルギー自治によるエネルギー事業によって、自然エネルギーの活用が普及し、地域活性化や環境保護への寄与が期待されています。事業の初期段階では補助金(助成金)に頼るケースが多いですが、将来的には補助金に頼らずに収益を得られるよう、通常の事業と同様の努力が求められます。

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参照・引用を見る

*1
三菱UFJリサーチ&コンサルティング
「季刊 政策・経営研究 2012 Vol.3」特集 エネルギー自治
https://www.murc.jp/uploads/2012/07/201203_all.pdf

*2
都留文科大学研究紀要 第83集(2016年3月)
「エネルギー自治」の理論的射程 社会科学教授 高橋 洋
http://trail.tsuru.ac.jp/dspace/bitstream/trair/743/1/Y-0830065.pdf

*3
京都大学大学院 経済学研究科教授 諸富 徹
「エネルギー自治」による地方自治の涵養 ~長野県飯田市の事例を踏まえて~
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/ider-project.jp/stage1/feature/00000087/87-1.pdf

*4
公益社団法人 日本経済研究センター
「エネルギー自治なくして脱原発なし ~ドイツにみる合意形成の姿~」
https://www.jcer.or.jp/jcer_download_log.php?post_id=51941&file_post_id=51942

*5
島根大学法文学部 人文社会学科研究科 上園昌武 教授
ドイツにおけるエネルギー自立地域づくりの実態と諸効果
https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/ja/list/niitype/Departmental%20Bulletin%20Paper/p/438/item/34955

*6
長野県飯田市市民協働環境部 環境モデル都市推進課 課長補佐 小川 博
飯田市におけるエネルギー自治の推進
https://www.jiam.jp/case/16441_01.pdf

*7
京都大学大学院 経済学研究科教授 諸富 徹
「エネルギー自治と地方創生」
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/ider-project.jp/stage1/feature/00000088/88-1.pdf

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