太陽電池の基本原理の発見は1839年にさかのぼります。フランスの物理学者Alexandre Edmont Bequerel氏が、電解液内の金属板電極対の一方に光をあてると金属板電極対に電圧が発生する現象を発見しました。(*1_4P)
1954年、現在PVセル材料として多く利用されているシリコンを使った太陽電池が米国のベル研究所から発表されました。この当時の変換効率は6%でした。(*1_4P)
国内では1973年のオイルショックを契機に、国家プロジェクト「サンシャイン計画」が策定されました。太陽エネルギー等の活用など、地球上で枯渇しない自然エネルギー活用の技術開発が進められ、今日の太陽電池産業の基礎を築きます。(*2_6P)
その後、2012年の固定価格買取制度(FIT)により太陽光発電が急速に普及し、PVセルを含む発電システムの低コスト化が進みました。そしてさらなる低コスト化、変換効率向上、フレキシブル化による適用用途拡大を狙い、新しいPVセルが開発されています。本記事では普及が進んでいるPVセル、開発中のPVセルの仕組みをご紹介します。
PVセルの種類
最初にPVセルの発電原理を説明します。下図に半導体を利用したPVセルの構造を示しています。太陽の光が持つエネルギーによって、プラスの性質をもった粒子(正孔)とマイナスの性質をもった粒子(電子)が発生します。電子は太陽電池から外部の電気回路を流れ、エネルギーを発散させてからまた半導体の中に戻ります。これが太陽電池による発電の原理です。(*3_4P) 現在の半導体の材料の主流はシリコン系ですが、様々な新しい材料が開発されています。
引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書[第2版] 第2章 太陽光発電 4P
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
引き続きPVセルの材料による分類を下図に示します。
引用:国立研究開発法人 産業技術総合「さまざまな太陽電池」
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/groups2.html
シリコン系材料
これまで多く利用されおり、現在でも主流のシリコン系材料から説明します。
単結晶シリコン
一般に普及しているPVセルの中で高い変換効率が得られます。高温で結晶成長させた高純度シリコンのインゴット(塊)をスライスした板状の材料を利用するため、材料コストが高いデメリットがあります。また、製造工程が長く、製造コストも高くなります。(*4)
多結晶シリコン
材料コストを下げるため、高温下で製造するシリコンインゴット(塊)の代わりに、鋳型の中で溶かしたシリコンを冷却する方法で材料を製造します。多数の単結晶シリコンの断面からなる材料のため、多結晶シリコンと呼ばれます。単結晶シリコンと比較して変換効率は低下しますが、同等の耐久性が得られます。(*4)
薄膜シリコン
結晶シリコンより薄いシリコン膜(1/100程度)でPVセルを作ります。薄膜化のため、アモルファスシリコン(結晶構造を持たないシリコン)、微結晶シリコン(微細なシリコンの結晶子がアモルファスシリコン層に囲まれた複合的な構造)が利用されます。(*5)
ヘテロ接合型(HIT)
単結晶シリコンの両面にアモルファスシリコンを形成した構造です。変換効率を高めつつ、材料の使用量を減らすことができます。構造が複雑な分、製造コストは高くなります。
化合部系材料
次に、「高変換効率」、及び「低コスト化、適用用途拡大」を狙った化合物系の材料について説明します。徐々に普及が進んでいます。
III-V族多接合
シリコン系材料を用いたPVセルは、n型シリコン(シリコン内を電子が移動)とp型シリコン(シリコン内を正孔が移動)の組み合わせで構成されています。通常は一対の組み合わせで構成されますが、複数の組み合わせを有する構造(下図)を多接合と呼びます。下図に示す通り、短い波長(緑の矢印)と長い波長(桃色の矢印)に対応した材料を選ぶことによって、変換効率を向上することができます。この構造における材料には、III-V族化合物と呼ばれる、ガリウム(Ga)などのⅢ族元素と、ヒ素(As)などのV族元素を用いた化合物が有効とされています。(*6_11P)
レンズ等でPVセルに集光を行うことにより、40%を超える変換効率を得られます。非常に高価なため、人工衛星等の特殊用途に利用されています。(*7)
引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書[第2版] 第2章 太陽光発電 11P
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
CIS系(CIGS系)
薄膜太陽電池の長所(省資源)を備えながら、より高い変換効率が期待できる化合物材料です。Cu、In、Ga、Se(銅、インジウム、ガリウム、セレン)の頭文字からなる名称で、CIS系やCIGS系などと呼ばれます。低コスト化の実現に加え、フレキシブル化が可能なため、建造物などへの組み込みによる適用用途拡大が期待できます。(*8)
CdTe
有害物質であるCd(カドミウム)を利用するため、製造から廃棄まで一貫した管理が求められます。メリットは製造時に使うエネルギーが少なく、製造コストが低いことです。アメリカでの大規模発電所向けに普及が進んでいます。(*7)
有機系材料
今後の普及が期待される有機系材料について説明します。
色素増感
チタニア(TiO2)の周りに付着させた色素に光が当たることによって発電します。色素に光があたると、色素分子の電子がチタニア(TiO2)に流れ込みます。一方、ヨウ素溶液中のヨウ化物イオンI-は、色素に電子を供給し、I3-になります。I3-は+電極から電子を受け取り、I-に戻ります。この反応により電流が流れます。(*6_4P)
引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書[第2版] 第2章 太陽光発電
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
ペロブスカイト
日本発の新型太陽電池材料で、低温製造による低コスト化が可能です。また、薄型で柔軟・カラフルなPVセルが作製可能で適用用途拡大も期待されています。多結晶シリコン並みの変換効率も確認されています。今後の普及に向けて耐久性改善の研究も進められています。(*9)
引用:国立研究開発法人 科学技術振興機構「ペロブスカイト型太陽電池の開発」
https://www.jst.go.jp/seika/bt107-108.html
有機半導体
通常のPVセルはp型半導体とn型半導体の二層で構成されていますが、有機半導体はp型とn型が混ぜ合わされた構造です。構造が単純であるだけでなく、PVセルに色を付けたり、半透明にすることもできます。フレキシブル化も可能であり、デザインの自由度が大きいという特徴があります。現時点では低い変換効率と耐久性が課題です。
引用:国立研究開発法人 産業技術総合「有機系太陽電池」
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/Organic2.html
PVセル材料の進化により実現される世界
シリコン系材料に続き、化合物系材料の普及が拡がり、有機系材料の開発が進んでいます。大きな流れは、「フレキシブル化による適用用途拡大」、「変換効率向上」、「低コスト化」です。
フレキシブル化による適用用途拡大
一般的に太陽光発電設備は、屋根上、建物の側面、地面等に設置されます。PVセルの材料の進化により、フレキシブル化と合わせて軽量化も図れるため、サンシェード用、温室ハウスなど、建物に溶け込んだ形で太陽光発電が導入できるようになります。建物だけでなく、電気自動車等への適用も考えられます。
引用:NEDO 再生可能エネルギー技術白書[第2版] 第2章 太陽光発電 16P
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
PVセルの変換効率の推移
下図はPVセルの変換効率の改善をPVセルの材料ごとに示しています。基本的にシリコン系材料の変換効率が高いのはこれまでと変わりませんが、化合物系(CIGS、CdTe)は多結晶シリコンと肩を並べるレベルまで向上しています。有機材料の現在の変換効率は、シリコン系、化合物系より低いですが、ペロブスカイトのように急激な向上がみられます。化合物系、有機材料の変換効率とも、さらに向上する余地があります。
引用:国立研究開発法人 産業技術総合「さまざまな太陽電池」
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/groups2.html
多接合型(2接合、3接合、4接合以上)でも変換効率の向上が研究されています。PVセル自体の価格は高くなりますが、変換効率が高い分PVセル面積を小さくし、レンズ等で集光を行うことにより、システム全体で発電コストを下げることが考えられます。(*6_12P)
太陽光発電のシステム価格の推移
下図は、システム価格、つまりPVセルや関連設備の製造コストが小さくなり、さらに2012年に導入されたFIT制度により、太陽光発電の普及が広がったことを示します。今後FIT制度に依存ぜずに更なる太陽光発電の普及を進めるためには、PVセルの新材料、新しい構造の研究を行い、システム価格を継続して下げる取り組みが必要です。さらに今後は太陽光発電産業全体の課題を解決する必要があります。例えば系統接続コストの削減、設置工事の生産性改善、耐久寿命を迎えたPVセルの廃棄問題などが挙げられます。
引用:経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2019」 142P
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019pdf/
化合物薄膜太陽電池関連企業の状況
現在、シリコン系材料のPVセルが広く普及しています。今後の「低コスト化による普及拡大」、「フレキシブル化による適用用途拡大」には、化合物系材料のPVセルの普及が鍵です。本章では、化合物系PVセルの開発・製造を行っている企業に着目します。
引用:NEDO「化合物薄膜太陽電池」 8P
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/results/past_presentation/2015/R02cstft.pdf
化合物薄膜太陽電池開発の国外での取り組み
First Solar(米国)
CdTe材料を利用した薄膜太陽電池の開発・製造を行っています。2014年に変換効率21.0%を達成しています。過酷な使用環境における信頼性試験Atlas 25+、Thresher、TUV長期連続試験全ての認証を取得しているモジュールを提供しており、25年間の出力保証をしています。(*10)
ZSW(ドイツ)
CIGS材料を利用した薄膜太陽電池の開発・製造を行っています。2016年に変換効率22.6%を達成しています。CIGS材料による薄膜技術(PVセルと基板合わせて数mm)を活かして、建築物などへの適用用途拡大を狙っています。(*11)
IBM(米国)
レアメタルを使わないCZTS(銅、亜鉛、スズ、硫黄、セレン)材料によるPVセル開発を行っています。2012年に変換効率11.1%を達成しています。(*12)
化合物薄膜太陽電池開発の国内での取り組み
ソーラーフロンティア
ソーラーフロンティアは、昭和シェル石油株式会社(当時、現在は出光昭和シェル)の関連会社であり、石油会社を母体として太陽光発電事業を推進している企業です。CIS系材料の薄膜太陽電池の開発・製造を行っており、変換効率22.9%を達成しています。また、レアメタルを使用しないCZTS材料で、変換効率12.6%を達成しています。(*13)
NEDOの太陽光発電関連プロジェクト
NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、太陽光発電に関する下記研究プロジェクトを推進しています。(*14)
・先端複合技術型シリコン太陽電池、高性能CIS太陽電池の技術開発
・革新的新構造太陽電池の研究開発
・太陽電池セル、モジュールの共通基盤技術開発
・共通基盤技術の開発(太陽光発電システムの信頼性評価技術等)
・動向調査等
・高効率太陽電池製造技術実証
革新的新構造太陽電池の研究開発では、前述の「多接合セル」「ペロブスカイト」の他、「量子ドット・超格子セル」と呼ばれる新構造の研究が行われています。量子ドット太陽電池の理論変換効率は63%であり、シリコン系材料の2倍に相当します。理論限界に向けて世界的な開発競争が行われています。(*15)
引用:東京大学「岡田研究室:未来型太陽電池を開発」
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/tanken_okada.html
まとめ
持続可能な社会の実現、すなわち脱炭素社会の実現のためには、自然エネルギーをフルに活用する必要があります。自然エネルギーの中でも太陽光による発電については、以下の理由で技術開発・普及を強力に進める必要があります。(*16_10P)。
・材料コスト、製造コストの改善が目覚ましく、今後もさらなる改善が期待できる。
・輸入に頼らないエネルギー資源である。
・国内のどの地域でも導入が可能であり、地域創生への寄与が期待できる。
・モバイル機器の充電、建築物、電気自動車から宇宙開発まで、幅広い用途・場所での適用が期待できる。
一方、系統接続コストの削減、設置工事の生産性改善、耐久寿命を迎えたPVセルの廃棄など、PVセル開発以外の課題にも取り組む必要があります。廃棄に関して、環境省、経済産業省ではリユース・リサイクル・適正処分に関する調査を実施していおり、リサイクルに関する費用対効果分析や有害性が懸念される物質の溶出可能性評価の検討が重要であると示しています。(*17_104P) また、First Solar社(米国)ではリサイクルサービスを提供しており、ガラス、ゴム、半導体(PVセル)の再利用を推進しています(*18)。太陽光発電の更なる普及のために、PVセルの技術開発を含めた太陽光発電産業全体の課題を解決していくことが求められます。
参照・引用を見る
*1
シャープ技報 第98号 2008年11月「太陽光発電システム開発物語」
https://corporate.jp.sharp/rd/33/pdf/98_p4.pdf
*2
focus NEDO 特別号「サンシャイン計画40周年」
https://www.nedo.go.jp/content/100574164.pdf
*3
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
再生可能エネルギー技術白書[第2版] 第2章 太陽光発電
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
*4
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
結晶シリコン太陽電池
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/c-Si.html
*5
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
薄膜微結晶シリコン太陽電池で発電効率10.5%を達成「用語の説明」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2013/pr20130328/pr20130328.html
*6
NEDO 再生可能エネルギー技術白書[第2版] 第2章 太陽光発電
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
*7
国立研究開発法人 産業技術総合
さまざまな太陽電池
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/groups2.html
*8
国立研究開発法人 産業技術総合
CIGS系太陽電池
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/CIGS.html
*9
国立研究開発法人 産業技術総合「有機系太陽電池」
https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/Organic2.html
*10
First Solar
「First Solar Builds the Highest Efficiency Thin Film PV Cell on Record」
https://investor.firstsolar.com/news/press-release-details/2014/First-Solar-Builds-the-Highest-Efficiency-Thin-Film-PV-Cell-on-Record/default.aspx
*11
ZSW
「Thin-Film solar cells and modules」
https://www.zsw-bw.de/en/research/photovoltaics/topics/thin-film-solar-cells-and-modules.html
*12
IBM
「Shedding light on new frontiers of solar cell semiconductors」
https://www.ibm.com/blogs/research/2012/08/shedding-light-on-new-frontiers-of-solar-cell-semiconductors/
*13
ソーラーフロンティア
CIS系薄膜太陽電池セルで世界最高変換効率22.9%を達成
http://www.solar-frontier.com/jpn/news/2017/1220_press.html
CZTS太陽電池の変換効率で世界記録更新
http://www.solar-frontier.com/jpn/news/2013/C026763.html
*14
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100101.html
*15
東京大学
岡田研究室:未来型太陽電池を開発
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/tanken_okada.html
*16
一般社団法人 太陽光発電協会
太陽光発電 2050年の黎明
http://www.jpea.gr.jp/pvoutlook2050.pdf
*17
環境省、経済産業省
使用済み再生可能エネルギー設備のリユース・リサイクル・適正処分に関する調査結果
https://www.env.go.jp/recycle/report/h26-02.pdf
*18
First Solar
「ファーストソーラーのCSR」
http://www.firstsolar.com/-/media/First-Solar/Sustainability-Documents/FSO162_Sustainability_Final-JP.ashx
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