宇宙太陽光発電とは何か?〜これまでとこれから〜

現在、地球温暖化防止のため、自然エネルギーを用いた発電技術の発展・普及が進められています。その中で「宇宙太陽光発電」も1つの方法として、研究が進められています。宇宙太陽光発電を簡単に説明すると、宇宙空間に太陽光発電パネルを設置して、発電した電力を地上に無線で送信する技術です。

宇宙太陽光発電は、どのような技術で、どんなメリットがあるのでしょうか?そして、実現するための課題や、実現後の社会はどう変わっていくのでしょうか?

宇宙太陽光発電とはなにか?

まず宇宙太陽光発電とはどのような技術なのでしょうか? 現在日本で想定されているのは、地上3万6000km上空の宇宙空間に宇宙太陽光発電衛星を打ち上げ、地上へマイクロ波で電力を送る方法です。*1_3P

宇宙太陽光発電衛星とは、宇宙空間で太陽光発電を行うための衛星で、約2km四方の太陽電池/送電パネルが想定されています。*1_3P

宇宙空間で太陽光発電を行い、発電した電気をマイクロ波エネルギーに変換。続いて送電アンテナから、地上に設置した受電システムへ無線伝送します。地上受電システムで、マイクロ波エネルギーを受電して交流電力に変換し、変電・送電網を介して施設や住居等に供給されます。*1_4P

なお、マイクロ波は波長が0.1mm~10cmの電磁波で、テレビやラジオ等の通信用電波や電子レンジ等の家電製品にまで広く使われています。ビーム形状にして、任意の方向に送電することができる上、雲や雨を透過する特徴があるため、宇宙太陽光発電では主にマイクロ波での送電が想定されています。*2

図1 宇宙太陽光発電システムのイメージ(100万kW)
*出典:経済産業省 製造産業局 宇宙産業室 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構「宇宙太陽光発電における無線送受電技術の高効率化に向けた研究開発の概要(中間評価)」(2018年10月15日)
https://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000H30/181015_space_1st/space_1st_6-8.pdf

宇宙太陽光発電のメリット

宇宙太陽光発電の主なメリットは以下の5つです。

  • 宇宙太陽光発電所1基の発電規模が、原子力発電所1基分に相当する
  • 大気を介さないため、強度の強い太陽光を受けられる
  • 昼夜問わず発電可能で、天候の影響も受けない
  • 安全性・環境面への貢献
  • 送信先を変更できる
  • 1つずつ解説します。
宇宙太陽光発電1基の発電規模が、原子力発電所1基分に相当する

宇宙空間は膨大なため、巨大な太陽光発電パネルを設置できます。現在日本で想定している太陽電池・送電パネルは約2km四方で、受電システムは直径約4kmにもなりますが、1基あたりの発電規模が原子力発電所1基分(100万kW)に相当します。*1_3 *3

アラブ首長国連邦(UAE)に、発電規模117万kWの太陽光発電所があるので、地球上にも同等の発電規模の太陽光発電所を建設できます。ですが、東京ドーム170個に相当する土地が必要な上に、昼にしか発電できない上、天気や自然災害の影響も大きく受けます。(詳細は後述)*4 発電規模が同じでも、実際に発電される電力量は宇宙太陽光発電所の方が多いことが想定されます。

大気を介さないため、強度の強い太陽光を受けられる

地上の太陽光発電は大気を介すので、強度が弱まった太陽光を受けています。宇宙太陽光発電であれば、大気を介さずに太陽光を受けるため、地上と比較して1.4倍の強度の太陽光を利用できます。*5

昼夜問わず発電可能で、天候の影響も受けない

宇宙空間には昼も夜もないため、昼夜問わず発電可能です。月は常に同じ面が地球に向いていますが、宇宙太陽光発電もパネルを常に太陽に向けられます。もちろん天候の影響も受けないため、安定した電力供給が可能です。地上に比べて約10倍の太陽エネルギーを利用できます。*1_3P

安全性・環境面への貢献

宇宙太陽光発電は宇宙空間にあるため、地上の自然災害の影響を受けません。(受電システムは地上にあるため自然災害対策が必要です。)

また、受電システムは直径約4kmと想定されているため、海上などの人が居住している地域から離れた場所への建設が想定されています。居住地の近くの発電所を比較すると、事故があった場合の危険は少ないでしょう。

また太陽光発電なので、温室効果ガスも発生せず、地球温暖化の改善に貢献できます。*5

送信先を変更できる

宇宙太陽光発電システムは送信先を変更できます。地球上に複数の受電システムを設置することで、電力を必要としている地域に柔軟に送信できます。*5

宇宙太陽光発電の課題

宇宙太陽光発電システムはここまでメリットが多いにも関わらず、なぜ実現されていないのでしょうか? それは大きな課題があるからです。宇宙太陽光発電の主な課題は以下の3つです。

  • 技術
  • 膨大なコストがかかる
  • 安全性
技術

先ほど「太陽電池・送電パネルは約2km四方」と解説しましたが、これほど大型の太陽光パネルを宇宙に輸送しなければなりません。輸送後も宇宙空間で構築し、さらに長期間の維持する技術が必要になります。また、宇宙空間で発電した電力を、できる限りロスなく地上に届ける技術も必要です。*5

膨大なコストがかかる

米国エネルギー省では、マイクロ波送信衛星の重量は8万トン以上になり、打ち上げ・組み立て・維持を含めた想定コストは数百億ドルになると予想しています。一方、レーザー送信衛星は重量が10トン未満なので、打ち上げ・組み立て・維持を含めた想定コストは5億ドル程度だろうと予測しています。*6

またマイクロ波は波長が長く、ビームの直径が数キロになるため、受電システムも日本が想定している直径約4kmなど、大型のものが必要です。一方レーザーの場合は、直径約2メートルで済むため、受電システムも小型のもので済みます。*6

このようにコスト面の問題は、送受電システムをレーザーにすることで解決できそうに見えます。ですが宇宙で高出力レーザーのシステムを持つことは、軍事転用も可能であるために、国際的な理解を合意形成していく必要があるでしょう。*6

安全性

先ほどメリットとして安全性を挙げていましたが、課題もあります。宇宙から地上へマイクロ波やレーザーを送電する際に、人の健康や航空機、電子機器へ悪影響を及ぼさないようにしなければなりません。*5

マイクロ波の場合、米国エネルギー省は、送受電が行われている経路を鳥や飛行機が横切っても気付かない(問題ない)だろうとしています。*6

また、隕石や宇宙ゴミとの衝突による破損で発電ができなくなり、地球上で停電が起こる可能性や、さらに宇宙ゴミを増やしてしまう可能性もあります。もし発電ができなくなった場合、宇宙太陽光発電には莫大な予算が必要である上に、大規模な停電が起こる可能性もあるので、大きな経済的損失が想定されます。

宇宙太陽光発電の歴史

宇宙太陽光発電は1968年に米国のPeter. Glaser博士が提唱したのが始まりです。数年後に第一次オイルショックが起こったこともあり、化石燃料に頼らない社会の実現に貢献するアイディアとして注目されました。その後、様々な国で宇宙太陽光発電のコンセプトが作られましたが、先ほど課題で挙げたコスト面や技術面の問題もあり、国として継続的に研究を行っているのは日本だけです。*5

日本では、1980年代から研究が開始されました。1990年代には1万kW級の「SPS2000」の設計、2000年代には100万kW級の「SSPS」の検討が行われました。*5

宇宙太陽光発電が社会をどう変えるのか

現在も積極的に宇宙太陽光発電の研究を行っているのは日本だけで、日本が研究の最先端です。経済産業省やJAXAは2045年頃の実用化を目標にしています。現在はマイクロ波による無線送電受電技術の確立のため、研究開発を行っています。*1_2P

日本の2017年のエネルギー自給率は、9.6%とOECD35カ国中34番目でした。宇宙太陽光発電を実現できれば、大規模で安定した電力を供給できるようになります。現在は電力需要の大部分を、化石燃料を使った発電に頼っていますが、宇宙太陽光発電はそれらの代わりとなるため、エネルギー自給率も向上できます。*7

エネルギー自給率を向上できれば、化石燃料の輸入量が減ります。外国に流れるお金が減って、国内で循環するお金が増えるでしょう。また、化石燃料に頼った発電では温室効果ガスを排出してしまいますが、宇宙太陽光発電では温室効果ガスは排出されません。地球温暖化の改善にも貢献します。

現在は日本のみが積極的に研究している宇宙太陽光発電ですが、日本が成功事例を作ることができれば他の国々も導入をすすめるかもしれません。宇宙太陽光発電が世界中に広まれば、エネルギーの化石燃料への依存度が減り、地球規模で温室効果ガスの削減にもつながります。また、限りのある化石燃料の消費を抑えられるでしょう。

まとめ

宇宙太陽光発電は、実現まではまだまだ時間がかかりそうです。ですが、もし実現できれば、自然エネルギーを使った大規模で安定した電力を供給できるようになるでしょう。
地球温暖化を抑制し、持続可能な社会を実現する上で、宇宙太陽光発電という手段にも、一度注目をしてみてはいかがでしょうか。

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参照・引用を見る

*1
経済産業省 製造産業局 宇宙産業室 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構「宇宙太陽光発電における無線送受電技術の高効率化に向けた研究開発の概要(中間評価)」(2018年10月15日)
https://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000H30/181015_space_1st/space_1st_6-8.pdf

*2
JAXA 研究開発部門 研究紹介 「マイクロ波無線エネルギー伝送技術の研究」
http://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps-mssps.html

*3
mugendai 「宇宙で太陽光発電を行い、マイクロ波で地球に送るーー京大・篠原教授が挑むワイヤレス給電の近未来」
https://www.mugendai-web.jp/archives/6252

*4
日本経済新聞 丸紅、ギガソーラー稼働 UAEで世界最大級の太陽光
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46795670R00C19A7XQ9000/

*5
JAXA 研究開発部門 研究紹介 「宇宙太陽光発電システム(SSPS)について」
http://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps-ssps.html

*6
U.S. DEPARTMENT OF ENERGY ー Space-Based solar power
https://www.energy.gov/articles/space-based-solar-power

*7
経済産業省 資源エネルギー庁 「2019ー日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2019.html

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