お腹と心を満たしてフードロス削減も! 「子ども食堂」は開かれた豊かな地域コミュニティー

「子ども食堂」と聞いて、連想することはどのようなことでしょうか。
お腹をへらした子どもたちにご飯を提供する場所? ボランティアが運営している?
では、「子ども食堂」はいつどのようにして始まったのでしょうか。
現在、誰が運営し、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
そして、今後の展望とは・・・?

「子ども食堂」とは

子ども食堂はどのようにして誕生したのでしょうか。
まず、その経緯をみてみましょう。

「子ども食堂」誕生の経緯

はじまりは、2012年、東京都大田区の小さな八百屋さんでした *1:「ネーミングが9割」。

その少し前。
八百屋の女性店主近藤さんは、 1人暮らしの高齢者や子育てに悩む人が多いことを知り、「みんなが集まれる居場所」を作りたいと考えていました *2:「取組のきっかけ」。
2009年、近藤さんはふとしたことから定額の補習塾「ワンコイン寺小屋」を始めました。
それが新聞に取り上げられると、多くのボランティアの申し出がありました。その中には教育経験者もいたため、近藤さん「ワンコイン寺子屋」とは別の構想を抱きます *1:「『だんだん』の軌跡」。
それが、「みちくさ寺子屋」―子どもたちが宿題を持ってきて、ボランティアに無料で見てもらう場です。下校途中に、ふらっと立ち寄るイメージですね。
このようにして、近藤さんの周りには少しずつ地域コミュニティーが形成されていきました。

そんなある日、近藤さんは八百屋のお客さんから「毎日バナナ1本だけで過ごしている子どもがいる」という話を聞きます。
なんとかできないだろうかと考えているうちに、その子は児童養護施設に入所してしまいました。
何もできなかったという思いのなか、近藤さんはあることを思いつきます。

「そういう子どもたちの居場所を作ろう!」

それが「子ども食堂」のはじまりです *1:「『こども食堂』の誕生」・*2:「取組のきっかけ」。

近藤さんのこうしたアイディアとネーミング、行動はあたたかいホスピタリティーに溢れています。
そして、このような経緯からこども食堂の理念がみえてきます。

子ども食堂の定義と役割

では、子ども食堂の定義とはどのようなものでしょうか。
名づけ親である近藤さんの定義は、「こどもが一人でも安心して来られる無料または低額の食堂」です。*1:「貧困家庭の子どもだけ集めるところ?」。
この「こども」に貧困家庭という限定はついていません。
また、「こどもだけ」でもありません。子どものための、子ども専用の食堂ではないというところが重要です。
「むしろ、より積極的に、多世代交流型になることが望ましい」と近藤さんは考えています *1:「”場”としてのこども食堂」

こうしたコンセプトは、厚生労働省による以下ような「こども食堂」の定義とも合致します *3:p.1。

地域のボランティアが子どもたちに対し、無料又は安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供する取り組み
子どもに限らず、その他の地域住民も対象とする取り組み
子どもの食育や居場所づくりにとどまらず、それを契機として、高齢者や障害者を含む地域住民の交流拠点に発展する可能性がある取り組み

以上のように、子ども食堂は、子どもに食事を提供するだけではなく、地域のすべての人にとって開かれたコミュニティーとなり得る可能性を秘めています。

このことは子ども食堂の実際の活動からも窺えます。
図1は、子ども食堂を対象として2017年に行われた、農林水産省のアンケート調査結果です *4。

図1 子ども食堂運営者が意識している目的
出典:農林水産省(2018)「子供食堂と地域が連携して進める食育活動事例集~地域との連携で食育の環が広がっています~」 p.5
https://www.maff.go.jp/jyokuiku/set00zentai.pdf

この図は、子ども食堂の運営者が意識している目的を表しています。
「とても意識している」と 「どちらかといえば意識している」を合計した割合は、「多様な子供たちの
地域での居場所づくり」がもっとも多く、「子育ちに住民が関わる地域づくり」、 「生活困窮家庭の子供の地域での居場所づくり」がそれに続いています。
「子供たちにマナーや食文化、食事や栄養の大切さを伝えること」という「食育」もみられます。

こども食堂の認知度

では、現在、子ども食堂はどの程度、認知されているのでしょうか。

全国の小中学生の保護者3,420人を対象にしたアンケート調査があります *5。
その調査結果によると、子ども食堂を知っている人は回答者の 69.0%に上りました *5:p.595。

また、子ども食堂の役割に関する認識は先ほどの定義と一致していることがわかりました。
さらに、子ども食堂に対して、安い、賑やか、明るいなどのポジティブなイメージを抱いている保護者が多いこともわかりました *5:pp.598-599。

ところが、利用した経験がある人はわずかで、利用経験者は回答者(大人)が全体の 4.5%、回答者の子どもが 6.3%にすぎませんでした *5:p.597。
認知度は高いのに利用者は極めて少ない―このことに関しては後ほど考えてみたいと思います。

こども食堂の広がり

こども食堂は、現在、急速に増加しています。
以下の図2をご覧ください。

図2 子ども食堂の食堂数
出典:NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(2019)「子ども食堂について」
https://musubie.org/kodomosyokudo/

こども食堂は、2019年6月には少なくとも3,718か所ありましたが、これは2016年の約11.7倍にあたります。前年の2018年と比べると、1年間で1.6倍に増え、すべての都道府県にありました *6。
年間の延べ利用人数は160万人と推計されています *7:p.1。

次に下の図3は、都道府県別に子ども食堂数を表したものです。

図3 都道府県別 子ども食堂数
出典(図3・図4):NPO 法⼈全国こども⾷堂⽀援センター・むすびえ(2019)
理事長・湯浅誠「こども⾷堂・最新箇所数調査結果発表」(図3:p.1、図4:p.2)

https://musubie.org/wp/wp-content/uploads/2019/06/190626%E7%AC%AC%E4%B8%80%E9%83%A8%EF%BC%9A%E3%83%9B%E3%82%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88-1.pdf

図3の青いバーは2018年、オレンジ色のバーは2019年の数を表しています。
もっとも多いのは東京都(488か所)で、次いで大阪府(336か所)、神奈川県(253か所)が続き、いずれも人口が集中している大都市です。

子ども食堂にすべての子どもがアクセスできるようになるためには、小学校区毎に子ども食堂があることが望ましいとの考えから、[子ども食堂数÷⼩学校数]で得られた割合を充足率として示すことがあります *7:p.3。
下の図4は子ども食堂の充足率を都道府県別に表したものです。

図4 都道府県別 子ども食堂の充足率

図4の折れ線のうち青色は2018年、オレンジ色は2019年を表していますが、充足率はほとんどすべての都道府県で前年に比べ高くなっていることがわかります。

割合がもっとも高いのは沖縄県(60.5%)で、次いで滋賀県(52.5%)、東京都(36.6%)、鳥取県(35.2%)の順です。

地域差はあるものの、以上のように、子ども食堂は現在、急速な広がりをみせています。

子ども食堂の運営状況と改善点

では、子ども食堂はどのようにして運営されているのでしょうか。
ここでは、子ども食堂の運営について、先ほど用いた農林水産省のアンケート調査結果 *4 に沿ってみていきたいと思います。
また、随時、よりよい取り組みのために必要なことも考えていきたいと思います。

運営形態

まず、運営形態をみてみましょう(以下の図5)。

図5 子ども食堂の運営形態
出典(図5-図20):農林水産省(2018)「子供食堂と地域が連携して進める食育活動事例集~地域との連携で食育の環が広がっています~」
(図5:p.6、図6・7・9・10:p.7、図8・13:p.9、図11・12:p.8、図14-16:p.10、図17-19:p.11、図20:p.14)
https://www.maff.go.jp/jyokuiku/set00zentai.pdf

この図をみると、ずば抜けて割合が高いのは「自治体や社会福祉協議会の直営や委託ではない独立した法人等による運営」で、80.7%を占めます *4:p.6。
そのうち割合が高いのは、任意団体、NPO 法人、一個人による運営です。
このことから、子ども食堂は地域の人々によって運営されていることがわかります。

開催頻度と開催曜日・時間帯

次に、開催頻度をみてみましょう。
以下の図6は、子ども食堂の開催頻度を、図7は開催曜日と時間帯を表しています。

図6 子ども食堂の開催頻度             図7 子ども食堂の開催曜日

開催頻度は「月1回程度」がもっとも割合が高く、48.5%に上っています。2週間に1回以上開催しているのは38.7%、週1回以上は14.2%でした。

開催曜日と時間帯でもっとも割合が高かったのは、平日の夜で55.8%、次いで土日祝日の昼で39.1%でした。
平日と土日祝日を比べると、平日は夜の開催が多く、土日祝日は平日に比べて夜の開催が少なく昼の開催が多いという違いがあります。
平日は学校で給食があり、土日祝日は給食がないということと関連しているかもしれませんね。

開催会場

では、子ども食堂はどのような場所で開催されているのでしょうか。
以下の図8はこども食堂の開催場所を表しています。

図8 子ども食堂の開催場所

この図をみると、44.6%は公共施設以外の「他団体・個人等所有の施設」を使用していることがわかります。
その団体の上位は、宗教法人、飲食店、高齢者福祉施設です。

子ども食堂は地域のさまざまな場所で開催されているのですね。
このことは、子ども食堂の地域コミュニティーとしての側面をよく表しているといえるでしょう。

1回あたりの参加者数

では、参加人数はどれくらいでしょうか。
以下の図は1回あたりの参加者数を表していますが、図9が子ども、図10が大人の人数です。

 図9 1回あたりの参加者数【子ども】                  図10 1回あたりの参加者数【大人】

これらの図からわかるように、1回あたりの参加者数が最も多いのは、子供は11~20人、大人は10人以下ですが、平均値では、子供が約23.7人、大人は約14.9人でした *4:p.7。
比較的小規模のところが多いようです。

運営スタッフ

次にみたいのは、運営スタッフについてです。
図11は、平均スタッフ数を、図12はスタッフの不足感を表しています。

図11 平均スタッフ数

図12 スタッフの不足感

図11をみると、平均スタッフ数でもっとも多いのは、6~10人でした。平均は1回につき9人です *4:p.8。

次に図12でスタッフの不足感をみると、常に足りないと感じている子供食堂が13.9%、足りない回があるのは28.1%でした。
それらを合わせると42%に上ることから、マンパワーが足りていないことがわかります。

運営費と運営費の確保

では、子ども食堂を運営するにはどの程度の費用が必要なのでしょうか。
また、その費用はどのようにして確保しているのでしょうか。

まず、運営費をみてみましょう。
以下の図13は、年間の運営費を表しています。

図13 子ども食堂の年間運営費額

図13をみると、年間の運営費が30万円以下の割合が71.6%であることがわかります。

次の図14は、開催頻度別の運営費を表しています。

図14 子ども食堂の開催頻度別運営費

この図をみると、当然ながら開催頻度が高いほど運営費も高くなる傾向があることがわかります。
したがって、開催頻度を高くするためには、それだけの運営費を確保する必要があるといえます。

次に子ども食堂がどのようにして運営費を確保しているかみてみましょう。
以下の図15は助成制度の活用状況を、図16は寄付や助成金以外の持ち出しを運営費にあてた経験のある子ども食堂の割合を表しています。

     図15 助成制度の利用状況                 図16 持ち出しをした経験があるこども食堂

助成制度を利用している子供食堂は68.6%でした。

一方、寄付や助成金以外の持出しを運営費にあてた経験のある子供食堂は58.0%に上りました。
このことから、子ども食堂の運営に関する公的な助成の活用がまだ十分ではない可能性がみえてきます。
子ども食堂の運営に関しては、厚生労働省が実施しているさまざまな施策と連携することを検討してみるのもひとつの方法でしょう *3:pp.2-3。

衛生管理

以下の図17は衛生管理に関する知識を持つ有資格者がいる割合を、図18は保健所への許可・届出状況を表しています。

図17 衛生管理に関する有資格者がいる割合

図18 保健所への許可・届出状況

図17は複数回答の結果を表していますので、ひとつの子ども食堂で有資格者が重複している場合がありますが、有資格者がいると答えた割合は90%以上でした *4:p.11。

保健所への許可・届出については、営業許可を受けるか届出を行っているのが37.6%、保健所に相談し許可や届出が不要との判断を受けているのが35.4%で、それらを合わせると73%になります。

食品を扱う取り組みだけに、衛生管理は重要です。
厚生労働省は「子ども食堂における衛生管理のポイント」をまとめて、留意するよう呼びかけています *3:pp.14-21「別添8:子ども食堂における衛生管理のポイント」。

保険の加入状況

次に保険の加入状況をみてみましょう(以下の図19)。


図19 保険の加入状況

この図から、何らかの保険に加入している子ども食堂は87.2%に上り、そのうちの51.9%が社会福祉協議会のボランティア活動保険だったことがわかります。
社会福祉協議会のボランティア活動保険は、1人数百円で1年間(年度始めから年度終わりまで)、食中毒や感染症も含めて保障が受けられます *8。
万が一のことを考えると、すべての子ども食堂が加入することが望ましいといえるでしょう。

地域との連携

最後に、子ども食堂が地域とどのように連携しているのかみてみたいと思います。
以下の図20は、子ども食堂の地域における連携先を表しています。


図20 子ども食堂の連携先

子ども食堂の80%以上が地域住民との連携を図りながら、地域に根差した活動をしているのがわかります。

主な連携内容は、食材・食材費の提供、運営スタッフとしての参加、会場使用費・家賃の補助、衛生管理に関する研修や受講補助、助言・コンサルティング、保険加入に関する助言・コンサルティング、参加募集・スタッフ募集・支援者・寄付募集への協力、食育に関する協力などです *4:p.15。

子ども食堂とフードロス削減険

子ども食堂で食事を提供するためには、食材の調達が欠かせません。
食材調達によって子ども食堂はフードロス削減にも貢献しているというお話をしたいと思います。

フードロスと削減目標

まず、フードロスについてみていきましょう。

日本はフードロスが多く、その量は世界全体の食料援助量の約2倍にあたります *9:p.95。
以下の図21は、2016年の食品廃棄物発生量(推計)です。


図21 2016年の食品廃棄物発生量(推計)
出典:農林水産省(2019)食料産業局「食品廃棄物等の発生量(平成28年度推計)」
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kanky)oi/attach/pdf/190412_40-1.pdf

食べられる食品の廃棄、フードロスは深刻な問題です。
2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)のターゲット12.3には、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」という目標が掲げられました *10:p.22。
これを契機に、現在フードロスは改めて国際的な注目を集めています。

日本でも2018年に「第4次循環型社会形成推進基本計画」が策定され、2030年までの目標として、家庭フードロス量を2000年度の半分に減らすこと、事業系フードロス量については、今後、食品リサイクル法の基本方針で目標を設定することが定められました *11:p.4。

フードバンクの活用によるフードロス削減

子ども食堂は地域と連携して食材を確保しています。

食材確保で連携しているのは、先ほど図20で示した連携先のうち、地域住民(個人)、フードバンク、生産者(農林・水産・畜産関係者)、商店・スーパー、食品メーカー、飲食店などです *4:p.14・p.15。
このうち、地域住民(個人)をのぞくと、フードバンクから食材を提供してもらっている子ども食堂がもっとも多く、全体の39.1%に上ります *4:p.14。

フードバンクとは、フードロスを削減する活動のひとつです。
その方法は、「包装の破損や印字ミス、賞味期限に近づいたなどといった理由から、品質には問題がないにもかかわらず廃棄されてしまう食品・食材を、食品製造業や食品小売業等から引き取り、福祉施設や生活支援を必要とする個人などに譲渡を行う」 *9:p.4 というものです。

したがって、子ども食堂がフードバンクと連携してその食材を使えば、フードロスの削減に貢献することになります。
フードバンクを活用している子ども食堂の事例は、後ほどご紹介したいと思います。

海外における取り組み

では、海外では子ども食堂のような活動があるのでしょうか。

海外にも食をめぐる多くの取り組みがあります。
例えば、1985年に設立したフランスの「心のレストラン(Restaurants du Coeur)」 は「今日のレストラン(LES RESTOS AUJOURD’HUI」)という活動を行っています。
この活動のために 73,000人のボランティアが2,013のセンターで年間を通して働き、2018年~2019年の2年間で、配布も含め1億3350万食が提供されました *13。

図22 “Restaurants du Coeur”(「心のレストラン」)のロゴ
出典:Restaurants du Coeur “LES RESTOS AUJOURD’HUI”
https://www.restosducoeur.org/presentation/

次にボランティア先進国といわれるドイツにおける取り組みを2例、ご紹介したいと思います。

TAFEL(テーブル)

ドイツの大きなフードバンクTAFELは、ドイツに940か所以上の拠点があります。
その活動は温かい食事の提供だけなく、経済的な余裕のない人々に地域の人々との出会いの場を提供し、ソーシャルネットワークを構築するための枠組みを作っています。
そういう点では子ども食堂の理念に通じるものがありますね。
さらにTAFELは食料だけでなく、衣類、家庭用品、家具なども提供しています *14。

図23 TAFELのボランティアの様子
出典:TAFEL(テーブル)“ÜBER UNS”(私たちについて)
https://www.tafel.de/ueber-uns/

Das Japanische Haus(日本の家)

これまでみてきた2例は、どちらも組織だった活動という点で、子ども食堂とは対照的な一面をもっていました。

最後に、子ども食堂と同じように、地域の個人が始めた活動をみてみましょう *15。
2011年、ライプツィヒに住む日本人のグループが、廃れた商店街の一角にあった空き家をリノベーションし、国籍、宗教、年齢、職業、経済状況などに関係なく様々な人々が交流する場を作りました。
それが「日本の家」です。

「日本の家」の界隈には、移民や難民、低所得者層の人々が多く住んでいます。
2014年から毎週、行っている「ごはんのかい」は、集まった人々が一緒に食事を作り、一緒に食べるというシンプルな活動です。
代金は「投げ銭」(任意の少額)でいいため、経済状況に関わらず参加でき、毎週100人以上の人々が集っています。これまでに訪れた人の国籍は90ヶ国以上です。

「日本の家」は食事の場を提供するだけではありません。
他の地域団体やアーティスト、行政と協働することで、子どもや家族を対象としたワークショップやコンサート、展覧会、シンポジウムなど、さまざまな活動を行っています。
以下の図24は、「日本の家」の概念図です。

図24 “Das Japanische Haus(日本の家)”の概念図
出典:Das Japanische Haus「コンセプト」
https://djh-leipzig.dea/ja/konzept

この図をみると、参加者は地域の住民だけでなく、旅行者もいますし、連携者には研究者やアーティストもいて、ローカルを越えた取り組みをしているのがわかります。

子ども食堂の取り組み事例

では、日本にもどり、子ども食堂の事例をみてみましょう。
ここでは、農林水産省が子ども食堂にヒアリングし公表している事例 *16:「参考資料:子供食堂ヒアリング調査結果(10の取組事例の詳細)」 のうち、2つの取り組みをご紹介したいと思います。

フードバンクを活用した子ども食堂の取り組み:「おおのじょうこども食堂みずほまち」

まず、フードバンクを活用した子ども食堂の取り組みをみてみましょう。

福岡県大野城市にある「おおのじょうこども食堂みずほまち」は、貧困支援ではなく、子どもの居場所づくりを目指しています。そのため、「あたたかいご飯を皆で食べる経験を積む、食事や人との接し方等のしつけの場とする、地域に顔見知りを増やす」ことに取り組んでいます *17:p.1「子供食堂を始めたきっかけ」。

スタッフは、子ども関連で展開している様々な事業にボランティアスタッフとして参加・登録している人たちです。そうした人々に子ども食堂にも参加してもらうことで、充分なスタッフを確保しています *17:p.4「スタッフの負担、スタッフの確保」。

開催日は毎月第2土曜日で、 子供も大人も無料です。
参加者数は毎回、70名程度と、先ほどみた参加人数の平均を上回っています *17:p.1「団体概要」。
小学校で全校生徒にちらしを配布したり情報コーナーに置いてもらったりして、参加者を募っています *17:p.3「来てほしい人や家庭の参加」。

会場は地域にある企業の独身寮の社員食堂と厨房を無償で借りています *17:p.4「会場の確保」。

彼らが自らフードバンクを立ち上げたのは、子ども食堂を始めるための準備中のことでした。
企業などから寄贈された食料を保管し、それらの食料を必要とする子ども食堂に提供する組織が必要だと考えたからです。
そうしてできたのが、市内の子ども食堂専用のフードバンク「ふくおか筑紫フードバンク」です *17:p.2「フードバンクへ取り組んだきっかけ」。
このフードバンクでは、企業や生協、地域の農家、一般の寄付などで得られた食材を管理しています。
そのため、市内の子ども食堂は購入する食材が少なくてすみ、費用の低減に役立っています。

また、メディアで取り上げられたため、子ども食堂の取り組みが広く周知され、寄付が増えました。国内だけでなく海外からも、食材をはじめとして、備品、衛生用品などの寄付が届いています *17:p.3「資金の確保」。

図25 「おおのじょうこども食堂みずほまち」の食事風景とフードバンク
出典:農林水産省「おおのじょうこども食堂みずほまち」
(子供食堂と連携した地域における食育の推進:子供食堂ヒアリング調査結果(10の取組事例の詳細))

https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/oonojo.pdf

「気まぐれ八百屋だんだん 子ども食堂」

次にご紹介するのは、冒頭でお話しした「子ども食堂」の名づけ親、近藤さんが代表をつとめる子
ども食堂です。

子ども食堂を始めることになった経緯はすでにお話ししましたが、子ども食堂だけでなく、学習支援や地域の人が講師となる様々な講座、地域の会合など、多様な活動を行っています *2:p.1「団体概要」。

当初は地域の仲間5名ほどと一緒に運営していましたが、現在のスタッフの中には、メディアで紹介されたことで手伝いを申し出た人が多くいます *2:p.2「スタッフの負担、スタッフの確保」。

開催日は毎週木曜日で、 参加費は子どもがワンコイン(1円でも、おもちゃの硬貨でもどれでも1枚)、 大人が500円です。
参加者は30名~40名程度で、そのうち子供は20名程度です *2:p.1「団体概要」。

参加者の募集は、子ども食堂以外の活動への参加者にチラシを配布したり声をかけたりしています。
地区の小学校の校長・副校長に賛同してもらい、小学校の校内の地域情報掲示板に開催情報を貼り出してもらってもいます。
また、メディアで取り上げられてからは、新聞折り込みの地域情報誌などに取り組みが紹介されるようになりました *2:pp.1-2「来てほしい人や家庭の参加」。

会場は、多様な活動のそれぞれの企画者が場所(店舗) をシェアし、活動参加費などの収入の3割を家賃に入れてもらうというシステムです。
集まった金額が家賃に足りない場合には、八百屋の売り上げから補填しています *2:p.3「会場の確保」。

運用資金は、社会福祉協議会との接点ができたことから、一部の助成支援を受けていますが、NPO法人などの法人格をもたないなどの理由から受けられない助成制度もあります *2:p.2「資金提供」。

食材は、経営する八百屋で売れ残った野菜などを活用する他に、全国から食材の寄付を受けています。また、農家、個人、企業、教会などからも様々な食材の寄付を受けています。
食材の受け渡しはフードバンクなどの組織は介さず、子ども食堂が直接、寄付者とやりとりしています *2:p.2「食材提供」。

図26 「気まぐれ八百屋だんだん 子ども食堂」の食事風景とある日のメニュー
出典:湯浅誠(2016)「名づけ親が言う『こども食堂』は『子どもの食堂』ではない」
https://news.yahoo.co.jp/byline/yuasamakoto/20160724-00060184/

子ども食堂の展望

現在、急速に増加しつつある子ども食堂は、これからも増え続けていくのでしょうか。

先ほど「運営状況」や「取り組み事例」でみたように、子ども食堂を運営するにあたって改善すべき点がみえてきています。
それは、どうやって解決していったらいいのでしょうか。
先ほど挙げた事例に、そのヒントがあるかもしれません。

また、はじめの方でお話ししたように、子ども食堂を認知している人は約70%なのに対して、参加者は非常に少ないという現状もあります。
その原因として、一部の保護者の「子ども食堂に行く人は自分と比べて生活の苦しい世帯である」という認識があるようです。
また、子どもを子ども食堂に行かせたくない理由として、「生活に困っていると思われたくない」、「家庭事情を詮索されそう」、「恥ずかしい」という理由を挙げていた人もいます *5:p.600「子ども食堂の利用をためらうことに関連する因子」。

でも、これまでみてきたように、子ども食堂は地域の人々が自ら立ち上がり、自分たちの地域を自分たちで支えていこうとする活動です。
その活動は多様で、子どもの健康や育成のためだけでなく、地域で孤立しがちな人々も気楽に訪れることができる、開かれた場でもあります。
さらに、困窮者だけでなく、地域の誰もが気楽に立ち寄り、交流し、さまざまな活動を共に行うことによって、その地域をより豊かにしていく場でもあります。

このような子ども食堂がこれからも広がり、私たちの地域社会の「インフラ」と呼べるものになっていくかどうか、それは私たち1人ひとりの意識と行動にかかっているといってもいいでしょう。

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参照・引用を見る

*1
湯浅誠(2016)「名づけ親が言う『こども食堂』は『子どもの食堂』ではない」
https://news.yahoo.co.jp/byline/yuasamakoto/20160724-00060184/

*2
農林水産省「気まぐれ八百屋だんだん 子ども食堂」(子供食堂と連携した地域における食育の推進:子供食堂ヒアリング調査結果(10の取組事例の詳細))
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/dandan.pdf

*3
厚生労働省(2018)子ども家庭局長、厚生労働省社会・援護 局長、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長、他 「こども食堂の活動に関する連携・協力の推進及び 子ども食堂の運営上留意すべき事項の周知について (通知)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000306888.pdf

*4
農林水産省(2018)「子供食堂と地域が連携して進める食育活動事例集~地域との連携で食育の環が広がっています~」
https://www.maff.go.jp/jyokuiku/set00zentai.pdf

*5
日本公衆衛生学会(2019)「小・中学生の保護者を対象とした『子ども食堂』に関する インターネット調査」 (日本公衛誌第66巻第9号)
https://www.jsph.jp/docs/magazine/2019/09/66-9_593.pdf

*6
NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(2019)「子ども食堂について」
https://musubie.org/kodomosyokudo/

*7
NPO 法⼈全国こども食堂⽀支援センター・むすびえ(2019)理事長・湯浅誠「こども食堂・最新箇所数調査結果発表」 https://musubie.org/wp/wp-content/uploads/2019/06/190626%E7%AC%AC%E4%B8%80%E9%83%A8%EF%BC%9A%E3%83%9B%E3%82%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88-1.pdf

*8
福祉保険(2020)「令和2年度 ボランティア活動保険」(ちらし)
https://www.fukushihoken.co.jp/fukushi/files/council/pdf/2020/volunteer_activities_pamphlet.pdf

*9
農林水産省(2017)「平成28年度農林水産省食品産業リサイクル状況等調査委託事業 国内フードバンクの活動実態把握調査及びフードバンク活用推進情報交換会 実施報告書」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/161227_8-38.pdf

*10
外務省HP「仮訳 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf

*11
環境庁(2018)「第四次循環型社会形成推進基本計画の概要」
https://www.env.go.jp/recycle/circul/keikaku/gaiyo_4_2.pdf

*12
農林水産省「フードバンク調査報告書:2. 海外におけるフードバンク活動の実態及び歴史的・社会的背景等に関する調査」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank/pdf/data1-2.pdf

*13
Restaurants du Coeur(心のレストラン)「LES RESTOS AUJOURD’HUI(今日のレストラン)」
https://www.restosducoeur.org/presentation/

*14
TAFEL(テーブル)“ÜBER UNS”(私たちについて)
https://www.tafel.de/ueber-uns/

*15
Das Japanische Haus「コンセプト」
https://djh-leipzig.dea/ja/konzept

*16
農林水産省「子供食堂と連携した地域における食育の推進 参考資料:子供食堂ヒアリング調査結果(10の取組事例の詳細)」
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomosyokudo.html

*17
農林水産省「おおのじょうこども食堂みずほまち」(子供食堂と連携した地域における食育の推進:子供食堂ヒアリング調査結果(10の取組事例の詳細))
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/oonojo.pdf

・厚生労働(2016)「平成28年 国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf

・農林水産省(2016)食料産業局 バイオマス循環資源課食品産業環境対策室「フードバンク活動の拡大に向けた食品の取扱いについて」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/161227_8-36.pdf

・消費者庁(2017) 消費者政策課「平成29年度地方公共団体における食品ロス削減の取組状況について」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/pdf/efforts_180703_0008.pdf

・内閣府(2018)「国及び地方公共団体による『子供の居場所づくり』を支援する施策調べについて」
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/shien/pdf/about.pdf

・内閣府(2019)「子どもの貧困対策の推進に関する法律の一部を改正する法律:改正後法律全文」
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/pdf/kaisei_ref.pdf

・NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(特集論文)湯浅誠「子ども食堂の過去・現在・未来」
https://musubie.org/wp/wp-content/uploads/2019/08/%E6%B9%AF%E6%B5%85%E8%AA%A0-%E8%AB%96%E6%96%87%E3%80%8C%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E9%A3%9F%E5%A0%82%E3%81%AE%E9%81%8E%E5%8E%BB%E3%83%BB%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%83%BB%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%80%8D.pdf

・ふくおか筑紫フードバンク「協働事例 – 市:子ども食堂支援に特化した『ふくおか筑紫フードバンク』」
http://chikushifoodbank.net/kanri/wp-content/uploads/f7ffa1cb38faa96a74fca2d5cc6dfae2.pdf

 

Photo by Hal Gatewood on Unsplash

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