地球温暖化への関心が高まっています。現在、国際的な取り組みにより、地球温暖化の現状やその影響、将来予測が明らかとなり、温暖化に対する具体的な対策が提唱されています。では、そもそも地球温暖化とはどのようなものでしょうか。対策が急がれるのはなぜでしょう。そして、地球温暖化対策において自然エネルギーが果たす役割とは……?
「地球温暖化」の裏付けと現状
ここでは、気候変動に関する政府間パネル(以下、IPCC)の資料をもとに、「地球温暖化が実際に生じている」ことの裏付けおよび現状についてみていきたいと思います。
IPCCは、世界気象機関(WMO)および国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された国連の組織で、その任務は、科学者などが地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、得られた知見を政策決定者や一般に利用してもらうことです 1)。
以下の図1は、IPCCが2014年に公表した第5次報告書の資料に、環境省が文言を補足したもので、1986年から2005年の間の平均気温に対する偏差を表しています 1)。
図1 世界平均地上気温(陸域+海上)の偏差
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.12
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.1(a)’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
図1をみると、世界の平均気温は、1880年から2012年の間に0.85℃上昇したことがわかります。
IPCCの同報告書では、より長期間の気温変化をみるために、過去1000年にわたる北半球の気温変化を、気候モデルによるシミュレーションと復元で再現しています 2)。
図2 北半球の気温偏差(シミュレーションと復元による)
出典:国土交通省気象庁HP(2015)[気候変動 2013:自然科学的根拠 技術要約」(気象庁訳)( 気候変動に関する政府間パネル第 1 作業部会により 受諾された報告書より 気候変動に関する政府間パネル 第 5 次評価報告書 第 1 作業部会報告書の一部)p.78
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_ts_jpn.pdf
図2は1500年から1850年までの平均気温に対する偏差を表していますが、図中の赤線は気候モデルによるシミュレーションを、陰影は木の年輪などの間接的データからの復元を示しています。
以上のような状況から、同報告書は「気候システムの温暖化には疑う余地がなく、また、1950年代以降、観測された変化の多くは、数十年から数千年間にわたり、前例がない」と断定しています。
このことは地球温暖化が確かに生じているという裏付けです。
地球温暖化の要因
~地球温暖化のメカニズムと温室効果ガス~
では、地球温暖化はどうして生じるのでしょうか。
3は、地球温暖化の要因である温室効果のメカニズムを表したものです。
図3 温室効果のメカニズム
出典:国土交通省気象庁HP「温室効果とは」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p03.html
地球の大気には温室効果ガス(以下、「GHG」)と呼ばれる気体が含まれています。これらの気体は赤外線を吸収し、再び放出する性質があります。
赤外線は太陽からのエネルギーで暖められ、地球の表面から地球の外に向かいますが、GHGの働きで、その赤外線の多くが熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってきます。
この戻ってきた赤外線が、地球の表面付近の大気を暖めます。これを温室効果と呼びます。
このような温室効果がないと、地球の表面気温は氷点下19℃になると推測されています。つまり、GHGによって地球の平均気温は現在、約14℃に保たれているのです。
以上のように、GHGはなくてはならないものなのですが、GHGが増えると温室効果が強まり、地球の気温が高くなります。これが、地球温暖化のメカニズムです 3)。
~二酸化炭素の増加と地球温暖化~
温室効果をもたらすGHGには、二酸化炭素(以下、「CO2」)、メタン(以下、「CH4」)、一酸化二窒素(以下、「N2O」)、フッ素化ガスなどがあります。
図4 工業化以降のGHG濃度の変化
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.13
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.1(c)’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
図4は、工業化以降のGHG排出量の変化を表しています。
この図から、工業化以降、人間の行為に由来するGHGの排出が、大気中のCO2、CH4、N2Oの濃度を大幅に高めたことがわかります。
IPCC第5次報告書では、こうしたGHG排出増加による影響は、「20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い」(95~100%の確率)と述べられています 1)。
図5 1970年以降のGHG排出量
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.14
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.2’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
上の図5は、1970年以降のGHG排出量を表しています。
化石燃料の燃焼と工業プロセスに起因するCO2排出量は、1970年-2010年間のGHG総排出量増加の約78%を占めています。
次の図6は図5の2010年時点におけるGHG排出量の種類別割合を気象庁が円グラフにしたものです。
図6 人為起源の温室効果ガス総排出量に占めるガスの種類別割合
出典:国土交通省気象庁HP「温室効果ガスの種類」
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.2’を基に気象庁が作成)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p04.html
図5と図6からわかるように、GHGのうちCO2は地球温暖化に及ぼす影響がもっとも大きいものです。石炭や石油などの化石燃料の燃焼によりCO2が大気中に放出されます。一方、大気中のCO2の吸収源である森林は減少しています。こうしたことから大気中のCO2は年々増加しているのです 4)。
図7 さまざまな一連の証拠による、世界の累積総CO2量と世界平均気温上昇量
出典:環境省(2014)「IPCC第5次評価報告書の概要―第1作業部会(自然科学的根拠)」p.53
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_overview_presentation.pdf
上の図7は、世界の累積総CO2量と世界平均気温上昇の相関関係を表しています。
IPCC同報告書は、こうした気温上昇はCO2の累積濃度とほぼ比例しているという新見解を発表しています 2)。
地球温暖化の影響:気候変動とその影響
では、地球温暖化はどのような影響をもたらしているでしょうか。
ここでは、地球温暖化の影響をみていきましょう。
地球温暖化はさまざまな気候変動を引き起こしています。
以下の表1は1950年以降の極端な気象・気候現象の変化とそれらに対する評価をまとめたものです。
表1 1950年以降の気象・気候の極端な現象
現象および変化傾向 | 変化発生の評価 | 人間活動の寄与の評価 |
ほとんどの陸域における寒い日や寒い夜の頻度の減少・気温上昇 | 可能性が非常に高い (確立:95~100) | 可能性が非常に高い (確率:95~100) |
ほとんどの陸域における暑い日や暑い夜の頻度の増加・気温上昇 | 可能性が非常に高い (確立:95~100) | 可能性が非常に高い (確率:95~100) |
ほとんどの陸域における継続的な高温/熱波の頻度・持続期間の増加 | 世界規模で確信度が中程度 ヨーロッパ、アジア、オーストラリアの大部分で可能性が高い | 可能性が高い (確率:66~100%) |
大雨の頻度、強度、雨の降水量の増加 | 減少している陸域より増加している陸域の方が多い可能性が高い | 確信度が中程度 |
干ばつの強度や持続期間の増加 | 世界規模で確信度が低い いくつかの地域で変化した可能性が高い | 確信度が低い |
強い熱帯低気圧の活動度の増加 | 長期(100年規模)変化の確信度が低い 1970年以降北大西洋ではほぼ確実 | 確信度が低い |
極端に高い潮位の発生・高さの増加 | 可能性が高い(1970年以降) (確率:66~100%) | 可能性が高い (確率:66~100%) |
参考サイト:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―総合報告書―(2015年3月版)」p.17
(https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
*上記報告書 「表:気象及び気候の極端現象」を基に筆者が作成
表1のように、1950年以降、多くの極端な気象・気候現象が観測されてきました 1)。
図8 気候変動が原因であると特定された、広範にわたる影響の世界分布
出典:環境省HP(2015)「STOP THE 温暖化 2015 緩和と適応へのアプローチ」p.11
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.4’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2015/stop2015_full.pdf
次に、そうした気候変動が世界の自然システムや人間システムにどのような影響をもたらしているか見てみましょう。
図8は、気候変動が原因として特定された影響の世界分布図です。
図中の青の記号は「物理システム」(気象と自然環境など)を、緑の記号は「生物システム」(森林や海洋に関わる生態系など)を、そして赤い記号は人間および管理システム(食料生産や生計、健康、経済)を表しています。
この図をみると、気候変動は全ての大陸と海洋において、人間の生活や生態系にさまざまな影響を与えていることがわかります。氷河の融解や海面水位の上昇、洪水や干ばつなどの物理的システムへの影響、陸上や海の生態系など生物システムへの影響、食料生産や健康など人間システムへの影響が地域ごとに現れています。
そして、このような影響は、今後、温暖化が進むと、ますます深刻になると考えられます 5)。
では、その影響とはどのようなものでしょうか。以下は、将来予測される影響に関してIPCC第5次報告書に記載されていることを、WWFジャパンがまとめたものです 6)。
- 高潮や沿岸部の洪水、海面上昇による健康障害や生計崩壊のリスク
- 大都市部への内水氾濫による人々の健康障害や生計崩壊のリスク
- 極端な気象現象によるインフラ機能停止
- 熱波による死亡や疾病
- 気温上昇や干ばつによる食料不足や食料安全保障の問題
- 水資源不足と農業生産減少
- 陸域や淡水の生態系、生物多様性がもたらす、さまざまなサービス損失
- 海域の生態系、生物多様性への影響
以上のように、地球温暖化がこのまま進行すれば、それによって引き起こされる気候変動はわたしたちの社会や自然界にさらに大きな影響を与えると予測されています。
地球温暖化および地球温暖化がもたらす影響の将来予測
では、今後、地球温暖化はどうなるのでしょうか。
ここでは、地球温暖化および地球温暖化がもたらす影響に関する将来予測についてみていきたいと思います。
~地球温暖化の将来予測:21世紀末まで~
まず、今世紀末までの気温上昇がどのように予測されているかみてみましょう。
表2は、4段階の温暖化対策別のシナリオに対応する、気温上昇予測を表しています。
この表をみると、今後、温暖化対策を取らなかったRCP8.5シナリオの場合、21世紀末(2081年-2100年)には、20世紀末(1986年-2005年)に比べて気温が2.6℃から4.8℃上昇すると予測されています。
また、最も厳しい温暖化対策をとった場合のRCP2.6シナリオでも、21世紀末は20世紀末に比べて気温が0.3℃から1.7℃上昇すると予測されていることがわかります。
表2 20世紀末(1986年-2005年)の平均気温を基準にした21世紀末(2081年-2100年)までの気温上昇予測(シナリオ別)
出典:JCCCA「IPCC第5次評価報告書 特設ページ」https://www.jccca.org/ipcc/ar5/wg1.html
次の図9は、表2と同じデータをグラフにしたものです。
図9 シナリオ別20世紀末の平均気温を基準にした21世紀末までの気温上昇予測
出典:JCCCA「IPCC第5次評価報告書 特設ページ」https://www.jccca.org/ipcc/ar5/wg1.html
以上のことから、今後も地球温暖化が進むことが予想されます。
~地球温暖化がもたらす影響の将来予測:21世紀末まで~
次に、地球温暖化がもたらす影響の将来予測を4つの側面からみてみましょう。
まず、ひとつめは平均海面水位上昇の予測です。
図10は、20世紀末(1986年-2005年)を基準にした、21世紀末(2081年-2100年)までの世界平均海面水位上昇予測を表したものです。
図10 シナリオ別20世紀末(1986年-2005年)を基準にした21世紀末(2081年-2100年)までの世界平均海面水位上昇予測
出典:JCCCA「IPCC第5次評価報告書 特設ページ」https://www.jccca.org/ipcc/ar5/wg1.html
図10のように、対策を取らなかったRCP8.5シナリオの場合、21世紀末には20世紀末に比べて海面が最大82cm上昇する可能性が高いと予測されています。もし、このような状況が生じた場合、深刻な被害が生じるおそれがあります。
また、一番厳しい温暖化対策をとったRCP2.6シナリオでも、海面は26cm~55cm上昇すると予測されています。
次に気温上昇と降水量の世界パターンをみてみましょう。
図11の上の図(a)は地上温度変化の予測分布を、下の図(b)は年平均降水量変化の予測分布を表しています。
図11 年平均地上気温変化の予測分布(a)と降水量変化の予測分布(b)(1986年-2005年平均と2081年-2100年平均の差)
出典:IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.7
https://www.ipcc.ch/report/ar5/syr/summary-for-policymakers/spm-07_rev1-01/
図11は(a)・(b)とも左側が最も厳しい温暖化対策をとった場合のRCP2.6シナリオ、右側が今後対策をとらなかった場合のRCP8.5シナリオです。
この図11(a)から、21世紀の間、シナリオに関わらず世界全体で海洋温度は上昇し続け、最大の昇温は熱帯域と北半球亜熱帯域の海面だと予測されることがわかります 1)。
また、図11(b)から、地球温暖化対策をとらなかった場合、高緯度域と太平洋赤道域、および多くの中緯度の湿潤地域で降水量が増加する可能性が高いことがわかります。一方、中緯度と亜熱帯の乾燥地域の多くでは降水量が減少する可能性が高いと予測されています 1)。
3つ目の側面は、食料生産への影響です。
図12は、約100種類の魚類および無脊椎動物の最大漁獲可能量の世界分布変化を予測したもので、2001年-2010年を基準とした2051年-2060年の値を表しています。
図12 最大漁獲可能量の世界分布変化予測
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.23
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.9(A)’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
図12をみると、気候変動によって海洋生物種の世界分布が変化し、漁業生産やその供給が困難になると予測されていることがわかります 1)。
図12を見ると、今後、気候変動の影響で海洋生物の分布が世界規模で変化すると予測されていることがわかります。IPCC第5次報告書では、このような大規模な分布変化にともない、影響を受けやすい地域においては漁業生産やそれらの供給が困難になると、高い確信度をもって予測されています 13)。
こうした食料生産への影響は農業においても同様に予測されています。
次の図13は、作物収穫の変化予測を表しています。
図13 作物収穫量の変化予測
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.23
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.9(B)’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
図13の作物とは、大部分がコムギ、トウモロコシ、米、大豆です。
この図をみると、2010年-2019年の生産量に比べ、いずれの期間でも収穫量が減少すると予測されていますが、その減少程度は時間を経るほど著しくなると予測されていることがわかります。
では、最後に気候変動がもたらすリスクを世界パターンでみてみましょう。
図14は、気候変動による、各地域の主要なリスクとリスク低減の可能性を表しています。
図14 気候変動による、各地域の主要なリスクおよびリスク低減の可能性
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.22
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.8’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
この図の各システムに関わる要素は図8と同じものです。
オレンジ色のバーは一番上が「現在」で、下に行くに従い「近い将来(2030年-2040年)、長期的将来(2080年-2100年)となり、一番下のバーは気温が4℃上昇した場合、下から2番目のバーは気温が2℃上昇した場合を表しています。
また、オレンジ色のバーは、左側が塗りつぶしでそれに続く右側は斜線になっています。その斜線の右先端は現行の適応下におけるリスク水準をあらわし、オレンジ色に塗りつぶした部分との境界は、高度な適応下でのリスク水準を表します。つまり、高度な適応下においては、リスクはある程度、軽減できるということですが、そうでない場合にはどの時期においてもリスクがより高くなると予測されています。
この「適応」については後ほどお話ししますが、図14をみると、どのシステムにおいても、時間経過とともにリスクが増し、特に気温が4℃上昇した場合には、さまざまなリスクが一様に高くなると予測されていることがわかります。
~地球温暖化とその影響の長期予測:2100年以降~
ここまでは、主に21世紀末までの予測をみてきましたが、ここでは2100年以降の地球温暖化とその影響がどのように予測されているかみてみましょう。
図15 大気中CO2濃度変化の予測
図16 1986年-2005年と比較した地上気温変化予測
図17 1986年-2005年と比較した世界平均海面水位の変化予測
図15・16・17の出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.24
(‘IPCC AR5 SYR Longer Report Fig2..8’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
上の図15は、大気中のCO2濃度変化を、次の図16は1986年-2005年と比較した地上気温変化を、そして図17は同じく1986年-2005年と比較した世界平均海面水位の変化を予測したものです。
図15・16をみると、最も厳しい対策を講じた場合のRCP2.6シナリオを除くすべてのシナリオにおいて、CO2濃度及び気温が上昇することが予測されています。
また、図17をみると、世界平均の海面水位上昇が2100年以降、数世紀にわたって継続し、その上昇量はGHG排出量に比例すると予測されていることがわかります。
図18 1870年以降の人為起源CO2累積排出量
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.19
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.5(b)’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
図18は1870年以降の人為起源のCO2累積排出量の予測を表しています。
このように、今後、厳しい対策をとらない限り、CO2累積濃度が高まり、それに比例して地球温暖化がさらに進行していくことが予測されています。
地球温暖化に対する国際的な取り組みと自然エネルギーが果たす役割
これまでみてきたような危機的な状況から、現在、世界中で地球温暖化に対する関心が高まり、国際的な取り組みへと結実しています。
ここではそうした取り組みと地球温暖化対策において自然エネルギーが果たす役割について考えたいと思います。
~地球温暖化に対する国際的な取り組み:SDGsとパリ協定~
地球温暖化に対する国際的な取り組みの代表的なものとして、これまでお話のなかでふれてきたIPCCの他に、SDGs(持続可能な開発目標)とパリ協定が挙げられます。これらの取り組みは、どちらも画期的だと言われています。
ここでは、これらの概要について簡単にお話ししたいと思います。
まず、SDGsです。SDGsは「誰一人取り残さない」(no one left behind)を謳い文句に、2015年、国連のサミットで採択されました。このSDGsの究極の目標は、「極端な貧困を含む、あらゆる形態と様相の貧困を撲滅すること」(「我々の世界を改革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ:pp.1-2[2]」)です 7)。
この目標を達成するために、SDGsでは17の大きな目標とその下位目標である169のターゲット、さらに進捗を測定・評価するための244(重複を除くと232)の指標を設けています。これらのうち、特に自然エネルギーと関連するのは、目標7「すべての人々の、安価で信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」ですが、そのターゲットと指標のうち、地球温暖化に関連するものをまとめたものが、以下の表3です。
表3 地球温暖化に関連するSDGsのターゲットと指標
ターゲット | 指標(仮訳) |
7.2 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。 By 2030, increase substantially the share of renewable energy in the global energy mix. | 7.2.1 最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギー比率 Renewable energy share in the total final energy consumption. |
7.a 2030年までに、再生可能エネルギー、エネルギー効率及び先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究及び技術へのアクセスを促進するための国際協力を強化し、エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する。 By 2030, enhance international cooperation to facilitate access to clean energy research and technology, including renewable energy, energy efficiency and advanced and cleaner fossil-fuel technology, and promote investment in energy infrastructure and clean energy technology. | 7.a.1 クリーンなエネルギー研究及び開発と、ハイブリッドシステムに含まれる再生可能エネルギー生成への支援に関する発展途上国に対する国際金融フロー International financial flows to developing countries in support of clean energy research and development and renewable energy production, including in hybrid systems. |
出典:総務省政策統括官(統計基準担当)HP(2018)「持続可能な開発目標(SDGs)指標仮訳」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000562264.pdf
表3をみると、SDGsの目標7を達成するために、クリーンで安全な再生可能エネルギーの推進が求められていることがわかります。
次に、パリ協定について簡単にお話しします。
パリ協定は京都議定書の後継として、2015年にパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」において合意され、翌2016年に発効しました。その後、パリ協定をどのように実施していくか協議が重ねられた結果、2018年のCOP24において、パリ協定のルールブックである実施指針が策定され、2020年からパリ協定を実施する準備が整いました 8)。
パリ協定はその長期目標と枠組みから、「歴史的に重要で画期的」だといわれています。
まず、その長期目標とは、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に押さえる努力を追求すること」です 9)。
次にその枠組みとは、以上のような目標を達成するために、先進国・開発途上国を問わず、すべての参加国に対して、GHGの削減・抑制目標を設けるよう求める、というものです。そして、その目標を2023年から5年毎に提出し、目標の到達度を測るためにレビューを受け、それをふまえて各国が次の削減・抑制目標を検討することになっています。また、国別だけでなく、5年毎に世界全体の実施状況も検討することになっています 10)。
以下の表4は、パリ協定における各国・地域の目標を経済産業省がまとめたものです。
表4 パリ協定におけるGHG排出削減目標
出典:経済産業省資源エネルギー庁(2017)「今更きけない『パリ協定』~何が決まったのか?わたしたちは何をすべきか~」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html#topic02
これまでみてきたように、GHGのうち最も地球温暖化に影響を与えているのは化石燃料由来のCO2です。上のようなパリ協定の削減目標を達成するためには、化石燃料をクリーンな自然エネルギーに置き換えていくことが必要です。
~2つの地球温暖化対策と自然エネルギーが果たす役割~
最後に自然エネルギーが地球温暖化対策において果たす役割についてさらに考えてみたいと思います。
地球温暖化対策は、「緩和」と「適応」の2つに大別されます。
まず、「緩和(mitigation)」とは、温室効果ガスの排出量を削減したり植林などによって吸収量を増加させたりするものです。例えば、先ほどみたSDGsやパリ協定のようなGHG排出量そのものを抑制するための国際的ルールや枠組み、自然エネルギーの推進、省エネルギー、大気中のCO2濃度を軽減する技術などの根本的な対策がこの緩和にあたります。
一方、「適応策(adaptation)」とは、気候変化に対して自然生態系や社会・経済システムを調整することにより温暖化の悪影響を軽減したり温暖化の好影響を強めたりするものです。例えば、海面上昇に対応するための高い堤防の設置や、暑さに対応するためのクールビズ、作物の作付時期の変更などの対症療法的対策がこの適応に該当します 11)。
図19はこのような緩和と適応を図示したものです。
図19 2つの温暖化対策:緩和と適応
出典:環境省HP(2015)「STOP THE 温暖化 2015 緩和と適応へのアプローチ」p.19
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2015/stop2015_full.pdf
緩和も適応も温暖化対策としては不可欠なものですが、最優先で取り組むべきものは緩和です 5)。早急な対策が急がれる地球温暖化において、代表的な緩和策である自然エネルギーの推進が果たす役割は重要です。
以上のことを如実に表しているのが、以下の2つの図です。
図20 「新政策シナリオ」による世界のエネルギー需要の見通し
図21 「SDGsシナリオ」による世界のエネルギー需要の見通し
図20・21の出典: IEA ‘Scenarios’“World Energy Outlook 2018”
https://www.iea.org/weo/
図20と図21はともに世界のエネルギー需要の見通しを表しています。
少し見にくいと思いますが、一番下のオレンジ色の部分は石油、次の薄い紫色は石炭、濃い紫色は天然ガス、薄い青がバイオマス、濃い青が原子力、上から2番目の薄い緑が水力、そして一番上の濃い緑はその他の再生可能エネルギーを表しています。
図20と図21は、見通しの基準となるシナリオが異なっています。
図20は「新政策シナリオ」です。この「新政策シナリオ」とは、温室効果ガス排出削減の国家公約や化石燃料補助金の廃止計画など、世界各国で発表されている広範な政策公約やプランについて考察したシナリオです。
一方、図21は「SDGsシナリオ」で、このシナリオはSDGsの主なエネルギー関連要素3つを同時達成するためのシナリオです。
これらの図を比較してみましょう。図20の新政策シナリオによると、2040年のエネルギー需要は2015年時点の1.3倍まで増加する見通しです。一方、図21のSDGsシナリオでは需要増は1.1倍程度に抑制されると予測されています。それは、化石燃料由来のエネルギー需要の抑制や再生可能エネルギーなどの増加による効果です 12)。
このSDGsシナリオの場合、2040年のエネルギー源の中で再生可能エネルギーが占める割合は約31%ですが、石油と石炭を合わせた化石燃料は再生可能エネルギーの割合をやや上回っています。もし、これらの化石燃料を自然エネルギーに置き換えることができれば、CO2排出量がより減少し、地球温暖化の進行を防ぐために大きく貢献することが予想されます。
これまでみてきたように、現在、地球温暖化はわたしたちの世界にさまざまな影響をもたらしています。また、この地球温暖化は、このままではさらに進行すると予測されています。
こうした状況を変えるためには、早急な対策が必要です。地球環境を守り、わたしたちの将来をよりよいものにするために、地球温暖化対策において自然エネルギーが果たす役割は非常に重要なものだといえるでしょう。
参照・引用を見る
【引用サイト】
1) 環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―」
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/・
2) 国土交通省気象庁HP(2015)[気候変動 2013:自然科学的根拠 技術要約」(気象庁訳)( 気候変動に関する政府間パネル第 1 作業部会により 受諾された報告書より 気候変動に関する政府間パネル 第 5 次評価報告書 第 1 作業部会報告書の一部)
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_ts_jpn.pdf
3) 出典:国土交通省気象庁HP「温室効果とは」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p03.html
4) 国土交通省気象庁HP「温室効果ガスの種類」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p04.html
5) 環境省HP(2015)「STOP THE 温暖化 2015 緩和と適応へのアプローチ」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2015/stop2015_full.pdf
6) WWFジャパンHP(2015)「地球温暖化が進むとどうなる?」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/1028.html
7) 外務省HP「仮訳 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
8) 国立研究開発法人 国立環境研究所HP(2018)亀山 康子(副センター長)「COP24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)では何が決まった?」
http://www.nies.go.jp/social/topics_cop24.html
9) 環境省HP「パリ協定の概要(仮訳)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop21_paris/paris_conv-a.pdf
10) 外務省HP(2017)「パリ協定―歴史的合意に至るまでの道のり」(「わかる!国際情勢 vol.150」)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol150/index.h
11) 国立環境研究所地球環境研究センターHP(2014)地球環境研究センター 主幹広兼克憲「地球環境豆知識29 緩和策と適応策」(地球環境研究センターニュース 2014年6月号 [Vol.25 No.3] 通巻第283号)
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201406/283002.html
12) 環境省HP(2018)「環境・経済・社会の状況」(第93会総合政策部会 参考資料8)
https://www.env.go.jp/press/y020-94/ref07.pdf
13) 環境省(2014)「IPCC第5次評価報告書の概要―第1作業部会(自然科学的根拠)」
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_overview_presentation.pdf
14) IPCC ARS SYR SPM Fig.SPM.7
https://www.ipcc.ch/report/ar5/syr/summary-for-policymakers/spm-07_rev1-01/
15) 総務省政策統括官(統計基準担当)HP(2018)「持続可能な開発目標(SDGs)指標仮訳」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000562264.pdf
16) 経済産業省資源エネルギー庁(2017)「今更きけない『パリ協定』~何が決まったのか?わたしたちは何をすべきか~
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html#topic02
17) IEA ‘Scenarios’“World Energy Outlook 2018”
https://www.iea.org/weo/
【参考サイト】
1) 国土交通省気象庁HP「地球温暖化問題とは」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p03.html
2) 環境省HP(2017)「地球温暖化の現状」
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/ondanka/
3) 環境省(2018)「IPCC第5次評価報告書の概要―第2作業部会(気候変動2014:影響、適応、及び脆弱性)」
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/03/ar5-wg2-spm-1japan.pdf
4) 環境省HP(2019)「2017年度の温室効果ガス排出量(確定値)について」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/results/honbun2017-2.pdf
5) 経済産業省資源エネルギー庁HP(2017)『日本のエネルギー』「エネルギーの今を知る20の質問」
http://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2017.pdf
6) 国土交通省気象庁(2016)「地球温暖化の現状と将来予測」
http://www.mlit.go.jp/common/001170801.pdf
7) 国立環境研究所地球環境研究センター(2018)地球環境研究センター 気候変動リスク評価
研究室長(現副センター長) 江守正多「本当に二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化の原因なのか」(地球環境研究センターニュース2018年6月号 [Vol.29 No.3] 通巻第330号)
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201806/330006.html
8) 国立環境研究所地球環境研究センター(2018)地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室 主任研究員 塩竈秀夫「計算で挑む環境研究—シミュレーションが広げる可能性1 よりよい気候変動対策の礎をつくる:気候変動予測の不確実性の低減」(地球環境研究センターニュース2018年8月号 [Vol.29 No.5] 通巻第332号)
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201808/332003.html