本当に「裕福」? 日本の貧困率が高い理由を読み解くための基礎知識

「貧困問題」といったとき、どのようなものが思い浮かぶでしょうか。
日本にも存在する問題ですが、世界では飢餓、児童労働といった問題を抱える国は少なくありません。

日本は「裕福」というイメージがあるかもしれません。
しかし日本は「相対的貧困率」でOECD内では上位になっています。
先進国でありながら貧困率が高い、これはどういうことでしょうか。

貧困にまつわるデータをいくつか見ていきましょう。

「貧困」の形態のひとつ「絶対的貧困率」

ひとくちに「貧困」といっても経済事情は国によって異なるため、いくつかの形があります。
代表的な考え方として「絶対的貧困率」と「相対的貧困率」の2種類があり、算出方法も違えば、示すものも違います。

世界の「絶対的貧困率」

世界銀行の統計では、1日に使えるお金がわずかでしかない国々が多く存在することがわかります。

「絶対的貧困率」は、生活を維持するのに必要なものを買うことができる最低限の収入「貧困ライン(poverty line)」を割り込む所得しか得られていない人の割合で示されます。

CIAの調査*1によると、絶対的貧困率の高い国はアフリカ大陸に集中しています。

・ジンバブエ:72.3%(2012年推計)

・マダガスカル:70.7%(2012年推計)

・ナイジェリア:70%(2010年推計)

・スリナム:70%(2002年推計)

・ギニアビサウ:67%(2015推計)

・南スーダン:66%(2015年推計)

・グアテマラ:59.3%(2014年推計)

 

これは一例ですが、上記のような国々では、人口の半分以上が最低限の生活を営むことも難しい状況に置かれています。
また、内戦下に置かれているシリアでは、人口の8割以上が貧困ライン未満の所得しかない状況です。

なお、この統計では日本の絶対的貧困率は16.1%(2013年推計)となっています。

また、世界銀行は貧困ラインを「1日1.90ドル」に設定しています。国によって通貨や物価は違うため、「アメリカで1.90ドルで売られているものが買える金額」と補正されています。

この水準に照らすと、2015年時点でこの貧困ライン以下の所得しかない人は世界で7億3600万人、そのうちの4億1300万人がサハラ砂漠以南のアフリカに住んでいます*2。
この地域では、平均で38%の人が1日1.90ドル未満の生活を強いられているのです(図1)。

図1 1日1.90ドル未満で暮らす労働者の割合
(出所:「The Sustainable Development Goals Report 2019」国連)
https://unstats.un.org/sdgs/report/2019/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2019.pdf p22

絶対的貧困の理由

絶対的貧困に晒されている人口の割合が大きなアフリカでは、貧困の原因となっているものがいくつかあります。

まずひとつは、繰り返される紛争で、これには歴史的背景があります。
アフリカは1884年のベルリン会議でイギリス、ドイツ、ロシアなど14の国によって分割され植民地化されました。

アフリカは多民族地域であるにも関わらず地図上だけで国境が引かれてしまったため、民族間の対立も多いまま独立国を成立させるのは容易ではなく、政治に歪みをもたらします。
ひとつの民族の政党が政権を得ると独裁的、かつ縁故主義の政治が行われ、政治の腐敗が進むことも多くありました。

こうした政治で格差は拡大し、それがまた紛争の火種となります。
そして紛争によってさらに大きな経済損失が生まれる、という状況が今も繰り返されている地域が存在します。
また、これらの地域が過激派の拠点になったことも紛争を広げる理由になりました。

他には、教育格差の固定化もあります。貧しい家庭の子供ほど学習到達率(どのくらい学習しているか、どのくらい理解をできるかという水準)が非常に低い現状があります(図2)。

学力が十分でない、あるいは読み書きができないといったことを理由に安い賃金で働かざるを得なくなっている人も少なくありません。
そして貧しい家庭では、その家庭の子供も十分な教育機会を得られなくなってしまいます。

図2 PASEC(仏語圏アフリカ学力共通学力テスト)の結果
(出典:「The World Development Report 2018」世界銀行)

また電力、通信などのインフラ整備が不十分なことも経済成長の阻害要因であり、貧困解消には様々なアプローチが必要になっているのが現実です。

生産者が不当に安い賃金で働かされることのないようなフェアトレードなどの普及支援、インフラ開発支援、そして学校建設といった教育面での支援など、多角的な支援が必要です。

絶対的貧困率では見えてこない日本の貧困問題

しかし、「貧困」には、このような絶対的貧困率だけでは見えてこないものもあります。
日本にも多く存在している形の貧困、「相対的貧困」と呼ばれるものです。

OECDで上位「日本の相対的貧困率」

OECDが公表している「貧困率(相対貧困率)」を世界ランクで見ると、下のようになっています(図3)。

図3 OECD統計による相対的貧困率(出所:OECD Data)
https://data.oecd.org/inequality/poverty-rate.htm

赤で示されているのが日本です。OECDのなかで10位に位置し、全体で見ても高い水準にあると言えるでしょう。

OECDが公表しているこの「相対的貧困率」は、世界に存在する貧困のもう一つの姿が映し出されています。

相対的貧困とは、その国や地域の水準のなかで比較した場合に、大多数よりも貧しい状態のことです。OECDは全人口の世帯収入中央値の半分を下回る人の割合、と定義しています。

収入には「平均値」と「中央値」とがありますが、「平均値」は、5000万円や1億円といった極端に所得の高い人の数字の影響を受けるため「平均的な暮らし」を反映しにくい事情があります。そこで所得の低い人から高い人までを順番に並べたときに中央にくる人の所得を「中央値」として算出していて、実際の生活感覚に近いデータとして反映しています。

この基準でみると、日本で「相対的貧困」にある人たちの生活が見えてきます。

日本の場合、ひとりあたりの等価可処分所得(手取り収入などを世帯人数で調整した金額)の中央値は244万円です。
その半分である122万円というのが貧困線ですが、日本では人口の15.7%が122万円に満たない「相対的貧困」の状態にあります(図4)。

図4 相対的貧困率の推移(出所:「国民生活基礎調査」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf p15

年間の可処分所得が122万円、つまり1か月に使えるお金が10万円程度あるいはそれ以下、という人が約6人に1人以上いるという現状です。

特に「子どもがいる現役世帯」で「大人が一人」つまりひとり親世帯では、相対的貧困率は50.8%にのぼっています。実に半数を超えているのです。

相対的貧困の子どもへの影響

相対的貧困の状態にある家庭では、子どもが学校に通うのに必要な物品購入費用や修学旅行費などの支払いが通常の家庭よりも大きな負担になってしまいます。

こうした経済的な事情で就学困難とされる子ども、あるいはそれに準ずる程度の困窮状態にある子どもに対して、文部科学省は「要保護児童生徒」「準要保護児童生徒」として援助対象にしています。

保護対象と認定されている子どもの人数は高止まり状態で、2018年では137万人を超え、全国の子ども全体の15%を占めています(図5)。

図5 要保護及び準要保護児童生徒数の推移(平成7年度~平成30年度)
(出所:「就学援助実施状況等調査結果」文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20200327-mxt_shuugaku-100001991_2.pdf

また、こうした支援の手からも漏れている子どもがいる可能性が十分に考えられます。外からその存在を見つけるのは容易なことではありません。

教育面でもそうですが、こうした家庭の場合は親が働きづめであるために一人で食事をすることばかりになるなど、コミュニケーション不足や栄養の偏りにも繋がる可能性が高いです

「他の子とは違う」ことに悩んで引きこもりになることも考えられます。精神的なダメージを受けやすい側面もあるでしょう。

各地で「子ども食堂」のような活動が必要とされるのはこのためです。

「食事」「人との関わり」といった基本的な機会が奪われてしまう子どもも多くいる、というのが日本の現状です。

「貧困」の様々な側面を知る

国連開発計画(UNDP)は近年、「多次元貧困指数(MPI)」という考え方を打ち出しています。貧困の指標として、所得だけではなく「どのような形で貧困を経験しているかと、その度合い、重なり」を盛り込むべきだというものです。

健康、教育、所得(生活水準)という3つの要素に関して、複数の形での貧困状態にある人を「多次元貧困」としています。

国際的に貧困問題を見たとき、こうした要素は栄養状態をBMIで測ったり、生活水準としては電力供給や安全な水、といった項目になりますが、この多次元貧困の考え方は日本の貧困問題の実情を知るに当たって参考になる考え方です。
多かれ少なかれ、教育環境が揃っていない、かつ孤食で栄養が偏っているという状況はある意味では「多次元」の貧困とも言えるからです。

貧困は循環するとよく言われます。貧しい家庭に生まれた子どもが、教育機会に恵まれないことなどが原因で大人になっても低所得の仕事に就く結果になり、またその子どもの代も、という循環を繰り返し、格差が固定されてしまいます。

生まれながらにして貧困の連鎖に組み込まれてしまう子どもがいなくなるよう、様々な形での支援が必要です。

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参照・引用を見る

図1 「The Sustainable Development Goals Report 2019」国連
https://unstats.un.org/sdgs/report/2019/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2019.pdf p22

 

図2 「The World Development Report 2018」世界銀行
https://www.worldbank.org/en/publication/wdr2018 よりDL、p7

 

図3 「Poverty rate」OECD Data

OECD (2020), Poverty rate (indicator). doi: 10.1787/0fe1315d-en (Accessed on 02 July 2020)
https://data.oecd.org/inequality/poverty-rate.htm

 

図4 「平成28年 国民生活基礎調査」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf p15

 

図5 「就学援助実施状況等調査結果」文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20200327-mxt_shuugaku-100001991_2.pdf

 

*1 「THE WORLD FACTBOOK」Central Intelligence Agency
https://www.cia.gov/library/publications/resources/the-world-factbook/fields/221.html

 

*2 「The Sustainable Development Goals Report 2019」国連
https://unstats.un.org/sdgs/report/2019/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2019.pdf p22

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