自然エネルギーが拓くわたしたちの未来

今、自然(再生可能)エネルギーが注目を集めています。なぜ「今」なのでしょう。そもそも自然エネルギーとはどのようなものなのでしょうか。そして自然エネルギーによって、わたしたちの社会は、この世界は、どう変わろうとしているのでしょうか。

自然エネルギーとは? ~特徴とメリット~

そもそも自然エネルギーとはどのようなものでしょうか。

「エネルギー供給構造高度化法」では、「再生可能エネルギー源」について、「太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されています。

具体的には、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマスがこれにあたります。
自然エネルギーには優れた特徴がいくつもあります。

まず1つめは、CO2などの温室効果ガスを排出しないということです。つまり、環境にやさしいクリーンなエネルギーなのですが、このことは現在、重要な意味をもちます。これについては後で詳しくお話しします。

2つめは、再生可能であることです。上に挙げたエネルギー源はどれも自然界に存在し、なくなることは想定できませんから、ほぼ永久的に再生できるというわけです。
日本人は古来、豊かな自然と共存し、自然を敬い、自然に感謝しながら生きてきました。その自然の恵みを科学の力で活用して、私たちに必要なエネルギーを得るという方法と言えます。
豊かな自然と先進的な科学技術の融合―それは日本にとって大きなポテンシャルです。

3つめの特徴は、エネルギー源がすべて国内で調達でき、国内で生産できるという点です。日本は石油や天然ガスなどの天然資源が乏しく、エネルギーの多くを外国に依存しているため、国産エネルギーというのは大きなメリットです。エネルギー自給率が上がれば、世界情勢の影響を受けることが少なくなり、エネルギーの供給と価格が安定します。

最後に、4つめの特徴は多様性です。先にみたとおり、自然エネルギーにはさまざまなものがあるので、各地の地理、気象、経済などの諸条件に合わせて、最適なエネルギー源を選択し、また複数のエネルギー源を同時に活用することも可能です。

以上のように、自然エネルギーには優れた特徴がいくつもあります。
しかし、自然エネルギーを推進するメリットは、実はこれだけではありません。
次の図1は、自然エネルギーを導入した際のメリットを環境省がまとめたものです。


図1 再生可能エネルギー導入によるメリット
*出典:環境省「再生可能エネルギー導入加速化の必要性など」(2012)

このように自然エネルギーの導入にはグローバル、ローカルを問わずさまざまなメリットがあり、普及が進めば、私たちの社会に大きな恩恵をもたらすことが期待されます。

自然エネルギー推進の背景 ~地球温暖化とパリ協定~

現在、自然エネルギーが注目されているのは、以上のような優れた特徴や導入メリットがあるからだけではありません。ここでは、その他の背景をみていきたいと思います。
まず、時代的な背景です。
この数十年、地球温暖化による気候変動が厳しさを増しています。その結果、わたしたち人間の生活にも自然の生態系にもさまざまな悪影響がもたらされています。

以下の図2は、気温上昇の推移予測を表したものです。

図2 20世紀末(1986年~2005年)の平均気温を基準にした気温上昇予測
*出典:環境省「地球温暖化の現状」(2017)(IPCC第5次評価報告書 統合報告書政策決定者向け要約図SPM.1(a)より環境省作成)

図2の青色の帯は、厳しい温暖化対策をとった場合を表しています。この場合でも21世紀末(2081年~2100年)の世界の平均気温は、20世紀末に比べて0.3~1.7度上昇する可能性が高いと予測されています。

一方、赤い帯は有効な温暖化対策をとらなかった場合で、21世紀末世界の平均気温は、2.6~4.8℃上昇する可能性が高いのです。さらに、その場合、平均海面水位は最大82cm上昇する可能性が高いと予測されています。

このような危機的状況の中、2015年にパリ協定が採択されました。パリ協定とは、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みで、1997年に定められた「京都議定書」の後継となるものです。

このパリ協定は歴史的に重要で画期的な枠組みであるといわれますが、その理由の1つが公平性と実効性です。パリ協定では、途上国を含む全ての参加国と地域に、2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めることを求めています。

また、協定の長期目標の到達度合いを測るために、2023年から5年ごとに実施を確認することになっています。その結果をふまえて、各国の次の削減・抑制目標などが検討されるのです。

以下の表1は、パリ協定における各国・地域の目標を経済産業省がまとめたものです。
この表にあるように、日本の中期目標は、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することです。

他の国・地域と比較すると、これはかなり厳しい目標といえるでしょう。この目標を達成するためにも、CO2を排出しない自然エネルギーは重要な役割を担うことが期待されています。

表1 温室効果ガスの排出削減目標
*出典:経済産業省資源エネルギー庁「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか~」「主要国の約束草案(温室効果ガスの排出削減目標)の比較」(2017)
日本のエネルギー状況 ~自給率の低さ・東日本大震災~

次に日本固有の背景をみていきましょう。

先にも触れましたが、日本は石油や天然ガスなどのエネルギー資源が乏しい国です。そのため、これまでエネルギー自給率も低かったのですが、近年は原子力発電を普及させて徐々に自給率を高め、CO2排出量も減少傾向にありました。

ところが、2011年の東日本大震災、福島第一原子力発電所事故の影響で原子力発電がストップし、化石燃料に頼らざるを得ない状況に再び追い込まれました。

このような状況から化石燃料依存度が上昇したため、エネルギー自給率が低下するとともに、CO2排出量が増加してしまったのです。

図3・図4からもそのような状況がよみとれます。

図3 日本のエネルギー自給率と化石燃料依存度の推移
*出典:経済産業省資源エネルギー庁「なっとく! 再生可能エネルギー」(2018)
図4 日本の温室効果ガス排出量の推移
*出典:経済産業省資源エネルギー庁『2017年度版 日本のエネルギー』「エネルギーの今を知る20の質問」(2017)

ちなみに、2013年度の温室効果ガス排出量は、過去最高です。

世界の自然エネルギー発電実績と日本の目標

ここで、少し世界に目を向けてみましょう。
世界各国は自然エネルギーにどのように取り組んでいるのでしょうか。
次の図5は各国の自然エネルギーによる発電実績を表しています。

図5 各国の再生可能エネルギーによる発電実績
*出典:環境省「諸外国における再生可能エネルギーの普及動向調査」(2016)

このグラフを見ると、日本は総発電量に占める自然エネルギーの割合が低く、発電量としても、世界的にみるとまだ低水準です。でも、言い換えれば、それは今後、普及する余地が十分にあるということでもあります。

2015年7月、経済産業省は、「長期エネルギー需要見通し」を決定しました。経済産業省によると、これは、閣議決定された「エネルギー基本計画」にそって政策目標を設定し、日本のエネルギーに関して、あるべき姿を見通しとして示したものです。

以下の図6は、経済産業省がそうした見通しをグラフにしたものです。
図6は少し複雑なグラフですが、これをみると、省エネを徹底し、省エネと自然エネルギーとで全体の4割を賄おうとしていることがわかります。
自然エネルギーの種類は、発電量の大きい順から、水力、太陽光、バイオマス、風力、地熱となっています。

図6 日本の発電量のシェア(2030年度 見通し)
*出典:経済産業省『長期エネルギー需要見通し』「日本のエネルギー需要構造と再生可能エネルギーによる発電量シェア」(2015)

次に、IEA(国際エネルギー機関)による自然エネルギーの見通しをみてみましょう。
図7は、日本の今後の再生可能エネルギーによる発電電力量をIEAが予測したものです。

図7 日本の再生可能エネルギーによる発電電力量(IEAによる見通し)
*出典:環境省「諸外国における再生可能エネルギーの普及動向調査」(2016)IEA,“World Energy Outlook 2016”により環境省が作成

この見通しによると、2030年の発電量は2014年の実績量の約2倍です。
また、総発電量に占める自然エネルギー電気の割合は、2030年に25%弱、2040年に30%に達する見込みになっています。先ほどみたように、2016年のシェアは16%でしたから、今後の約20年間で、およそ2倍になると予測されているのです。

このように、現在、国も自然能エネルギーの推進に取り組んでいます。

自然エネルギーを普及させるためには ~各国の取り組みと望まれる施策~

では、今後、自然エネルギーを普及させていくためにはどうしたらいいのでしょうか。ここでは、コスト面と供給安定性の2つの面から考えてみます。

まず、コスト面です。自然エネルギーは高コストだとよく言われます。そのことをデータで確かめてみましょう。

図8 日本のエネルギー源別発電コスト
*出典:経済産業省資源エネルギー庁「なっとく! 再生可能エネルギー」(2018)

図8は、日本のエネルギー源別発電コストを表しています。

1kWhあたりの火力発電のコストは、石炭を使った場合が12.3円、天然ガスを使った場合が13.7円、石油を使った場合が30.6〜43.4円です。
では、自然エネルギーを使った発電のコストはどうでしょうか。風力(陸上に設置した風力発電の場合)は21.6円、太陽光(メガソーラーの場合)は24.2円です。

内訳をみると、他の発電と比べて、青い部分の資本費が高いことがわかります。つまり、発電コストに占める建設費や工事費などが高いのです。

日本における太陽光発電について、コストの問題をもう少し考えてみましょう。
図9は、世界の太陽光発電の発電コストの推移を表しています。

図9 世界の太陽光発電のコスト
*出典:経済産業省資源エネルギー庁「電源種別(太陽光・風力)のコスト動向等について」(2018)

このグラフをみると、世界では、太陽光発電のコストが急速に低下していることがわかります。この差は何によるものでしょうか。

日本の太陽光発電のコストが高いのは、平野部が少ないといった日本の地理的な条件もあるのですが、物価水準が変わらない欧米と比べても、国際的に取り引きされている太陽光パネルが日本では約1.5倍と高く、それを設置する工事費も約1.5~2倍という調査があります。
その背景には日本固有の流通機構や取引慣行があるといわれており、これらの改善がコスト削減に結びつくと期待されています。

コスト削減のためには、もう一つ、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT制度)の見直しも大切です。

図10 「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のしくみ
*出典:経済産業省資源エネルギー庁「なっとく! 再生可能エネルギー」(2018)

この制度は、自然エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度です。
電力会社が買い取る費用の一部を、その電力会社のユーザーから賦課金として集め、それを発電設備の建設にまわして、自然エネルギーの普及を促そうというわけです。

このように、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」は自然エネルギーの普及を目指した制度ですが、この買取価格が欧米の約2倍という高水準にあることが、コストをおし上げている要因の一つになっています。

そこで、国はこの買取価格の低減スケジュールを決めたり、買取価格を入札により決定する方式をとったりして、徐々に低く抑える方策を講じています。
この入札制度は、海外ではすでにドイツ、イギリス、フランス、オランダなど多くの国で導入され、一定の効果を上げています。

表2 ドイツの入札結果
表3 フランスの入札結果
*出典(表2・3とも):経済産業省資源エネルギー庁「入札制度について」(2018)

表2・表3は、ドイツとフランスの入札結果を表しています。
表中の平均落札価格をみると、回を追って落札価格が下がっており、コスト削減の効果がみとめられます。

日本でもこのような入札制を導入して、太陽光発電コストを2020年には1kWhあたり14円に、2030年には7円に低減するという目標を掲げています。

さて、最後に自然エネルギーを普及させていくために必要な、もうひとつの要素である供給安定性についてみていきます。
自然エネルギーを国の主力エネルギーにするためには、安定した供給が欠かせません。ところが、太陽光発電や風力発電などの一部のエネルギー源は、季節や天候の影響を受けるため、発電量の予測が難しいという問題があります。
また、もし需要と供給のバランスが崩れた場合、停電がおこるおそれもあるため、より安定した供給が求められます。

自然エネルギーの安定した供給を可能にするには、広域にわたる電気の調達や技術開発が望まれます。
図11は、日本企業の現在の国際競争力を示したものです。

図11 日本企業の国際競争力
*出典:経済産業省資源エネルギー庁「平成29年度 エネルギー白書」(2018)

この図をみると、脱炭素化技術では、日本企業は既に世界を牽引しています。そして、低炭素化技術においても、今後のポテンシャルが高いことがわかります。自然エネルギーは、産業としても有力なのです。

これまでみてきたように、自然環境を活かした自然エネルギーは、クリーンで、エネルギー源も尽きることがありません。普及すれば、国のエネルギー自給率を上げることができますし、多様で柔軟な活用も可能です。さらに、産業としても有望です。

今後、自然エネルギーをより普及させていくことは、わたしたちの未来を拓き、地球環境を守るうえで、重要な鍵となるはずです。

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