自然エネルギーを主力とするエネルギーミックスとは?

エネルギーミックスとは?

エネルギーミックスとは、安定したエネルギー供給を確保するために特定の電源に頼らず、国や地域の状況に合わせてバランス良く組み合わされた電源構成のことを指す言葉です。

しかし、エネルギーミックスはもう1つの意味合いを持っています。

2015年7月、経済産業省により「長期エネルギー需給見通し」が策定され、2030年ごろを目途に実現すべきエネルギーミックスが示されました。それ以降、日本では単に「エネルギーミックス」というときでも、特定の2030年ごろに実現すべきエネルギーミックスのことをいう場合があります。

この記事においても、これ以降で述べる「エネルギーミックス」は、2030年度にあるべき日本のエネルギーの姿を指します。

図 1 2030年エネルギーミックス
*出典:資源エネルギー庁長官官房総合政策課「日本におけるエネルギー政策策定の経緯と今後の計画」

 

図1は2030年に実現を目指すエネルギーミックスの概要を示した図です。それでは、この図1に示された内容を1つずつ確認していきましょう。

エネルギーミックスが求められる背景

日本のエネルギーの中心である化石燃料は、ほとんどが海外からの輸入に依存しています。図2では主要国の一次エネルギーの自給率を比較した結果を示しています。これを見ると、2015年時点での日本のエネルギー自給率は7.4%しかありません。1位のノルウェーと比較すると100分の1程度しか自給できていないのが現状なのです。

エネルギー自給率が低いと、エネルギーを巡る国内外の状況の変化に影響を受けやすくなってしまいます。実際に1970~80年代にかけて2度も日本を襲ったオイルショックは、第4次中東戦争やイラン・イラク戦争など、中東諸国の情勢が大きく影響していました。海外のエネルギーに依存することはエネルギー供給を不安定なものにしてしまうのです。(*2)

図 2  主要国の一次エネルギー自給率比較(2015)
*出典:経済産業省エネルギー庁 「2017年度版 日本のエネルギー『エネルギーの今を知る20の質問』」

このような背景から、エネルギー政策の着実な遂行を確保することを目的として2002年6月に「エネルギー基本法」が制定され、エネルギー需給に関する政策についての中長期的な基本方針を示した「エネルギー基本計画」が策定されました。そして、このエネルギー基本計画は少なくとも3年ごとに検討を行い、必要に応じて変更することが定められています。(*3)

また、2011年3月の東日本大震災以降、原子力発電を巡った活発な議論が交わされるようになり、国民のエネルギー問題への関心が急速に高まりました。そのため、さらに安全・安定したエネルギー供給が求められ、2030年度のエネルギーミックス実現が望まれているのです。(*4)

エネルギーミックスの基本方針

エネルギーミックスでは、エネルギーの「3E+S」に則った政策目標が立てられています。「3E+S」はそれぞれ、安全性(Safety)・安定供給(Energy Security)・経済効率性(Economic Efficiency)・環境適合(Environment)の頭文字をとったものです。

図 3 2030年エネルギーミックス実現に向けた政策目標
*出典:経済産業省エネルギー庁 「2017年度版 日本のエネルギー『エネルギーの今を知る20の質問』」

図3で示されているのは、エネルギーミックス実現に向けた政策目標の概要です。この目標を1つずつ確認してみましょう。

まず、最も重要なのが安全性に関する目標です。安全性は大前提とされており、事故や災害等でも安全性を確保できる耐性や規制基準を取り入れることが目指されています。

また、安定供給の面ではエネルギー自給率について東日本大震災前(約20%)を上回る、おおむね25%まで改善すること、そして経済効率性に関しては経済成長を支援するためにも電力コストを現状よりも引き下げることが目標とされています。さらに環境適合に関する目標としては欧米に遜色ない温室効果ガスの削減が掲げられており、日本も先進国の一員として地球温暖化対策への意欲的な姿勢を見せています。(*4)

日本のエネルギーの現状とこれから
日本のエネルギーが抱える問題

それでは、エネルギーミックスの掲げる「3E+S」の観点から、日本のエネルギーが抱える問題について確認してみましょう。

先ほども「エネルギーミックスが求められる背景」の項目でご説明した通り、日本のエネルギー自給率は低く、2015年時点で7.4%となっており、安定した供給が実現しているとは言えません。

また、経済効率性の観点から見ると、図4で示されている通り、1970年から90年にかけて、エネルギー消費効率は大きく改善されています。その一方で、それ以降の消費効率の改善は停滞した状態が続いており、2030年に向けてさらなる改善が求められます。(*5)

図 4 エネルギー消費効率の改善
*出典:経済産業省エネルギー庁 「2017年度版 日本のエネルギー『エネルギーの今を知る20の質問』」

図5に示されているのは、日本での最終エネルギー消費量の変化率です。この図5からは産業部門でのエネルギー消費は減少しているものの、業務部門や家庭部門でのエネルギー消費量が増加したことで、エネルギー消費全体はオイルショックが起きた1973年と比較すると約1.2倍に増加しているのが分かります。(*5)

経済発展によるエネルギー消費量を抑えるためにも、さらなる省エネへの取り組みが必要となっているのです。

図 5 我が国での最終エネルギー消費量の変化率(部門別比較)
*出典:経済産業省エネルギー庁 「2017年度版 日本のエネルギー『エネルギーの今を知る20の質問』」

図6は発電電力量に占める再生可能エネルギー(自然エネルギー)比率の比較を表した図です。環境適合に関わる自然エネルギーの導入も、2016年度時点で14.5%と主要国と比べると比率が低く、日本のエネルギー事情における課題の1つとなっています。(*5)

図 6 発電電力量に占める再生可能エネルギー比率の比較
*出典:経済産業省エネルギー庁 「2017年度版 日本のエネルギー『エネルギーの今を知る20の質問』」

エネルギーミックス実現で目指す姿

日本が抱えるエネルギーの「3E+S」に関する問題点を改善するために、国は4つの対策を打ち出しています。

 

1つ目は、省エネによってエネルギー消費効率を35%改善することです。省エネに取り組むと利用できるエネルギーを増やすことができます。そのため、「省エネルギー」は自然エネルギー・原子力・化石燃料に並ぶ第4のエネルギー源として注目されているのです。

 

2つ目は、エネルギーミックスのうち22~24%を自然エネルギーで構成し、主力電源とすることです。自然エネルギーは季節や天候によって発電量が大きく変動することから供給が不安定になりがちです。そのため、安定供給への調整に努めると共に導入へのコストを下げることも必要です。

 

3つ目は、原子力への依存度を低減しつつ、安全最優先の再稼働や使用済燃料対策など必要な対応を着実に進め、エネルギーミックスを支える重要な電源とすることです。また、安全を支える技術や人材を維持・強化することも重視されています。

そして最後は、石油・石炭・天然ガスを用いた火力発電の低炭素化や災害リスクへの対応を行うことです。また、非効率な石炭火力発電は少しずつフェードアウトさせていきます。

これら全てを実現させるためには、国の施策はもちろん、企業や個人にもエネルギーへの十分な理解と取り組みが求められているのです。(*3、6)

世界に出遅れている日本の自然エネルギー導入目標

先ほども「エネルギーミックス実現で目指す姿」の項目でご説明した通り、日本は2016年時点で14.5%の導入に留まっていた自然エネルギーの比率を2030年には22~24%に引き上げることを目指しています。しかし、一方でこの自然エネルギーの導入目標に対しては「世界の主要国に比べて低すぎるのではないか」との指摘もあります。

図 7 主要国の再生可能エネルギー(自然エネルギー)導入目標比率
*出典:経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネルギー政策の現状と課題」

図7に示しているのは主要国の自然エネルギー導入目標比率です。

これを見るとドイツをはじめとする欧州の国々では30~50%が目標値となっていることが分かります。(なお、アメリカの80%という目標比率は、自然エネルギーだけでなく原発等を含む「クリーンエネルギー」の目標比率であるため、今回の議論では扱いません。)

2015年時点では16.3%と日本と同程度の自然エネルギー比率であるフランスですら、2030年には自然エネルギーの導入を40%まで引き上げる目標を立てているのです。(*7)

このように比較していくと、日本の目標は世界の主要国に対して出遅れていることは明らかです。

現代はSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みなど、国際的にも限りある地球の資源の使い方を見直し、自然エネルギーをはじめとした持続可能なエネルギーの活用を考えなければならない時期に差し掛かっています。エネルギー分野において世界をリードしていくためにも、主要国の中でイニシアチブが取れるような自然エネルギーの導入目標をまずは掲げ、その目標に到達するため、様々なステークホルダーが協力し合うことが望まれるでしょう。

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参照・引用を見る
  1. 資源エネルギー庁長官官房総合政策課「日本におけるエネルギー政策策定の経緯と今後の計画」
    http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201701_07.pdf#search=’%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9+%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E8%80%85
  2. 経済産業省資源エネルギー庁「【日本のエネルギー、150年の歴史④】2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」
    https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/history4shouwa2.html
  3. 経済産業省資源エネルギー庁「新しくなった「エネルギー基本計画」、2050年に向けたエネルギー政策とは?」https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energykihonkeikaku.html
  4. 経済産業省「長期エネルギー需給見通し」
    https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/pdf/report_01.pdf
  5. 経済産業省資源エネルギー庁「日本のエネルギー」
    https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2017.pdf#search=’2018%E5%B9%B4+%E5%86%8D%E7%94%9F%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC+%E5%89%B2%E5%90%88
  6. 経済産業省資源エネルギー庁「2030年エネルギーミックス実現へ向けた対応について~全体整理~」
    https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/025/pdf/025_008.pdf#search=’%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9
  7. 経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネルギー政策の現状と課題」
    http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/wp-content/uploads/2017/10/06.pdf#search=’%E4%B8%BB%E8%A6%81%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E6%AF%94%E7%8E%87%E7%9B%AE%E6%A8%99
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