企業が再生可能エネルギー由来の電力を調達する手段であるコーポレートPPA。あまり聞き慣れない用語かもしれませんが、コーポレートPPAとは、企業が発電事業者と直接契約を結ぶことで自社における再生可能エネルギーの使用を増やそうとする手段の一つであり、近年RE100(企業が使用する電力の100%を再エネで発電された電力にシフトすることを目標とする国際的イニシアチブのこと)参加企業を中心に、活用されつつあります。
コーポレートPPAには様々な契約形態があり、事業者の置かれた状況によって適当な方法で契約が行われています。しかしながらそもそも、コーポレートPPAとはどのような契約なのでしょうか。
また、国内外で広がりつつあるコーポレートPPAですが、具体的にどの国や地域で、どのような企業が実施しているのでしょうか。
コーポレートPPAとは
コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)とは、企業など電力需要家が直接、発電事業者と再生可能エネルギーの電力を長期に(通常10~25年)購入する契約を言います[*1]。
事業者が電力を必要とする場合、電力会社から卸売契約として電力の供給を受けるのが一般的です。そのため、通常需要家は、太陽光発電や風力発電など、特定の方法によって発電された電力を選択することができませんでした。
近年では、「グリーン電力証書」のように再生可能エネルギーによって発電された電力やその環境価値を購入することができるようになりました。
そのため需要家も再生可能エネルギー由来の電気を選択して購入することができるようになりましたが、その中でもコーポレートPPAは需要家が再生可能エネルギーを直接購入することができる手段として注目を集めています。
コーポレートPPAの特徴として、需要家が発電事業者と契約を結び、需要家の敷地内外で新たに発電施設を設置し、温室効果ガスの排出量を削減できるため、環境問題の解決に直接的に貢献できるという点が挙げられます。新たに再生可能エネルギー発電所を設置することは「追加性(Additionality)」と呼ばれ、脱炭素化の流れの中で、世界中で非常に重視されています。
再生可能エネルギー由来の電力供給量を、需要家自らが増やすことができるのです。グリーン電力証書だと、再生可能エネルギー由来の電力を購入することはできますが、電力会社によって生産される既存の電力のため、再生可能エネルギーの供給量自体を増やすことはできませんでした。
コーポレートPPAの契約形態
電力需要家が直接的に環境負荷を軽減させることができる手段として注目を集めているコーポレートPPAですが、様々な契約の方法があります(図1)。
図1: コーポレートPPAの契約形態
出典: 資源エネルギー庁「コーポレートPPAの普及施策や関連する施策について」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/ANRE_210728RE-Users.pdf, p.1
コーポレートPPAの契約形態は、オンサイト型PPAとオフサイト型PPAの大きく2種類に分けられ、さらにオフサイト型PPAは3つの形態に分類することができます。
オンサイト型PPAとは
オンサイト型PPAとは、企業などの需要家が電力を使用する拠点の建物の屋上や敷地内に発電設備を建設する方法になります(図2)。
図2: オンサイト型PPAの概要出典: 自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA 契約形態、コスト、先進事例」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_JPcorpPPA2021.pdf, p.4
自家発電の場合、資金調達から設備建設、保守・運営、設備廃棄まで全てを需要家が行わなければなりませんが、オンサイト型PPAの場合は全てを発電事業者が行います。需要家が必要な作業としては用地提供だけなので、手間とリスクが少ないという点が特徴です。
また、発電設備と工場など敷地内の建物等を直接構内ネットワークでつなぐため、再生可能エネルギーを直接需要することができるという点も大きなメリットと言えるでしょう。
オフサイト型PPAとは
敷地内に発電設備を設置し、その敷地内で電力を需要する場合をオンサイト型PPAと言いますが、一方で、敷地外に設置された企業の発電設備から自己託送する場合はオフサイト型PPAとなります(自己託送とは、自家発電設備を設置する企業が送配電ネットワークを介して別の場所にある工場等に送電すること[*2])。
図3: オフサイト型PPAの概要
出典: 自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA 契約形態、コスト、先進事例」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_JPcorpPPA2021.pdf, p.5
日本におけるオフサイト型PPAでは、発電事業者は小売電気事業者を経由して需要家に販売するため、需要家は電力自体の料金に加え、託送料や小売電気事業者への手数料がかかります(図3)。
オフサイト型PPAは3種類に大別することができます。発電設備を設置した場所と送電先が同じ事業者である場合は、社内融通型のオフサイト型PPAとなり、発電設備を設置した場所の事業者と送電先の事業者が異なる場合でも、同系列のグループ会社である場合には、グループ内融通型のオフサイト型PPAとなります。この2種類が日本で現在認められているオフサイト型PPAです(図1)。
一方で、発電設備を設置した場所の事業者と送電先の事業者が異なり、同系列のグループ会社でもない場合は、他社(グループ外)融通型のオフサイト型PPAとなり、現行の日本の電気事業法では認められていません[*3]。
なお、日本では国に登録した小売電気事業者を介してオフサイト型PPAを契約しなければなりませんが、アメリカなど多くの国や地域では、小売電気事業者を介さないでオフサイト型PPAを結ぶことができます(図4)。
図4: 小売電気事業者を介さないコーポレートPPA
出典: 自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA 契約形態、コスト、先進事例」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_JPcorpPPA2021.pdf, p.5
その他の契約形態の分類方法
以上のような分類以外にも、フィジカルPPAとバーチャルPPAという2つの分類方法もあります。フィジカルPPAとは、これまで紹介してきたような、需要家が発電事業者と契約し、特定の再生可能エネルギーを直接利用することができる契約形態になります。
一方で、バーチャルPPAとは、需要家と発電事業者との間では環境価値のみを購入して、需要家は電力卸市場に卸された電力を購入する方式です(図5)。
図5: バーチャルPPAの概要
出典: 自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA 契約形態、コスト、先進事例」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_JPcorpPPA2021.pdf, p.7
需要家は電力を直接利用する必要が無いので、特定の発電所から直接の電力供給が難しい事業所等に対しても、バーチャルにおいて、その再生可能エネルギー発電所の電気を使うことが可能になります。
世界におけるコーポレートPPAの拡大
現在注目を集めているコーポレートPPAですが、太陽光発電や風力発電の普及により、世界全体で活発になってきています。
世界全体のコーポレートPPA新規契約量を見てみると、2009年に新たに結ばれた契約量は30万キロワットのみでしたが、2019年には1950万キロワット分の新規契約が結ばれています(図6)。
図6: 全世界のコーポレート PPA の新規契約量
出典: 自然エネルギー財団「企業が結ぶ自然エネルギーの電力購入契約 コーポレートPPA実践ガイドブック」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GuidebookCorpPPA.pdf, p.1
累積契約量は5000万キロワットにも及び、全体の約8割をアメリカでの契約が占めていますが、近年では欧州や日本を含むアジア地域でも契約が結ばれるようになってきています。
コーポレートPPA拡大の背景
アメリカを中心に各国で拡大するコーポレートPPAですが、拡大している要因として大きく2つ挙げられます。
1点目は、気候変動という環境問題に対して企業として対応しないと、事業活動に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
このまま火力発電に依存する状態を続けていると、地球温暖化はさらに進行します。温暖化の深刻化は台風や洪水のような異常気象の頻発につながり、事業活動の継続に大きな影響を及ぼしかねません。また、人々の意識が環境配慮に向かう中で、環境問題の解決に積極的に取り組まない企業は信頼を失い、取引先や投資家、消費者の信用を失うという流れが出来つつあります[*4]。
2点目は、再生可能エネルギーの発電コストが下がってきており、企業が再生可能エネルギーを活用しやすくなってきているためです(図7)。
図7: 全世界の電源別の発電コストの推移
出典: 自然エネルギー財団「企業が結ぶ自然エネルギーの電力購入契約 コーポレートPPA実践ガイドブック」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GuidebookCorpPPA.pdf, p.2
化石燃料を使った発電は、石炭などの産出国の影響を受けやすく、温室効果ガスも排出します。原子力発電は、温室効果ガスの排出はありませんが、放射性廃棄物のリスクや安全対策強化にかけるコストの上昇などによって、発電コスト自体が上昇しています(図7)。
一方で、太陽光や風力発電は、技術進歩や世界的な普及によって導入コストが下がっており、発電量当たりのコストも年々下落してきています。
このように、環境問題へ企業として対応を迫られており、さらには再生可能エネルギーを利用するコストも下がってきているという点からも、コーポレートPPAを結ぶ需要家(企業)が増加してきています。
国内外におけるコーポレートPPA事例
ここまで、コーポレートPPAの拡大の背景などを紹介してきましたが、国内外で具体的にどのようにコーポレートPPAが行われているのでしょうか。
海外におけるコーポレートPPA
現在、コーポレートPPAが最も普及している国はアメリカですが、アメリカではAppleやGoogleなどITの大手企業や、自動車メーカーのGMやFord、飲食チェーンのMcDonaldやStarbucksなどあらゆる産業でコーポレートPPAが採用されています[*4]。
コーポレートPPAの大半が、発電コストの低い風力か太陽光による電力であり、特に太陽光発電は、風力発電に比べて発電所を建設できる適地が多く、急速に広がっています(図8)。
図8: 米国のコーポレート PPA の電源種別
出典: 自然エネルギー財団「企業が結ぶ自然エネルギーの電力購入契約 コーポレートPPA実践ガイドブック」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GuidebookCorpPPA.pdf, p.6
また、2017年末時点の各事業者の累計の再生可能エネルギーの調達量について、最も多く調達している事業者はGoogleとなっています(図9)。
図9: 事業者による再エネ電力調達状況
出典: 京都大学大学院 経済学研究科「No.133 グーグルに見る再エネPPA成立の条件」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0133.html
再生可能エネルギーの普及に向けて、Googleではシリコンバレーの研究所に太陽光発電を設置するなどオンサイトでの取り組みを実施していますが、供給量的な限界があります。特に、データセンターが設置される場所は風力発電や太陽光発電の設置に制約があります。
図10: Googleの再エネPPA取引
出典: 京都大学大学院 経済学研究科「No.133 グーグルに見る再エネPPA成立の条件」
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0133.html
そこでGoogleは、コーポレートPPAによる電力供給を積極的に活用しています。発電事業者が開発する特定の再生可能エネルギー発電施設について、RECs(Renewable Energy Certificates:再生可能エネルギー証明書)と併せて買い取り保証をする契約を結ぶ方法を積極的に活用することで、温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいます(図10)。
国内におけるコーポレートPPA
アメリカに比べるとまだまだ契約量自体は多くありませんが、国内でもコーポレートPPAによる契約は普及しつつあります。
例えば、第一生命保険は、金融機関初となるオフサイト型PPAをクリーンエナジーコネクトと締結し、再生可能エネルギーの推進を本格化しています。本契約では、全国22カ所に第一生命保険専用の太陽光発電所を設置し、小売電気事業者を介して第一生命のビル3棟へ、電力を供給する仕組みとなっています(図11)。
図11: 第一生命保険におけるオフサイトPPA
出典: 第一生命保険株式会社「金融機関初となる環境省モデル事業に認定されたオフサイトコーポレート PPA の開始」
https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2021_042.pdf, p.1
本取り組みに加え、第一生命保険では営業所など自社オフィスの太陽光発電設備を設置するオンサイト型PPAの導入も検討しており、様々な方法によって再生可能エネルギーの活用を進めています。
また、セブン&アイ・ホールディングスは一部のセブンイレブン店舗(40店舗)とイトーヨーカドー店舗(アリオ亀有)の店舗運営に100%再生可能エネルギーを使用するため、NTTグループと協働でオフサイト型PPAを開始しています(図12)。
図12: セブン&アイ・ホールディングスにおけるオフサイト型PPA
出典: 株式会社セブン&アイ・ホールディングス「セブン&アイグループとNTTグループの協創で取り組むRE100店舗の実現 国内初オフサイトPPAを含むグリーン電力を一部店舗に導入」
https://www.7andi.com/company/news/release/18114.html
セブン&アイ・ホールディングスではこれまで、全国8653店舗(2021年2月末時点)の屋根に太陽光パネルを設置するなど、再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組んできました。また、自社敷地内に設置するだけでは賄えない電力需要を、コーポレートPPAを活用することによってカバーするなど、CO2排出量実質ゼロを目指した取り組みが行われています[*5]。
コーポレートPPAのポテンシャル及び課題
再生可能エネルギーによる電力100%による事業運営を宣言したRE100という動きも活発化しています。2022年7月時点での参加企業は世界全体で376社(うち日本企業は72社)となっており、参加企業は今後も増加するとされています[*6]。
RE100参加企業における電力調達手段として、コーポレートPPAの比重は高まっており、今後もコーポレートPPAは有効な手段として契約数は増えていくと見込まれます(図13)。
図13: RE100参加企業による再エネ調達方法別の調達量推移
出典: 石丸 美奈「再生可能エネルギーの拡大とコーポレートPPA(Power Purchase Agreement)」
https://www.jkri.or.jp/PDF/2020/Rep173ishimaru.pdf, p.13
このように、環境問題の解決に向けた有効な手段として活用されているコーポレートPPAですが、様々な課題もあります。
例えば、太陽光や風力は自然由来のエネルギーのため、電力需要家にとっては、天候や自然災害によって見込んでいた電力供給を受けられないというリスクがあります。また、固定価格で電力を契約した場合、卸電力市場で価格変動が発生し固定価格を下回った際でも、契約によっては固定価格分は支払う必要が生じる場合もあり、十分なリスク検討が必要です[*7]。
一方で、電力を供給する事業者側にもリスクがあります。例えば、事業者は需要家と長期契約を結びますが、需要家がその間に工場や事業所を閉鎖、さらには倒産してしまうと、投資資金が回収できない可能性があります[*8]。
以上のようなリスクに対して、一定期間ごとの契約価格の見直しや発電量の減少による収益性の悪化については保険商品の活用など様々な対策がとられつつあります。今後は如何にしてリスクを軽減し、より多くの事業者が活用できるようになるかがコーポレートPPAの更なる普及に向けたカギとなるでしょう。
参照・引用を見る
*1
日経BP「コーポレートPPA(CPPA)とは」
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/word/00001/00008/?ST=msb
*2
資源エネルギー庁「自己託送に係る指針」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/20131206004-5.pdf, p.1
*3
PwC Japanグループ「コーポレート電力購入契約(PPA)を活用したスマートシティ開発」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/smartcity/vol43.html
*4
自然エネルギー財団「企業が結ぶ自然エネルギーの電力購入契約 コーポレートPPA実践ガイドブック」
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GuidebookCorpPPA.pdf, p.2, p.3, p.5
*5
株式会社セブン&アイ・ホールディングス「セブン&アイグループとNTTグループの協創で取り組むRE100店舗の実現 国内初オフサイトPPAを含むグリーン電力を一部店舗に導入」
https://www.7andi.com/company/news/release/18114.html
*6
RE100「RE100 Members」
https://www.there100.org/re100-members?items_per_page=100
*7
石丸 美奈「再生可能エネルギーの拡大とコーポレートPPA(Power Purchase Agreement)」
https://www.jkri.or.jp/PDF/2020/Rep173ishimaru.pdf, p.15-16
*8
環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ「オフサイトコーポレートPPAについて」
https://www.env.go.jp/earth/off-site%20corporate.pdf, p.17