地域独自の循環型社会の構築を目指す「エコタウン」から私たちが学ぶべきこと

持続可能な開発目標・SDGsが2015年9月の国連サミットで採択されて以降、環境問題に対する人々の意識も高まってきました。
日本政府としても、2016年5月に総理大臣を本部長、官房長官、外務大臣を副本部長とした「SDGs推進本部」を設立し、国を挙げて活動しています。

SDGs達成のためには、持続可能な循環型社会への転換が必要不可欠です。
しかし「循環型社会への転換」と言葉にするのは簡単ですが、それを実現することは容易ではありません。

SDGsが登場し、本格的に循環型社会への注目が集まったのは2016年以降です。
しかし、それより約20年も前から国や自治体ぐるみで循環型社会の構築に取り組む事業が行われていたことをご存知でしょうか。

それが、1997年度に創設された「エコタウン事業」です。

今回は、エコタウン事業の内容を紹介するとともに、この事業を通して、私たちが環境問題にどう取り組むべきかを考えていきます。

あらゆる廃棄物をゼロにする「ゼロ・エミッション」

ゼロ・エミッションは1994年に国連大学が初めて提唱したコンセプトです[*1]。

「ある産業から出るすべての廃棄物を新たに他の分野の原料として活用し、あらゆる廃棄物をゼロにすることを目指す構想」のことをゼロ・エミッションといいます[*2]。SDGsを実現する上でも重要な考え方です。

ちなみに、東京都でも「ゼロエミッション東京」と名付けられた取り組みが行われていますが、東京都の場合は、CO2排出実質ゼロ=ゼロ・エミッションと位置づけられ、省エネ、再生可能エネルギーの拡大施策に加え、食品ロスやプラスチック対策などが行われています[*3]。

エコタウンとは

エコタウン事業は、「ゼロ・エミッション構想」を基本としています。
先進的な環境調和型のまちづくりを推進することを目的として、1997年度に創設されました[*2]。

2022年現在、全国で26地域がエコタウンとして承認されており、都道府県単位で承認されている地域もあれば、市単位で承認されている地域もあります(図1)。

図1: エコタウン事業承認地域マップ
出典: 環境省「エコタウンの歩みと発展」
https://www.env.go.jp/recycle/ecotown_pamphlet.pdf, p.5

エコタウンは、「承認」という言葉からも分かる通り、自治体が自らエコタウンを名乗るだけでは成立しません。
以下のような取り組みを行い、国から認められる必要があります[*4]。

  • それぞれの地域の特性を活かして、自治体が「エコタウンプラン(環境と調和したまちづくり計画)」を作成する。
  • 作成されたプランの基本構想、具体的事業に独創性、先駆性が相当程度認められる。
  • 他の自治体の見本(モデル)となりうる。

これらの条件をクリアすると、経済産業省および環境省がエコタウンと認定し、財政支援が受けられるのです。

エコタウンでは何が行われているのか

では、実際にエコタウンではどのような取り組みが行われているのでしょうか。その事例をいくつか紹介します。

 

福岡県北九州市

北九州市はエコタウン事業が始まった1997年度に、岐阜県、長野県飯田市、神奈川県川崎市と並んで承認された都市です。具体的には北部の若松区響灘地区が北九州エコタウン地区に指定されています[*4, *5]。

もともと北九州市は、戦前から戦後にかけて「鉄」を中心に発展してきた都市です。

しかし、産業インフラが充実していた反面、1960年代には深刻な産業公害問題がありました。一時期は、北九州市にある洞海湾が、大腸菌すら棲めない「死の海」と呼ばれていた事からもその深刻さがわかります[*6]。

そこから、公害問題に対する市民・行政・産業界一体の取り組みが行われ、北九州市の環境は著しく回復しています(図2)。環境改善のモデルとして国際的にも高く評価され、エコタウンとして承認を受けました。


図2: 北九州市の過去と現在
出典: 北九州市「北九州エコタウン事業」(2020)
https://www.kitaq-ecotown.com/docs/202104/ecotown-pamphlet-ja2021.pdf, p.2, p.4

北九州市は、一世紀にわたる産業都市としての基盤や技術力、公害克服の過程で培われた人材・技術・ノウハウ等を活かし、資源循環型社会の構築を図るため、環境保全政策と産業振興を統合した独自の地域政策として「北九州エコタウン事業」を推進しています[*6], (図3)。

図3: 北九州市エコタウン事業エリアマップ
出典: 北九州市「北九州エコタウン事業」(2020)
https://www.kitaq-ecotown.com/docs/202104/ecotown-pamphlet-ja2021.pdf, p.1

北九州市のエコタウン事業は大きく3つに分けられ、それぞれ下記のような取り組みが行われています。

教育・基礎研究

北九州学術研究都市として、国公私立の大学・大学院や研究機関が一つのキャンパスに集まり、環境政策理念の確立、基礎研究、人材育成、産学連携拠点運営を行っています(図4)。

「環境」と「情報」を二大テーマに、リチウムイオン電池のリユース・リサイクル、竹・プラスチックコンポジット材の活用などの研究を行ってています[*6]。

図4: 北九州学術研究都市の外観
出典: 北九州市「北九州エコタウン事業」(2020)
https://www.kitaq-ecotown.com/docs/202104/ecotown-pamphlet-ja2021.pdf, p.3

技術・実証研究

実証研究支援 、地元企業の育成を行っています。
企業・行政・大学の連携により、都市ごみの生分解性プラスチック化、バイオマス燃料製造方法など最先端の廃棄物処理技術やリサイクル技術の実証研究を行っています[*6]。

また、北九州エコタウンセンターという施設を設立しています。センターでは、環境学習や産業観光、企業・行政の視察や社員研修の対応を行っており、近隣の工場やエネルギー施設を見学することもできます。
センター内にはリサイクルやエネルギーに関する展示品やパネルが設置されており、エコタウン事業を学ぶ上で非常に充実した施設です[*7]。

事業化

各種リサイクル事業、環境ビジネス展開、中小・ベンチャー事業の支援を行っています。
市が土地を整備し、事業者に長期間賃貸することで、 中小企業の環境分野への進出を支援しています[*6]。

事業化の取り組みは、主に「総合環境コンビナート」と「響リサイクル団地」で行っています。
事業化の柱の一つである「総合環境コンビナート」には、多くのリサイクル企業が立地しています。リサイクル対象はペットボトル、家電、OA機器、自動車、蛍光管、医療用具、建設混合廃棄物、非鉄金属、二次電池と多岐にわたります[*7]。

もう一つの柱である「響リサイクル団地」では、市が事業者の支援を行っています。地元中小・新興企業による食用油、有機溶剤、古紙、空き缶等のリサイクル事業や、自動車解体事業の高度化を市が後押しています[*8]。

 

ほかにも、市では住民に対して以下のようなアプローチを行っています[*5]。

  • プロジェクトの現場見学
  • 出前講演を開催
  • 子どもたちに対してリサイクル工場の見学を実施

これらの取り組みは市民の活動にも広がりを見せ、市民団体が主体となって、商店街内の空き店舗を利用したリサイクルコーナーが設置された事例もあります[*5]。

北九州のエコタウン事業では、2018年までに27 事業、2017年までに60の研究が実施しました。この実績数は日本最大級です[*6]。

 

香川県直島町

香川県直島町は2002年にエコタウンとして承認されました。

実は、北九州市と同様、香川県も環境問題に悩んだ経緯があります。
直島町にほど近い豊島では、1970年代に不法投棄が起き、50万トンもの産業廃棄物が存在していたのです[*9, *10]。

この対策として、香川県が三菱マテリアル直島製錬所の敷地内に処理施設を整備することを決定しました。直島町では新たに環境産業の育成と町の活性化を図るため、香川県とともに「直島エコタウン事業計画」を策定し、2002年に国の承認を受けたのです[*10]。

直島町のエコタウン事業は大きく2つに分けられ、それぞれ下記のような取り組みが行われています[*11, *12]

製錬施設を活用するリサイクル事業

直島町に蓄積された精錬施設や技術、人材を活用し、循環型社会の構築を目指しています。

廃棄物の無害化処理で発生する飛灰を、銅製錬施設を用いてリサイクル処理するための溶融飛灰再資源化施設と、さらにシュレッダーダストなどを銅製錬施設に提供するための前処理を行なう有価金属リサイクル施設を建設して、循環資源回収事業を行なっています。

これにより、従来はほとんど埋立処分されてきた溶融飛灰やシュレッダーダスト等を活用、再資源化し、ゼロエミッションリサイクルを実現しています。、また、県外産業廃棄物の搬入規制も行っています(図5)。

図5: 直島町のリサイクルフロー図
出典: 香川県「エコアイランドなおしまプラン」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/10905/panf.pdf, p.3

環境調和型のまちづくり

住民、事業者、行政が一体となって、ごみ減量化・リサイクルの推進、環境教育・環境学習のフィールドづくり、エコツアーの誘致、新エネルギーの導入などを行っています(図6)。

図6: 直島町のまちづくりの取り組み例
出典: 香川県「エコアイランドなおしまプラン」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/10905/panf.pdf, p.4

 

神奈川県川崎市

川崎市の臨海部は、戦前から工業地帯が形成されてきましたが、高度経済成長期(1960年代~70年代)には大気汚染や水質汚濁などの甚大な公害が起こりました[*13, *14, *15]。

また、高度経済成長期が終わった1980年代には、生産施設の老朽化や工場の移転が進み、雇用力・税収の減少等の問題が生じていました[*16]。

そこで市は、公害や既存産業の低迷という課題を解決するため、臨海部における高い企業集積と環境技術の集積を活かした「川崎エコタウンプラン構想」を策定しました。1997年にエコタウンとして承認を受けています[*14], (図7)。

川崎エコタウンには年間約1,000人が国内外から視察に訪れ、2012年に公表された実績では年間10万トン以上の廃プラスチックを処理しています[*13]。

また、エコタウン内にペットボトルや家電などのリサイクル施設を設け、企業に入居してもらうことで155ha(東京ドーム約33個分)あった遊休地を減らすことに成功しています[*14]。

図7: 川崎エコタウン構想
出典: 神奈川県川崎市「川崎臨海部エコタウンの実現に向けて」
https://www.city.kawasaki.jp/280/cmsfiles/contents/0000033/33344/eco-panf(E).pdf, p.3, p.4

川崎市のエコタウン事業は4つの基本方針から成り立っています[*13, *14, *15]。

企業自身のエコ化

企業自身がリサイクル拠点施設の整備を行い、工場排水・廃棄物のゼロエミッション化などに取り組む。

企業間の連携による地区のエコ化

企業間で協力してゼロエミッション工業団地の整備、共同リサイクルの実施などを行う。

地区の発展に向けた研究の実施

持続可能な発展を実現するためエネルギーの有効利用の研究、東京電力川崎火力発電所が発電に使用する蒸気の再利用などを行う。

成果の情報発信 海外への貢献

視察の受入、川崎国際環境技術展の開催などを行う。

エコタウンから学ぶこと

今回紹介したエコタウンでは、公害や産業廃棄物の問題を克服した経験を活かし、独自の取り組みが行われています。そして、エコタウン事業を通して、企業の発展、地域活性化につなげています。

循環型社会の実現には、リサイクル産業の創成や育成が必要不可欠です。エコタウンに承認されている地域は、地域特性を生かして循環型社会を実現しようとしている、いわば「お手本」です。

このお手本をもとに、各地域の経験・取り組みを共有することで「ゼロ・エミッション」に近づけるのではないでしょうか。

そして、それぞれの地域が独自のエコタウンを構築することができれば、循環型社会を実現できるかもしれません。

 

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参照・引用を見る

*1
公益財団法人 国連大学協力会「ゼロエミッション・フォーラム」(2000)
https://www.jfunu.jp/fundraising/%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%82%A8%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%A0/

*2
環境省「エコタウン関連」
https://www.env.go.jp/recycle/ecotown/?msclkid=c9961703bac011ec90bb44e77d4761cd

*3
東京都「ゼロエミッション東京」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/zeroemission_tokyo/index.html?msclkid=4e370976baf511ecaaeeb793dc3f1e16

*4
九州経済産業局「エコタウン」(2018)
https://www.kyushu.meti.go.jp/seisaku/recycle/ecotown.html?msclkid=5a6c141cbbba11ecaf4742dfb4204fb7

*5
いよぎん地域経済研究センター「『鉄都』から『エコタウン』へ - 環境未来都市の形成を目指す北九州市 -」(2000)
https://www.iyoirc.jp/post_industrial/20001201/?msclkid=b3d162a7bbbd11ec9e2722e8f3e14de0

*6
北九州市エコタウンセンター「北九州エコタウン事業」(2020)
https://www.kitaq-ecotown.com/docs/ecotown-pamphlet-ja-2019.pdf, p.2, p.3

*7
北九州市エコタウンセンター「北九州市エコタウンセンターについて」
https://www.kitaq-ecotown.com/center/

*8
国土交通省「第I部 活き活きとした地域づくりと企業活動に向けた多彩な取組みと国土交通施策の展開」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h15/hakusho/h16/html/F1012150.html

*9
香川県「発端から公害調停の申請まで」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/haitai/teshima/keii/teshi-1-1.html

*10
三菱マテリアル
https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/product/environment/ecotown.html?msclkid=263727d8bbc811eca5cfaf954cb2db50

*11
香川県「プランの概要」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/haitai/ecoisland/gaiyo/kfvn.html

*12
香川県「エコアイランドなおしまプラン」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/10905/panf.pdf, p.3

*13
神奈川県川崎市「川崎臨海部エコタウンの実現に向けて」(2013)
https://www.city.kawasaki.jp/280/cmsfiles/contents/0000033/33344/eco-panf(E).pdf, p.3

*14
環境省「エコタウンの歩みと発展」(2018)
https://www.env.go.jp/recycle/ecotown_pamphlet.pdf, p.4, p.7, p.11

*15
神奈川県川崎市「川崎市の公害の歴史を学ぶ」(2021)
https://www.city.kawasaki.jp/300/page/0000101969.html

*16
京浜臨海部再編整備協議会「京浜臨海部について」
https://www.keihin.ne.jp/shiryou_nenpyou.html

*17
環境省「エコタウンの歩みと発展」(2018)
https://www.env.go.jp/recycle/ecotown_pamphlet.pdf, p.4, p.7, p.11

*18
神奈川県川崎市「川崎エコタウン」(2019)
https://www.city.kawasaki.jp/280/page/0000033344.html

*19
神奈川新聞「省エネとCO2削減目指し蒸気供給、『川崎スチームネット』営業開始/川崎」(2010)
https://www.kanaloco.jp/news/economy/entry-128865.html

*20
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)「WG1 第1作業部会(自然科学的根拠)」(2021)
https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6-wg1

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