「食」を中心に眺めてみると…… スローフードと地球環境

「食」はわたしたちが生きていくのに欠かせないものです。わたしたちの命を育む「食」。その「食」を中心にして眺めてみると、これまでとは違った世界が見えてくるかもしれません。そして、わたしたちの未来も…。

 

スローフードとは
「スローフード」の始まりとその時代背景

始まりは1986年、北イタリアの小さな町、ブラでした。

ある食事会でファーストフードが話題に上りました。当時、ローマの文化遺産の近くに大手ファストフード店が進出しようとしていて、イタリアではそのことに関する多くの議論がかわされていました。その食事会で、「自分たちは、スローフードでやっていこう」と言い出した人がいました。これが「スローフード」ということばの始まりと言われています 1)。

このように、スローフードは、ファーストフードと逆の発想から生まれたものです。ファーストフード普及の波に象徴される「食」のあり方は、生産過程を日常生活から切り離し、消費の場に市場原理を持ち込んで、合理性や効率性、経済性を徹底させるというものでした 2)。スローフードにコミットする人々は、そうした流れに疑問を呈し、食の画一化に対抗する手段として、地域に根ざした食文化とその多様性、そうした食べ物の生産者を守る活動の重要性を唱えました 3)。

イタリアでは、1950年代から70年代にかけて、国土の80%を占める中山間地の農村地域が過疎化し、深刻な状況にありました。そうした危機感から、農村文化の再興やイタリア食文化保護の機運が高まりをみせていました。また、それと同じころ、より人間らしい生活環境をもとめて、イタリアの農村部に、外国やイタリア都市部からの移住が相次ぎました。そうした「外部者からの目」による農村文化の再評価もスローフード活動を支える重要な役割を果たしました 4)。

スローフードのあゆみと世界的な広がり

では、スローフードのあゆみとはどのようなものでしょうか。

1986年にスローフード協会の前身である、食文化を守る会「アルチ・ゴーラ」が設立されました。これがスローフード運動の始まりだとされています。

こうして始まったスローフード運動は、草の根の社会運動として急速な広がりをみせていきます。

1989年、「アルチ・ゴーラ」は「スローフード協会」と名称を変え、フランスのパリで「スローフード宣言」を発表しました。これを機に、スローフードは本格的な国際運動を展開していきます 3)。

図1 スローフード協会のロゴ
出典:一般社団法人日本スローフード協会HP(2017)「What is Slow Food?」
https://docs.wixstatic.com/ugd/fee434_c9bd1aca763e4fa8a89ae2556038d98b.pdf

スローフード協会は、1990年に第1回国際スローフード大会を開催するとともに、スローフード出版局を設立します。

以下の図2は1986年から2004年までのスローフードの取り組みを農林水産省がまとめたものです。

図2 スローフード運動の流れ(2004年まで)
出典:農林水産省(2013)地域食文化活用マニュアル検討会「事例から考える地域食文化の活用第1部事例編」p.20
http://www.maff.go.jp/j/study/syoku_vision/manual/pdf/

図中の個々の取り組みについては、後ほど詳しく説明しますが、スローフードはこれ以降も毎年、新しい活動に取り組み、国際的なイベントにも参加し、活発な活動を続けています。

以上のように精力的な運動を推進してきた結果、イタリアに国際本部を持つスローフードインターナショナルは、2017年時点で、世界160カ国、100万人以上のネットワークを持つ世界規模の組織になっています。そして、国際連合やEU本部をはじめ、世界各国の行政機関への政策提言や行政と連携した事業展開などを行い、世界の農林水産行政や食文化に大きな影響を与えています 5)。

では、日本のスローフード運動はどのような状況なのでしょうか。

日本では、食のリスクに関わる問題が起き、食への関心が高まった2000年頃にスローフードが知られるようになりました。「産地直送」や「地産地消」が見直され、食の安全を守るためには、トレーサビリティーや生産者と消費者の間に「顔の見える関係」を構築することが大切だという社会的な認識が生まれたのもこの頃です。それはこれからお話しするスローフードの理念と一致するものでした。

2002年からは日本国内に「コンビビウム(Convivium)」(ラテン語で「饗宴」を意味する)と呼ばれるスローフードの世界支部ができるようになり、2004年にはじめての全国組織である「スローフードジャパン」が誕生しました 3)。また、2016年には「日本スローフード協会」が設立され、2019年5月時点で全国に24あるコンビビウムを統括し、日本におけるスローフード活動の運営を行っています 6)。

スローフードのスローガンとミッション

これまでみてきたように、スローフードは食の地域性を大切にします。そのため、各国・各地にあるコンビビウムは、それぞれがその地域ならではのオリジナルな活動に取り組んでいます。

ただし、そうした多くのコンビビウムのすべてが、独自の活動を行いつつ共有しているものがあります。それは、以下のようなスローガンとミッションです 3)。

スローフードのスローガン

スローフードのスローガンは、「おいしい(Good)、きれい(Clean)、ただしい(Fair)」です。
日本スローフード協会は、それぞれについて以下のように説明しています 5)。
まず、「おいしい」とは、 「おいしく、風味があり、新鮮で、感覚を刺激し、満足させること」です。
次に「きれい」とは、 「地球資源、生態系、環境に負担をかけず、また人間の健康を損なわずに生産されること」です。
そして、「ただしい」 とは、「生産から販売及び消費に渡って、すべての関係者が適正な報酬や労働条件にある社会的構成を尊重すること。 そんな食べ物を、すべての人が享受できる社会を実現すること」です。

以上のことからもわかるように、スローフードは、「料理を味わって楽しみつつ、料理の皿の外にあるその見えない味付けを考える」運動であり、「現在の食をとりまく環境は、私たちが日々口にしているものの選択一つ一つによって作り上げられているもの」と考えます。それは、「この環境をより良いものにしていくためには、一人一人の意識と文化、政治、農業、環境、経済など、様々な分野の垣根を超えて取り組まなければならない」という考えにつながり、次にお話しするミッションに結びついています 5)。
このように、スローフードは、食を通じて現代社会のあり方を再考し、問題解決を図ろうとする社会運動なのです。

図3は、以上のようなスローフードの考え方を表す概念図です。

図3 スローフードの考え方の概念図
出典:一般社団法人日本スローフード協会HP(2017)「What is Slow Food?」p.2
https://docs.wixstatic.com/ugd/fee434_c9bd1aca763e4fa8a89ae2556038d98b.pdf

スローフードのミッション

スローフードのミッションは、「生物多様性の保護」、「生産者と消費者をむすぶ活動」、「味覚教育」の3つです。

まず、ひとつめの「生物多様性の保護」は、希少農産物および生物を見直し、これらを「食遺産」として保護することが目標です 2)。そのための代表的な活動の1つが1996年に始まった「味の箱舟」プロジェクトで、「絶滅の危機にある優良な食品を記録し、忘れられた味覚を再発見し、カタログにする」活動です。2017年時点で、この「味の箱舟」の登録産品は1,000に達しています 5)。

2つめのミッション 「生産者と消費者をむすぶ活動」は、具体的には「環境に優しく、友好的な方法で、美味しい食品を作っている」生産者と消費者の出会いの場を提供することです。その代表的な取り組みが、1996年からイタリアのトリノで隔年開催されている「サローネ・デル・グスト」という「食の見本市」で、さまざまな活動の中で最も重要なものと位置づけられています 5)。

3つめのミッション「味覚教育」には、試食と生産者や専門家の講義を中心とした、大人向け 「味覚ワークショップ」と、子ども向けの味覚教育プログラムと学校菜園の取り組みがあります 3)。具体的な活動としては、先ほどお話しした「サローネ・デル・グスト」における「味覚ワークショップ」の他に、2010年に始まった「アフリカ 万の菜園プロジェクト」が挙げられます。このプロジェクトでは、2017年時点で、アフリカの36カ国において約2,600の菜園を、学校や村、町の郊外に作り、自国の食糧問題を自らの手で解決するリーダーを育てています 5)。

以上のうち、1つめと2つめのミッションは最近、特に重要度を増してきていますが、そのことについては後ほど詳しく説明します。

スローフードと現在の時代性:なぜ「今」、スローフードに注目するのか

では、なぜ今、スローフードに注目する必要があるのでしょうか。

ここでは、国際連合世界食糧計画(以後、「WFP」) 7) と国際連合食糧農業機関(以後、「FAO」) 8) のデータを基に、現在の食糧事情や農業に関わる時代性をみていきたいと思います。

世界の食糧状況

図4.ハンガーマップ2018
出典:WFP HP「ハンガーマップ2018
http://ja.wfp.org/sites/default/files/ja/file/hungermap2018_0.pdf

上の図4は、2015年から2018年までの栄養不足人口の割合を表しています。

図下の凡例は、左から順に、青が「非常に低い」(5%未満)、オレンジ色が「やや低い」(5-14.9%)、次の濃いオレンジが「やや高い」(15-24.9%)、赤が「高い」(25-34.9%)、茶色が「非常に高い」(35%以上)で、一番右側のグレーは「データなし」です。

この図から、アフリカをはじめ、アジア、ラテンアメリカで栄養不足の人の割合が高いことがわかります。

次に、図5は、十分な食糧が得られていない人の数(オレンジ色の線:単位100万人)と割合(グレーの線)の推移です。

図5 食糧危機に直面している人の数と割合
出典:FAO(2018)2018年世界食糧安全・栄養白書(以下、‘The State of Food Security and Nutrition in the World 2018’)p.3
http://www.fao.org/3/I9553EN/i9553en.pdf(以下、図11まで、図7を除き同URL)

この図から、2017年に十分な食糧が得られていなかった人の数は世界で8億2,070万人で、2010年以降で最高だったことがわかります。それを割合にすると10.9%で、地球上の全人口の9分の1以上にあたり、2014年の水準を上回っています。

このように、十分な食糧が得られない人々は近年、増加傾向にあるのです。

次に、このような食糧危機にある人々の割合を地域別にみてみましょう。
図6は、十分な食糧が得られなかった人々の2014年から2017年までの割合を地域別に表しています。

図6 地域別食糧危機に直面している人の割合
出典:FAO‘The State of Food Security and Nutrition in the World 2018’p.8

図中の地域は、左から順に、世界全体、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、北アフリカとヨーロッパです。

この図をみると、アジアと北アフリカおよびヨーロッパ以外の地域では、2017年に十分な食糧が得られていなかった人々の割合は2014年より高いことがわかります。
特にアフリカは約30%と、深刻な状況にあります。

SDGsの目標と達成可能性予測

SDGs(持続可能な開発目標)は「誰一人取り残さない」(no one left behind)を謳い文句に、2015年、国際連合のサミットで採択されました。このSDGsの究極の目標は、「極端な貧困を含む、あらゆる形態と様相の貧困を撲滅すること」(「我々の世界を改革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ:pp.1-2[2]」)です 9)。

この目標を達成するために、SDGsでは17の目標を設けていますが、そのうちの「目標2」と「目標3」は食糧と健康に関するものです。それらの目標をみてみましょう。

【目標2】

「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」9)

【目標3】

「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」 9)

図7 SDGsの「目標2」と「目標3」のロゴ
出典:国際連合広報センターHP(2018)「SDGsのロゴ」
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/

SDGsの目標達成期限は2030年です。これまでみてきた深刻な食糧状況の中、こうした目標を達成する可能性はあるのでしょうか。

下の図8は、 SDGsの「目標2」および「目標3」に関わる各要素の2012年から2017年までの数値と、2025年および2030年におけるSDGsの目標値を並べて表しています。

図8 2012年-2017年の数値とSDGsの2025年および2030年の目標値
出典:FAO‘The State of Food Security and Nutrition in the World 2018’p.16

図の下方に示されている凡例は、左から順に、5歳未満の発育不全の子ども、5歳未満の衰弱している子ども、5歳未満の肥満児、6カ月未満の母乳育児を受けている子ども、出産可能な年齢の貧血の女性、そして一番右が肥満の大人です。

これらのうち、5歳未満の発育不全の子どもと6カ月未満の母乳育児を受けている子どもは微弱ながら目標に向かって進んでいますが、5歳未満の肥満児の割合は横ばい、他はむしろ悪化しています。同白書はこのまま対策を講じないでいると、SDGsの目標を達成するのは難しいと述べています 8)。

気候変動と食糧危機
自然災害の増加

では、こうした食糧危機をもたらしているのは何でしょうか。

FAOは、気候変動や異常気象が農業に打撃をあたえ、それが食糧安全に影響を与えていると述べています 8)。
以下の図9は、1990年から2016年までの自然災害件数の推移を表しています。

図9 自然災害件数の推移
出典:FAO‘The State of Food Security and Nutrition in the World 2018’p.39

折れ線のうち、下方のオレンジ線は異常気温、その上の濃い青線は干ばつ、緑線は嵐、上から2番目の薄い青線は洪水、一番上の茶色線は総計を表しています。

この図から、全体的に自然災害が著しく増加していることがわかります。こうした自然災害が主に農業に影響を与えているのです。

気候変動:温暖化と降雨量

図10  世界の気温上昇分布
出典:FAO‘The State of Food Security and Nutrition in the World 2018’p.43

自然災害の要因は気候変動です。
まず、温暖化についてみていきましょう。

図10は、世界の平均上昇気温を表しています。青が濃くなるほど気温下降が、茶色が濃くなるほど気温上昇が著しいことを表します。

上の A) と B) は、どちらも1981年から2016年までの平均気温を基準とした上昇気温を表していますが、A) は2011年から2016年の上昇気温を、B) は2015年から2016年までの上昇気温を表します。
どちらも温暖化が認められますが、A) と B) を比較すると、現在により近い2015年から2016年の間の B) の方が気温上昇が著しいことがわかります。

次に図10下の C) と D) は耕作地帯に限定した平均気温上昇を表しています。

これら2つも A) ・ B) 同様、どちらも1981年から2016年までの平均気温を基準とした気温上昇を表していて、C) は2011年から2016年の上昇気温を、D) は2015年から2016年までの上昇気温を表しています。

  1. A) ・ B) ・C) ・ D) を比較すると、 D) が一番、気温上昇が激しいことがわかります。つまり、世界の農業地帯は最近、温暖化が深刻度を増し、それが農作物の収穫に大きな影響を与えているのです。

次に降水量をみてみましょう。

図11  世界の降水量の変化
出典:FAO‘The State of Food Security and Nutrition in the World 2018’p.46

 

図11は世界の平均降水量の増加率(パーセンテージ)を表しています。青が濃くなるほど増加率が、茶色が濃くなるほど減少率が高いことを表します。

上の A) と B) は、どちらも1981年から2016年までの平均降水量を基準とした降水量の増加率を表していますが、A) は2011年から2016年の降水量増加率を、B) は2015年から2016年までの降水量増加率を表しています。
どちらも降水量が増加した地域と逆に減少した地域が認められますが、A) と B) を比較すると、 B) の方が増減率の割合が高く、近年、降水量が増加した地域と減少した地域の差異が大きく開きつつあることがわかります。

次に図11下の C) と D) は耕作地帯に限定した平均降水量の増加率を表しています。

これら2つも A) ・ B) 同様、どちらも1981年から2016年までの平均降水量を基準とした降水量の増加率を表していて、C) は2011年から2016年の降水量の増加率を、D) は2015年から2016年までの増加率を表しています。

  1. A) ・ B) ・C) ・ D) を比較すると、 D) が一番、増減率が高いことがわかります。つまり、世界の農業地帯は最近、降水量が極端に増加している地域と、反対に減少している地域の差異が激しくなり、二極化しているのです。

温暖化同様、こうした降水量の極端な変化が農作物の収穫に大きな影響を与えています。

 

これまでみてきたように、気候変動は農業に大きな影響を与えています。このような状況は今後も続くのでしょうか。

図12は、約100種類の魚類および無脊椎動物の最大漁獲可能量の世界分布変化を予測したもので、2001年-2010年を基準とした2051年-2060年の値を表しています。

図12 最大漁獲可能量の世界分布変化予測
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.23
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.9(A)’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/

 

図12を見ると、今後、気候変動の影響で海洋生物の分布が世界規模で変化すると予測されていることがわかります。IPCC第5次報告書では、このような大規模な分布変化にともない、影響を受けやすい地域においては漁業生産やそれらの供給が困難になると、高い確信度をもって予測されています 11)。

 

こうした食料生産への影響は農業においても予測されています。
次の図13は、作物収穫の変化予測を表しています。

図13  作物収穫量の変化予測
出典:環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」p.23
(‘IPCC AR5 SYR SPM Fig.SPM.9(B)’を環境省が加工)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/

 

図13の作物とは、大部分がコムギ、トウモロコシ、米、大豆です。
この図をみると、2010年-2019年の生産量に比べ、時間を経るほどに収穫量が減少すると予測されていることがわかります。

 

このように、農業は現在、非常に厳しい状況にあり、今後もさらに厳しい状況を迎えると予想されているのです。
現在、スローフードに注目しなければならない理由は、ここにあります。

 

環境運動としてのスローフード

以上のように、現在の食糧危機は地球環境と密接に関係しています。
したがって、食糧危機を乗り越えるためにも、地球環境を守ることは重要です。

ここで、先ほどお話ししたことを振り返ってみましょう。

スローフードのミッションのうち、現在、「生物多様性の保護」と「生産者と消費者をむすぶ活動」の重要度が増しているというお話をしました。
これから、以上の2つについて詳しくみていきたいと思います。

 

まず、「生物多様性の保護」は、希少農産物および生物を見直し、これらを「食遺産」として保護することが目標でした 2)。
FAOは、わたしたちの食糧と農業にとって極めて重要な生物多様性が減少しており、これからの食糧供給が困難な状況にあると報告しています 13)。

同報告書は、91カ国の報告と最新データの分析を基にして、多様性が減少しているのは、食糧に直接関わる生物だけではないと報告しています。生態系の営みを通じて、食糧生産を間接的に支える膨大な生物多様性、「関連生物多様性」も減少しているのです。

現在、食糧として栽培されている約6,000種の植物のうち、食糧として十分な収穫量が認められる200種に満たず、生物生産全体の約66%が、米、小麦、トウモロコシなど9種類の生物のみで構成されています。

また、畜産でも、食肉、乳、卵のほとんどが数種類の動物によるもので、全世界において1国にしかない畜産品種7,745種の26%が絶滅に瀕しています。

では、このような生物多様性が減少している要因はなんでしょうか。

同報告書は、その要因は土地と水の利用や管理の変化、汚染、乱獲、気象変動、都市化などにあるとしています。
そして、今後、こうした状況を改善するために、制度の改善や関係者間の連携、生物多様性に配慮した作物の市場拡大が必要だと述べています。また、食糧に直接関わる生物だけでなく、先ほどふれた「関連生物多様性」に関する知識を増やすことも大切であると述べています。

 

次に、もうひとつのミッション、 「生産者と消費者をむすぶ活動」は、具体的には、「環境に優しく、友好的な方法で、美味しい食品を作っている」生産者と消費者の出会いの場を提供することでした。
このミッションは持続可能な生産を推進することにつながることから、「環境」をキーワードとする運動につながっていきました 3)。

実は、現在の食糧生産はそれ自体が環境問題の要因にもなっています。
食糧の生産、加工、保存、輸送、消費、さらに廃棄のどの段階においても、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスが排出されているのです。

以下の図14は、おにぎりのカーボンフットプリントを表しています。
カーボンフットプリントとは、「材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して温室効果ガスの排出量をCO2に換算して」わかりやすく表示する仕組みです 12)。

図14  カーボンフットプリントの例
出典:農林水産省HP 東北大大学院農学研究科 複合生態フィールド教育研究センター 齋藤 雅典「食品を巡るカーボンフットプリント: その動向」
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/05/pdf/data1.pdf

 

図14をみると、生産、包装、炊飯、輸送、廃棄のそれぞれの段階で排出される温室効果ガスの総重量が79gであることがわかります。
さきほどお話ししたように、現在は食品生産が工業化され、生産過程と日常生活が切り離された結果、このような状況が生じているのです。

スローフードはこのような状況を変えるために、環境にやさしい持続可能な農業を促進し、そうした生産者と消費者を結ぶ活動を推進しています。

例えば、「先住民族テッラマードレ」がこれにあたります。この活動は、生態系のバランスを重視しながら持続可能な生活をしてきた先住民族の叡智に着目したものです。
この活動では、世界の先住民族が集合し、自然環境を守り、持続可能な生活を支える伝統農法、 技術、叡智を広く紹介しています 5)。

 

これまでみてきたように、「食」を中心にして世界を眺めると、「地球環境」がはっきり見えてきます。世界中の人々が飢えることなく健康な生活を営むためにも、わたしたちの未来を守るためにも、「地球環境」を守ることが大切です。

そのような観点からみると、スローフードは、「食」をとおして現在社会や地球環境のあり方を再考し、「食」を通じて問題解決を図ろうとする、大切な環境運動のひとつであるといえるでしょう。

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る
  1. 川手督也(2010)書評「スローフードインターナショナル監修『スローフード大全』、カルロ・ベトリーニ著『スローフードの軌跡―おいしい、きれい、ただしい―』 ―食と農と環境を守る国際的な市民運動としてのスローフード―」
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr/16/4/164452/_pdf
  2. 星敦士・本郷正武(2008)「スローフード運動における良心的支持者―誰が「食」のオルタナティブ運動を担っているのか―
    https://core.ac.uk/download/pdf/148077431.pdf
  3. 中村麻理(2009)日本におけるスローフード運動の展開―食育政策との相互作用に注目して―
    http://kakeiken.org/journal/jjrhe/83/083_03.pdf
  4. 農林水産省(2013)地域食文化活用マニュアル検討会「事例から考える地域食文化の活用 第1部事例編」
    http://www.maff.go.jp/j/study/syoku_vision/manual/pdf/txt2.pdf
  5. 一般社団法人日本スローフード協会HP(2017)「What is Slow Food?」
    https://docs.wixstatic.com/ugd/fee434_c9bd1aca763e4fa8a89ae2556038d98b.pdf
  6. 一般社団法人日本スローフード協会HP「日本全国のスローフードのコミュニティー」
    https://www.slowfood-nippon.jp/conviviums
  7. WFP HP「ハンガーマップ2018」
    http://ja.wfp.org/sites/default/files/ja/file/hungermap2018_0.pdf
  8. FAO‘The State of Food Security and Nutrition in the World 2018’
    http://www.fao.org/3/I9553EN/i9553en.pdf
  9. 外務省HP「仮訳 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
  10. 国際連合広報センターHP(2018)「SDGsのロゴ」  https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/
  11. 環境省HP(2015)「IPCC第5次評価報告書の概要―統合報告書―(2015年3月版)」
    https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_overview_presentation.pdf/
  12. 農林水産省HP 東北大大学院農学研究科 複合生態フィールド教育研究センター 齋藤 雅典「食品を巡るカーボンフットプリント: その動向」
    http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/05/pdf/data1.pdf
  13. FAO HP(2019) ‘The biodiversity that is crucial for our food and agriculture is disappearing by the day’
    http://www.fao.org/news/story/en/item/1180463/icode/
  14. 一般社団法人日本スローフード協会HP(2017)スローフード国際本部アジア局日本ディレクター伊江玲美「Slow Food Academy スローフードってなに?」(プレゼンテーション)
    https://docs.wixstatic.com/ugd/fee434_26144b2826384e2a8bbcd5dad3cec151.pdf
  15. FAO 「世界の食料不安の現状 2015年報告」
    http://www.fao.org/3/a-i4646o.pdf
  16. 環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性主流化室HP「みんなで学ぶ みんなで守る 生物多様性」「生物多様性とは」
    https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/about.html
  17. WFP HP「飢餓をゼロにするための5つの方法」
    https://ja1.wfp.org/zero-hun
  18. 農林水産省「食品循環資源の再生利用等実態調査(平成29年度)」  (3月29日公表)
    http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyunkan_sigen/attach/pdf/index-1.pdf
  19. 農林水産業HP「環境保全型農業関連情報」
    http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/

 

メルマガ登録