「食」を中心に眺めてみると… スローフードと地球環境

「食」を中心に眺めてみると… スローフードと地球環境

「食」はわたしたちが生きていくのに欠かせないものです。わたしたちの命を育む「食」。その「食」を中心にして眺めてみると、これまでとは違った世界が見えてくるかもしれません。そして、わたしたちの未来も…。

 

スローフードとは
「スローフード」の始まりとその時代背景

始まりは1986年、北イタリアの小さな町、ブラでした。

ある食事会でファーストフードが話題に上りました。当時、ローマの文化遺産の近くに大手ファストフード店が進出しようとしていて、イタリアではそのことに関する多くの議論がかわされていました。その食事会で、「自分たちは、スローフードでやっていこう」と言い出した人がいました。これが「スローフード」ということばの始まりと言われています 1)。

このように、スローフードは、ファーストフードと逆の発想から生まれたものです。ファーストフード普及の波に象徴される「食」のあり方は、生産過程を日常生活から切り離し、消費の場に市場原理を持ち込んで、合理性や効率性、経済性を徹底させるというものでした 2)。スローフードにコミットする人々は、そうした流れに疑問を呈し、食の画一化に対抗する手段として、地域に根ざした食文化とその多様性、そうした食べ物の生産者を守る活動の重要性を唱えました 3)。

イタリアでは、1950年代から70年代にかけて、国土の80%を占める中山間地の農村地域が過疎化し、深刻な状況にありました。そうした危機感から、農村文化の再興やイタリア食文化保護の機運が高まりをみせていました。また、それと同じころ、より人間らしい生活環境をもとめて、イタリアの農村部に、外国やイタリア都市部からの移住が相次ぎました。そうした「外部者からの目」による農村文化の再評価もスローフード活動を支える重要な役割を果たしました 4)。

スローフードのあゆみと世界的な広がり

では、スローフードのあゆみとはどのようなものでしょうか。

1986年にスローフード協会の前身である、食文化を守る会「アルチ・ゴーラ」が設立されました。これがスローフード運動の始まりだとされています。

こうして始まったスローフード運動は、草の根の社会運動として急速な広がりをみせていきます。

1989年、「アルチ・ゴーラ」は「スローフード協会」と名称を変え、フランスのパリで「スローフード宣言」を発表しました。これを機に、スローフードは本格的な国際運動を展開していきます 3)。

図1 スローフード協会のロゴ
出典:一般社団法人日本スローフード協会HP(2017)「What is Slow Food?」
https://docs.wixstatic.com/ugd/fee434_c9bd1aca763e4fa8a89ae2556038d98b.pdf

スローフード協会は、1990年に第1回国際スローフード大会を開催するとともに、スローフード出版局を設立します。

以下の図2は1986年から2004年までのスローフードの取り組みを農林水産省がまとめたものです。

図2 スローフード運動の流れ(2004年まで)
出典:農林水産省(2013)地域食文化活用マニュアル検討会「事例から考える地域食文化の活用第1部事例編」p.20
http://www.maff.go.jp/j/study/syoku_vision/manual/pdf/

図中の個々の取り組みについては、後ほど詳しく説明しますが、スローフードはこれ以降も毎年、新しい活動に取り組み、国際的なイベントにも参加し、活発な活動を続けています。

以上のように精力的な運動を推進してきた結果、イタリアに国際本部を持つスローフードインターナショナルは、2017年時点で、世界160カ国、100万人以上のネットワークを持つ世界規模の組織になっています。そして、国際連合やEU本部をはじめ、世界各国の行政機関への政策提言や行政と連携した事業展開などを行い、世界の農林水産行政や食文化に大きな影響を与えています 5)。

では、日本のスローフード運動はどのような状況なのでしょうか。

日本では、食のリスクに関わる問題が起き、食への関心が高まった2000年頃にスローフードが知られるようになりました。「産地直送」や「地産地消」が見直され、食の安全を守るためには、トレーサビリティーや生産者と消費者の間に「顔の見える関係」を構築することが大切だという社会的な認識が生まれたのもこの頃です。それはこれからお話しするスローフードの理念と一致するものでした。

2002年からは日本国内に「コンビビウム(Convivium)」(ラテン語で「饗宴」を意味する)と呼ばれるスローフードの世界支部ができるようになり、2004年にはじめての全国組織である「スローフードジャパン」が誕生しました 3)。また、2016年には「日本スローフード協会」が設立され、2019年5月時点で全国に24あるコンビビウムを統括し、日本におけるスローフード活動の運営を行っています 6)。