栄養価の高い「スーパーフード」ブームの裏にある環境問題とは? アボカド、アーモンドの生産を取り巻く現状

近年、美容や健康意識の高まりにより、栄養価の高い食品、いわゆるスーパーフードと呼ばれる食品の需要が高まっています。発祥であるアメリカ、カナダをはじめ、先進国を中心に「スーパーフード」ブームが起きており、日本でも数年前からメディアで多く取り上げられるようになりました。

需要の増加に対応するため、近年産地では生産量も増加しています。
しかしながら、あるスーパーフードは生産時に大量の水を使用するため、産地では水不足が起きるなど、ブームの裏では環境への悪影響が顕在化しつつあります。

「スーパーフード」ブームの裏でどのような問題が発生しているのでしょうか。また、食の持続可能な生産・消費に向けて、私たちができる選択とはどのようなものなのでしょうか。

スーパーフードとは?

日本スーパーフード協会では、栄養素を多く含む、健康に良い優良食品のことを「スーパーフード」と総称しており、栄養バランスに優れ、一般的な食品より栄養価が高い食品を指すとされています。

スーパーフードという言葉は、2004年にアメリカで出版されたスティーブン・プラットの著書『スーパーフード処方箋〜あなたの人生を変える14の食品』によって広まり、近年日本でも浸透しつつあります[*1]。

スーパーフードと評価されている食品

スーパーフードに厳密な基準はありませんが、スーパーフードという概念が生まれたアメリカで一般的にスーパーフードとして評価されているものとして、次のような食品が挙げられます(図1)。

図1: スーパーフード推奨品目
出典: 日本スーパーフード協会「スーパーフード推奨品目」
https://www.superfoods.or.jp/foods/

これらのスーパーフードの中で、日本スーパーフード協会が特に推奨している品目はプライマリースーパーフードと呼ばれます。スピルリナのような藻類やチアシードといった植物の実、ココナッツなど10品目がプライマリースーパーフードとして推奨されています。

また、アボカドやアーモンド、アセロラなどの食品もスーパーフードとして近年注目を集めています。

スーパーフードの市場動向

主に先進国を中心とした健康意識の高まりにより、スーパーフードの需要は急激に高まっています。

市場調査によれば、世界のスーパーフード市場は、2020年から2024年の間に年平均で17%成長するとされ、2024年には2,446億8,000万米ドルにまで達する見込みです[*2]。

また、日本においても、一般食品や外食・中食にチアシードやスピルリナなどスーパーフードを使った商品が増えており、国内でも市場規模は急激に拡大しています。実際、2018年の国内市場規模は400億円に達しており、スーパーフード活用の範囲が広がっているといえます[*3]。

「スーパーフード」ブームの背景にある問題

このように、急速に拡大を続けるスーパーフード市場ですが、ブームの裏で、産地における環境への悪影響や農家への人権侵害といった様々な問題が顕在化してきています。

そこで今回は、スーパーフードとして人気のアボカドとアーモンドの産地の現状を通じて、具体的にどのような問題がブームの背景にあるのか見ていきましょう。

世界的なアボカドブーム

ビタミンや食物繊維などを多く含み、健康や美容効果が高いアボカドは、2008年から2017年にかけて世界全体の生産量が3,439千トンから5,924千トンまで増加しており、近年人気が高まっているスーパーフードの一つです[*4]。

日本への輸入量も2016年には70,000トンを超え、愛媛県や和歌山県などでも栽培されるようになるなどアボカドブームは国内外で広がっています(図2)。

図2: アボカド輸入量の推移
出典: 日本アボカド生産者協会「アボカド統計情報」
https://japanavocadogrowers.com/%e3%82%a2%e3%83%9c%e3%82%ab%e3%83%89%e7%b5%b1%e8%a8%88%e6%83%85%e5%a0%b1/

世界一のアボカド生産国、メキシコ

世界的なブームとなっているアボカドですが、主にどこで生産されているのでしょうか。

アボカドは主に中南米諸国で生産され、特にメキシコは、2017年の世界全体の生産量5,924千トンのうち2,030千トンを生産する、世界一のアボカド生産国となっています[*4]。
日本で栽培する農家はまだ多くなく、どのように作られるか分からない方も多いかもしれませんが、アボカドは高木性の木からなり、暖かい気候で栽培される果樹です[*5]。

メキシコなど中南米では、山地の標高差等を利用して、一年中収穫できるような生産体制が確立されています。

図3: アボカド収穫の様子
出典: The CHRISTIAN SCIENCE MONITOR「Avocados shortage? US prices surge amid Mexican strike.」
https://www.csmonitor.com/Business/2016/1025/Avocados-shortage-US-prices-surge-amid-Mexican-strike

また、日本はメキシコのアボカドに深く関係しているといえます。なぜなら、2018年には日本国内全体のアボカド輸入量が74,096トンであったのに対し、メキシコからの輸出量は65,456トンと、メキシコのアボカドに大きく依存しているためです[*6]。

そのため、これから紹介する産地で起きている問題について、日本も他人事ではないといえます。

アボカド産地で生じている環境問題

メキシコなど中南米の国々では、アボカドブームにより経済的な恩恵を大きく受けています。
しかしその一方で、アボカドは生産から廃棄までを通じて大量に水を使用するため、現地では水不足問題が生じています。

例えば、モノやサービスが生産され、廃棄されるまでに使用される水の量を表すための指標として「ウォーター・フットプリント」という考え方が一般的に使われていますが、アボカドのウォーター・フットプリントは1キログラムあたり約2,000リットル近くになるとされています[*7]。

野菜と果物の平均的なウォーター・フットプリントがそれぞれ1キログラムあたり322リットル、967リットルとされるため、それらと比較すると大量の水を使用しているといえます[*8]。
実際、アボカドの生産大国の一つであるチリのペトルカ県では、1ヘクタール当たりのアボカド畑に1日当たり10万リットルの水を引かなくてはならず、地下水や川が枯渇してしまい、現在では近隣の村からの給水トラックに頼るほど、慢性的な水不足に見舞われています[*7]。

また、ブームが続くことで今後もさらに生産量が増加すると、アボカド生産に専念する農園が増え、アボカドの単一栽培が進み、土壌の機能が弱まり劣化が進むことが懸念されています。単一栽培の進んだ土壌で栽培するアボカドは病気になりやすくなってしまうため、殺虫剤や肥料を多く使用しなければならず、公害や健康被害、生態系の破壊などの危険も孕みます[*9]。

さらに、アボカド需要の急激な高まりを受けて、メキシコ国内では農地開拓のために過度な森林伐採が行われています。

例えば、ミチョアカン州では森林伐採によって開かれた農地でのアボカド栽培が、州内のアボカド栽培全体の30~40%を占めているとされています[*10]。これは、年間6,000~8,000ヘクタールの森林伐採に相当するとされ、このままでは森林資源の枯渇につながりかねません。

また、メキシコではギャングによるアボカド農家への利益収奪やアボカドの強奪が増え、それにともない護衛と称してお金を巻き上げるなどのトラブルも顕在化しています[*11]。

アーモンド栽培の現状と問題

生活習慣病の予防効果が期待され、血行を良くする働きがあるとされるビタミンEが多いアーモンドも注目を浴びるスーパーフードの一つですが、アボカド同様、背景には産地での環境問題が顕在化しています[*12]。

世界で需要拡大するアーモンド

そもそも、アーモンドはどこで生産されているのでしょうか。

2019年には世界全体で300万トンを超える収穫量があったとされますが、その生産量の半数以上はアメリカで生産されました。次いで、スペイン、イラン、トルコと続き、欧米や中東、北アフリカで多く生産されています[*13]。

図4: アーモンド生産量推移
出典: Oregon Cherry Growers「アーモンド」
https://oregoncherry.jp/statistics-almonds.html

世界トップの生産量を誇るアメリカですが、およそ65%はカリフォルニア州で生産されています。作付面積は2019年で1,180,000エーカーとなっており、年々拡大傾向にあります[*13]。

アーモンド産地で生じている環境問題

世界のアーモンドの大部分が生産されるカリフォルニア州ですが、干ばつなど環境問題も深刻化しています。

例えば、アーモンドを作るためには、アボカド同様に多くの水が必要になります。具体的には、アーモンド1粒あたり約4.16リットル必要とされ、1粒1グラムとすると、1キログラムあたり4,160リットル必要になります[*15]。

カリフォルニアのアーモンド栽培には地下水が大量に使用されるため、それによって地盤沈下が生じていることも指摘されています。実際、アーモンド農園が集中するサンホアキン・バレーでは、毎年平均約11インチ地盤沈下していたことが報告されています[*15]。

また、カリフォルニア州は降水量が少なく乾燥した地域であるため、近年は水不足に悩まされています[*16]。壊滅的な干ばつと州当局からの水供給の制限で、まだ寿命を迎えていない木の廃棄を余儀なくされる農園も少なくありません(図6)。

図5: 水不足によって木の廃棄を余儀なくされた農園
出典: AFPBB News「米カリフォルニア州のアーモンド農園、干ばつと給水制限で収穫前に根こそぎ廃棄」
https://www.afpbb.com/articles/-/3360611

「スーパーフード」ブームと、アーモンドミルクなど、動物性食品の代替となる製品の需要が高まる反面で、現地では更なる水不足が助長されるという悪循環に陥ってしまっています。環境に負荷をかけない水資源の確保が求められます。

食から持続可能な社会を考える

ここまで、アボカドやアーモンドのような「スーパーフード」ブームの裏で、深刻な水不足や森林伐採といった環境問題が引き起こされている事態を紹介してきました。

もちろん、スーパーフードだから問題が起きているというわけではなく、スーパーフード自体が悪ということではありません。

しかしながら、健康によくても、スーパーフードの過度な生産は環境に悪影響を与えてしまうことがあります。持続可能な食の生産・消費に向けて、私たち一人ひとりが環境に配慮した食品選びをすることが大切です。

また、環境のみならず、人や社会、地域、動物などに配慮したエシカルフードや、フェアトレード商品を選ぶということも重要になります。
地産地消の観点から国産品を進んで購入すれば、輸入にかかる環境負荷を低減できるほか、地元の生産者の支援や地域活性化にもつながります。

アボカドの場合、近年では、和歌山県や愛媛県、鹿児島県で生産量が増加しており、国内で消費しやすい環境が整いつつあります[*17]。

一方で、生産・販売者側の取り組みとしては、国際認証であるGAP認証(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理の取得。農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組みのこと)の取得や、認証取得自体がコスト等の問題があり難しくとも、自社ホームページやSNSなどを活用して生産背景の情報公開を行うなど、消費者に向けた取り組みが求められます[*18]。

こうした生産者と消費者の双方の意識が、豊かな自然を守りつつ享受できる、持続可能な食および社会の実現につながっていくことでしょう。

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参照・引用を見る

*1
日本スーパーフード協会「スーパーフードとは」
https://www.superfoods.or.jp/%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%A8%E3%81%AF-2/

 

*2
グローバルインフォメーション「スーパーフードの世界市場:2020年~2024年」
https://www.gii.co.jp/report/infi601401-global-superfoods-market.html

 

*3
健康産業新聞「【特集】スーパーフード最前線―市場規模400億円に拡大」
https://www.kenko-media.com/health_idst/archives/11671

 

*4
中央果実協会「世界の主要果実の生産概況 2018年版」
https://www.japanfruit.jp/Portals/0/resources/JFF/kaigai/jyoho/jyoho-pdf/KKNJ_138.pdf, p.3, p.23

 

*5
NHK出版「アボカドの育て方・栽培方法」
https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-943/target_tab-2

 

*6
日本アボカド生産者協会「アボカド輸入状況(2018)」
https://japanavocadogrowers.com/%e3%82%a2%e3%83%9c%e3%82%ab%e3%83%89%e8%bc%b8%e5%85%a5%e7%8a%b6%e6%b3%81%ef%bc%882018%ef%bc%89/

 

*7
ウォーターエイドジャパン「隠れた水― Beneath the Surface」
https://www.wateraid.org/jp/sites/g/files/jkxoof266/files/2019beneath-the-surface.pdf, p.9

*8
UNESCO-IHE Institute for Water Education「THE GREEN, BLUE AND GREY WATER FOOTPRINT OF CROPS AND DERIVED CROP PRODUCTS VOLUME 1: MAIN REPORT」
https://waterfootprint.org/media/downloads/Report47-WaterFootprintCrops-Vol1.pdf, p.16

 

*9
Green Matters「Lean, Mean, but Not so Green: How Avocados Impact the Environment」
https://www.greenmatters.com/p/avocado-environmental-impact

 

*10
BORGEN Magazine「“Green Gold”: Sustainable Avocado Farming in Mexico」
https://www.borgenmagazine.com/sustainable-avocado-farming-in-mexico/

 

*11
六辻彰二「アボカドは『悪魔の果実』か?――ブームがもたらす環境破壊と難民危機」
https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20210621-00243982

 

*12
BLUE DIAMOND GROWERS「アーモンドの栄養素」
https://www.bdalmonds.com/about/elementary/nutritional/

 

*13
Oregon Cherry Growers「アーモンド」
https://oregoncherry.jp/statistics-almonds.html

 

*14
カリフォルニア・アーモンド協会「カリフォルニア・アーモンド」
https://www.almonds.com/sites/default/files/japenese_tech_kit.pdf, p.2

 

*15
Mother Jones「Your Almond Habit Is Sucking California Dry」
https://www.motherjones.com/food/2014/07/your-almond-habit-sucking-califoirnia-dry/

 

*16
AFPBB News「米カリフォルニア州のアーモンド農園、干ばつと給水制限で収穫前に根こそぎ廃棄」
https://www.afpbb.com/articles/-/3360611

 

*17
日本アボカド生産者協会「アボカド国内生産状況(2018)」
https://japanavocadogrowers.com/%e3%82%a2%e3%83%9c%e3%82%ab%e3%83%89%e5%9b%bd%e5%86%85%e7%94%9f%e7%94%a3%e7%8a%b6%e6%b3%81%ef%bc%882018%ef%bc%89/

 

*18
農林水産省「農業生産工程管理(GAP)とは」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/g_summary/index.html

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