二酸化炭素の回収・貯蔵の重要性と活動状況

2015年12月にパリ協定が採択され、「世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持する。1.5℃に抑える努力を追求」することが決まりました。しかしながら、2018年のIPCC第48回総会にて、各国が提出した目標による2030年の二酸化炭素排出量では、1.5℃に抑制することが困難であることが明らかになりました。つまり、二酸化炭素排出量削減だけでなく、排出した二酸化炭素の回収・貯蔵が必要であることが示唆されました。(*1)

そこで、各国で二酸化炭素の回収・貯蔵の技術開発と普及に向けての活動が推進されています。さらに経済的側面から、回収した二酸化炭素を有効利用する技術も重要です。これらの技術を社会に普及するための環境整備(法整備等)も進められています。

※以降、二酸化炭素をCO2と表記します。

CO2の回収・貯蔵とは

CO2の回収・貯蔵とは、「火力発電所などの人為的排出源から排出されるCO2(Carbon dioxide)を分離・回収(Capture)し、地下へ貯蔵する技術(Strage)する技術」です。略してCCSと呼ばれます。(以下、CCSと呼びます)。

CO2の削減が叫ばれる今でも、経済性や安定供給、電力需要の急増など様々な理由から多くの国で引き続き化石燃料の利用は避けられないと考えられています。そのため、排出量そのものの削減に並行して、CO2を大気中に放出しないCCSの関連技術を確立する必要があります。

回収したCO2を貯蔵するだけでなく、有効利用(Utilization)する動きと合わせてCCUSとも呼ばれます。本記事ではCCSの呼称で統一します。

出典:環境省:CCUSの早期社会実装会議 ~実証事業の到達点と今後の道筋~環境省のCCUS事業の概要
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/1-2_MOE_CCUS_gaiyo.pdf

なお、IEA報告(2013年)では、2030年に約20億トン/年、2050年に約80億トン/年のCCS実施が必要とされています。(*2)

日本国内では、2020年頃のCCS商用化実現を目指し、CCS技術の実用化を目指した研究開発が行われています。またCO2の貯蔵適地調査にも取り組んでいます。(*2)

次の章ではCCSの関連技術について説明します。

CO2分離回収技術

例として、火力発電に適用できるCO2分離回収技術を説明します。

①   燃焼後回収方式

ボイラで燃料と空気を燃焼後、ボイラから排出されるガスからCO2を分離します。プロセスそのものは化学プラントで確立しています。新設設備に限らず、既存設備にも適用可能です。しかしながら、分離回収設備が大型化し、稼働コストが大きい課題があります。

出典:東芝:環境配慮型CCS実証実験 CO2分離回収について
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-3_CCUS_capture.pdf

②   酸素燃焼方式

ボイラで燃料を燃焼させる際、空気から分離した酸素を供給します。空気中の窒素を事前に分離するため、ボイラから排出されるガスからCO2を分離する際に窒素を処理する必要がありません。よってCO2分離装置を小型化できます。しかしながら、空気から酸素を分離する装置、及び稼働エネルギーが必要となります。

出典:東芝:環境配慮型CCS実証実験 CO2分離回収について
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-3_CCUS_capture.pdf

③   燃焼前回収方式

IGCC(石炭ガス化複合発電)/ガス化プラントに限定される技術です。まず、燃料と空気から分離した酸素をガス化炉に送り込み、CO2/CO/H2O/H2の混合ガスを生成します。混合ガスに対してCO2分離等を行い、最終的にガスタービンにH2を送り込みます。CO2分離機装置を小型化でき、分離時に必要なエネルギー面でも有利な方式です。

出典:東芝:環境配慮型CCS実証実験 CO2分離回収について
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-3_CCUS_capture.pdf

CO2輸送技術

分離回収したCO2を貯蔵場所へ輸送する方法として、陸上パイプライン、海底パイプライン、船舶輸送等が考えられます。日本国内の場合、火力発電所のような大規模CO2排出源は全国に広く存在し、かつ臨海部に多い特徴があります。また、陸域より海域の方がCO2を貯蔵できるポテンシャルが大きいこともあり、船舶輸送技術の確立を中心に進められています。その際、CO2の液化による輸送効率向上も検討されています。

出典:日揮他:環境配慮型CCS実証事業 輸送技術について
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-2_CCUS_transport.pdf

CO2貯蔵技術

CO2の地中(海底)貯蔵において、石油・天然ガス生産で有する技術をベースに開発が進められています。具体的には、CO2圧入による原油生産の実績を転用できると考えられています。

出典:IPCC Report
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/03/srccs_wholereport-1.pdf

日本での貯蔵可能量は約1460~2360億トンで、2017年のCO2排出量(11.9億トン)で算出すると約100~200年分となります。これは推定値であり、確実に貯蔵できる量を調査していく必要があります。調査項目は、貯蔵性能、圧入性能、遮蔽性能、海防法対応、漁業への影響等、多岐にわたります。(*7)

出典:三菱マテリアル他: 環境配慮型CCS実証事業 貯留技術について
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-1_CCUS_storage.pdf

モニタリング技術

CO2の貯蔵場所において、圧入と同時に、漏洩を検知する技術、及び、漏洩が確認された場合の修復技術の確立も進められています。CO2を圧入する圧入井とは別に、観測を目的とした観測井の設置や、自走式センサーによるモニタリングが検討されています。(*7)

出典:三菱マテリアル他: 環境配慮型CCS実証事業 貯留技術について
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-1_CCUS_storage.pdf

国内でのCCS活動状況

2016年に地球温暖化対策計画を閣議決定しており、「温室効果ガスを2030年度に2013年度比で26%削減する」ことを表明しています。CCSに関する法整備としては、2007年に海防法(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律)が改訂され、CO2の海底下廃棄が環境大臣の許可制となりました。(*3)

CO2の回収・貯蔵技術の実用化のため、苫小牧で大規模な実証実験が行われています。

具体的には製油所の排ガスから回収したCO2を約10万トン/年規模で、地中に貯蔵する技術を実証中です。同時にCO2の挙動を長期にわたって予測するシミュレーション技術やモニタリング技術の実証も行っています。(*2)

また、環境省と経産省が連携し、1億トン以上のCO2貯蔵可能な地点を2021年度までに3地点程度選定する予定で調査が進められています。(*2)

 

なお、貯蔵場所の決定に関しては近隣住民の合意が必要となります。よって、CCSに関する社会的合意形成が実用化に向けての鍵となります。例えば日本国内の場合、日本の国内沿岸のほとんどで漁業権が設定されています。そのため沿岸でCCS事業を行う場合は、漁業者や漁業共同組合との交渉が必要になる可能性が高いと考えられます。(*3)

国外でのCCS活動状況

国外の主だった大規模プロジェクトを示します。多くが天然ガス精製に伴うCO2を回収し、油層に圧入するタイプ(EOR)です。日本では主に海域での貯蔵が想定されており、ノルウェーのプロジェクトが参考になります。

※1) 7年間運転し、2011年に圧入を中止、今後の方針は見直し中
※2)  PL=パイプライン
出典:「環境省:我が国におけるCCS事業について」より作成
https://www.env.go.jp/council/06earth/y0618-17/ref01.pdf

平成29年2月に環境省より「国内外のCCS Readyに関する取組状況等について」が公表されました。国外のCCS活動状況として、英国、ドイツ、米国のCCS活動が紹介されていますので、ここで概要を説明します。

英国

気候変動対策として「2050年までに最低80%の温室効果ガス削減(1990年比)」を公約としています。CCSに関する法整備も進んでおり、CCS許認可制度とCCS Ready制度の整備がほぼ完了しています。この中で、CO2に対する責任は閉鎖後20年間の監視後に、事業者から政府に移転できるとされています。

2006年に貿易産業省(DTI)が発表したCO2貯蔵調査結果によれば、北海沖の最大140トン、沖油田・ガス田を含めると200億トン以上の貯蔵容量があることが分かっています。

出典:環境省「国内外のCCS Readyに関する取組状況等について」
https://www.env.go.jp/press/files/jp/105492.pdf

稼働中の大規模なCCSプロジェクトは2件あります。発電所からCO2を回収するプロジェクトと、CCS設備が整った工業地帯を創設するプロジェクトで、共に2020年代には操業開始予定です。

出典:環境省「国内外のCCS Readyに関する取組状況等について」
https://www.env.go.jp/press/files/jp/105492.pdf

ドイツ

気候変動対策として「2050年までに80~95%の温室効果ガス削減(1990年比)」を公約にしています。法整備に関しては、CCSの実証・研究事業のみ対象の「CCS Act」が2012年に成立しました。CCS事業者の責任について、CO2の挙動が事前の予測と乖離していないこと、CO2の漏洩なきこと等の条件により、CO2貯蔵井閉鎖から最低40年が経過した後に、政府に移管されることになっています。

連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)により、CO2貯蔵容量調査が行われました。2010の調査では、陸域及びドイツ領北海に63~128億トン(90~10%の確度)、又は93億トン(50%の確度)の貯蔵容量があると推定されています。また枯渇ガス田にも2750億トンの容量があると試算されています。

米国

気候変動対策として「2025年までに26~28%の温室効果ガス削減(2005年比)目標」を示しています。法整備に関しては、CO2の分離・回収、輸送、貯蔵を包括的に規定した法制度は整備されていません。しかし、貯蔵に関して、廃棄部の地中処分に係る井戸の許認可制度を規定する法律が2010年に改訂され、主に陸域でのCO2圧入井の建設が許可制の元で実施可能となりました。また、事業者の管理期間を圧入停止後、原則最低50年と定めています。なお、独自のCCS関連法を整備している州もあります。

米国地質調査が2012年に完了したCO2貯蔵量調査では、3兆トンの貯蔵容量があると予測されています。メキシコ湾に連なる平野部(Coastal Plains )の容量が最も多いと評価されており、中でも海岸域に面した地域の容量が国全体の59%に及ぶとされています。

出典:環境省「国内外のCCS Readyに関する取組状況等について」
https://www.env.go.jp/press/files/jp/105492.pdf

CCSに関連した取り組み

CCSを円滑に導入するため、「CCS Ready」と呼ばれる取組みも同時に進められています。また、CCS普及の経済的側面のアシストとして、回収したCO2の有効利用の技術開発も重要です。

CCS Readyとは

CCSに関する技術が確立した時点で円滑にCCSを導入するため、CO2回収設備等に必要な用地の確保や採用する技術に応じた準備を予め行っておくことが有効です。これを「CCS Ready」と呼びます。CCSの技術開発と合わせて、CCS Readyの制度構築もいくつかの国で進められています。CCS関連プロジェクトの最新動向、及び事業や地域の特性に応じて、CCS Readyに求められる内容を整理していく必要があります。

日本でも、2014年に閣議決定されたエネルギー基本計画において、「2020年頃の二酸化炭素回収貯留(CCS)技術の実用化を目指した研究開発や、CCSの商用化の目途等も考慮しつつできるだけ早期のCCS Ready導入に向けた検討を行うなど、環境負荷に一層の低減に配慮した石炭火力発電の導入を進める」ことが明示されました。(*3)

回収したCO2の有効利用

先に簡単に触れましたが、CCSに関する技術開発の他、回収したCO2から燃料や化学原料を生産する技術開発も進められています。ここではCO2有効利用の開発事例を紹介します。(*4)

①メタン製造技術

廃棄物焼却施設の排ガス中のCO2を原料として、水素と反応させてメタンを製造する技術です。日立造船株式会社が代表のプロジェクトで、2018~2022年度の期間で開発が進められています。

出典:日立造船:日立造船株式会社におけるCCU事業の取組
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-4_1_CCUS_Utilization_Hitz.pdf

②エタノール製造技術

廃棄物焼却施設の排ガス中のCO2を原料として、廃熱、触媒、水素を利用しエタノールを製造する技術です。積水化学工業株式会社が代表のプロジェクトで、2018~2022年度の期間で開発が進められています。

出典:積水化学工業: CO2資源化への取り組み~ごみ焼却CO2の資源化~」
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-4_2_CCUS_Utilization_SEKISUI.pdf

③一酸化炭素と水素の混合ガス製造技術

排ガス中のCO2と水を原料として、太陽電池発電による電力を利用して一酸化炭素と水素の混合ガスを製造する技術です。株式会社豊田中央研究所が代表のプロジェクトで、2018~2020年度の期間で開発が進められています。

出典:環境省:CCUSの早期社会実装会議 ~実証事業の到達点と今後の道筋~環境省のCCUS事業の概要
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/1-2_MOE_CCUS_gaiyo.pdf

④メタノール製造技術

排ガス中のCO2を回収し、人工光合成技術を利用してメタノールを製造する技術です。株式会社東芝が代表のプロジェクトで、2018~2022年度の期間で開発が進められています。

出典:環境省:CCUSの早期社会実装会議 ~実証事業の到達点と今後の道筋~環境省のCCUS事業の概要
http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/1-2_MOE_CCUS_gaiyo.pdf

今後のCCS活動について

これまで説明した通り、CCSに関連する技術開発(分離・回収、輸送、貯蔵、有効利用)が主な国々で進められています。地震発生のリスクを考慮すると、CO2漏洩のモニタリングと漏洩時の修復手法確立も重要です(*8)。これらの技術を確立し、社会に円滑に普及させるためには、CCS Ready等の推進や法整備の充実などの環境整備も急がれます。

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参照・引用を見る
  1. 環境省:CCUSの早期社会実装会議 ~実証事業の到達点と今後の道筋~環境省のCCUS事業の概要
    http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/1-2_MOE_CCUS_gaiyo.pdf
  2. 環境省:我が国におけるCCS事業について
    https://www.env.go.jp/council/06earth/y0618-17/ref01.pdf
  3. 環境省:「国内外のCCS Readyに関する取組状況等について」の公表について
    https://www.env.go.jp/press/103678.html
    「国内外のCCS Readyに関する取組状況等について」
    https://www.env.go.jp/press/files/jp/105492.pdf
  4. 環境省:環境省CCUS事業の概要
    http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/1-2_MOE_CCUS_gaiyo.pdf
  5. 東芝:環境配慮型CCS実証実験 CO2分離回収について
    http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-3_CCUS_capture.pdf
  6. 日揮他:環境配慮型CCS実証事業 輸送技術について
    http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-2_CCUS_transport.pdf
  7. 三菱マテリアル他: 環境配慮型CCS実証事業 貯留技術について
    http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-2_CCUS_transport.pdf
  8. 日本CCS調査: 北海道胆振東部地震のCO2貯留層への影響等に関する検討報告書について
    https://www.japanccs.com/news/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E8%83%86%E6%8C%AF%E6%9D%B1%E9%83%A8%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%AEco2%E8%B2%AF%E7%95%99%E5%B1%A4%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E7%AD%89%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99-6/
  9. IPCC Report
    https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/03/srccs_wholereport-1.pdf
  10. 積水化学工業: CO2資源化への取り組み~ごみ焼却CO2の資源化~」
    http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-4_2_CCUS_Utilization_SEKISUI.pdf
  11. 日立造船:日立造船株式会社におけるCCU事業の取組
    http://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-kaigi/2-4_1_CCUS_Utilization_Hitz.pdf

 

 

 

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