環境保全・減災・雇用創出を一手に担う「自伐型林業」への期待

環境保全・減災・雇用創出を一手に担う「自伐型林業」への期待

国土の3分の1を占める日本の森林は、かつては木材や栽培きのこの生産場所として日本の経済成長を支えてきました。

しかし現在、木材は単価、生産額ともに大幅に下落しています。また、林業の担い手が減少・高齢化していることもあって、多くの森林が管理放棄され、荒廃しています。

森林の持つ役割は環境保全だけにとどまりません。
そこで、林業の維持など多数の問題を解決する新たな手段として、「自伐型林業」への期待が高まっています。

森林の役割と日本の林業

森林の果たす役割は、景観の保持や大気中のCO2吸収だけではありません。

多様な生態系の維持、また、雨水を蓄えて河川の水量を調整する役割や、土砂の流出を防ぐといった防災・減災にも関係しているのです。

日本の森林面積と林業

日本は、その国土の3分の1を森林に覆われています。また、その多くは私有林です(図1)。


図1 森林面積と内訳(出典:「林業労働力の確保を巡る状況」林野庁資料)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000185117.pdf p1

森林資源は、主に木材と栽培きのこ類とがありますが、そのうち木材については、昭和55年に価格のピークを迎えた後、木材需要の減少や、海外から輸入された木材との価格競争によって、単価が大幅に下落しています(図2)。

図2 木材価格の推移(出典:「林業労働力の確保を巡る状況」林野庁資料)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000185117.pdf p2

ピークの昭和55年に比べると、平成28年ではヒノキは約4分の1、スギやカラマツは約3分の1の価格にまで落ち込んでいます。

国内の森林保有者は、その9割が所有面積10ha未満と小規模な個人*1であるため、採算性の悪さを背景に林業従事者は減少し続け、高齢化も進んでいます(図3)。

図3 林業従事者数の推移(出典:林野庁HP)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/koyou/01.html

また、日本の森林の約4割は戦後以降に植樹が始まった人工林です*2。人工林は特に、定期的に人の手で枝打ちや間伐などの手入れをする必要があります。

樹木が健全に育ち、しっかりと根を張ることで山は土砂災害にも強くなっていきます。また、人が手を入れることで日光が通りやすくなり、山に住む動物の食糧となる地表近くの植物が育つのです。

林業従事者はこうした役割も担ってきましたが、現在では管理放棄状態にある森林が増え、各地で問題を引き起こしています。

山に住めなくなった動物が人里に姿を現すのも、森林の荒廃がひとつの原因です。

また、戦後に植えられたスギやヒノキが、木材として利用できる樹齢に達していながらも伐採されることなく過密になり、大量の花粉を出している状態です。

「皆伐」と「自伐型林業」

これまで国が推進してきたのが、広い面積で山肌を丸ごと伐採する「皆伐」です(図4)。
皆伐で木材を伐採した山肌に再び植樹(更新)し、その場所に苗木を植えて再造林するという方法です。人工林の木は、植栽から55年ほどで木材としての本格的な利用期を迎えます。


図4 人工林の皆伐イメージ(出典:「森づくりの理念と森林施業」林野庁)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/ken_sidou/forester/attach/pdf/index-87.pdf p22

皆伐が林業の主軸となっているのは、短期的に生産量を上げることに重点が置かれていたからです。

しかし、皆伐での木材生産は大型の重機や多くの人員が必要になり、個人の森林保有者は業者などに依頼せざるを得ませんでした。

それが木材需要の減少により、こうしたコストに耐えきれなくなったのも、森林を放棄する所有者が増えていった大きな理由です。

また、皆伐と土砂災害の関連性を指摘する声もあります。

皆伐された山肌はしばらくすると、しっかりとした木の根がない状態になり、保水効果が大幅に失われるためです。
また、伐採のために切り開いた大きな作業道から土砂の流出が見られた、との指摘もあります。

そこでここ数年注目されるようになったのが、「自伐型林業」です。

自伐型林業とは、森林の所有者や地域の住民が自ら山に入って木を切り出す、というものです。山に大きな負担をかけず、むしろ森林を健全な状態に維持しながら木材の出荷を継続できます。

図5 自伐型林業の作業イメージ(出典:福岡県)
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/384391_54374619_misc.pdf p22

また、自伐型林業は「コンパクト」なのが最大の特徴です(図5)。

軽トラック程度の作業道を小さな重機で作れば良く、比較的少ない初期投資で済むため、個人での参入のハードルも低くなっています。

また、作業道が細いため、土砂災害の防止にも繋がります。

自伐型林業による新しい働き方

自伐型林業のもうひとつの特徴は、毎日切り出しの必要があるわけではないので、兼業にも向いていることです。

自伐型林業の就労パターン

福岡県では、自伐型林業の推進のために、いくつかの具体的な兼業モデルを提案しています。

そのうちのひとつが、露地ナスの栽培との兼業です。

主に冬季に林業を行い、作業量のほとんどない夏はナスの栽培に専念するという働き方で(図6)、この場合、家族2人の作業で年間の総労働時間は3,521時間、総所得は435万円、時給換算で1,236円と試算されています*3。

図6 露地ナスと兼業の場合の年間労働時間例(出典:福岡県)
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/384391_54374619_misc.pdf p24

他にはタケノコやキウイなど他の作物との兼業も事例として紹介しており、福岡県では各種研修や補助金制度を設けています。

森林集約で雇用創出へ

また、町の7割が森林を占める高知県佐川町では、行政が自伐型林業に乗り出しています。

自伐型農業を始めるにあたっての課題として、相続登記ができていなかったり、地主が町外にいたりする森林が多いということがありました。

そこで行政の力で相続人も含めた所有者を調べ、「個人で管理できなくなった森林は町が責任を持って管理する」という方針の元、所有者から承認を得て自伐型林業に乗り出しています(図7)。

図7 佐用町の山林管理イメージ(出典:「林野 2017年8月号」林野庁)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/kouhousitu/jouhoushi/attach/pdf/2908-9.pdf p13

また、目的は森林の保全だけではありません。


図8 佐川町の自伐型林業に期待される効果(出典:「地域発イノベーションを促進する国土づくりのあり方の検討の方向性」国土交通省資料)
http://www.mlit.go.jp/common/001275943.pdf

木材の搬出コストを下げ、より多くの雇用に繋げるために、高性能機械の導入に頼らない森林管理を始めているほか、移住、定住による林業の担い手の確保にも乗り出し、多くの効果が期待されています(図8)。

もちろん、山肌を大きく傷つけない自伐型林業の導入は、防災や減災に繋がるメリットもあります。

世界の森林の状況

世界では、人口増加などの影響で森林面積は減少しています。

FAO(国連食糧農業機関)の「世界森林資源評価(FRA=Global Forest Resources Assessment)」によると、1900年には41.28億haだった世界の森林面積は、2015年には39.99億ha、森林率では31.6%から30.6%になっています(図9)。


図9 世界の森林面積の推移(出典:「FRA2015の概要」林野庁)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/attach/pdf/index-2.pdf p2

森林の減少は主に、人口増加で木材製品の需要や薪としての木材需要が増えたことと、農地や居住用などの土地の需要が増加したことによります。

しかし一方で生物多様性や水土保全を目的に管理されている森林の面積が増えたことにより、近年では森林面積の減少度合いは横ばいになっています。

認証制度による持続可能な森林経営

地球規模で見たときにも、森林の保全は地球環境に密接に関わるものとして重要視され、全世界で取り組むべき課題になっています。

そのうちのひとつが、「森林認証制度」です。

持続可能な経営を続けている森林を自発的に増やすために、国際基準で認証を受けた森林からの木材製品の取引を促進するというもので、1900年代後半に導入されました。

FSCあるいはPEFAというプログラムで認証を受けた森林は2000年には1,400万haでしたが、そこから急増し、2014年には4億3,800万haにまで広がっています(図10)。


図10 森林認証面積の推移((出典:「FRA2015の概要」林野庁)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/attach/pdf/index-2.pdf p7

この動きは今後も拡大すると考えられますが、そのためには森林認証制度に対する認知が世界で広がっていく必要があります。

森林の幅広い恩恵を失わないために

森林からもたらされる恩恵には、CO2の吸収といった温暖化に関わるものだけではなく、生物多様性の保護、木材や観光を通じた経済発展、雇用創出といった様々なものがあります。

また、森林に雨水が浸透し濾過されることで、きれいな水の確保にも繋がっているのです。

経済成長と森林の保護のバランスは、世界規模での調整が必要とも言えます。

持続可能な森林経営の広がりについて、今後も注目したいところです。

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参照・引用を見る

図1、2 「森林労働力の確保を巡る状況」(林野庁、2017年)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000185117.pdf p1、p2

図3 林業従事者数の推移(林野庁HP)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/koyou/01.html

図4 森林総合管理士基本テキスト 2019年度版(林野庁)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/ken_sidou/forester/attach/pdf/index-87.pdf p22

図5、6 「自伐型林業の手引き」(ふくおか自伐型林業経営研究会、2019年)
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/384391_54374619_misc.pdf p22、p24

図7 林野庁情報誌「林野 」2017年8月号
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/kouhousitu/jouhoushi/attach/pdf/2908-9.pdf p13、p12

図8 「地域発イノベーションを促進する国土づくりのあり方の検討の方向性」(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001275943.pdf

図9、10 「世界森林資源評価(FRA)2015 概要」林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/attach/pdf/index-2.pdf p2、p7

参考1、2 「森林労働力の確保を巡る状況」(林野庁、2017年)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000185117.pdf p3、p1

参考3 「自伐型林業の手引き」(ふくおか自伐型林業経営研究会、2019年)
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/384391_54374619_misc.pdf p23

 

Photo by Ed van duijn on Unsplash