幻の食材となっていく海産物 その資源を守り持続可能な漁業を未来に繋ぐ取り組みとは

幻の食材となっていく海産物 その資源を守り持続可能な漁業を未来に繋ぐ取り組みとは

昔はよく食べていたのに、近頃ではスーパーでも見なくなった食材はないでしょうか。昔に比べて価格が高く、手を出せなくなった食材もあると思います。

そんな、幻となった、または幻となりつつある食材があります。それは、海産物で特に顕著であり、その原因に過剰な魚介類の漁獲があります。激減していく水産資源を守ろうと、持続可能な形で漁業に取り組んでいく試みも始まっていますが、今のところ道半ばです。

地球温暖化に伴う海水温上昇や海洋の酸性化、マイクロプラスチックによる海洋汚染などといった未来の水産資源のリスクとなる問題もあります。

では自然の恵みである水産資源は、どのようにすれば守っていけるのでしょうか。

 

幻となった食材、幻となる食材~乱獲による生態系の破壊~

四方を海に囲まれた日本は、古来から食料として海産物を利用してきました。魚離れが進む現在でも、食生活における海産物の重要性は変わりません。

ですが、日本は、ニシンやウナギなどを乱獲し、その生態系を破壊してきた歴史があります。

現在、スーパーなどで目にするニシンは、その大半が輸入品です。また、ニシンの魚卵である数の子は、高級品となっています。ですが、このニシンが昭和初期まで肥料として用いられていたことをご存知でしょうか。ニシンは、大量に漁獲できる水産資源だったのです。しかし、ニシンは、1960年代にほとんど獲れなくなり、「幻の魚」と呼ばれるほどになってしまいました(図1)。*1 *2

図1:北海道周辺におけるニシンの漁獲量(沿岸漁業と沖底の合計)の長期変動
*出典:国立研究開発法人水産研究・教育機構「平成29(2017)年度ニシン北海道の資源評価」http://abchan.fra.go.jp/digests2017/details/201723.pdf p793

 

ニホンウナギも近年になって獲れなくなった魚で、現在では国際自然保護連合(IUCN)によって「絶滅危惧種」に指定されています。ニホンウナギは、その稚魚であるシラスウナギを捕獲し、養殖することで商品化されます。シラスウナギは、1960年から1980年にかけて漁獲量が減少し続けていたにも関わらず、無軌道に獲られ続けたのです。その結果、1960年代には200トン程度獲れていたシラスウナギが、現在では5~20トン程度しか獲れなくなっています。(図2)*3

図2:ニホンウナギ稚魚の国内採捕量の推移(クロコ:透明なシラスウナギが少し成長して黒色になったもの)
*出典:水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」(2016)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/pdf/meguru.pdf p3

 

しかし、最近のウナギの価格高騰は、ニホンウナギの激減ばかりが原因というわけではありません。

日本は、ヨーロッパウナギの稚魚や成魚も大量に輸入していました。ですが、ヨーロッパウナギは2008年、IUCN によって絶滅寸前であることを示す「近絶滅種」に指定。2009年には、ワシントン条約によって国際取引が規制されることになりました。*3

これらの結果として、ウナギの価格が高騰してしまったのです。

また、2019年には、サンマの水揚量が1980年以降で最低の約4万トンとなりました。例年、15~25万トン程度獲れていたことを考えると、大幅な減少と言えるでしょう。(図3)*4

図3:サンマの水揚量の推移(1981年~2019年)
*出典:全国さんま棒受網漁業協同組合「さんまの水揚量(年)」(2019)
http://www.samma.jp/tokei/catch_year.html

 

ですが、水産資源の激減は、何も日本の乱獲だけが原因というわけではありません。

世界人口はここ50年で2倍以上に増加し、それに伴い世界の魚介類消費量は4倍以上に膨れ上がっています。(図4)*5

図4:世界の魚介類消費量の推移(左)と世界人口の将来予測(右)
*出典:水産庁「世界とつながる我が国の漁業~国際的な水産資源の持続的利用を考える~」(2016)https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/H28/attach/pdf/index-2.pdf p5

 

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の魚の33.1%が獲り過ぎであり、60%が近いうちに限界に至ると報告されています(図5)*6。また、世界自然保護基金(WWF)は、地球上の海洋生物の個体数が1970年から2012年でほぼ半減したとしています*7。

図5:世界の海洋漁業資源の状況の推移
*出典:世界自然保護基金(WWF)「持続可能性と東京大会の調達コード:「水産物」について世界とつながる我が国の漁業~国際的な水産資源の持続的利用を考える~」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20190911symposium-seafood.pdf p4

 

持続可能(サステナブル)な漁業の取り組み

この世界的な海産資源の激減を解決するために始まっているのが、「持続可能な漁業」の取り組みです。持続可能な漁業を行うには、以下の3つの原則を考慮することが必要とされています。(図6)*8

 

  1. 資源の持続可能性

過剰に漁獲せず、資源を枯渇させないことが求められます。また、枯渇した資源については、資源の回復を論証できる方法でなければ漁獲は許可されません。なお、漁獲可能量(TAC)は、科学者が資源の現状や回復力を考えて勧告した、漁獲してよい総量(ABClimit)を基にして設定されます。

 

  1. 漁業が生態系に与える影響

生態系の構造や多様性、生産力などを破壊せずに漁業を行うことが求められます。目的とする魚以外を獲ってしまう「混獲」や、海洋へ放棄された漁具に生物が絡まる「ゴーストフィッシング」などを防止し、生態系を維持できる形で漁業を行うことが必要とされます。

 

  1. 漁業の管理システム

国際的なルールを尊重した漁獲量の管理システムを有することが求められます。つまり、持続可能な資源利用を行うための制度や法律が整備され、遵守されていることが必要とされるのです。

図6:持続可能な漁業の3つの原則
*出典:海洋管理協議会(MSC)「持続可能(サステナブル)な漁業とは?」
https://www.msc.org/jp/what-we-are-doing/ourapproachJP/whatissustainablefishery

 

MSC認証制度

持続可能な漁業を推進するための国際的な制度に「MSC認証」があります。MSC認証は、上述した持続可能な漁業で獲られた天然の水産物に対して、海洋管理協議会(MSC)が発行するものです。

「海のエコラベル」とも呼ばれるその証は、厳しい審査を通過した信頼ある製品だけに表示することができます(図7)*9。つまり、消費者は、海のエコラベルが付いた水産物を選ぶことで、間接的に持続可能な漁業の取り組みを応援することができるのです。しかし、認証のコストが高い、またそれゆえに、認証対象が大規模な漁業に偏っている、認証の申請者に対する審査が甘くなりやすいなどの課題があります*10。

図7:海のエコラベル
*出典:海洋管理協議会(MSC)
https://www.msc.org/jp

 

ASC認証制度

ですが、食卓に上がる魚介類の全てが天然物だというわけではありません。

養殖による魚介類の生産は、過去20年の間で急速に増加し、今や水産物生産量の半分以上を占めています。(図8)*11

しかし、養殖の方法によっては、海洋汚染や餌となる天然魚の乱獲、外来の養殖魚による生態系の破壊などにつながることがあります。そのような養殖業は、持続可能であるとは言えません。

図8:世界の漁業・養殖業生産量の推移
*出典:水産庁「世界の漁業・養殖業生産」(2018
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h30_h/trend/1/t1_3_3_1.html

 

こうした問題に対応し、養殖による水産物でMSC認証の代わりとなるのが「ASC認証」です。ASC認証は水産養殖管理協議会(ASC)が運営する国際認証制度で、この認証をパスした製品は養殖版の海のエコラベルを貼付することができます(図9)*12。

また、ASC認証は、養殖業に携わる労働者を守るための仕組みも備えています。一部の養殖業者において、労働者が劣悪な環境下で働かされていることが報告されており、社会問題化しています。ASC認証は、人権や法令といった側面からも経営をチェックすることで、養殖業に携わる人々の暮らしを支える役割も果たしています。

ですが、もちろん、良いことばかりではなく、ASC認証にもMSC認証同様の課題があります。

図9:養殖版の海のエコラベル
*出典:世界自然保護基金(WWF)「養殖版海のエコラベル「ASC認証」について」(2013)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/1773.html

 

SDGグローバル指標

海洋資源を守るための世界的な枠組みとしては、国連が主導する「持続可能な開発目標(SDGs)」の「海洋の持続可能な利用」があります。この目標は、海洋汚染や生物多様性の保護、持続可能な漁業などに関連した達成すべき10の小目標から構成されています。*13

この目標の進捗を数値化したのがSDGグローバル指標で、各小目標の評価をもって海洋の持続可能な利用ができているかを評価します。ですが、グローバル指標のほとんどは、定義または算出方法が定まっていません*13。

そこで、ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)は、各国のSDGsの達成状況を分析してレポートを発行。「海洋の持続可能な利用」については、以下の4項目の評価をもって海洋の持続可能な利用ができているかを評価しています。*14

 

  1. 生物多様性に重要な海域が保全されている割合
  2. 海洋汚染
  3. EEZ圏内で過剰漁獲された、もしくは崩壊した漁場
  4. 底引き網漁による漁獲

 

世界各国の持続可能な漁業の取り組み

それでは、世界の国々は、持続可能な漁業にどのような形で取り組んでいるのでしょうか。

MSC/ASC認証を利用した持続可能な漁業の取り組みは、すでに世界各国で広く普及しています。
2006年には、アメリカの大手小売事業者がMSC認証された天然水産物のみを扱うと宣言。それに続いて、ヨーロッパの多くの小売業者もMSC認証された水産物を積極的に販売しています。また、2016年に開催されたリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックでは、MSC/ASC認証された水産物のみを提供するといった試みも行われました。*15

MSCによると、MSC認証された水産物の漁獲量は、1,180万トンにも達しており、世界総漁獲量の15%を占めると報告されています。(図10)*16

図10:MSC認証漁業による漁獲量の推移
*出典:海洋管理協議会(MSC)「MSC年次報告書 2018年度」(2019)
https://www.msc.org/docs/default-source/jp-files/%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8/msc_annual_report_2018_19_jp_web.pdf?sfvrsn=b8d283b_8 p21

 

ノルウェーは、日本と並ぶほどの水産大国ですが、科学的根拠に基づく厳密な資源管理によって持続可能な漁業に取り組んでいます。

ノルウェーでは、国際海洋探査委員会(ICES)による科学的助言と国際交渉に基づいたTACを設定。割り当てられたTACを漁船別に配分しています。漁業者がTACを超えて漁獲しないよう、操業水域を規制すると共に、漁船位置情報システム(VMS)によって厳しい管理体制を敷いています。*17

ノルウェーの厳格なTACの管理から、漁業者は、販売価格の高い大型の魚のみを漁獲するようになっています。その結果、成長前の魚を漁獲して未来の水産資源を減らすといった悪循環が自然と防止されているのです。

日本国内の水産資源の状況と取り組み

それでは、日本国内では、持続可能な漁業にどのような形で取り組んでいるのでしょうか。

日本は、漁獲量が327万トンで世界7位、水産物の輸入金額が142億ドルで世界2位と世界の漁業資源にとって重要な国です(図11)。しかし、日本周辺の水産資源の状況を見ると、約5割が枯渇し、豊富なものは2割に満たない状態となっています(図12)。*18

図11:上位20か国の漁獲量(左)と水産物輸入額(右)
*出典:世界自然保護基金(WWF)「持続可能な漁業の推進」(2019)https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

図12:日本周辺の水産資源の状況
*出典:世界自然保護基金(WWF)「持続可能な漁業の推進」(2019)https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

日本のTAC制度

ですが、日本は、ノルウェーと同様にTAC制度を1997年から導入していました。それにも関わらず、なぜ日本の水産資源は、これほどまでに危機的状況に陥っているのでしょうか。

その理由としては、以下の3つが挙げられます。

 

  1. 7魚種しかTACを設定していなかった

日本が漁獲している魚種は52魚種にも及びますが、以下の7魚種しかTACを設定していませんでした。*18*19

・サンマ

・スケトウダラ

・マアジ

・マイワシ

・マサバ及びゴマサバ

・スルメイカ

・ズワイガニ

この中には、ほとんど獲れなくなったニシンやシラスウナギはもちろん、不漁が続いているサクラエビも入っていません。

また、2018年から、クロマグロにもTACを設定することが決まりました。ですが、このTACの設定も、国際機関の中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)が日本に設定した、2016~2017年の漁獲枠を大きく超過した後のことでした。*20

 

  1. ABClimitを超えるTACを設定していた

日本は、科学者や関係機関が持続可能な漁獲量として勧告した、ABClimitをはるかに超えたTACを設定していたという事実があります。

図13は、スケトウダラのABClimitとTACを示したものですが、2014年までABClimitの2~3倍ものTACを設定しています。また、2006年と2007年にABClimitの3倍近くのTACを設定しているせいか、2008年のABClimitが大幅に減少しています。

TACが課された魚種でさえ過剰に漁獲しているのですから、TACを課していない魚種の資源状態は悪くなる一方と言えるでしょう。例えば、酒のつまみとして定番のホッケは、枯渇状態にあり、今後も減少すると予想されています*21。

図13:スケトウダラ日本海北部系群の科学的勧告(ABClimit)と国が設定した漁獲枠(TAC)
*出典:世界自然保護基金(WWF)「持続可能な漁業の推進」(2019)https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

 

  1. IUU漁業由来の水産物が多く流入している

日本には、違法・無報告・無規制のIUU漁業を由来とした水産物が多く流入しているという報告があります。

違法または無報告で漁獲された水産物は、そもそもデータに算出されないので、資源管理の対象にはなり得ません。例えば、ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)は、毎年3割近くが報告なしに養殖池に放流されています(図14)。

また、無規制では、乱獲が止まらないのは当然のことです。上述したホッケは、TAC制度の対象とせず、過剰に獲り続けたことから枯渇状態にあります。ニホンウナギにしても、ワシントン条約の規制対象に加えることを日本は反対してきました。これでは、日本が持続可能な形で漁業を続けることはできないでしょう。

図14:シラスウナギの国内採捕量と輸入量の推移
*出典:世界自然保護基金(WWF)「持続可能な漁業の推進」(2019)https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

 

改正漁業法について

このような状況の中、日本では2018年、改正漁業法が成立しました。

改正漁業法の中では、水産資源の持続的な利用を目指すことが明文化されました。科学的評価に基づいたTACの設定はもちろん、TACの対象となる魚種も漁獲量ベースで8割に拡大するとしています。また、TAC管理の方法として、漁船毎にTACを割り当てる漁獲割当て(IQ)も導入しました。*22

これにより、漁業者は、早い者勝ちで獲れるだけ獲るとしてきた方法を変え、割り当てられた量だけしか漁獲できなくなります。

しかし、TACの決定方法やIQの設定方法が不透明との指摘もあり、IQの運用の仕方によっては小規模漁業者からの反対の声が高まる可能性があります。

とはいえ、改正漁業法が実効性を持つのはこれからであり、漁業先進国と同じラインに立っただけとも言えます。ですが、漁業法の改正は、国主導の持続可能な漁業の取り組みとして、日本周辺の海洋資源の保全に良い影響を与えると考えられます。

 

持続可能な漁業の具体的な取り組み

ですが、日本国内の全てがこの危機的状況を座視していたわけではありません。大学や地方自治体、民間企業が、様々な形で持続可能な漁業に貢献しています。

例えば、公立はこだて未来大学は、2004年からITを導入した沿岸漁業に着手。漁船のインターネット環境を整備し、位置情報と漁獲情報を収集しました。そして、資源の状態を数値化することで、枯渇の危機に瀕していたナマコに対する資源管理の合意形成に成功しています。(図15)*23

また、日本でも、MSC/ASC認証された水産物が普及しつつあります。日本のいくつかの大手小売業者がMSC認証された製品の取り扱いを始めており、ある大手小売企業では、2020年までに水産物の20%をMSC/ASC認証の製品にすると発表。水産物を主に取り扱う大手食品会社も、MSC認証の自社ブランド製品を拡大するとしています。*24

図15:ITを導入した漁船
*出典:一般社団法人全国地域情報化推進協会「IT漁業による地方創生(公立はこだて未来大学 マリンIT・ラボ)」(2016)
https://www.applic.or.jp/pdf/future_19/02/2.pdf p50

 

海洋資源の未来~海洋汚染と海洋酸性化~

さらに、海洋は現在、マイクロプラスチックによる海洋汚染と二酸化炭素の増大による海洋酸性化という未知の環境問題に直面しています。

 

海洋汚染の状況とそれに対する日本国内の取り組み

工業排水や生活排水による海洋汚染の危険性はもちろんですが、海洋ゴミによる海洋汚染が今、海洋資源を著しく損なうものとして問題視されています。

特に、ペットボトルやビニールなど、生活の中で広く利用されているプラスチックゴミは、海洋に1億5,000万トンがすでに存在し、年間800万トンが流入していると推定されます。海洋の生態系に多大な悪影響を与えると共に、漁業や養殖業に対してもアジア太平洋地域だけで年間3.6億ドルの損失があるとされています。*25

さらに、プラスチックゴミは、自然分解されるまでに数十年から数百年といった年月を要します(図16)。海洋を漂い続けるプラスチックゴミは、波や紫外線等で細かい粒子となりますが、マイクロプラスチックと呼ばれるこのプラスチック粒子が現在、大きな問題となっています。なぜなら、マイクロプラスチックが、市場で購入された魚介類からも検出されているからです。

また、海洋を漂うプラスチックの一部からは、環境ホルモンが溶け出しており、有害物質の運び屋になっているとの報告もあります。今後、人体への直接的な影響が発見される可能性もあることから、人類は未来の海洋資源に大きなリスクを抱えていると言えるでしょう。*26

図16:海洋ゴミが自然分解されるまでに要する年数
*出典:世界自然保護基金(WWF)「海洋プラスチック問題について」(2018)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html?gclid=CjwKCAjwhOD0BRAQEiwAK7JHmAP-TpAtEAaGO3JnW1_5zXTG9Kl8v4zfmUWl9aDx64psf9nlzZ46WBoCbIwQAvD_BwE

 

それでは、このような海洋汚染に対し、日本はどのような対策を立て、取り組んでいるのでしょうか。

それは例えば、2019年に策定された「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」が挙げられます。

このプランでは、プラスチックゴミの回収や適正処理の徹底、流出してしまったプラスチックゴミの回収の推進が謳われています。特に、海洋に流出してしまったプラスチックゴミへの対策として、2018年には補正予算を31億円、2019年には予算を4億円配分。海洋ゴミを実際に回収・処理する事業や、海洋ゴミの発生抑制対策に関する事業などに割り当てました。また、2019年予算として、海洋生分解性プラスチックなどの自然分解する素材の開発に35億円の予算を配分しています。そのほか、途上国への技術移転や海洋プラスチックゴミの実態把握に取り組むとしています。*27*28*29

 

海洋酸性化の状況とそれに対する日本国内の取り組み

海洋の酸性化も生態系に深刻な影響を与えるとして問題視されています。

海の生物の多くは、海に溶け込んでいるカルシウムイオンと炭酸イオンから炭酸カルシウムを形成して骨格や殻を作っています。しかし近年、大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴い、海に二酸化炭素が溶け込んで海水を酸性化(図17)させています*30。それにより、海中の炭酸イオンが減少しています。

図17:海面付近の大気と表面海水の二酸化炭素濃度
*出典:気象庁「海洋の二酸化炭素濃度の長期変化」(2014)https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/shindan/sougou/pdf_vol2/1_4_1_vol2.pdf p87

 

海洋酸性化の影響を真っ先に被るとされるのが、ホタテやカキなどの貝類、エビやカニなどの甲殻類、さらにはサンゴ礁です。サンゴ礁にはすでに海洋酸性化による悪影響が観測されているほか、実験では海水中の二酸化炭素濃度が増加すると、ウニやサンゴなどの死亡率や奇形率が増加すると報告されています。*31

この海洋酸性化への対策として、日本は、北太平洋の海洋表層の二酸化炭素濃度を2007年から定期的に観測を始めました。そして観測結果を海外の研究機関と共有することで世界全体の海洋表層の二酸化炭素濃度の分布を解析しています。*31

しかし、海に溶け込んだ二酸化炭素を取り除くことは難しく、抜本的な対策は二酸化炭素の放出量を減らすことしかないのが現状です。

 

未来の海洋資源を守るためにできること

海洋資源の未来が危機的状況にあることを分かっていただけたでしょうか。

日本は、水産大国でありながら、持続可能な漁業の取り組みにおいて欧米に10年以上は遅れています。ですが、改正漁業法を適切に運用していくことで、欧米と並ぶ漁業先進国になることができるはずです。

そして、世界の各国もまた、持続可能な漁業の取り組みを進めていかなければなりません。魚の獲り過ぎによる漁獲資源の枯渇は、決して100年後の未来のことではなく、数十年後の未来にはあり得ることなのですから。

海洋汚染や海洋酸性化といった地球全体の問題については、世界中で取り組まなければなりません。

自然分解するプラスチック、海洋ゴミになりにくい製品、どちらの開発も世界の製造業が早急に達成すべき課題です。個人であれば、商品の選択という手段でこの課題達成に協力することができます。

また、海洋酸性化を引き起こす地球温暖化は、気候変動なども伴うことから、もはや待ったなしの状況と言えるでしょう。国や企業、そして個人も、現在の経済活動を永遠に続けることは不可能であることを自覚し、二酸化炭素の排出量削減に邁進する必要があります。

 

このように、海洋資源の危機は、食卓に並んでいた食材が入手できなくなってしまうという身近な問題でありながら、世界全体で取り組まなければ解決できない難しい問題なのです。

参照・引用を見る
  1. 国立研究開発法人科学技術振興機構(J-STAGE)「ニシン漁の盛衰と漁民の活動」(2009)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2009f/0/2009f_0_182/_article/-char/ja/
  2. 国立研究開発法人水産研究・教育機構「平成29(2017)年度ニシン北海道の資源評価」
    http://abchan.fra.go.jp/digests2017/details/201723.pdf p793
  3. 水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」(2016)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/pdf/meguru.pdf p3-4
  4. 全国さんま棒受網漁業協同組合「さんまの水揚量(年)」(2019)
    http://www.samma.jp/tokei/catch_year.html
  5. 水産庁「世界とつながる我が国の漁業~国際的な水産資源の持続的利用を考える~」(2016)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/H28/attach/pdf/index-2.pdf p5
  6. 世界自然保護基金(WWF)「持続可能性と東京大会の調達コード:「水産物」について世界とつながる我が国の漁業~国際的な水産資源の持続的利用を考える~」(2019)
    https://www.wwf.or.jp/activities/data/20190911symposium-seafood.pdf p4
  7. 世界自然保護基金(WWF)「深刻化する海の危機『Living Planet Report<海洋編>』発表」(2015)
    https://www.wwf.or.jp/activities/activity/996.html
  8. 海洋管理協議会(MSC)「持続可能(サステナブル)な漁業とは?」
    https://www.msc.org/jp/what-we-are-doing/ourapproachJP/whatissustainablefishery
  9. 海洋管理協議会(MSC)
    https://www.msc.org/jp
  10. 一般財団法人東京水産振興会「水産振興:水産物の認証制度とその政治性」(2018)
    https://www.suisan-shinkou.or.jp/promotion/pdf/SuisanShinkou_607.pdf p22
  11. 水産庁「世界の漁業・養殖業生産」(2018)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h30_h/trend/1/t1_3_3_1.html
  12. 世界自然保護基金(WWF)「養殖版海のエコラベル「ASC認証」について」(2013)
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/1773.html
  13. 外務省「JAPAN SDGs Action Platform」
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal14.html
  14. Sustainable Development Report 「Sustainable Development Report 2019」
    https://s3.amazonaws.com/sustainabledevelopment.report/2019/2019_sustainable_development_report.pdf p55
  15. 海洋管理協議会(MSC)「なぜMSC認証は世界中で受け入れられているの?」(2015)
    http://msc-japan.blog.jp/archives/22881454.html
  16. 海洋管理協議会(MSC)「MSC年次報告書 2018年度」(2019)
    https://www.msc.org/docs/default-source/jp-files/%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8/msc_annual_report_2018_19_jp_web.pdf?sfvrsn=b8d283b_8 p21
  17. 水産庁「ノルウェーの漁業及び漁業管理について」(2014)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/2data3-1.pdf p13
  18. 世界自然保護基金(WWF)「持続可能な漁業の推進」(2019)
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html
  19. 水産庁「水産をめぐる事情について」(2016)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/shingikai/pdf/data1-2.pdf p1-2
  20. 水産庁「太平洋クロマグロの資源管理について」(2018)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_kouiki/nihonkai/attach/pdf/index-68.pdf p1
  21. 水産庁「TAC設定対象魚種について」(2015)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kanri/bunkakai_69/attach/pdf/bunkakai_69-9.pdf p2
  22. 水産庁「水産政策の改革について」(2019)
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-18.pdf p8, p13
  23. 一般財団法人全国地域情報化推進協会「IT漁業による地方創生(公立はこだて未来大学 マリンIT・ラボ)」(2016)
    https://www.applic.or.jp/pdf/future_19/02/2.pdf p50
  24. 一般財団法人地球・環境フォーラム「MSC認証制度の日本における広がりと可能性」(2019)
    https://www.gef.or.jp/globalnet201903/globalnet201903-8/
  25. 世界自然保護基金(WWF)「海洋プラスチック問題について」(2018)
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html?gclid=CjwKCAjwhOD0BRAQEiwAK7JHmAP-TpAtEAaGO3JnW1_5zXTG9Kl8v4zfmUWl9aDx64psf9nlzZ46WBoCbIwQAvD_BwE
  26. 国立大学法人東京農工大学「海洋プラスチック中の有害化学物質とその生物への移行」(2012)
    https://web.tuat.ac.jp/~gaia/MPPsympo/TakadaJap.pdf p3-p10, p12-p17
  27. 環境省「「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について」(2019)
    https://www.env.go.jp/press/106865.html
  28. 環境省「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン(概要)」(2019)
    https://www.env.go.jp/press/files/jp/111752.pdf p1
  29. 環境省「海岸漂着物等地域対策推進事業」(2019)
    https://www.env.go.jp/guide/budget/2019/19juten-sesakushu/032_3012.pdf p1
  30. 気象庁「海洋の二酸化炭素濃度の長期変化」(2014)
    https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/shindan/sougou/pdf_vol2/1_4_1_vol2.pdfp87
  31. 内閣官房内閣広報室「地球温暖化・海洋酸性化に関する科学的知見と我が国の取組」(2012)
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/sanyo/dai8/siryou1.pdf p5, p6, p11, p13