自然農法と有機農法、環境保全型農業の課題と理想の未来

自然農法と有機農法、環境保全型農業の課題と理想の未来

近年、メディアなどで頻繁に目にし、耳にする有機野菜やオーガニック食品。これらの農産物は、自然農法や有機農法など、環境や健康、生産時の安全性に配慮した農法によって生産されたものです。
ですが、これら環境保全型の農業は、日本ではほとんど広がっておらず、欧州などの環境意識の高い国々の情報を受け、耳にすることが多くなっているというのが現状です。

一方、有機農産物は、欧州を中心に、その市場規模が拡大しています。ですが、有機農法は、肥料や農薬を多用する慣行農法と収量や価格がトレードオフの関係にあるため、単純に全ての農法を環境保全型にしてしまえば良いというものでもありません。

それでは、環境保全型農業は、どのように発展させていけば良いのでしょうか。環境や人間の健康、世界の食糧需給の今と未来から考えていきます。

持続可能な農業について
自然農法とは

自然農法とは、化学肥料や農薬を用いない、永続的な農作物の収穫を目指した農業の方法のことです。この農法では、農地のありのままの生態系を認めるとともに、微生物などが担う物質循環機能を高め、自然の機能を発揮させることで農作物を生産します。[*1]
肥料は、落葉や草を材料とした自然堆肥を推奨。有機肥料であっても、大気・水・土壌汚染の原因になりやすい家畜糞堆肥などの使用は原則不可としています。また農薬は、化学合成されたものはもちろん、天然由来のものも使用を認めていません。苗についても、極力自然農法によって育てるようにし、遺伝子組み換え種子は使用しないとしています。[*1, *2]

自然農法は元々、耕さず、肥料や農薬も使わず、除草もしない農法でした。それが、現在では、人間に安全な農産物を、自然の生態系を維持したまま、持続可能な形で生産するという、環境保全の現代的な考え方に則った農法となっています。
とはいえ、元来の自然農法を実践する農業従事者もいるため、自然農法による農産物と言っても、その生産方法は様々です。

有機農法とは

一方、有機農法は、化学合成された肥料や農薬の不使用と、遺伝子組換え技術の不利用を前提とした、環境負荷を可能な限り低減した、農業生産の方法として法に定められています。[*3]
そのため、有機食品の検査認証制度を通過した農産物だけが「有機JASマーク」を表示することが許可されており、それ以外の農産物に「有機」や「オーガニック」といった表示をすることは法律で禁止されています。(図1)[*4]
また、有機JAS認証を取得するためには、第三者機関による厳しい検査を受けなければいけません。種苗や使用した肥料・農薬が調査されるのはもちろん、農地自体が汚染されていないか、栽培・収穫・保管・包装・輸送で用いる資材が汚染されていないかなど、生産の全工程にわたる検査を必要とします。

図1:有機JASマーク
*出典:農林水産省「“有機農業”ってこんな農業。」(2019)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/organic_panel_2019.pdf p2

 

このような厳格さから、有機JAS認証された農産物には、一定の品質や信頼性を認めることができるでしょう。ですが、その厳格さ、さらには、認証手続きの煩雑さや認証費用がかかることなどを理由に、有機農業の取組面積は広がっているものの、有機JAS認証を取得している農地の面積は伸びていません(図2)[*5]。

図2:日本全国の有機農業の取組面積
*出典:農林水産省「有機農業をめぐる事情」(2018)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kazyu/h30_12/attach/pdf/index-16.pdf p7

自然農法と有機農法~持続可能な農業の現状~

有機農法は、自然農法と比較すると、肥料や農薬などに対する制限が緩い方法です。ですが、有機JAS認証を取得することで、農産物の品質や環境保全の取り組みに対する、公的な保証が受けられるという強みを持っています。
一方、自然農法にも、民間の普及団体による認証制度があります[*6]。ですが、有機JAS認証に比べて認知度が低いことから、オーガニックな農産物を求める消費者に対しても訴求効果は低いと言えるでしょう。そのためか、ある自然農法の公益財団法人は、有機JAS認証の登録認証機関としても活動しています[*7]。

自然農法も有機農法も程度の差こそあれ、持続可能であることを目指した農業の方法です。そのため、地球環境に関する様々な懸念が噴出している今、取り組むべき農業の形態であると言えるでしょう。
ですが、日本における、これらの農法の取組面積は、全耕地面積の0.5%に過ぎません。そのほか、農薬や化学肥料の使用量を抑えた特別栽培農産物を生産している農地もありますが、その農地面積も5%程度に留まっています。(図2)[*5]
つまり、有機食品の話題が頻繁に挙がる現在においても、日本の99%以上の農地では、化学肥料と農薬を併用する近代農業が変わらず行われ続けているのです。

近代農業による健康被害と環境破壊

それでは、農業による生産活動は、自然環境にどのような影響を与えているのでしょうか。

現在も広範に行われている近代農業は、機械化、化学肥料や農薬の大量投入、資源の集約化により、農業生産の拡大を実現しました[*8]。しかし、機械化は、化石燃料の消費によって地球温暖化を加速。化学肥料や農薬の大量投入は、環境破壊と健康問題を引き起こしてきました。ビニールハウスなど、農業用資材の廃棄物も、適切に処理しなければ環境汚染の原因となります。(図3)[*9]

図3:農業生産活動による環境負荷発生リスク
*出典:農林水産省「農業生産活動に伴う環境影響について」(2004)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/10/pdf/h160514_03_siryo.pdf p1

 

化学肥料は、農作物を収穫することで失われる、窒素やリン、カリウムなどを土壌に補給するものです。ですが、それらは、本来微生物が生存するために生成する物質であるため、その人為的な供給は、生態系の破壊につながります。また、有機肥料も含めた肥料の過剰な投入は、河川や湖沼などの水質を汚染し、富栄養化を引き起こすことがあります[*9]。

そして、農薬は、環境だけでなく、人間の健康にも悪影響を与えてきました。例えば、殺虫剤として広く用いられていたBHCは、発がん性があるにも関わらず、母乳から検出されました。農作物の病害防止に用いられていた有機水銀は、人体に蓄積することが明らかになり、使用禁止となりました。[*10]

このように、農業は、環境に大きな影響を与える生産活動であり、農産物は、人間に悪影響を与えるものとなり得るのです。

欧州で拡大が続く有機農業

ほとんど広がらず、進んでいない日本の有機農業とは異なり、欧州では、有機産品がすでに一大産業として市場を形成しています。
その市場規模は、343億ユーロ(4兆1160億円)にまで到達。有機農業の農地面積は、総農地面積の7%に相当する、1260万ヘクタールにまで達しています。さらに、有機農地の拡大は、現在も継続しており、農地面積は、2007年から2017年までの10年間で、70%以上増加(図4)。この傾向は、今後も続くと予想されています。[*11, *12]

図4:欧州の有機農地面積の推移
*出典:独立行政法人農畜産業振興機構「EUにおける有機(オーガニック)農業の現状~高まる有機志向~」(2019)
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000833.html

 

それでは、なぜ欧州では、これほどまでに有機産品の市場が拡大したのでしょうか。

その理由の一つとして、欧州各国による有機農業に対する振興策が挙げられます。例えば、デンマークでは、学校や幼稚園、病院、介護施設などの公共施設で提供する食事の90%を有機産品としました。同様の政策は、スウェーデンやフランス、ドイツ、イタリアなどでも実施されており、有機農産物の消費拡大に貢献しています。[*12]

有機産品がブランドとして確立していることも、有機産品の消費拡大につながっています。フランスの有機産品専門店「Biocoop(ビオコープ)」は、1986年の発足以来、拡大を続けており、現在では、フランス全土に600店舗を出店しています。また、ドイツでは、年に1回、有機専門の国際見本市「BIOFACH(ビオファ)」を開催していますが、ビオファには、世界各国から5万人以上が来場。その集客力は、有機市場の需要の高さを反映しています。[*12]

そのほか、有機産品の市場拡大には、EUやEU加盟国の有機農業に対する補助金などの優遇政策も寄与していることでしょう[*12]。ですが、何よりも重要なのは、欧州の消費者が有機産品に期待し、有機産品を選択していることです。そして、その背景には、有機産品に対する信頼と、消費者の環境保全意識の高さがあります。

日本における環境保全型農業の取り組み

とはいえ、日本においても、環境に対する危機意識から、また有機産品市場の世界での拡大を受け、多くの農業事業者や小売事業者が環境保全型農業の発展に取り組み始めています。

例えば、石川県羽咋市のJAは、市と共同で、2010年より自然栽培を開始。市やJAの協力の下、自然栽培農家によって構成される合同会社を設立し、地元の公共施設や宿泊施設、飲食店などに農産物を提供しています。また、東京への販路開拓や自然栽培米の米国輸出なども手掛けており、自然農法の認知拡大に大きく貢献しています。さらに、民間企業と共同で、ロボットやIoTを活用した、自然農法の先端試験農場を開設。自然農法を発展させようと奮闘しています。[*13]

石川県のある農業従事者は、自身の作った有機農産物を量産し、ブランディングするための事業者を設立しました。そして耕作放棄地を受け入れて規模拡大を進めるとともに、インターネット販売や直営店舗の開設を通して、販路を開拓しています。[*14]

また、大手小売事業者の一つは、自社農場による有機栽培を開始。有機JAS認証も取得しており、プライベートブランドとして、有機農産物の販売を始めています。さらに、環境や労働安全へ配慮した、持続的な生産活動の実践を保証する国際認証「GLOBALG.A.P.(グローバルGAP)」認証を取得しました。いまや日本における、環境保全型農業の発展を牽引していると言って良いでしょう。[*15]環境保全型農業の課題
ですが、上述したように、日本の自然農法や有機農法の取組面積は非常に小さく、また、これらの環境保全型農業には、その他の多くの課題があります。

その一つとして、土作りに数年の期間を要することが挙げられます[*16]。農作物には、その農作物が育成するのに適した土壌が必要ですが、環境保全型農業では、化学肥料や農薬などを使わずにその環境を構築しなくてはいけません。そのため、就農後数年は、農業所得だけで生計を立てることが難しく、慣行農法の新規参入者に比べて、年間の売上げや所得が低水準になりがちです[*5]。

労力がかかり過ぎるという課題もあります。慣行農法と比較すると、環境保全型農業は除草などに多くの労働時間を必要とします。例えば、水稲栽培では、その労働時間は、慣行農法のおよそ1.5倍にもなります。そのほか、収量や品質が不安定、資材コストが高いといった課題もあります。そのため、これらの理由によって、環境保全型農業の取組面積を縮小するという農業者も多いようです。[*5]

持続可能な農業を増やすだけでは解決できない世界の食糧問題

さらに、現状の自然農法や有機農法は、慣行農法に比較して、収量が低く、高価格であるという欠点があります。
その収量の格差は、特に小麦粉で大きく、有機農業の先進国である欧州各国でさえ、慣行農法の40%~80%しか収穫できていません(図5)[*12]。また、高価格であることは、収益性が高いことを意味するため、必ずしも悪いことではありませんが、安価な農産物の減少は、発展途上国などの飢餓の原因となる可能性があります。

図5:有機農法による農産品・国別の慣行農法との収量比較(2012~2016年平均)
*出典:独立行政法人農畜産業振興機構「EUにおける有機(オーガニック)農業の現状~高まる有機志向~」(2019)
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000833.html

 

実際、発展途上国が大部分を占めるアフリカは、食糧の輸入国です。そのため、食糧輸出国の北米や欧州が、有機農産物の需要が拡大しているからと、安易に慣行農法を減らすわけにはいきません。(図6)[*17]

図6:穀物の地域別貿易量(純輸出量)の見通し
*出典:環境省「地球の行方-世界はどこに向かっているのか、日本はどういう状況か-」(2009)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h22/html/hj10010000.html

 

この問題は、全世界で地産地消する、つまり、世界各国の食糧自給率を向上させ、自国内で生産した農産物は自国内で消費することで解決できます。これはこれで、極めて難しいことですが、さらに未来を見据えるならば、これを持続可能な農業で実現することが最も理想的です。

この理想を叶えるためには、発展途上国に自然農法や有機農法を広めることが最も効果的ではないでしょうか。もちろん農産物の生産に適した場所が少ない国はありますが、その土地ごとに生産できる農産物を持続可能な農業で生産することはメリットがあります。
はじめから、地産地消を実現しなければならないとは言いません。
まずは、石川県羽咋市のJAの事例のように、海外で消費する高級農産品として、自然農法や有機農法によって栽培を開始するという考え方です。
農業は人の手が必要な労働集約型の産業ですから、雇用を増やすなどといった貢献もできます。
もちろん、外貨獲得手段としても機能するので、発展途上国に魅力的な産業が生まれる可能性もありそうです。
そして、雇用していた人々が独立できれば、理想に一歩近づいたと言えそうです。

今後、品種改良や研究が進めば、自然農法や有機農法による収量を増やしていくこともできるかもしれません。そのため、大規模化とそれに伴う機械化は避けることはできないでしょう。
そのとき、いかに持続可能かつ環境に配慮した形で発展させていけるか、それが、これからの課題となるのではないでしょうか。

 

参照・引用を見る

1. 公益財団法人自然農法国際研究開発センター「自然農法の基礎知識」
http://www.infrc.or.jp/about/13/
2. 一般社団法人MOA自然農法文化事業団「MOA自然農法ガイドライン 4.実践のあり方」
https://moaagri.or.jp/profile/guideline/step4
3. 農林水産省「有機農業の推進に関する法律(平成 18 年法律第 112 号)」(2006)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/d-1.pdf p1
4. 農林水産省「有機食品の検査認証制度」
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html
5. 農林水産省「有機農業をめぐる事情」(2018)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kazyu/h30_12/attach/pdf/index-16.pdf p7, p10, p12
6. 一般社団法人MOA自然農法文化事業団「Q&A 自然農法って?」
https://moaagri.or.jp/faq
7. 公益財団法人自然農法国際研究開発センター「有機認証」
http://www.infrc.or.jp/organic-certificatio/25/
8. 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「農業をめぐる環境問題と環境研究」(2011)
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/sousyo/sousyo18_00.pdf p1
9. 農林水産省「農業生産活動に伴う環境影響について」(2004)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/10/pdf/h160514_03_siryo.pdf p2
10. 国立研究開発法人科学技術振興機構「有機農業・自然農法と自然共生型農生態系の形成:自然とともにある農業への転換」(2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/joas/10/1/10_36/_pdf p37
11. 独立行政法人農畜産業振興機構「有機(オーガニック)農地、5年間で25%増(EU)」(2019)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002399.html
12. 独立行政法人農畜産業振興機構「EUにおける有機(オーガニック)農業の現状~高まる有機志向~」(2019)
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000833.html
13. 農林水産省「はくい式自然栽培の取組について~人と自然との関係性の物語~」(2019)
https://www.maff.go.jp/hokuriku/seisan/kankyo/attach/pdf/20191209seminar-1.pdf p58-p59
14. 農林水産省「環境保全に向けた農業の推進」(2016)
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/h26_h/trend/part1/chap2/c2_6_01.html
15. 農林水産省「EUの有機食品市場の動向と有機農業振興のための戦略」(2019)
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/review/attach/pdf/191125_pr92_05.pdf p11
16. 農林水産省「有機農業の推進に関する現状と課題」(2013)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/organic/01/pdf/data6-1.pdf p17
17. 環境省「地球の行方-世界はどこに向かっているのか、日本はどういう状況か-」(2009)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h22/html/hj10010000.html