植林政策がもたらした環境問題「花粉症」 自然は決して、人間の期待通りにはならない

植林政策がもたらした環境問題「花粉症」 自然は決して、人間の期待通りにはならない

人間の社会・経済活動による自然の改変は、思いもかけない結果を導くことがあります。
日本の花粉症はその最たるものですが、世界にはより深刻な環境問題となって現在まで悪影響を及ぼし続けているものがあります。
先ずは日本の花粉症の事例をみていきます。

植林政策がもたらした環境問題「花粉症」

図1:舞い散るスギ花粉(スギ花粉は風に乗って数十キロメートルも飛散します)
*出典:特定非営利活動法人 国際環境経済研究所「花粉には強力な「公害対策」が必要だ」(2019)
http://ieei.or.jp/2019/12/opinion191206/

日本人の国民病とも言える花粉症。
日本人の3人に1人が罹患しているとされ、特に都内では、2人に1人がスギ花粉症に罹患していると報告されています。[*1]

そもそも花粉症は、花粉という異物に対して人間の身体が起こす免疫反応です。
この免疫反応は、風邪の原因となるウィルスなどを排除する反応であり、通常は身体に悪影響のあるものではありません。
しかし、病気の原因とならない異物にも過剰に反応してしまうことがあり、花粉症の場合には、くしゃみや鼻水、涙といった症状が生じます。[*2]

花粉症の被害は、このような健康に関するものだけに留まりません。例えば、2019年1月から3月までの3ヶ月の期間だけでも、外出を控えたことで家計消費は5,691億円も低下し、医療費や労働効率の低下による経済的損失は3,000億円を超えていると試算されています。[*1]

健康にも経済にも甚大な被害をもたらしている花粉症ですが、そのおよそ90%はスギの花粉を原因とするスギ花粉症です。[*2]
それは、日本全国をスギ花粉が大量に飛散していることを原因としますが、スギ花粉の発生源の大部分は人が自ら植えたスギ人工林です。
そもそもこのスギ人工林は、第二次世界大戦中に荒廃した森林を回復させるため、1950~1960年代に補助金を投入するなどして政府主導で植林されました[*3]。
しかしその後、林業が衰退すると、人工林は、打ち捨てられて手入れされなくなったことで、よりいっそう花粉を飛ばすようになったのです[*4]。
これは人災と言ってよいでしょう。

今や、スギ人工林は、ヒノキ人工林(スギと同様に花粉症の原因)と合わせると全国の森林面積の7割を占めています。[*1]
もちろん当時は、建材の供給や森林の保水機能による洪水防止などに貢献しており、スギ花粉が疾病の原因となることなど考えもしなかったでしょう。
しかし現在、社会の利益を追求するために行われた植林が花粉症という公害となって社会に損害を与えています。

経済活動が引き起こした20世紀最大の環境破壊

このような人間の社会・経済活動を原因とする自然の予期できない振る舞いは、これまでも世界中で確認されています。

その中でも、アラル海を干上がらせ、半世紀のうちに湖面積を10分の1に縮小させた大規模な灌漑等の政策は、20世紀最大の環境破壊であるとも言われています。[*5]

図2:中央アジア・コーカサス8カ国
*出典:独立行政法人 国際協力機構「日本への熱い思いに応えたい:国交25周年の中央アジア・コーカサスJICA事務所長が語る「これまで」と「これから」」(2017)
https://www.jica.go.jp/topics/2017/20171108_01.html

アラル海は、図2に見られるように中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがって存在する塩湖で、現在は小アラル海とバルサ・ケルメス湖、西アラル海、東アラル海に分裂して存在しています。
かつては水域面積約6.4万平方キロメートル、水量約1,000立方キロメートルを有する面積世界第4位の一つの塩湖でした[*6]。
この面積は、琵琶湖の面積の約100倍にも達します。
しかし、1940年代から、綿作・稲作のための大規模な灌漑が開始されて、アラル海への流入水量が減少[*5]。
図3に示すように1960年から徐々に、1970年代には急速にアラル海の水位が低下していきました[*7]。
そして、1989年には大アラル海と小アラル海の南北の湖に分離し、2005年には大アラル海が西アラル海と東アラル海に二分されました。さらに、2006年には西アラル海が南北に分断されています。[*7]
2009年以降には水域面積の減少は停止しましたが、その後増減を繰り返し、2014年には0.7万平方キロメートル、水量約135立方キロメートルとそれまでの最小を記録しています。(図4)[*8]

図3:アラル海の水域(左)1977年(中央)1990年(右)2005年
*出典:国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「アラル海の近年の水位変動とその影響」(2017)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/37/1/37_27/_pdf p28

図4:アラル海の水域(左)2009年(右)2014年
*出典:国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「アラル海の近年の水位変動とその影響」(2017)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/37/1/37_27/_pdf p28

アラル海の縮小と分離に併せて、湖水の塩分濃度も上昇していきました。
アラル海の湖水は元々、塩分濃度が10g/l程度で海水の塩分濃度の3分の1ほどでした。
しかし、1970年代の塩分濃度の上昇と共に、漁獲量が減少し始め、1970年末には魚が全く獲れなくなったのです。
塩分に強いカレイを導入することでその後も漁業は続きましたが、塩分濃度は1989年に海水とほぼ同じ30g/lに達しました。
そして、1990年末には塩分に強いはずのカレイも死滅して、ほぼ全ての水生生物が住めない環境となってしまいました。
2012年の報告では、数種類のプランクトンが残るのみだったそうです。[*7]

また、アラル海に流れ込む河川の水量が減少することで三角州の湿地帯が消失し、ペリカンやフラミンゴなどの渡り鳥が飛来しなくなりました。さらに、河川の水に依存していた植物も消失し、徐々に砂漠植生へと変化していったのです。[*7]

そして、干上がった湖底からは塩類や農業排水に由来する劇物が舞い上がり、これらを含んだ砂嵐が発生して、周辺地域の植生や農作物に悪影響を及ぼしています。
この砂嵐は、アラル海の周辺住民への健康被害も生み出しており、住民の間では呼吸器疾患や目の疾患、咽頭・食道がんなどが高確率で確認されるようになりました。
また、飛散した塩類や劇物の影響によって清浄な飲料水の入手が困難となり、肝臓や腎臓の慢性疾患も広まっています。[*7]

この状況に対し、小アラル海や湿地帯の再生や砂嵐対策のための防砂林の植林、飲料水の浄化など、様々な対策が講じられています。
しかし現状、全てが改善されたわけではありません。[*7]

このように、環境保全を考慮しない経済活動は、環境の改変を伴うと、甚大な環境破壊につながるばかりでなく、人間社会を損ない、経済的にも莫大な損失を与えることがあるのです。

環境問題の対策事業から新たな問題が生じることも

環境の改善を目的とする事業であっても、自然に手を加えたことで、予期しなかった新たな問題が出てくることもあります。

例えば、中国の黄土高原の緑化事業では、緑化によって河川に流れ込む雨水の流量が減少し、水不足を招いているという報告があります。[*9]

図5:黄土高原の範囲
*出典:学校法人 立命館大学「中国黄土高原における近年の人間活動と環境変化」(2016)
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/lt/asp/research/geo/journal/pdf.geo-journal/28-2016-matsunaga.pdf p66

中国北部に位置する黄土高原は、過去の人類の活動で土壌流出や砂漠化が進行し、日本にも飛来する黄砂の原因となっていました。[*10]
そこで、1990年頃から日本のボランティア団体などが砂漠緑化活動を開始し、1994年には中国政府も世界銀行の融資を受けて水土保持プロジェクトを実施しました[*10, *11]。
黄土高原の緑化事業は現在も続けられており、2001年から2016年にかけての15年間では、九州の面積を超える5万平方キロメートルの森林が増加しています。[*9]

この壮大な緑化事業は、土壌保全や大気中の二酸化炭素の吸収に貢献すると共に、地元住民が農業を行うことも可能としました。[*10]

しかし、当然のことですが、森林の生育には水を必要としますし、森林によって生じた生態系も水を消費します。
植林の結果、地下に浸透したり、河川や湖沼に流入したりする水は減少します。
実際、黄土高原を流れる黄河の流量が大幅に減少していると報告されています。
これは、黄河の水を利用する5億もの人々の生活に影響を与え、水不足を招く可能性があることを意味します。[*9]

このように、自然に手を加えることは、それが環境保全を目指した善意の取り組みであっても新たな問題の原因となることがあるのです。

予期しない結果を導く自然の改変

以上のように、自然の改変は、大規模になるほど、深刻かつ広範囲に悪影響を及ぼすものとなる可能性があります。
また、改変の影響は、すぐに起こるとも限らず、気づいたときには手の施しようがない事態となっていることさえあります。

ある地域で降雨量が増大すれば他の地域では減少するように、自然環境は一つの地域だけで議論することはできないものです。
現在の最高のコンピュータを使っても、天気予報に見られるような大気の予測が精一杯であり、生態系や人間活動を含めた予測などできるはずもありません。
自然の振る舞いは現状予測できないものですので、安易に自然を改変してはなりません。そして、やむなく手を加える場合には、慎重かつ徐々に行っていく必要があります。

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参照・引用を見る
  1. 特定非営利活動法人 国際環境経済研究所「花粉には強力な「公害対策」が必要だ」(2019)
    http://ieei.or.jp/2019/12/opinion191206/
  2. 環境省「花粉症環境保健マニュアル」(2013)
    https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual/1_chpt1.pdf p1, p4
  3. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「どうしてできたのか1千万ヘクタールの人工林」(1997)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/19/0/19_KJ00001916211/_pdf p9-12
  4. 一般財団法人 環境イノベーション情報機構「もうイヤッ!花粉症?その裏側にある環境問題?」(2002)
    http://www.eic.or.jp/library/pickup/pu020328.html
  5. 京都大学防災研究所「アラル海の縮小や集水域の灌漑地拡大の影響を考慮した水・熱収支の経年変化の再現」(2011)
    https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/nenpo/no54/ronbunB/a54b0p69.pdf p691
  6. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「アラル海の近年の水位変動とその影響」(2017)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/37/1/37_27/_pdf p27
  7. 独立行政法人 日本貿易振興機構「アラル海救済策の現代史ー「20世紀最大の環境破壊」の教訓ー」(2013)
    http://www.ide.go.jp/library/Japanese/Publish/Download/Report/2012/pdf/C36_ch2.pdf p23-24, p26-28
  8. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「アラル海の近年の水位変動とその影響」(2017)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/37/1/37_27/_pdf p27
  9. 国連大学ウェブマガジン「環境保全のための植林には注意が必要 – 問題が増える可能性も」(2020)
    https://ourworld.unu.edu/jp/planting-trees-must-e-done-with-care-it-can-create-more-problems-than-it-addresses
  10. 大学法人 愛知大学 国際中国学研究センター「中国の乾燥地域における日本人による緑化活動について」(2010)
    https://iccs.aichi-u.ac.jp/archives/report/036/5092011560cfa.pdf p248-250
  11. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「中国の水土流失及び水土保持の研究と実践」(2009)
    https://spc.jst.go.jp/hottopics/0909ecosystem/r0909_lei.html

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