生物多様性を支えるサンゴ礁の危機 サンゴを守り再生する活動を知ろう

サンゴ礁は地球の表面積の0.1%の面積程度でありながら世界の海洋魚種の25%、約9万種もの生物が生息しています。
しかし海を彩りサンゴ礁を形成するサンゴは温暖化をはじめとした環境問題の影響で、絶滅の危機にさらされています。
この記事では国内外のサンゴ礁の現状とサンゴ礁を守り再生する活動を紹介します。

生態系を育むサンゴ礁の役割
サンゴの生態とサンゴ礁の分布

サンゴとはイソギンチャクやクラゲの仲間で、植物ではなく動物です。
サンゴはサンゴ礁をつくる造礁サンゴと、単体で生息する非造礁サンゴに分けられます。
造礁サンゴの石灰質の遺骸が長い年月をかけて積み重なることでつくられた地形がサンゴ礁です。
つまり「サンゴ」は生物を指し「サンゴ礁」は地形を指します。

サンゴ礁を形成するサンゴは、ポリプと呼ばれる個体が分裂して群体を作ります。
サンゴは動物なので触手で動物プランクトンを捕まえ口から体内に取り込みますが、体内に褐虫藻という植物プランクトンを住まわせ光合成もします。
光合成するために太陽の光が届く浅い海に生息しています。

図1 サンゴの生態
*出典1:特定非営利活動法人 美ら海振興会HP「サンゴ礁についてもっと知りたい」
http://www.churaumishinkokai.com/knowledge/index.html

サンゴは年間を通じて平均水温が18℃以上の暖かい海に生息しています。
主に熱帯や亜熱帯の海に分布し、インドネシアやフィリピン、ニューギニアに囲まれた水域に多くのサンゴが分布しています。

図2 サンゴとサンゴ礁の分布
*出典2:国立環境研究所 山野博哉「世界におけるサンゴ礁生態系の動向、今後の予測、適応策に向けた取り組み」(2016)p2
https://www.env.go.jp/nature/coral/coral-bleaching/04-1_yamano.pdf

日本はサンゴが生息可能な海の北限にあたり、沖縄周辺の南の海にサンゴ礁が分布しています。

図3は日本のサンゴ礁とサンゴ群集の分布です。
日本のサンゴ礁は種子島のある鹿児島県大隅諸島が北限ですが、サンゴ群集は日本海側沿岸では新潟県沖、太平洋側では房総半島で確認されています。

図3 日本のサンゴ礁とサンゴ群集の分布
*出典3:環境省「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」(2016)p5
https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/pamph/C-project2016-2020_L.pdf

サンゴ礁の役割とは

雑な空間をつくりだすサンゴ礁は海の小さな生き物に隠れ場所を提供します。
さらにサンゴと共生している褐虫藻は光合成によって海の小動物や魚類への餌資源となる有機物を生産します。
そしてサンゴ礁に生息する小さな生き物を餌とする大きな魚やエビなどもサンゴ礁に集まるので、多様な生物群集がうまれます。

サンゴ礁は海の多様な生物の命を育む場として重要な役割を担っているのです。

またサンゴ礁は海の生き物だけでなく、わたしたち人間の生活にも恩恵をもたらしています。

世界の海洋魚種の25%が生息するサンゴ礁は漁場として多様な水産物を提供し世界中で5億〜10億人もの人の食糧源となっています。
さらに台風の高波を弱めるなどの天然の防波堤としての役割もあります。

美しいサンゴ礁は観光資源となりその豊かな生態系は文化・環境教育の場にもなっています。

図4 サンゴ礁の主な機能
*出典4:水産庁「サンゴ礁保全活動手引き 第1編 サンゴ礁について」(2015)p3
https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_hourei/pdf/sango_hozenkatudou_1-2.pdf

世界のサンゴ礁の危機 〜進む白化現象〜

海の生物の命をはぐくみ、わたしたちの暮らしを豊かにするサンゴ礁は、現在世界的に危機に瀕しています。
世界のサンゴ礁はその半数が死滅または危機的状況にあると報告されています。

このようなサンゴ礁の危機は、沿岸開発による土砂流出や生物資源の乱獲、過剰な観光利用など人間活動によって引き起こされています。

またサンゴ礁の衰退を招く主な原因のひとつとしてサンゴの白化現象があります。
温暖化による水温上昇はサンゴにストレスを与え、共生している褐虫藻が死滅してしまいます。
褐虫藻がいなくなることでサンゴの骨格が透けて見え、白く見えることから白化現象と呼ばれています。

図5 サンゴの白化現象
*出典6:国立環境研究所 地球環境研究センターHP「サンゴの白化は温暖化のせい?」(2013)
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/18/18-1/qa_18-1-j.html

白化した状態が長期的に続くことで、褐虫藻からの光合成生産物を受け取ることができずサンゴは死んでしまいます。
地球温暖化による白化現象は、今後もサンゴ礁衰退の長期的な脅威となるとみられています。

1997年から1998年にかけて発生したエルニーニョ現象は大規模なサンゴの白化現象を引き起こしました。
エルニーニョ現象とは、赤道付近から南米沿岸にかけて海面水温が高くなり1年間その状態が続く現象です。
エルニーニョ現象の発生は地球温暖化との関連も指摘されています。

図6は1998年のエルニーニョ現象によってサンゴの白化が報告されたサンゴ礁です。

図6 1998年のサンゴ白化の分布図
*出典7:日本サンゴ礁学会HP「サンゴ礁Q&A」
http://www.jcrs.jp/wp/?page_id=622

赤い点は特に深刻な白化を示していて、サンゴの白化がすすんだサンゴ礁は元の状態に戻るのは時間がかかると言われています。
1998年の白化現象によって世界全体の約16%にあたるサンゴ礁が死滅しました。

さらに2016年には1998年以降最大の世界規模の白化現象が発生し、日本の造礁サンゴでも大きな被害を受けました。
日本最大のサンゴ礁海域である石西礁湖では90%以上のサンゴが白化し、その多くが死亡しました。
オーストラリアのグレートバリアリーフでも大規模な白化が観測され、翌年2017年にはさらに被害が悪化しています。

図7 2016年・2017年グレートバリアリーフの白化現象
出典2:国立環境研究所 山野博哉「世界におけるサンゴ礁生態系の動向、今後の予測、適応策に向けた取り組み」(2016)p10

図7の赤い部分が特に被害を受けた部分で、2016年と2017年の2年間でグレートバリアリーフの半分のサンゴが白化しています。

次の図8は過去100年間の日本の海水温の上昇とサンゴ礁の変化をあらわしたものです。
日本でも海水温の上昇は観測されており、沖縄のサンゴ礁でも大規模な白化現象が発生しています。

図8 日本のサンゴ礁の変化
*出典8:国立環境研究所HP 「サンゴ礁を守り、再生するために」(2014)
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/53/04-09.html

海水温の上昇により南の海では白化が進み、サンゴ分布の北上も確認されています。

さらに地球温暖化の原因である温室効果ガスは水温の上昇だけでなく、海洋酸性化も引き起こします。
大気中に放出された二酸化炭素は海洋に吸収され、水と反応して海水の酸性化を強めます。(図9)

図9 海洋酸性化ー地球温暖化と同時に進行するCO2問題
*出典2:国立環境研究所 山野博哉「世界におけるサンゴ礁生態系の動向、今後の予測、適応策に向けた取り組み」(2016)p16
https://www.env.go.jp/nature/coral/coral-bleaching/04-1_yamano.pdf

この海洋酸性化はサンゴ礁を形成する造礁サンゴや有孔虫の石灰化を妨げます。
そして造礁サンゴはソフトコーラルと呼ばれる柔らかいサンゴに変化し、サンゴ礁を衰退させます。

白化現象や海洋酸性化以外にもオニヒトデによる食害もサンゴ礁衰退の原因となっています。
オニヒトデとは太平洋やインド洋に分布するサンゴを捕食する生物で、オニヒトデの大量発生によるサンゴ礁の被害が報告されています。
オニヒトデの大量発生の原因ははっきりとわかってはいませんが、沿岸部の開発によって海水の栄養塩が増加することが原因の一つとして有力視されています。

次の図10はサンゴ礁が受けているストレスをまとめたものです。

図10 サンゴ礁が受けているストレス
*出典2:国立環境研究所 山野博哉「世界におけるサンゴ礁生態系の動向、今後の予測、適応策に向けた取り組み」(2016)p4
https://www.env.go.jp/nature/coral/coral-bleaching/04-1_yamano.pdf

このように地球温暖化をはじめとした人間活動に起因する環境ストレスによって、サンゴ礁は減少、衰退しているのです。

世界的に危機にさらされているサンゴ礁を守るために、国内外で様々な取り組みが行われています。

国際的な取り組み

サンゴ礁を守るための国際的な取り組みとして、サンゴ礁の保全・管理を主導する国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)があります。
ICRIは1994年に日本を含む8か国の加盟国で発足したパートナーシップで、現在は60か国以上が加盟しています。
年に1〜2回の頻度で総会が開催され、活発な意見交換を行いながら国際的なサンゴ礁の保全・管理の指針を策定します。
ICRIで決められた指針をもとに加盟国では独自の取り組みが行われています。

アメリカでは、海洋資源を守ることを目的としたコーラルリーフ・タスクフォースの一環として、2009年にWatershed Partnership Initiativeが設立されました。
Watershed Partnership Initiativeでは海域への土砂および汚染物質の流出への対策を行なっています。
ハワイ州マウイ島では2012年から土砂および汚染物質の流出対策としてレインガーデンプロジェクトが立ち上げられました。

図11に示すように土地の形状や植栽を活用することで、雨水や排水が一時的にたまるレインガーデンを作り出すプロジェクトです。

図11 レインガーデンプロジェクト
*出典3:環境省「サンゴ礁生態系保全行動計画 2016-2020」(2016)p31
https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/pamph/C-project2016-2020_L.pdf

家庭レベルで実施できるレインガーデンは土砂および汚染物質の海洋への流出を抑制し、サンゴ礁を環境ストレスから守ることができます。

次はツーリズムに関する国際的な取り組みを紹介します。
サンゴ礁で多くのダイビングツアーが行われている東南アジアでは、サンゴ礁への負荷を軽減する持続可能なツーリズムの実現を目指した取り組みが行われています。
環境保全イニシアティブGreen Fins では、ダイバーやダイビング事業者と協力してサンゴ礁を傷つけないための15の行動規範を実施しています。
Green Fins に参加する事業者は研修を受け、行動規範が守られているかどうか定期的に評価を受けます。

2016年から2020年にかけてGreen Fins の取り組みの効果が出ていることがわかっています。
Green Fins の取り組みはダイバーだけでなくサンゴ礁を訪れる観光客に向けた啓発活動へと広げていくことが期待されています。

日本でのサンゴ礁保全活動

次に日本国内でのサンゴ礁保全活動についてみていきましょう。

日本では環境省が2016年に策定した「サンゴ礁生態系保全行動計画」にもとづいてさまざまな取り組みが行われています。
「サンゴ礁生態系保全行動計画」の主な取り組みとして、陸域からの赤土や土砂流出対策の推進、観光資源としてのサンゴ礁を守る持続可能なツーリズムの模索、サンゴ礁生態系の理解を深めるための啓発活動などがあります。

日本各地のサンゴが生息する海域は国立公園や国定公園に指定され、開発行為の規制や自然体験などの環境教育、サンゴのモニタリングや調査などが行われています。

図12 サンゴが生息する海域公園をもつ国立公園・国定公園
出典9:環境省HP「国内のサンゴ礁保全の取り組み」
https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/internal.html

わたしたち市民が気軽に参加できる保全活動としては、モニタリング調査があります。
大量のデータが必要であるモニタリングにおいては、1人でも多くの市民が参加することに意義があります。

図13の「日本全国みんなでつくるサンゴマッププロジェクト」では、各地で観察したサンゴの分布情報、白化情報、産卵情報を収集することで、サンゴの調査に役立てています。

図13 日本全国みんなでつくるサンゴマッププロジェクトHP
出典10:日本全国みんなでつくるサンゴマッププロジェクト
https://www.sangomap.jp

「日本全国みんなでつくるサンゴマッププロジェクト」は誰でも参加可能で、集められたデータはサンゴ分布の研究に活用されます。
このモニタリングによって、2013年にはサンゴの白化現象と水温の関係を解析することに成功しました。
サンゴの生態や現状を把握することで、サンゴ礁を守るための適切な対策を検討できるのです。

まとめ

最後にサンゴ礁の将来予測を見てみましょう。

2018年のIPCC特別報告書によると、地球温暖化を1.5℃に抑えた場合70~90%の減少、2.0℃以上の場合は事実上全滅すると予測されています。
2015年に世界184カ国で合意されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える努力をすることを長期目標として掲げています。
しかし現状として排出削減は進んでおらず、2.0℃未満に抑えることさえも難しい状況です。

図14は気候モデルにより予測された将来の地球温暖化と海洋酸性化によるサンゴの分布予測です。

図14サンゴ分布の将来予測
*出典8:国立環境研究所HP 「サンゴ礁を守り、再生するために」(2014)
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/53/04-09.html

左側のCO2(二酸化炭素)高排出のシナリオでは、2090年にはサンゴが生息できる領域が大幅に狭くなっています。
一方で右側のCO2低排出の持続的発展社会型シナリオでは、沖縄から九州四国にかけてのサンゴの分布が維持されることがわかります。
将来のサンゴ礁を守るためには、二酸化炭素の排出を減らす環境活動が重要であることがわかります。

サンゴ礁を守るためにわたしたちができることは大きくわけて2つあります。
1つ目はサンゴ礁の役割や現状について興味を持ち、理解を深めることです。
サンゴ礁について知ることは、サンゴを守るための直接的な環境活動へ参加する第一歩となるでしょう。
またサンゴを守るさまざまな保全活動への寄付も大切なアクションのひとつです。

そして2つ目は、地球温暖化問題解決への貢献です。
マイボトル、マイバックの持参、エアコンの適切な温度設定など二酸化炭素排出削減のためのアクションを、日々の生活に取り込み実践していくことが大切です。

100年後も美しいサンゴ礁を失わないために、私たちが今できることを考えてみましょう。

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参照・引用を見る
  1. 特定非営利活動法人 美ら海振興会HP「サンゴ礁についてもっと知りたい」
    http://www.churaumishinkokai.com/knowledge/index.html
  1. 国立環境研究所 山野博哉「世界におけるサンゴ礁生態系の動向、今後の予測、適応策に向けた取り組み」(2016)p2
    https://www.env.go.jp/nature/coral/coral-bleaching/04-1_yamano.pdf
  1. 環境省「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」(2016)p5
    https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/pamph/C-project2016-2020_L.pd
  1. 水産庁「サンゴ礁保全活動手引き 第1編 サンゴ礁について」(2015)p3
    https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_hourei/pdf/sango_hozenkatudou_1-2.pdf
  1. WWFジャパン「サンゴ礁の世界的な衰退による経済への影響」(2003)p6
    https://www.wwf.or.jp/activities/lib/pdf_marine/coral-reef/cesardegradationreport100203_Ja.pdf
  1. 国立環境研究所 地球環境研究センターHP「サンゴの白化は温暖化のせい?」(2013)
    https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/18/18-1/qa_18-1-j.html
  1. 日本サンゴ礁学会HP「サンゴ礁Q&A」
    http://www.jcrs.jp/wp/?page_id=622
  1. 国立環境研究所HP 「サンゴ礁を守り、再生するために」(2014)
    https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/53/04-09.html
  1. 環境省HP「国内のサンゴ礁保全の取り組み」
    https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/internal.html
  1. 日本全国みんなでつくるサンゴマッププロジェクト
    https://www.sangomap.jp
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