レアアースの生産と環境汚染 世界と日本が取り組む解決策と都市鉱山の活用を再確認しよう

レアアースは、携帯電話や電気自動車、家電製品など先端技術製品の製造に欠かせない金属であり、「産業のビタミン」とも呼ばれる重要な資源です。

しかし、その原料となる鉱石の多くには放射性物質が含まれており、鉱石の採掘や製錬に伴って多大な環境汚染が発生しています。

この記事では、レアアースの生産に伴って起きている環境汚染について解説すると共に、レアアースの持続可能な利用に向けた世界各国の動向について紹介していきます。

レアアースとは 〜ハイテク産業や環境産業に不可欠な金属〜

レアアースとは、「レアメタル」に分類される元素の一種です。

  • 採掘された鉱石からの分離・回収が難しいこと
  • 工業需要が現に存在し、今後も需要が見込まれること
  • 国内生産がほぼなく、国外からの輸入に頼っていること

などの理由から、埋蔵量が少ない、または抽出が技術的・経済的に難しい金属のうち、工業的な需要のある稀少な金属が選ばれています[*1,*2]。

具体的にはレアアースは、スカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)の2元素に、ランタノイドと呼ばれる15元素を加えた17元素をまとめて言い表す言葉です(図1)。

日本語では、希土類元素と呼びます。

図1:周期表における17種のレアアース元素(黄色の部分)
出典:国立研究開発法人 理化学研究所(理研)「バクテリアやDNAがレアアースをくっつける!?  分子レベルの視点が応用への扉を開く」
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_56/

 

図2:レアアースの主な用途
出典:経済産業省「レアアース希土類」
https://www.meti.go.jp/policy/nonferrous_metal/rareearth/rareearth.html

具体的な用途の例としては、

  • モータの永久磁石
  • HDD用ガラス基板や液晶パネルディスプレイ用の研磨材
  • 自動車の排ガス浄化用触媒
  • LEDなどに使用される蛍光体
  • レーザーの材料

などが挙げられ、ハイテク産業はもちろん、省エネ化や環境汚染防止などに貢献する環境産業にも欠かせない金属となっています[*3](図2)。

今後も需要増加が予想されるレアアースですが、その生産は中国に集中しています。

レアアースは、1980年代中盤までは米国とオーストラリアが主要生産国でしたが、1980年代後半には中国が生産を拡大して低価格のレアアースを大量に輸出するようになりました。

その結果、1990年代末には中国が世界のレアアース生産を独占することとなり、2009年には生産量が世界の97%に達しました。

しかし、2010年における中国の「レアアース輸出規制」によってレアアースの価格が高騰します[*4]。

これを受けて、オーストラリアなどでレアアース生産が再開されることとなり、2018年に中国のレアアース生産量は83%となりました(図3)。

図3:レアアースの生産量と消費量(2018年)
出典:国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「鋳型分離技術を利用した希土類イオンの高精度分離法」(2018)
https://shingi.jst.go.jp/var/rev0/0000/8243/2018_jaea_4.pdf p2

レアアースの採掘と製錬に伴う環境汚染

レアアースの採掘と製錬に伴う環境汚染が問題となっています。

そもそも鉱物資源の採掘では、環境破壊や環境汚染を避けることはできません。
地表を壊し削ることが必要となるので、その地の生態系は破壊されます。

さらに、採掘過程で排出される化学物質が適切に処理されないと、土壌や地下水、地表水などの汚染に繋がります。

また、レアアース鉱石は多くの場合、トリウム232やウラン同位体などの放射性物質を含有しており、その採掘や製錬の過程で放射性廃棄物が大量に発生します。

そのため、廃棄物の厳重な管理が必須で、放射能汚染のリスクも常に付きまといます[*5]。

中国のある地区では、レアアースの採掘に伴って以下のような環境汚染が発生していたと報告されています。

  • 地下水に臭気があり、茶褐色の沈殿物が見られる
  • 農産物の収穫量が通常の6〜7割に留まっている
  • 家畜に奇形などが多発している
  • 空気中の化学物質が反応を起こし、毎日窓ガラスに模様を形成する

2002年の時点で、この地区は汚染が深刻で人が生存するのには適さないと言われていましたが、中国政府は2010年にようやく周辺住民の移民計画を決めました[*6]。

1980年代には、マレーシアにて日本企業の子会社による放射能汚染事件が起こっています。
この事件では、レアアース製錬工場で生じた放射性廃棄物の管理不備によって、近隣住民や従業員などに健康被害が発生しました。
異常出産率が全国平均の3倍となり、子供たちの白血病や癌の発症率も全国平均の40倍以上になったと報告されています。

しかし、同子会社は、放射性廃棄物の漏洩と癌などの病気や先天性異常との因果関係を認めず、製錬工場は1994年に閉鎖されています[*5]。

さらに、2012年には、同じくマレーシアにおいて日本も出資する豪鉱山会社がレアアース製錬工場の操業を開始しました。
オーストラリアで採掘されたレアアースは、マレーシア国内で製錬されて、純度の上がったレアアースのみが日本国内に持ち込まれます。

つまり、放射能汚染などの環境リスクや、廃棄物処理などの環境コストを外国に負担させている状況が現在においても続いているのです[*5,*7](図4)。

図4:レアアースなどの金属や合金を製造する場合やそのスクラップを処理する場合の世界的なマテリアルフロー出典:独立行政法人 産業技術総合研究所(AIST)「Green Report 2013」(2013)
https://unit.aist.go.jp/georesenv/product/gr/green_report2013.pdf p15

レアアースの安定的確保と持続可能な利用に向けた世界の動向

世界各国や日本は、レアアースの安定的確保と持続可能な利用に向けて動き出しています。

中国では、環境リスク・コストを考慮しないレアアースの採掘や製錬に対して規制を強化しています。

2006年には、資源保護・環境保護の目的のため、新たなレアアース鉱山の採掘許可証の発行を停止し[*8]、2011年には、レアアースの輸出割当申請で、環境保護の基準を満たさず、環境保護関連の施設を整備していない企業の割当申請を拒否しました[*6]。

また、2020年には、レアアースなどの製錬によって生じる汚染物質の排出管理・規制を行う法令を施行しています[*9]。

一方、欧州委員会は、2010年の中国によるレアアース輸出規制を受けて、欧州の鉱物資源確保戦略を確立するためのワーキンググループを設置しました。

2015年には、100億ユーロの予算をかけ、官民共同でレアアース等の探鉱や鉱山開発、リサイクル事業を実施すると発表しています[*10]。

さらに、2020年には、レアアースを含む重要資源の確保のため、産業界などを巻き込んだ行動計画を策定しました。

その中で、持続可能かつ社会に配慮したレアアース等の採掘や加工の強化を図ると共に、より環境に配慮した社会へ移行するための採掘・加工技術の開発を進めるとしています[*11]。

欧州同様、日本もレアアースの安定的確保に向けた政策を進めています。
日本政府は2010年、以下の内容を含む「レアアース総合対策」を発表しました[*12]。

  • レアアースリサイクルのための技術開発や設備投資などを支援(図5)
  • レアアースの使用量削減のための設備導入を支援
  • レアアースを使用しない代替材料や新プロセスのための設備導入を支援

図5:レアアースのリサイクル
出典:経済産業省「レアアース総合対策(平成22年度補正)」(2010)
https://www.meti.go.jp/policy/nonferrous_metal/rareearth/taisaku.html

また、企業も政府の支援を受けて、以下のようなレアアース関連技術の開発を進めています[*13]。

  • より資源リスクの高いジスプロシウムを使用しないネオジム系ボンド磁石を活用したEV(電気自動車)モータ実用化技術
  • EVなどのモータに用いる省ジスプロシウム型永久磁石の実用化技術
  • 排ガス浄化用触媒に用いるレアアース等の低減技術
  • レアアース削減に資するハイブリッド自動車用ニッケル水素電池の実用化技術

大量に存在する工業廃棄物を鉱山資源とみなす「都市鉱山」から金属を取り出してリサイクルする取り組みも始まっています[*14]。

その一つとして、産業技術総合研究所は、レアアースを使用して製品を製造する産業とリサイクルを行う産業を連携させることを狙った「戦略的都市鉱山開発拠点(SURE)」を設置しました。

リサイクルしやすいエコデザイン設計、情報利用によるリサイクル装置の自動化、再資源化のための製錬技術などの研究開発に取り組んでいます[*15]。

レアアースのリサイクル率向上のために

日本のレアアースリサイクルは、リサイクル技術が開発途上であることもありますが、何より自動車を除いた家電などの回収率が低いことが課題となっています。

実際に、2013年の報告では、廃棄手続きの煩雑さなどからパソコンの回収率は10%程度と低く、そのほかの小型電子機器は大半が埋立・焼却処分されています。

回収率がほぼ100%の自動車も解体後の部品が海外に流出しているケースがあります[*16]。

電子機器のリサイクルについては、以下のように3つの法律で定められています。

  1. 家電リサイクル法……エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機
  2. 資源有効利用促進法……パソコンや携帯電話など
  3. 小型家電リサイクル法……上記以外の小型電子機器

しかし、パソコン・携帯電話以外のほどんどの電子機器には、不法投棄などの問題があり、リサイクル法の制定が問題解決に繋がっているとは決して言えない状況です(図6)。

図6:大型家電に対する不法投棄台数の推移
出典:環境省「平成30年度廃家電の不法投棄等の状況について」(2018)
https://www.env.go.jp/press/files/jp/113131.pdf p2

その原因の一つとして、回収費用が消費者負担であることが挙げられます。

そのため、不法投棄の防止には、欧州と同様に生産者へ回収・リサイクル費用の負担を義務付けるリサイクル法の制定が有効だと考えられます[*17]。

しかし現状は、リサイクルするか否かは消費者次第ですので、レアアースの持続可能な利用のため、消費者は電気店や自治体にリサイクル費用を支払い、電子機器を廃棄することが重要です。

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参照・引用を見る
  1. 経済産業省「レアメタル・レアアース(リサイクル優先5鉱種)の現状」(2014)
    https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/026_04_00.pdf p1
  2. 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)「バクテリアやDNAがレアアースをくっつける!?  分子レベルの視点が応用への扉を開く」
    http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_56/
  3. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「鋳型分離技術を利用した希土類イオンの高精度分離法」(2018)
    https://shingi.jst.go.jp/var/rev0/0000/8243/2018_jaea_4.pdf p2
  4. 防衛省「日本のレアアース政策とWTO提訴」(2015)
    https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/5-2/5-2-5.pdf p94-95
  5. 学校法人 同志社大学「レアアース製錬に伴うトリウム等の放射性廃棄物管理に関する一考察―エィジアンレアアース(ARE)社事件、ライナス社問題を事例として―」(2014)
    https://doshisha.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=27419&item_no=1&attribute_id=28&file_no=1 p242-248
  6. 大学法人 千葉商科大学「世界のレアアース生産と管理の再構築」(2014)
    https://cuc.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=2480&file_id=18&file_no=1 p133-134
  7. 独立行政法人 産業技術総合研究所(AIST)「Green Report 2013」(2013)
    https://unit.aist.go.jp/georesenv/product/gr/green_report2013.pdf p15
  8. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「中国のレアアース産業、環境問題の圧力増す」(2010)
    https://spc.jst.go.jp/news/101102/topic_2_01.html
  9. 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「中国:中国生態環境部がレアメタル製錬汚染物質排出許可証の申請と発給に関する技術的基準を公表」(2020)
    http://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20150205/1385/
  10. 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「欧州の鉱物資源確保戦略―欧州委員会・ドイツ産業界の事例―」(2015)
    http://mric.jogmec.go.jp/news_flash/20200501/124653/
  11. 独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)「欧州委、重要な原材料に関する行動計画を発表」(2020)
    https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/09/f1e298ad972779dc.html
  12. 経済産業省「レアアース総合対策(平成22年度補正)」(2010)
    https://www.meti.go.jp/policy/nonferrous_metal/rareearth/taisaku.html
  13. 経済産業省「レアメタル・レアアース等の代替材料・高純度化技術開発事後評価の概要」(2015)
    https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/hyoka_wg/pdf/016_s01_00.pdf p11
  14. 独立行政法人 産業技術総合研究所(AIST)「回収が期待される金属 ~戦略メタルの選定~」
    https://unit.aist.go.jp/env-mri/sure/kinzokushigen.html
  15. 独立行政法人 産業技術総合研究所(AIST)「都市鉱山とは」
    https://unit.aist.go.jp/env-mri/sure/about2.html
  16. リデュース・リユース・リサイクル推進協議会「レアメタルリサイクルに関する取組みについて」(2013)
    http://www.3r-suishinkyogikai.jp/data/event/H25R12.pdf p9
  17. 独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)「WEEE(電気電子廃棄物)指令の概要:EU」(2018)
    https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-100601.html

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