最近注目の代替食品 植物性ミルクは本当にサステイナブル?

私たちが日頃から食べている食品の中には、その生産過程や流通において地球環境に多大な負荷をかけているものがあります。そこで、近年、代替食品に注目が集まるようになりました。地球にやさしい代替食品にはどのようなものがあるのでしょうか。

また、代替食品の中でも最近注目されている植物性ミルクには牛乳と比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。

植物性ミルクは本当にサステイナブルなのか、正しい選択のために私たちが気をつけるべきことは何かについてもみていきましょう。

食産業と地球温暖化の関係

国連環境計画(UNEP)によると、2019年の世界の人為起源の温室効果ガス排出量は、およそ591億トンで、温室効果ガスの総排出量は依然として増加し続けています(図1)。2020年は新型コロナウイルス感染症による経済活動の減速が要因となり、一時的に排出量が減少しましたが、今後の長期にわたる排出量削減には大きく寄与しない見込みです[*1]。

図1: 世界の温室効果ガス排出量
出典: 環境省「令和3年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/pdf/full.pdf, p.16

2017年時点の世界の平均気温は工業化以前と比べて約1℃上昇しています。さらに現在の傾向が続けば、2030年から2052年までの間に気温上昇が1.5℃に達する可能性が高いとされています[*1]。

この気候変動問題は、私たちが暮らしていく上でなくてはならない「食」と密接に関係しています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年に公表した「土地関係特別報告書」では、世界の食料システムにおける温室効果ガス排出量(食料の生産、加工、流通、調理、消費等に関連する排出量)が、人為起源排出量の21〜37%を占めると推定されています[*2]。

日本に目を向けると、平均的な日本人の食事に伴うカーボンフットプリント(原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量)は、年間1,400kgCO2eです。
その内訳は割合が高い順に、肉類、穀類、乳製品となっています。肉類の消費は一人一年あたり約35kgで、重量ベースでは5%程度ですが、カーボンフットプリントでは全体の約4分の1(約23%)を占めます[*3], (図2)。

図2: 日本人の食に関連するカーボ゙ンフットプ゚リントおよび物的消費量の割合(2017年)
出典: 公益社団法人地球環境戦略研究機関「1.5°Cライフスタイル ― 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢 https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/technicalreport/jp/10464/1_5_report_A4_FINAL_REPORT_j_web.pdf, p.17

代替肉と環境負荷

このように私たちの食生活は環境に負荷を与えており、近年では環境にやさしい代替食品を選択する消費者も増えてきました。
具体的にはどのような代替食品があり、このような食品を通して私たちはどのように環境負荷の低減に貢献できるのでしょうか。

代替肉は、大豆やえんどう豆など植物由来のタンパク質を使って、本物の肉の風味や食感、見た目に似せた食品です。
ここ数年、アメリカやヨーロッパで大きなブームとなっており、アメリカにおける2020年の代替肉市場は14億ドルに達し、前年比45%増となりました[*4], (図3)。

一方、日本の植物由来の代替肉の市場は2020年、346億円でした[*5]。

図3: アメリカの植物性食品市場
出典: The Good Food Institute 「U.S. retail market data for the plant-based industry」
https://gfi.org/marketresearch/#:~:text=Plant%2Dbased%20meat%20is%20a,%2C%20growing%2045%25%20since%202019

私たちが代替肉を選択することで、具体的に以下のような環境問題の改善に貢献できると考えられます。

温室効果ガス排出量

肉類の生産の過程で温室効果ガスを圧倒的に排出しているのが牛肉です。牛肉1kgあたりの温室効果ガス排出量は60kgCO2eであるのに対して、豚は7.2kg、鶏は6.1kg、豆類は0.8kgです。その排出量は同じタンパク質源である植物性の豆と比較するとおよそ75倍に及びます[*6], (図4)。

図4: 食品サプライチェーン全体における温室効果ガス排出量
出典: Our World in Data「Food: greenhouse gas emissions across the supply chain」
https://ourworldindata.org/explorers/food-footprints?

畜産業で温室効果ガスの排出量が多い理由としては、図4にみられる「土地の利用変化」以外に、家畜のゲップから排出されるメタンガス(温室効果ガスの一種)、家畜の飼料となる穀物の生産、輸送や容器製造などのサプライチェーンが挙げられます[*7]。

水質汚染

また畜産業では、家畜の排泄物による悪臭や水質汚染も問題となっています。
排泄物を積み上げて放置したり、地面に穴を掘って貯めたりといった不適切な処理や保管により、水源が汚染されています[*8]。

水の使用量

原材料の栽培から、生産、加工、輸送、消費、廃棄といった一連のサイクルで使用される水の総量を図る概念としてウォーターフットプリントがあります。
この考え方によると、牛肉には1kgあたり15,415ℓ、豚肉には5,988ℓ、鶏肉には4,325ℓの水が使用されますが、野菜は322ℓです[*9], (表1)。牛を育てるためには多くの飼料を栽培する必要もあり、特に牛肉には大量の水資源が使われています。

表1: 食品のウォーターフットプリント
出典: Water footprint network 「Water footprint of crom and animal product: a comparison」
https://waterfootprint.org/en/water-footprint/product-water-footprint/water-footprint-crop-and-animal-products/

代替シーフードと環境負荷

代替シーフードは、魚介類を使わずに植物性の素材から作られており、海の環境を守り持続可能な漁業の推進に貢献できる代替食品です。

例えば、アメリカのスタートアップ企業Good Catch Foodは、海の環境を守ることをコンセプトとし、6種類の豆(えんどう豆、大豆、ひよこ豆、そら豆、レンズ豆、白インゲン豆)を使用して植物性ツナを製造しています[*10]。

世界の海では、乱獲による資源の枯渇が問題となっています。

世界の水産物漁獲量は、この半世紀の間で飛躍的に増加しました。
1950年に2,000万tだった漁獲量は、1980年代後半には8,000万tになり、1990年代以降は漁獲量が頭打ちになっています。これは漁獲量が増えたことにより世界の水産資源の状態が悪化したためです。

1975年から2015年までの水産資源の状態を比べると、漁獲枠に余裕がある水産物の割合が減り、一方で、枯渇の危機にあるものが増えています(図5)。すでに3分の1の水産物が乱獲状態にあり、漁獲枠に余裕があるのは1割程度に過ぎません[*11]。

図5: 世界の水産資源の動向
出典: 公益財団法人世界自然保護基金ジャパン「持続可能な漁業の推進」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

代替肉と比較すると代替シーフードの実績はまだ少ないのですが、今後私たちの食生活を通して海の環境を守る手段の一つとして期待されます。

植物性ミルクと環境負荷

そして今、牛乳の代替食品として植物性ミルクに注目が集まっています。植物性ミルクとは、大豆やコメ、オーツ、アーモンド、カシューナッツ、ココナッツなど植物由来の原料で作られた飲み物です。

日本では、大豆から作られるソイミルク(豆乳)が以前から広く市場に出回っていますが、現在ではその他の植物性ミルクもスーパーマーケットやコーヒーショップで取り扱われる機会が増えてきました。

さまざまな種類の植物性ミルクと特徴

下の表は、アメリカのデータで、牛乳および植物性ミルクの栄養素(240mlあたり)と、価格(1液量オンス=約30mlあたり)を比較したものです[*12], (表2)。

表2: 牛乳および植物性ミルクの栄養素と価格比較(*無糖)
出典: Northwestern Medicine「Is Oat Milk Healthier Than Cow’s Milk?」
https://www.nm.org/healthbeat/healthy-tips/nutrition/is-oat-milk-healthier-than-cows-milk

アーモンドミルクとカシューミルクは、牛乳(脂肪分1%)や他の植物性ミルクと比較して低カロリーです。
しかしタンパク質量の観点から見ると、ソイミルク以外の植物性ミルクはタンパク質量が少ないことがわかります。
価格はオーツミルクが最も高く、植物性ミルクの中ではソイミルクとカシューミルクが低くなっています。

牛乳生産における環境負荷

牛乳の代替品として植物性ミルクが注目される理由には、乳糖不耐症、牛乳アレルギー、完全菜食を心掛けるヴィーガンなどが挙げられ[*13]、牛乳生産における環境負荷も理由の一つです。

下記の図表は、ミルク200mlを生産する際の温室効果ガス、土地利用、使用水量を比較しています(図6)。
ここで比較されているミルクは、牛乳、ライスミルク、オーツミルク、アーモンドミルクです。

温室効果ガス、土地利用、使用水量のいずれにおいても、4種類の植物性ミルクは環境負荷を低減できることが一目瞭然です。
水の使用量に関しては、アーモンドミルクは200mlあたり74ℓの水、ライスミルクは54ℓの水を必要とするものの、牛乳と比べると低い数値です[*14]。

図6: 1杯のミルクが与える環境負荷
出典: BBC News「Climate change: Which vegan milk is best?」
https://www.bbc.com/news/science-environment-46654042

植物性ミルクの環境負荷

しかし植物由来だからといって、植物性ミルクが環境に良いと言い切ることはできません。
ここでは植物性ミルクの環境負荷についてみていきます。

〈ソイミルク〉

温室効果ガスの排出、水の使用量という点では、大豆の生産における環境負荷は比較的少ないと言えます。しかし土地の使用に関しては、大豆の需要の増加に伴い、大豆を栽培するために熱帯雨林の破壊が行われています。

〈アーモンドミルク〉

植物性ミルクの中でも、アーモンドを生産する過程では大量の水を必要とします。世界のアーモンドの80%を生産するアメリカのカリフォルニア州では1粒のアーモンドを生産するのに12ℓの水が必要です。

〈コナッツミルク〉

ココナッツの需要増加による東南アジアでの大規模栽培の広がりは、トロピカル地域の野生動物の生息環境を脅かすことにつながります。またインドネシアやマレーシア、インドといった地域でのココナッツ栽培の労働環境も問題視されており、収穫に携わる労働者の賃金が1日1ドル以下という場合もあります[*15]。

また、原料の生産地という観点では、大豆やオーツ麦、アーモンド、カシューの多くは日本国外での生産となるため輸入をしなければなりません。輸送に伴い二酸化炭素が排出され地球環境に負荷を与えます。

今後の展望

現在、日本においても、植物性ミルクの市場規模が徐々に拡大しています。2019年10月から20年9月の期間通算の市場規模は、豆乳カテゴリーが対前年同期比3.4%増の410億円、アーモンドミルクカテゴリーは、同17.3%増の53億円で、今後日本でも植物性ミルクの取り扱いが拡大されていくことが予想されます[*16]。

では、海外ではどのような動きがあるのでしょうか。

海外での動向

2020年、アメリカでは植物性ミルクの市場が25億ドルに達しました。これは前年比20%増で、植物性ミルクが植物性食品市場全体の35%を占めています[*17]。

〈Blue Bottle Coffee(アメリカ)〉

カリフォルニア州に本社を置くBlue Bottle Coffeeは、2021年6月、サンフランシスコの3店舗で試験的に、店頭販売とモバイルオーダーで、ミルクベースのメニューには基本的にオーツミルクを使用する取組みを実施しました。この結果、これらの店舗では牛乳の使用量が8%減少となりました。これは同社の温室効果ガス排出量の削減に対する取組みの一つで、今後他の店舗でも同様の取組みを展開するかどうか現在評価が行われています。Blue Bottle Coffeeは2024年までにカーボンニュートラルを達成することをすでに発表しています[*18]。

〈NotCo(チリ)〉

チリの植物性乳製品スタートアップ企業のNotCoは、AIを活用して多様な材料を組み合わせることで、牛乳の味を再現した植物性ミルクNotMilkを開発しました。主な原材料は水、ひまわり油、えんどう豆タンパク質で、2%未満の含有量として、砂糖、パイナップルジュース濃縮物、キャベツジュース濃縮物、炭酸カルシウム、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウムなどを含みます。NotMilkはラクトースフリー(乳糖が含まれない)、グルテンフリー、非遺伝子組み替えで、240mlあたり80kcal、4gのタンパク質を含みます。

同社のウェブサイトでは、NotMilkを購入することは牛乳に比べてどれくらい環境負荷を低減できるかが紹介されています[*19]。

  • エネルギー:74%節約
  • 水:92%節約
  • 二酸化炭素:74%節約

NotMilkはアメリカで自然食品を販売する大手スーパーマケットWhole Foods Marketで取り扱われていることが話題となりました[*20]。

植物性ミルクを選ぶ上で私たちが知っておくべきこと

美味しくてヘルシー、そして環境負荷が抑えられる植物性ミルクですが、正しい選択を行うために私たちが知っておくべきことがあります。

また植物性ミルクには、見た目や美味しさのために甘味料に加えて乳化剤や安定剤、pH調整剤、香料などの添加物が加えられていることもあるため、購入する際には商品の原材料にも注意する必要があります[*21]。

おわりに

普段私たちが何気なく購入している肉や牛乳が、温室効果ガスの排出量増加や水質汚染に繋がっているかもしれません。

代替肉や植物性ミルクなどの代替食品は地球環境への負荷を低減できることが期待されています。欧米ではすでにさまざまな商品展開が行われており、日本でも今後選択肢が増えていくことが予想されます。

しかし必ずしも代替食品が環境に良いと言い切れないことも覚えておかなければなりません。
最近ではオーガニックや無添加、フェアトレードの認証を取得しているものも多くあります。代替食品のメリットとデメリットの双方を理解した上で、そういった食品を進んで選択することは、私たちが日常生活を通して環境負荷低減に貢献する手段の一つになるのではないでしょうか。

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参照・引用を見る

*1
環境省「令和3年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」(2021)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/pdf/full.pdf, p.15, p.16, p.18

 

*2
Intergovernmental Panel on Climate Change「Special Report on Climate Change and Land」(2019)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/4/2021/07/210714-IPCCJ7230-SRCCL-Complete-BOOK-HRES.pdf, p.476

 

*3
公益社団法人地球環境戦略研究機関「1.5°Cライフスタイル ― 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢 ―」(2020)
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/technicalreport/jp/10464/1_5_report_A4_FINAL_REPORT_j_web.pdf, p.17

 

*4
The Good Food Institute 「U.S. retail market data for the plant-based industry」
https://gfi.org/marketresearch/#:~:text=Plant%2Dbased%20meat%20is%20a,%2C%20growing%2045%25%20since%202019

 

*5
シードプランニング(2021)「植物由来の代替肉と細胞培養肉の現状と将来展望」
http://www.seedplanning.co.jp/press/2020/2020060901.html

 

*6
Our World in Data「Food: greenhouse gas emissions across the supply chain」
https://ourworldindata.org/explorers/food-footprints?

 

*7
Our World in Data「Food production is responsible for one-quarter of the world’s greenhouse gas emissions」
https://ourworldindata.org/food-ghg-emissions

 

*8
農林水産省「畜産環境問題とは」
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/01_mondai/

 

*9
Water footprint network 「Water footprint of crop and animal product: a comparison」
https://waterfootprint.org/en/water-footprint/product-water-footprint/water-footprint-crop-and-animal-products/

 

*10
Good Catch Foods「Our Products」
https://goodcatchfoods.com/our-products/

 

*11
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン「持続可能な漁業の推進」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

 

*12
Northwestern Medicine「Is Oat Milk Healthier Than Cow’s Milk?」
https://www.nm.org/healthbeat/healthy-tips/nutrition/is-oat-milk-healthier-than-cows-milk

 

*13
American Society for Nutrition「Going nuts about milk? Here’s what you need to know about plant-based milk alternatives」
https://nutrition.org/going-nuts-about-milk-heres-what-you-need-to-know-about-plant-based-milk-alternatives/

 

*14
BBC News「Climate change: Which vegan milk is best?」
https://www.bbc.com/news/science-environment-46654042

 

*15
IDEAS.TED.COM「Which plant-based milk is better for the planet? This is what the science says」
https://ideas.ted.com/which-plant-based-milk-is-best-for-the-planet/

 

*16
DIAMOND Chain Sore オンライン(2020)「植物性ミルク、健康志向や環境への配慮から人気上昇!使い方訴求で市場にも広がり」
https://diamond-rm.net/sales-promotion/68300/

 

*17
The Good Food Institute 「U.S. retail market data for the plant-based industry」
https://gfi.org/marketresearch/#:~:text=Plant%2Dbased%20meat%20is%20a,%2C%20growing%2045%25%20since%202019

 

*18
Blue Bottle Coffee 「Carbon Neutral by 2024」
https://blog.bluebottlecoffee.com/posts/carbon-neutral-by-2024

 

*19
NotCo「Products」
https://notco.com/us/products

 

*20
Dairy Foods 「NotCo debuts NotMilk plant-based ‘milk’」
https://www.dairyfoods.com/articles/94767-notco-debuts-notmilk-plant-based-milk

 

*21
Ingredi.com 「Why do almond milk and other plant-based beverages contain additives?」
https://ingredi.com/blog/why-do-almond-milk-and-other-plantbased-beverages-contain-additives-/

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