CO2直接回収、太陽光放射操作―気候を工学的に操作する「ジオエンジニアリング」の効果と副作用とは

2021年11月に開かれた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、「産業革命前と比べた世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える」ことが目標として明記されました。

これまで以上にCO2削減の努力が世界各国に求められる中で、CO2の地中貯留や、気候を工学的に操作する「ジオエンジニアリング」の技術が注目されています。
今回はその中でも、代表的な技術を紹介します。

COP26の成果とCO2濃度の変化

2015年に採択されたパリ協定では、温暖化対策として産業革命前と比べて世界の平均気温の上昇を2℃より十分低く保つことが目標とされ、そのうえで1.5℃に抑える努力をするべきとされていました。「1.5℃」はあくまで努力目標でしかありませんでした。

しかし、2021年11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26では「産業革命前と比べた世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える」ことが正式な目標として公式文書に明記されました。これは大きな前進と言えます[*1, *2]。

現在、CO2の大気中濃度は、増加の一途をたどったままです(図1)。
図1: 地球全体の二酸化炭素の経年変化(2021年)
出典:気象庁「二酸化炭素濃度の経年変化」
https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html

上のグラフは、地球全体のCO2濃度の経年変化を示しています。1985年には地球全体のCO2濃度は345ppm程度だったことがわかります。
一方で2020年の世界のCO2平均濃度は413.2ppmであったと報告されています[*3]。35年間で2割程度増加しているのです。

こうした状況を受けて世界中で脱炭素の動きが加速し、日本でも2050年までにカーボンニュートラルを目指すことが発表されました[*4]。

カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること」と定義されています[*4]。
「排出を全体としてゼロ」とは、温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量を差し引いたとき、合計をゼロにすることです(図2)。

図2: カーボンニュートラルとは
出典: 環境省「脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは』」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

世界各国で自然エネルギーの活用、インフラの整備が進められています。しかしそれだけで目標を達成できるかどうかは不透明です。
そこで、CO2削減を加速させるために、既に存在する大気中のCO2を人為的にコントロールしようとする技術が開発され始めています。

CO2を回収して地中貯留

大気中のCO2濃度をコントロールする技術のひとつとして、二酸化炭素回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)技術があります。排出源となる発電所や化学工場などから排出されたCO2を直接分離・回収して、地中深くに貯留・輸送・圧入するものです(図3)。

図3: CCSの流れ
出典: 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html

本来なら大気中に放出されてしまうCO2をその前に直接回収するため、大気中のCO2濃度の低減に大きく貢献できるという理論です。

しかしながら、以下のような課題も残されています[*5, *6]。

  • コストが高い。
  • 安定的に分離できる技術の確立が必要。
  • CO2貯留地の確保が必要。
  • 即効性がない。

日本では2012年から、北海道・苫小牧で実証実験が行われています[*7]。

CO2貯留地をより簡単に確保するために地層の状態を評価する手法や、コストを下げるためにマイクロバブル(微細気泡)を利用してCO2貯留性を高める手法などが研究されており、これらの課題解決に期待が寄せられています[*8]。

これに加え、近年ではさらなる新技術が提唱され始めました。

「ジオエンジニアリング」の可能性

近年登場した新技術とは「ジオエンジニアリング」と呼ばれるものです。

「気候工学」とも呼ばれており、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)では、「気候変動の影響を緩和するために気候システムを意図的に改変する幅広い手法や技術」と定義されています[*6]。

経済の発展を維持しながらCO2の削減も両立させる技術として期待されているジオエンジニアリングの手法は、大きく分けて以下の2つがあります(図4)。

・二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)
大気中のCO2を集めて地下や製品中などに永久的に貯留する技術です。

・太陽放射管理(SRM:Solar Radiation Management)
地球が受け取る太陽のエネルギーを人為的に少なくする技術です。

図4: 提案されている主なジオエンジニアリング手法の概観
出典: 気象庁「 IPCC第5次評価報告書 第1作業部会報告書 よくある質問と回答」(2013)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf, p.33

大気中からCO2を除去する「CDR法」

まず、ジオエンジニアリングの手法の1つである「CDR法」は、大気中のCO2を集めて地下や製品中などに永久的に貯留する技術で、以下の2つの方法に大別されます[*9]。

・自然プロセスを利用する手法
海洋鉄散布、土壌へのアルカリ物質の散布、バイオ炭など

・工業的手法
CO2の直接空気回収

CDR法はエネルギーの制約や装置の設置環境の制約などがあり、大規模な実施は難しいとされていますが[*6]、より多くのCO2を回収できるため開発に力を入れている企業や研究機関が多数あります。

実業家のイーロン・マスク氏は2021年、CDRをテーマとしたコンペティション「XPRIZE Carbon Removal」を開催することを発表しました。賞金総額は1億ドル(約105億円)で、CDR技術の発展を促進する目的があります[*10]。

また、米マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏もカーボン・エンジニアリングの会社を後押ししており[*11]、ジオエンジニアリングの手法の中ではコストの低いCDR技術実現のために世界で研究が進められています。

太陽放射を管理して地球を冷やす「SRM法」

そして、大きな注目を集め始めているのがもう1つの「SRM法」です。
地球が受け取る太陽のエネルギーを人為的に少なくするという方法です。

宇宙空間に反射材を置いたり、海面を泡立て反射率を高める方法など様々な手法が検討されています。「CDR法」よりも即効性があるとする説もあり、10~20 年以内に工業化以前の水準まで気温を下げることができるという予測もあります[*6]。その「SRM法」の中でも実現性が高いと考えられているのが「成層圏エアロゾル注入」という方法です。

注目を集める「成層圏エアロゾル注入」

実現性が高いと考えられている「成層圏エアロゾル注入」は、成層圏に人工的に粒子を注入して太陽光を地表に届く前に反射させるという、じつにダイナミックなものです[*6]。

「成層圏エアロゾル」のアイデアは 、1991年にフィリピンのピナトゥボ山が噴火した際、成層圏のエアロゾルが一時的に増加し、世界全体の平均気温が約0.5℃低下したことに着想を得たものです[*9]。

「成層圏エアロゾル注入」はアメリカ政府も注目しており、400万ドル(約4億5千万円)の予算を計上しています[*12]。

意図せぬ「副作用」や倫理的課題も

「成層圏エアロゾル注入」は短期間で効果を得ることができるとされていますが、以下のような副作用や倫理的課題があります[*6, *13]。

  • 日射量が低下し、降水量が減少する地域が発生する。
  • エアロゾルに使われる硫酸塩が酸性雨を増やす可能性がある。
  • エアロゾル注入を止めると温度が上昇し、植物の呼吸が増加するため、固定された炭素の大部分が急速に放出される。
  • CO2を減らすことを目的としていないため、エアロゾル注入を止めると温暖化が急激なスピードで進行し、生態系へ大きな影響を与える。
  • 大気中のCO2が減少する訳ではないので、海の酸性化を食い止めることはできない。

これらの「副作用」については、今後詳細な分析が待たれます。

人類の技術で地球を治療できるのか

現在、地球は温暖化対策をしなければ、2100年には最悪の場合5.7℃世界の平均気温が上昇すると予測されるほど切迫した状況に置かれています(図5)。

図5: 世界平均気温の変化予測(観測と予測)
出典: 全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)(2021)
https://www.jccca.org/download/43044?parent=chart&chart_slug=&photogallery_slug=&keyword=#search

地球温暖化については、1970年代から研究者の間で議論が行われており、1985年には温暖化に関する世界会議(フィラハ会議)が開催され、それ以降も、度々国際的な議論の場で取り上げられています[*14]。

しかしながら、 平均気温の上昇を1.5℃に抑えるという目標は簡単なものではありません。

この問題を解決するために、CDR法やSRM法といったジオエンジニアリングの研究が進められており、それらの技術の発展は私たちの希望でもあります。

しかし、技術に頼るだけではこの目標を達成できません。さらなる省エネの実現や自然エネルギーの活用など、地道な活動も必要不可欠であり、私たち一人ひとりの取り組みが地球温暖化という大きな問題の解決につながるのです。

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人国立環境研究所「COP26閉幕:「決定的な10年間」の最初のCOPで何が決まったのか?」(2021)
https://www.nies.go.jp/social/navi/colum/cop26.html

*2
環境省「国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)結果概要」(2021)
http://www.env.go.jp/earth/COP26%E7%B5%90%E6%9E%9C%E6%A6%82%E8%A6%81%EF%BC%8820211125%E6%99%82%E7%82%B9%EF%BC%89.pdf, p.1

*3
気象庁「二酸化炭素濃度の経年変化」(2021)
https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html

*4
環境省「脱炭素ポータル」(2021)
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

*5
公益財団法人地球環境産業技術研究機構「CO2地中貯留の概要」(2007)
https://www.rite.or.jp/Japanese/project/tityu/choryutoha.html

*6
環境省「IPCC第5次評価報告書 第1作業部会報告書 よくある質問と回答」(2013)
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_faq_jpn.pdf, p.33, p.34,p.35,  p.37

*7
資源エネルギー省「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html

*8
公益財団法人地球環境産業技術研究機構「研究内容」(2021)
https://www.rite.or.jp/co2storage/detail/#anch03

*9
藤原 正智「ジオエンジニアリング:新しい温暖化対策?」北海道大学 理学部地球惑星科学科 (2014)
http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/readings/2014/koukaikouza2014/2014text_6.pdf, p.2

*10
Xプライズ財団「XPRIZE Carbon Removal」(2021)
https://www.xprize.org/prizes/elonmusk

*11
BBCグローバルニュースジャパン株式会社「二酸化炭素を大気から吸収する新技術 加企業、低コストで」(2018)
https://www.bbc.com/japanese/44409827

*12
Science「U.S. geoengineering research gets a lift with $4 million from Congress」(2020)
https://www.science.org/content/article/us-geoengineering-research-gets-lift-4-million-congress

*13
国立環境研究所 地球環境研究センター「気候工学による日射量調節が生態系機能に与える影響」(2017)
https://cger.nies.go.jp/cgernews/201706/318005.html

*14
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)「いつから地球温暖化が問題とされるようになったのか」
https://www.jccca.org/faq/15922

 

 

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