外来種はどうして悪いとされるの? 日本における外来種の現状や対策とは?

近年、海外から運ばれてきたコンテナの中に、日本には生息しないヒアリが発見され大きなニュースになりました。このように、もともとその地域にはいなかったのに人間の活動によって外部から持ち運ばれてきた生物を外来種と言います。

刺されると死に至る恐れがあるため、ヒアリ発見時には大きなニュースとなりました。しかしながら、ヒアリのみならず、日本国内にはヒアリのような外来種が既に数多く存在します。

それでは、現在日本ではどれほどの外来種が存在するのでしょうか。また、持ち運ばれると悪影響を及ぼすとされる外来種ですが、具体的に何が問題なのでしょうか。さらに、外来種対策として現在、どのような対策が取られているのでしょうか。

外来種とは

外来種とは、もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを指します[*1]。外来種というと外国から入ってきた生物のイメージがありますが、国内の他地域から持ち込まれた場合にも外来種と呼ばれ、特に「国内由来の外来種」といいます。
外来種の定義のポイントとしては、意図的・非意図的を問わず人によって持ち込まれた場合であり、渡り鳥など自然の力で移動する動物は外来種には当てはまりません。

日本における外来種の現状

国家間で人の往来や物流が活発化した明治期以降、ペットや展示用、食用、研究目的などで動植物が輸入されるようになったことにより、外来種は増加しました。その数は現在2000種類以上にのぼるとされ、四つ葉のクローバーでおなじみのシロツメクサや、アメリカザリガニも外来種です[*1]。

侵略的外来種とは

外来種の中でも在来の環境に大きな影響を及ぼす外来種を、「侵略的外来種」といいます[*2]。

侵略的外来種は、在来生物を食べて駆逐してしまったり、近縁の種との間で交配を起こし、雑種が生まれることによって遺伝子の汚染が進んだりするなど様々な問題を引き起こします。また、元々の生態系が崩れることによってその地域の農産物や森林、海であれば漁業資源の減少など、二次的な被害につながるなどの悪影響も懸念されます。

国内で、生態系への悪影響が大きい侵略的外来種ワースト100として記載されている動植物の中には、ブルーギルやイエシロアリなど外来種として有名なものから、アライグマやヤギなど外来種としてあまり認知されていない生物まで様々な生物が含まれます[*3]。

外来種がもたらす悪影響

生態系や自然環境に大きな影響を及ぼす外来種ですが、具体的にどのような悪影響を及ぼしているのでしょうか。

生態系に与える影響

外来種の中には、在来の自然環境に適応してその生態系を崩す生物がいます。例えば、生態系へ甚大な被害を及ぼしている生物として、アメリカザリガニが挙げられます。

アメリカザリガニは元々、アメリカで食べられていたウシガエルを日本でも養殖しようと持って来た際、ウシガエルのエサであるアメリカザリガニも同様に持ち込んだことで国内に定着しました[*4]。日本に持ち込まれたアメリカザリガニは、ウシガエル養殖場で飼育されていましたが、養殖場の閉鎖に伴い付近の河川や池などに逃げ、繁殖しました。その後、自然的な分散の他、人による持ち運び等によって全国各地で繁殖することとなりました。

全国各地で見られるアメリカザリガニですが、問題とされる理由の一つとして、池にある在来の水生植物を全て切ってしまうことがあります。水草はアメリカザリガニの餌になります。そのため、アメリカザリガニは池に放流されると、食べるために水草を切ってしまいます。すると、在来生物の住処や卵を産む場所、隠れる場所がなくなってしまいます。それにより、捕食されやすくなってしまい、生態系のバランスが崩れてしまします[*5]。

また、小さい魚や昆虫など生態ピラミッドの中位にいる生物がいなくなるため、下位にある植物プランクトンや窒素・リンなどが余ります。そうなると池が濁ってしまうため水鳥も近寄らなくなってしまうという悪循環に陥ってしまいます。

アメリカザリガニによる被害は全国各地で発生しています。例えば、石川県金沢市にある日本固有種のシャープゲンゴロウモドキが生息していた池では、アメリカザリガニの侵入により個体数が減少しました。このように、外来種が入ってくることによって、在来の生態系が崩れてしまうという問題が生じてしまいます[*5]。

農作物に与える影響

また、外来種は農作物への被害など人々の生活にも大きな影響を及ぼす場合があります。例えば、愛らしい動物として人気の高いアライグマは、農作物などへ深刻な被害を及ぼしています。元々愛知県犬山市の動物園で飼育されていたアライグマが逸走したことが、国内で野生化してしまった最初のきっかけとされています[*6]。また1970年代後半以降、テレビアニメの影響で飼育ブームとなり、国内で飼われたアライグマが捨てられたことなどにより、野生化した個体数が増加したとされています。

アライグマによる農作物被害は全国各地で報告されていますが、被害額の半分近くが近畿地方に集中しています[*7]。野生化したアライグマは、トウモロコシやスイカ、イチゴなど甘い野菜や果物を好んで食べ、農家にとって重大な損失となります。

兵庫県では平成28年度に約5900万円もの農業被害があったと報告され、大阪府では平成28年度に過去最悪の約3000万円もの農業被害があったとされています。

図1: 大阪府のアライグマ捕獲頭数と農業被害
出典: 産経新聞「『ラスカル』どころか害獣 近畿でエスカレートするアライグマ被害」
https://www.sankei.com/gallery/20180713-3XVAW2GOR5I5VKEGBDTHV3LAXU/

また、農作物被害だけでなく、住宅の天井裏で繁殖して糞尿をまき散らす被害や、池の鯉や金魚など観賞魚を食べる、ゴミをあさるなど人の生活圏にも入り込んでいます。さらに、野鳥の卵やカエルも食べるため、生態系への悪影響も懸念されています。

このように、生態系へはもちろんのこと、人の住む環境に進出してきた外来種によって農作物などの被害が発生することもあります。

人の生命や健康に影響を与える外来種

さらに近年では、生態系や農産物のみならず、生命や健康への被害が懸念される外来種も問題視されています。

例えば、中南米原産のヒアリは、コンテナ等により国内に持ち込まれ、2017年6月から2019年12月までの間に48事例発見が確認されました[*8]。ヒアリは攻撃性が非常に強く、刺されると激しい皮膚症状が発生し、アナフィラキシーショックにより死に至ることもあるとされます。

日本各地の港湾地域で発見され、場所によっては1000個体以上も発見されるなど、日本への定着が懸念されています。物流の国際化に伴い、多国間貿易が進展する中でヒアリのような人体に影響を及ぼす外来種の侵入をいかにして食い止めるかが課題となっています。

また、ヒアリのようなアリだけではなく、外来種のクモなども健康被害を与えることがあります。例えば、国内44都道府県で既に確認が報告されているセアカゴケグモは、嚙まれたり刺されたりすると、その箇所に痛みや発熱などを発症します。場合によっては数週間脱力や頭痛、筋肉痛、不眠などの全身症状が継続することもあり、重症例では筋肉麻痺が発症したと報告されています[*9]。

セアカゴケグモはオーストラリア原産のクモで、日当たりが良い場所や、ベンチの裏やエアコンの室外機の下など、温かい場所の物陰や隙間に生息しているとされ、人の生活圏に入り込んでいる外来種といえます。

どのような外来種対策が行われている?

以上のように多大な被害を及ぼす外来種ですが、外来種対策として、持ち込まれた外来種を駆除するための取り組みや、そもそも持ち込ませない予防の取り組みが行われています。

外来種を駆除するための取り組み

既に国内に持ち込まれて繁殖してしまった外来種は、外来種の完全駆除を行う必要があります。

奄美大島におけるマングース駆除

例えば、地道な捕獲によって効果を挙げている事例として、奄美大島における奄美マングースバスターズによる取り組みが挙げられます。当初はハブなどの駆除としてインドから導入されたマングースでしたが、結果としてアマミノクロウサギやアマミイシカワガエルなどの在来種を捕食してしまい、元々の生態系が崩れてしまいました[*10]。

ピーク時には10000頭まで増えたとされるマングースですが、マングース防除事業の開始とともに、奄美マングースバスターズというマングース捕獲の専門チームが結成されました。奄美マングースバスターズは、捕獲わなの設置、自動撮影カメラによるマングース生息情報の収集、マングース捜索犬による細部までの捜索、新しいわなの開発を実施しています。

図2: マングースの捕獲状況
出典: 奄美野生生物保護センター「外来種対策」
http://kyushu.env.go.jp/okinawa/awcc/alien-species.html

マングースバスターズによる取り組みの結果、マングースの数は減少しており、図2のように捕獲数は年々減っています。

既に定着してしまった外来種に対しては、このような地道な捕獲活動による駆除が行われています。

ゲノム編集による外来魚駆除

外来種の駆除のための新たな取り組みとして、近年ゲノム編集の技術(遺伝情報の操作技術)を用いた外来魚駆除が注目を集めています。

まず、ゲノム編集技術によって雌を不妊化させる遺伝子をもった雄をつくり、池や湖など対象水域に放流します。放流後、雄が池にいる雌と交配をすることによって、生まれてきた次世代の雌は不妊になります。不妊化した雌が増えると子孫を残せる個体が減ってくるため、最終的には全ての個体を根絶できるという流れになります(図3)。

図3: 不妊化魚による根絶の概念図
出典: 水産研究・教育機構「増養殖研究レター 第8号(2019年3月)設立40周年記念号」
http://nria.fra.affrc.go.jp/kenkyu/k_topics/zletter8_17.pdf, p.17

外来種を予防するための取り組み

 

外来種を根絶するためには、定着した外来種を駆除するだけでなく、そもそも持ち込まないことが重要です。政府は、外来種被害予防三原則として、「入れない」、「捨てない」、「拡げない」を掲げ、水際対策を行っています(図4)。

図4: 外来種被害予防三原則
出典: 環境省自然環境局「生態系被害防止外来種リスト」
http://www.env.go.jp/nature/intro/4document/files/list_ippan.pdf, p.1

例えば、ヒアリの予防策として環境省では、コンテナ等の発送元である中国に対策の強化を依頼するとともに、全国各地の港湾での検査・防除を実施しており、国内に定着しないような水際対策を実施しています[*11]。

国際的な貿易が今後ますます盛んになる中で、一国のみならず、多国間で連携して外来種を元々の生活環境から持ち出さないようにすることが予防対策として重要と言えます。

外来種から身を守るためには

近年、ヒアリのように人の身体に被害を及ぼす外来種が国内に進出しつつあります。物流の国際化が進む中で政府の水際対策だけでは、防ぎきれなくなっています。

私たち一人ひとりが「外来種被害予防三原則」を意識して国内に外来種を持ち込まないようにすることが重要です。特に、ペットとして飼っている外来種を安易に捨てないことは、個人にできる大切な取り組みです。飼っていた亀や魚を池に放さないなど、当たり前のことですが、一人ひとりが責任を持ち、飼育の計画を事前に立てた上で飼うことが大切です。

また、外来種に関する知識を持って、万が一発見した場合にはどのように対処するべきかをしっかりと理解しておくことも重要です。例えば、ヒアリのような外来種を発見した場合は、安易に近寄らず最寄りの自治体や環境省管轄の事務所に連絡することなどが、自分の身を守るポイントとなるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
環境省「侵略的な外来種」
http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/invasive.html

*2
WWFジャパン「外来生物(外来種)問題」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3557.html

*3
愛媛県「愛媛県野生動植物の保護に関する基本指針の公表について 別表8 日本の侵略的外来種ワースト100」
https://www.pref.ehime.jp/h15800/6237/documents/s-8_1.pdf

*4
環境省「なぜそこら中に? まだ大丈夫なところもあります!」
https://www.env.go.jp/nature/amezari_keii.html

*5
環境省「何が問題なの? 水草、全部切る!?」
https://www.env.go.jp/nature/amezari_mondai.html

*6
国立環境研究所「侵入生物データベース アライグマ」
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10150.html

*7
産経新聞「『ラスカル』どころか害獣 近畿でエスカレートするアライグマ被害」
https://www.sankei.com/article/20180713-XCKE3RBETNKAPFND4GU6CN6U4A/

*8
日本環境衛生センター「人の生命や身体に被害を及ぼす虫たち-ヒアリ、セアカゴケグモ、ダニ類など-」
https://www.jesc.or.jp/library/tabid/359/Default.aspx

*9
東京都環境局「危険な外来生物」
https://gairaisyu.metro.tokyo.lg.jp/species/danger_01.html

*10
奄美野生生物保護センター「外来種対策」
http://kyushu.env.go.jp/okinawa/awcc/alien-species.html

*11
環境省「特定外来生物ヒアリに関する情報」
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/03_public/index.html

 

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