スズメやツバメも絶滅危惧種に指定される時代がくる? 野鳥が教える生物多様性の重要性

スズメやツバメは、私たちにとって身近な野鳥です。スズメは多くの人がその姿を見たことがあるでしょうし、家の軒下に作られるツバメの巣は、初夏の訪れを告げる風物詩として親しまれてきました。

しかし、2021年の環境省の調査では、スズメやツバメといった身近な野鳥が減少していることが報告されています。

今回は身近な野鳥を通して、人間が環境に与えている影響や生物多様性について考えます。

スズメの個体数が減少…絶滅危惧種指定の危機も

環境省が2016年から2021年にかけて約20年ぶりに実施した「自然環境保全基礎調査全国鳥類繁殖分布調査」(以下「全国鳥類繁殖分布調査」)では、スズメやツバメ、ムクドリといった身近な野鳥が減少していることが報告され、同省は「このままのペースで減少し続けると、将来的には絶滅危惧種に指定するなど対策の可能性が出てくる」との見解を示しています[*1],[*2],(図1)。

図1:1990年代と2016-2021年(5年間)の調査結果を比較した身近な種の個体数変化
環境省「全国鳥類繁殖分布調査報告日本の鳥の今を描こう 2016-2021年 別紙『減少した種』」
https://www.env.go.jp/press/files/jp/117008.pdf

日本だけではない野鳥の減少

野鳥の減少は日本に限ったことではありません。

2019年の研究によると、アメリカとカナダでは何百種類もの鳥の個体数が減少していることが報告されました。その数は30億羽近くに上り、1970年から比較すると約29%減少していることになります[*3]。

さらに、減少した種の90%がスズメ、ウグイス、ツバメなど身近で数の多い鳥であることも分かりました[*4]。

また、国際環境NGOの一つであるバード・ライフ・インターナショナルのデータでは、ヨーロッパ全体で1980年の野鳥の数と比較すると2010年には、約3億羽減少したことが分かっています[*5]。

野鳥減少の理由

国内外の野鳥についての調査や研究では、野鳥減少の原因について、様々な議論が行われています。

日本における野鳥減少の理由

「全国鳥類繁殖分布調査」では、野鳥が減少した理由までは明確に調査されていませんが、野鳥の生態や生息地などから下記のように予想されています。

・餌となる昆虫の減少
環境省が行った生物多様性に関する調査「モニタリングサイト1000」では、里地調査によりチョウ類の減少傾向が示唆されており、鳥類の餌となる昆虫の減少が鳥類の減少につながっている可能性も示唆されています[*6],[*7]。

・生息地となる農地の変化
「全国鳥類繁殖分布調査」では、農地など開けた場所に生息する鳥類の減少が認めらました[*7]。特に、ツバメ、スズメは1990年代の調査時の農地の面積割合と個体数を比較すると、2016-2021年の5年間の調査結果では、農地割合が高くなるほど、減少度が高くなっています(図1)。

同調査ではツバメ、スズメの個体数の減少の直接的な原因については言及されていません。しかし、農地で鳥類が減る理由として耕作放棄地の増加、農地の質的な変化などが関係している可能性があるとしています。

例えば、東京の農地に植えられる作物が麦から野菜に変わったことで、ヒバリが減少した事例、土地改良により排水性が高くなった水田では水生生物が減り、それを餌とする鳥類が減った事例があります[*7]。

耕作放棄地の増加や農地の質的な変化が鳥類の減少にどう関係しているか、今後も調査を進める必要があります。

海外における野鳥減少の理由

バード・ライフ・インターナショナルの報告では鳥類の8種に1種が絶滅危機に瀕していることが示されており、その原因として以下5つが挙げられています[*8]。

・工業型農業
農業の拡大と集約化が世界の絶滅危惧種のうち74%もの種に影響を及ぼしています。
また、殺虫剤として使われているネオニコチノイドが渡り鳥(ミヤマシトド)の体重と体脂肪を減らしていることが報告されました。

・森林伐採
紙やバイオ燃料などの需要が高まったことで森林伐採が進み、森林を住処にしている鳥類に影響が及んでいます。

・外来種
世界各国で植物や魚類、哺乳類など外来種の被害が確認されており、国際自然保護連合(IUCN)の評議会でも「外来侵入種によって引き起こされる生物多様性減少防止のためのIUCNガイドライン」が採択されています[*9]。
鳥類でも外来種による個体数の減少が起こっており、特に島国では外来種による被害は顕著に現れます。

・人間による乱獲
珍しい鳥類は密猟の対象になります。例えばオナガサイチョウという鳥は、くちばしの上の「カスク」と呼ばれる突起が高値で売買されるため乱獲され、絶滅の危機に瀕しています[*8]。

・気候変動
世界的な気候変動の影響で、生物の繁殖や鳥類の渡りのサイクルに変化が表れています。2018年の研究では、イギリスの春の訪れが早くなったことで鳥類の餌となる毛虫の発生ピークも早まり、ひな鳥の巣立ちに必要な餌が取れなくなったことが報告されています[*10]。

野鳥だけではない野生動物の減少

個体数が減少しているのは鳥類に限ったことではありません。昆虫や哺乳類などでも個体数の減少が報告されています。
世界自然保護基金(WWF)の調査では、野生生物の個体数が過去50年未満で3分の2以上減少したと報告されました[*11]。

その中でも減少が顕著なものを紹介します。

2019年の研究によると、アメリカのミツバチの群れの約40%がいなくなったことがわかりました[*12]。

また、ミツバチだけでなく世界の昆虫の40%の種が減少傾向を示しており、このまま同じスピードで減少すれば、2119年までに地球上から昆虫がいなくなってしまう可能性があるとも述べられています[*12]。

絶滅した野生動物、絶滅の危機に瀕している野生動物はなぜ個体数が減少したのか

過去に絶滅に追いやられた野生動物、現在絶滅の危機に瀕している野生動物はたくさんいます。
彼らはなぜ個体数が減少してしまったのでしょうか? 2つの事例を紹介します。

・トキ
トキはペリカン目トキ科トキ族に分類される鳥で、日本ではしばしばニュースに取り上げられるため、その名前を聞いたことがある人は多いでしょう。

トキは江戸時代には北海道から九州まで生息していましたが、急速にその数が減少し、1981年には野生のトキの全数が捕獲され「野生絶滅」となりました[*13],(図2)。

図2:トキの個体数の推移、個体数を対数で示す
出典:林野庁「トキの野生復帰のための生息環境の整備方策策定調査 報告書」(2005),p.8
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/shiraberu/policy/pes/satotisatoyama/satotisatoyama02.html

野生のトキが絶滅した理由は、明治時代に起こった乱獲、殺虫剤や除草剤などの影響、開発による生息地の環境悪化だと考えられています[*13]。

・ケープペンギン
ケープペンギンはアフリカ大陸に生息している唯一のペンギンで、国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種に指定されています。
ケープペンギンは過去30年間で73%減少し、このままではあと15年で野生のケープペンギンが姿を消す可能性があると言われています[*14]。

ケープペンギン減少の原因は、餌となるイワシの気候変動による減少や乱獲です。
さらに、漁業用の網がペンギンに絡まりケガをした事例も報告されています[*14]。

野生生物との共生を目指すライフスタイル

ここまで、気候変動や人間による乱獲、生息地の減少などで野生動物が減少したことを紹介しましたが、野生動物との共生を目指す事例もあることを紹介します。

・兵庫県豊岡市コウノトリの野生復帰プロジェクト
日本のコウノトリは、1971年の目撃を最後に絶滅したといわれています。その原因として、農地の整備や森林伐採による生息地の減少、農薬の使用による餌となる生物の減少、有害物質の蓄積による繁殖能力の低下が挙げられています[*14]。

そこで、豊岡市と兵庫県は野生のコウノトリを増やすべく、2003年からJAと連携して「コウノトリ育む農法」を行ってきました。
その農法はできるだけ農薬を使わずイネを育てるという農法で、2009年度時点で、全体の約7%にあたる212.3haの水田が実施しています[*14],(図2)。

図3:「『コウノトリ育む農法』栽培面積(豊岡市)」
出典:環境省「 コウノトリの野生復帰とコウノトリを育む農法」
https://www.wbsj.org/activity/spread-and-education/toriino/toriino-kyozon/symbiotic-relationship/

また、「コウノトリ育む農法」を実施する農家には、農地の面積に比例して委託料が支払われる仕組みです。
この取り組みは、水田の生物多様性を高めると同時に、農家の収入アップ、地域活性化につながっています。

・オーストラリアのエコツーリズム
オーストラリアのグレートバリアリーフは世界的にも有名な観光地ですが、2016年、2017年の夏にサンゴの白化現象が起こりました[*16]。ここ数年でサンゴは回復の兆しを見せたものの、現地の科学者たちによってサンゴを守るための対策は続けられています。

グレートバリアリーフでは、環境に負荷をかけないグリーンツーリズムを実施することで、観光客に環境保全の啓蒙を行い、観光客には環境保護税を課しています。この税金を使い自然保護活動を実施しているのです[*17]。

人間だけではなく、野生動物も取り残さない社会に

現在、鳥類の8種に1種が絶滅危機に瀕しています[*8]。しかし、その事実に危機感を持っている人はどれだけいるでしょうか? たくさんいる野生動物が少なくなっただけで、大きな問題ではないと思っている人が多いかもしれません。

実際は、小さな野鳥や昆虫であっても、大きなサイクルで見れば私たちの生活に関わっています。

例えば、スズメは水田でイネを食べてしまうこともありますが、イネの生育を邪魔する害虫や雑草の種を食べ農業被害を少なくしてくれていますし[*18]、ミツバチも植物の受粉を助ける大切な役割があります[*19]。

生物多様性を失うということは、私たち人間の生活の豊かさも失われるということです。
このまま生産性を追求して大量の農薬を使い続け、所かまわずごみを捨て、無計画な森林伐採を続けていれば、さらなる野生動物の減少を引き起こすでしょう。

2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」では、「誰一人取り残さない」という理念が掲げられていますが、これからは、人間だけでなく野生動物も取り残さない社会を実現しなければなりません。

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参照・引用を見る

*1
環境省「自然環境保全基礎調査全国鳥類繁殖分布調査(2016-2021年)について」(2021)
https://www.env.go.jp/press/110125.html

*2
時事通信社「スズメ、ツバメ大きく減少 将来『対策の可能性』―環境省調査」(2021)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021102501075&g=soc

*3
Science「Decline of the North American avifauna」(2019)
https://www.science.org/doi/full/10.1126/science.aaw1313

*4
The American Association for the Advancement of Science (AAAS)「New study finds US and Canada have lost more than 1 in 4 birds in the past 50 years」(2019)
https://www.eurekalert.org/news-releases/813221

*5
BirdLife International「Europe-wide monitoring schemes highlight declines in widespread farmland birds」(2013)
http://datazone.birdlife.org/sowb/casestudy/europe-wide-monitoring-schemes-highlight-declines-in-widespread-farmland-birds

*6
環境省「モニタリングサイト 1000」(2021)
http://www.biodic.go.jp/moni1000/grasp.html

*7
環境省「自然環境保全基礎調査全国鳥類繁殖分布調査(2016-2021年)」
https://bird-atlas.jp/news/bbs2016-21.pdf, p.158,p.159

*8
一般社団法人バードライフ・インターナショナル東京「鳥を脅かす意外な脅威トップ5
(2018)
https://tokyo.birdlife.org/archives/world/15746

*9
国立研究開発法人国立環境研究所「外来生物問題、世界の視点と動向」(2005)
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/18/12-13.html

*10
INDEPENDENT「Climate change leaves birds hungry as chicks hatch too late to eat caterpillars」(2018)
https://www.independent.co.uk/climate-change/news/climate-change-hungry-birds-chicks-late-caterpillars-spring-woodland-flycatchers-a8318366.html

*11
BBC「野生生物が『壊滅的減少』過去50年で3分の2が減る=WWF」(2020)
https://www.bbc.com/japanese/54097456

*12
Business Insider「Last year, 40% of honey-bee colonies in the US died. But bees aren’t the only insects disappearing in unprecedented numbers.」(2019)
https://www.businessinsider.com/insects-dying-off-sign-of-6th-mass-extinction-2019-2?utm_source=intl&utm_medium=ingest

*13
林野庁「トキの野生復帰のための生息環境の整備方策策定調査 報告書」(2005)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kakusyu_siryo/pdf/00417_0_h16_001.pdf, p.7,p.8,p.9

*14
ナショナル ジオグラフィック「ケープペンギンが危ない、15年後に絶滅の恐れも」(2021)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/photo/stories/21/111000068/

*15
環境省「コウノトリの野生復帰とコウノトリを育む農法」(2009)
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/shiraberu/policy/pes/satotisatoyama/satotisatoyama02.html

*16
WWFジャパン「グレートバリアリーフで過去最大規模の白化現象」(2016)
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/752.html

*17
オリックス株式会社「グレートバリアリーフを観光し、自然保護に参加するエコツーリズム」(2020)
https://www.orix.co.jp/grp/move_on/entry/2020/02/19/100000

*18
三上修『スズメの謎』誠文堂新光社,  p.107

*19
一般社団法人 日本養蜂協会「ミツバチと花のパートナーシップ」
http://www.beekeeping.or.jp/honeybee/partnership

 

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