健康寿命をのばすPHR(パーソナルヘルスレコード)を活用しよう 国内外の導入事例は?

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは、Personal Health Recordの頭文字をとった言葉で、個人の健康・医療・介護データを生涯にわたって記録していく取り組みです。

PHRによって、これまでは母子手帳やお薬手帳など個人でバラバラに管理していたデータが行政や医療機関に集積されます。集められたデータを分析することで、自分の健康状態に合わせたサービスが提供され、健康寿命を伸ばすことにつながります。さらに集積されたPHRのビッグデータをAIが解析することで、新薬や新しい治療法の開発も期待できます。

PHR事業に関しては海外ではすでに先進的な取り組みも始まっており、身近なサービスのひとつになっています。
PHRの利活用によって、私たちの健康や生活はどのように変わっていくのでしょうか。

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは、個人の健康に関するデータを記録することで、医療・介護・健康分野におけるICT利活用として国が推進している事業の一つです。

日本では、現在も多くの健康や病気に関する情報が紙媒体によって管理されています。
出生の記録や乳幼児期の予防接種の記録は母子手帳、服薬の履歴はお薬手帳、病気に関してはかかりつけ医のカルテなど、一部はデータ化されているものもありますが、個人や病院などそれぞれ違った場所で管理されています。

PHRの導入によって、これまでは紙ベースで管理されていたデータも、電子記録によって一元管理されます。
集積されたデータを活用して、自身の健康状態を本人や家族が正確に把握できる仕組みです。

PHRに含まれるデータは、健康診断や各種検診の履歴、電子カルテの情報、薬剤情報などです(図1)。

図1: PHRモデル構築事業
出典: 総務省「PHR(Personal Health Record)サービス の利活用に向けた国の検討経緯について」 (2020)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000741661.pdf, p.1

PHRの特徴は、スマートフォンのアプリなどで、個人がいつでも閲覧やダウンロードができるところです。
自身のライフステージに合わせてアプリを取得し、データを活用することを想定しています(図2)。

図2: PHRの全体像
出典: 総務省 平成30年度情報通信白書「医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進」 (2018)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd266120.html

PHRは本人の同意のもとで、医療従事者等にデータが共有され、より質の高い医療サービスの実現に役立ちます。
PHRの活用に不可欠なのが、EHR(Electronic Health Record)です。

Electronic Health Recordを直訳すると電子医療記録になりますが、病院ごとに管理される電子カルテとは異なります。EHRとは、地域の医療機関や介護施設の間で情報連携が可能な保健医療情報のネットワークのことです。医療分野のICT活用を目指す総務省では、地域を越えて全国的な保健医療情報ネットワークを構築し、効果的な情報共有が可能なEHRモデルの普及を目指しています[*1]。

そして、EHRとPHRを連携することで、より効果的・効率的な医療・介護サービスを実現します(図3)。

図3: 医療・介護・健康分野の情報連携基盤の構築に向けた取組
出典: 総務省「医療・介護・健康分野の情報化推進」(2021)
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html

日本でのPHR事業の取り組み

PHRを用いたサービスは、日本国内のさまざまな自治体で導入が始まっており、個人で利用できるアプリの開発も進んでいます。

群馬県前橋市では、妊娠・出産・子育て支援PHRモデルとして母子手帳アプリを配信しています。
マイナンバーカードを活用し、自治体や医療機関が保有している予防接種や乳幼児健診の結果をスマートフォンのアプリに連携する仕組みです(図4)。

図4:「妊娠・出産・子育て支援PHRモデル」(前橋市)の概要
出典: 総務省「総務省のPHRに関する取り組み」 (2019)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000546637.pdf, p.3

PHRデータサーバに蓄積される特定のデータは、医療機関や研究機関に共有され、分析された結果が利用者にフィードバックされます。

母子手帳アプリに提供されるのは、3歳までの定期健診の結果と乳幼児期に接種する予防接種の記録です[*2]。これらのデータは自動的に反映され、利用者が入力する必要はありません。市から提供される身長や体重のデータをもとに成長曲線が描画され、標準的な成長曲線と比較することもできます。

次に、2019年から開始された兵庫県神戸市の市民PHRシステム、MY CONDITION KOBEについて紹介します。

MY CONDITION KOBEは、食事、歩数、睡眠、気分などの生活のデータと、健康診断の結果をデータベース化し、健康管理に役立てるアプリです(図5)。

図5: MY CONDITION KOBEの全体像
出典: 神戸市「健康創造都市KOBE」 (2018)
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/22257/h30_2siryou5-2.pdf, p.8

食事や運動のデータ入力、健康目標の達成、健康診断の受診など健康増進に寄与する行動に対してポイントが貯まり、さまざまな特典と交換できるのが特徴です。

図6は、MY CONDITION KOBEのアプリ機能の一例で、健康診断の結果をデータ化し、ダイエットや健康増進、栄養管理に役立てます。

図6: MY CONDITION KOBE アプリ機能の一例
出典: 神戸市「MY CONDITION KOBE」
https://mycondition.city.kobe.lg.jp/about/

ダイエットやメタボ改善などの個人の目標に合わせたコース設定が可能で、データをもとにAIから食事や運動などのアドバイスを受けることができます。

さらに、個人のデータは匿名化したうえで学術機関へ提供され、市の健康施策や新しいサービスに活用されます。

母子手帳アプリや健康記録などのPHRを活用したアプリは、多くの自治体や民間企業から配信されています。
民間企業が開発するアプリに対しては、重要な個人情報であるPHRを適切に扱うために、経済産業省、厚生労働省及び総務省が「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」を公開しています[*3]。

また、学校が保有している学校健康診断情報をPHRへ活用する実証事業も始まっています。
2019年の時点で、都道府県立、政令指定都市立、中核市立の学校の約6割が健康診断情報データを統合型校務支援システムに記録しています[*4]。

一方で、現在も健康診断結果を紙で記録している学校も多く存在しており、まずは2022年を目処に統合型校務支援システムを100%整備することを目標としています。そしてデータ化された健康診断情報をPHRサーバーに保管し、マイナポータルを通じて家庭でも閲覧できる仕組みを目指します(図7)。

図7: 学校保健データの活用の推進
出典: 文部科学省「学校健康診断情報の利活用について」 (2020)
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20201019-mxt_syoto01-000010535-05.pdf, p.2

教育委員会が所有している健康診断情報や欠席情報を本人や保護者が自由に閲覧できる仕組みに加えて、欠席者のデータを提供することで新型コロナウイルスなどの感染症の対策にも活用できます。

海外で導入されているPHRシステムの事例

日本では、国や自治体が保有する医療データの電子化、統合化が進められている段階ですが、海外ではPHRはどのように活用されているのでしょう。

まず紹介するのは、医療分野のデジタル化が進んでいるデンマークです。

デンマークでは、1968年から国民に個人番号が割り振られており、多くの行政サービスがオンライン化されています[*5]。
デンマークの医療は、日本とは異なり各自がかかりつけ医(GP:General Practitioner)を登録するシステムで、GPが一次医療を担っています。1977年から始まった全国患者登録によって、個人番号とGPの患者登録が紐付けられ、2004年からは全国規模のPHRプラットフォームである個人向け医療ポータルサイトsundhed.dkを運用しています[*5]。2017年時点で、GPでは100%電子カルテが導入されており、データ化された処方箋や紹介状もsundhed.dkから患者や担当医が閲覧できる仕組みになっています(図8)。

図8:デンマーク医療情報連携概念図
出典: 経済産業省「内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業」(2019)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000277.pdf, p.21

sundhed.dkにログインすると、自身の医療記録、服薬履歴、検査結果、病院訪問記録、GPでの予約、処方のデータなどが過去にさかのぼって閲覧できます。

次にオーストラリアのPHRに関する取り組みを紹介します。

オーストラリアは電子カルテの普及率が90%と高く、医療分野のデジタル化を積極的に進めている国です。2016年にデジタルヘルス庁が創設され、公的PHRであるMy Health Recordの整備が進みました。オーストラリアの公的PHRでは、オプトアウト方式で患者情報が記録される仕組みを構築しています(図9)。

オプトアウトとは、個人情報の第三者提供に関する本人の許可は不要で、本人の要請があれば停止する方式です。

図9:オーストラリアにおける医療情報の流れ
出典: 経済産業省「内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業」(2019)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000277.pdf, p.58

患者本人が生涯の医療情報を把握できる仕組みであるMy Health Recordは、2019年7月の時点で、オーストラリアの国民の約9割が登録しています[*6]。海外のPHRシステムの中でも高い普及率を誇っており、My Health Recordにアクセスできるさまざまなスマートフォンアプリも配信されています。

次の図10は、My Health Recordと連携するスマートフォンアプリのひとつであるHealthNowです。
HealthNowでは、個人の医療情報を閲覧できるだけでなく、医師やメンタルヘルスの専門家に電話で相談できる遠隔医療サービスも利用できます。

図10:HealthNowアプリ画面のイメージ
出典: 経済産業省「内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業」(2019)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000277.pdf, p.59

HealthNowを利用すれば家族や友人とデータ共有も可能で、アクセスが許可されれば投薬や予防接種履歴、担当の医療従事者リストなどが閲覧できます。

まとめ

PHRによって生まれたときからの成長や病気の記録、運動や食事などの生活習慣が記録されることで、健康状態の改善や、将来の病気のリスクを知ることに役立てることができます。

現在国内では、個人が気軽に利用できるPHRを活用したさまざまなアプリが配信されています。
自身の健康状態を把握することで、医療従事者とのコミュニケーションが円滑になり、より適切な医療サービスの提供も可能になります。
さらに紙媒体の管理を廃止することやデータの共有は、医療現場の負担軽減にも効果があります。

PHRによって、健康や医療に関するパーソナルデータに簡単にアクセスできるようになれば、一人一人が自身の健康に向き合う機会が増加します。

生涯にわたって健康データを管理できるPHRの利用が促進されれば、健康寿命の延伸につながるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
総務省 平成30年度情報通信白書「医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進」 (2018)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd266120.html

*2
厚生労働省「⺟⼦健康情報サービスの取組〜PHRの実現に向けて〜」 (2019)
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/000522031.pdf, p.9

*3
経済産業省「「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」及び「民間利活用作業班報告書」を取りまとめました」 (2021)
https://www.meti.go.jp/press/2021/04/20210423003/20210423003.html

*4
文部科学省「児童生徒等の健康診断情報の利活用について」 (2019)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000546636.pdf, p.4

*5
JIPDEC 電子情報利活用研究部レポート「国内ヘルスケアサービス動向と PHR 利活⽤について」 (2021)
https://www.jipdec.or.jp/library/report/u71kba0000017at2-att/20210706.pdf, p.7, p.10

*6
経済産業省「内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業」(2019)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000277.pdf, p.58

 

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