企業が取り組むべき温暖化対策「グリーンIT」の必要性とその導入事例

2022年4月に、FIP(Feed-in Premium)制度が開始するなど、再生可能エネルギーの普及促進によって、電力供給面からCO2排出量削減を目指す取り組みが近年加速しています。

一方で、CO2排出量削減に向けては、電力供給面からの取り組みのみならず、電力を消費する側による取り組みも必要です。特に、高度情報化社会の進展に伴いIT機器の普及が進む中で、IT機器の省エネ化は不可欠と言えます。

そのような中、2000年代後半からは「グリーンIT」と呼ばれる取り組みの重要性が叫ばれるようになっています。

それは具体的にどのような取り組みを指すのでしょうか。

また、既に事業者によってどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

グリーンITとは

グリーンITとは、社会や企業の環境負荷低減のためにIT(情報技術)を活用する取り組みのことを言います。具体的には、ITやIoT(Internet of Things: モノのインターネット)そのものを省エネ化する取り組みや、ITやIoTによって業務内における消費電力量の増加を抑える取り組みが挙げられます[*1]。

グリーンIT推進の背景

ではなぜ、グリーンITの推進が求められているのでしょうか。

現在、高度情報化社会の進展に伴うIT機器及びITインフラの拡大によって、エネルギー消費量全体に占める電力消費量の割合(電力化率)は40%を超えています[*1], (図1)。


図1: 一次エネルギーに占める電力の比率(電力化率)
出典: 国立研究開発法人 国立環境研究所「グリーンIT/IoT」(2021)
ttps://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=101&msclkid=0ecd6d12b9f711ec935db6ea006a4851

特に、PCやサーバ、データセンターなどのIT機器及びITインフラの導入に伴う電力消費量の増加は10年以上前から既に課題となっています。2008年に経済産業省が作成した「グリーンITイニシアティブ」によると、2025年には、国内のPC及び、サーバ、ネットワーク機器、テレビの合計消費電力量は2006年の470億kWhから2400億kWhにまで増加すると推計され、消費電力の増加に伴うCO2排出量の増加が懸念されていました[*2], (図2)。

図2: 国内のPC及び、サーバ、ネットワーク機器、テレビの合計消費電力量の推計
出典: ビジネス+IT「グリーンITとは何か、ITのグリーン化とITによるグリーン化」(2010)
https://www.sbbit.jp/article/cont1/21900?msclkid=0eceb7a8b9f711ec9c533cc596cc3ab9

 

グリーンIT導入の必要性

火力発電のように、従来の化石燃料を使用した発電方法だと、CO2が発生します[*3]。そこで近年では、太陽光発電や風力発電、バイオマス発電など再生可能エネルギーを活用することによって、CO2の排出量を減らすために電力供給面での取り組みが積極的に行われています。

しかしながら、2019年度時点の国内における再生可能エネルギー電力比率は約18%と、電力の大部分は依然として化石燃料由来の発電によって賄われており、供給面からだけでなく、電力を使用する需要面からの取り組みも必要となっています[*4], (図3)。

図3: 主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較
出典: 資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2020年度版「エネルギーの今を知る10の質問」 7.再エネ」(2020)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/007/

実際、前述したように、高度情報化社会の進展によってIT機器及びITインフラによる電力消費量は増加すると予測されています。特に、データ処理やデータ保管を行うデータセンターの負荷は年々増大しており、2018年の国内データセンター消費電力はおよそ14TWhであるのに対し、サーバ数の増加や処理の複雑化などによって2030年にはCPU(コンピュータの中核となる装置で、データ処理等を行う部分)消費電力が90TWhにまで増大すると推定されています[*1]。

このように、ビジネスや日常生活など様々な場面でITの活用が一般的になるに伴い、電力消費量も増加しています。そのため、需要面からの取り組みとしてグリーンIT推進による省エネ化が求められているのです。

 

2つのタイプに分類されるグリーンIT

電力消費量を抑えるために活用されるグリーンITには、Green of IT(情報システムそのものの環境負荷低減)とGreen by IT(情報システムによる環境負荷低減)の2つの側面があります[*1]。

Green of ITは、IT機器の消費電力を削減することを言い、Green by ITは、ITを活用して人や物の移動を減らしたり、資源の消費を抑えたりすることでCO2排出量を削減する取り組み全般を指します。そのため、同じグリーンITでも電力消費を削減する対象が大きく異なります。

では具体的に、Green of IT及びGreen by ITとは、どのような取り組みで、どのような場所で導入されているのでしょうか。

Green of ITとは?

まずGreen of ITとは、IT自体の省エネ化を目指す取り組みを指し、PCやサーバ、データセンターなどのIT機器及びITインフラ自体の消費電力の抑制や、サーバの台数削減などによるサーバ稼働率の抑制などが挙げられます。

サーバの省エネ化としては、メモリやHDD(ハードディスクドライブ)の集積度を上げることによる消費電力の削減や、コンピュータにとって中心的な役割を担うCPUの高性能化によって消費電力量に対する処理性能を向上させる取り組みがあります[*5], (図4)。

図4: 省電力機器の導入による環境負荷削減
出典: 社団法人 電子情報技術産業協会「グリーンIT動向<サーバから始めるグリーンIT>」(2009)
https://home.jeita.or.jp/is/committee/server/20091009CEATECserver2.pdf, p.14

また、情報処理の高度化に伴い、データセンターの規模及び電力消費量が増大しています。データセンターにおける電力消費量を抑えるための高効率なシステムの導入やサーバ台数の削減などの取り組みもGreen of ITであり、既に多くのデータセンターで積極的に行われています。

<Green of ITの導入事例>

機器自体の省エネ化などを推進するGreen of ITは、既に多くの場所で推進されています。

例えば、データセンターにおけるGreen of ITとして、大成建設株式会社が開発したデータセンターのサーバに対して適用可能な液浸冷却システムが挙げられます[*6], (図5)。

図5: データセンターにおける液浸冷却システムの設置イメージ
出典: 大成建設株式会社「超高集積・高発熱サーバーに対応する液浸冷却システムを開発」(2020)
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2020/200714_4940.html

図5内手前にある液浸冷却槽1槽で、50kW分の冷却能力(一般的な空冷方式は1ラック当たり5kWで、その10ラック分に相当)であるため、省スペースでの運用ができ、通常の空冷方式と比べて冷却エネルギーを約90%削減することが可能とされています。

また、野村総合研究所の東京第一データセンターでは、サーバなどデータセンターに配置される機器への過剰な冷却による電力消費量の増大を抑えるために、サーバ機器を置くフロアと、空調や電源などの設備関連機器を置くフロアを完全分離してサーバ機器に対する効率的な冷却を行うことができる「ダブルデッキシステム」を採用しています[*7], (図6)。

図6: ダブルデッキシステム
出典: 野村総合研究所「高度な環境性能を誇るデータセンター」
https://www.nri.com/jp/sustainability/environment/Green_of_NRI/data_center

サーバなど冷却が必要である高温度部分に対しては局所冷却を行うタスク空調で対応し、一方でコンピュータ室全体へは平均的に冷却するアンビエント空調を組み合わせることにより、省エネ化・効率化を実現しました。

このような取り組みによって、「グリーンITアワード2013」で経済産業大臣賞を受賞するなど、国内で取り組みが評価されています。

 

Green by ITとは?

Green by ITとは、IT技術やIoT技術の活用によって、事業活動における電力消費量を削減する取り組みのことを言い、例えば、テレワークの導入や物流効率の改善によって人やモノの移動を減らしたり、ペーパレス化によって資源の消費を抑えたりする取り組みが挙げられます[*8]。

<Green by ITの導入事例>

環境負荷を低減するために、既に製造業や物流、農業、ヘルスケアなど様々な分野でITやIoTが活用されています[*1]。

例えば、運輸部門はCO2排出量が2019年度時点で206百万トンで、CO2排出量の削減が課題となっています[*9], (図7)。

図7: 運輸部門におけるCO2排出量の推移
出典: 国立研究開発法人 国立環境研究所「グリーン物流」(2021)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=24

2001年以降、車両台数の頭打ちや燃費性能の向上によってCO2排出量は減少傾向にありますが、国内のCO2排出量の内訳をみると、運輸部門は約20%と産業部門に次いで多く、更なるCO2削減に向けた取り組みが求められています。

そのような中で運輸部門では、ビックデータなどIT技術やIoTを活用して効率的な物流を実現させることで、省エネ化を目指す取り組みが推進されています[*10], (図8)。

図8: 物流におけるIoTの活動領域
出典: 一般社団法人 電子情報技術産業協会「IoT 活用によるグリーン貢献に関する調査研究報告書 ~第一次報告 物流・農業~」(2007)
https://home.jeita.or.jp/greenit-pc/contribution/pdf/lot-report.pdf, p.11

例えば、パイオニア株式会社が販売するクラウド型運行管理サービス「ビークルアシスト」は、カーナビやドライブレコーダーなど車載端末を通信回線でサーバと接続し、車両の動態管理、メッセージによる業務指示や運行コースの送信・進捗管理、危険運転の把握など高度な運行管理・支援を行うことで、車両1台当たりの実燃費の向上並びに月間給油量も削減できたと報告されています[*11], (図9, 図10)。

図9: 「ビークルアシスト」イメージ
出典: 一般社団法人 電子情報技術産業協会「物流の省エネを実現するIT/IoTソリューション」(2019)
https://home.jeita.or.jp/eps/pdf/201902.pdf, p.25

図10: 「ビークルアシスト」導入前後の実燃費及び給油料
出典: 一般社団法人 電子情報技術産業協会「物流の省エネを実現するIT/IoTソリューション」(2019)
https://home.jeita.or.jp/eps/pdf/201902.pdf, p.2

また、グリーンITは運輸部門だけにとどまらず、様々な分野でも取り入れられています。

例えば、農業部門では、化学肥料の過度な使用による土壌への悪影響や温室効果ガス(一酸化二窒素)の発生が課題となっており、農産物の状況に応じた必要最低限の使用が求められています[*12]。

そこで現在、ドローンやAI技術を活用したスマート農業など様々な取り組みが行われています。例えば、日本農薬株式会社では、AI技術活用による病害虫雑草の画像診断サービスを行うことで、必要箇所への迅速な農薬使用を行えるよう支援しています。

さらに、2021年には、ドローンと空撮技術を持つDJI JAPAN株式会社と技術提携し、AI防除支援システムとドローン技術等を連携させた効率的な農薬散布のビジネス展開を進めると発表しました[*13], (図11)。

図11: AI防除支援システムの構築
出典: 日本農薬株式会社「スマート農業への取組み」(2021)
https://www.nichino.co.jp/csr/csr_smart.html

このように、ITやIoT技術を活用することによって、IT機器の省エネだけでなく、事業全体における省エネ化・CO2排出量削減に取り組むことができるようになっています。

 

グリーンITは業種を問わず導入可能な地球温暖化対策

ここまで見てきたように、省エネ化・CO2排出量削減に向けて、グリーンITは事業者が取り入れるべき有効な手段と言えます。

グリーンITは農業部門や運輸部門など様々な分野で導入可能であり、特にGreen of ITは、PCやサーバ、プリンターのように業務に不可欠なIT機器の環境負荷低減など、業種を問わず全ての事業者が実施可能な取り組みです。

Green by ITのように業務フローの抜本的な改革は難しいという場合は、オフィス機器の買い替えの際に省エネを意識したIT機器への変更を検討するなど、取り入れやすい取り組みからスタートするのが良いでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
国立研究開発法人 国立環境研究所「グリーンIT/IoT」(2021)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=101&msclkid=0ecd6d12b9f711ec935db6ea006a4851

*2
ビジネス+IT「グリーンITとは何か、ITのグリーン化とITによるグリーン化」(2010)
https://www.sbbit.jp/article/cont1/21900?msclkid=0eceb7a8b9f711ec9c533cc596cc3ab9

*3
東京電力エナジーパートナー「環境への取り組み」
https://www.tepco.co.jp/ep/company/warming/

*4
資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 7.再エネ」(2020)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/007/

*5
社団法人 電子情報技術産業協会「グリーンIT動向<サーバから始めるグリーンIT>」(2009)
https://home.jeita.or.jp/is/committee/server/20091009CEATECserver2.pdf, p.14

*6
大成建設株式会社「超高集積・高発熱サーバーに対応する液浸冷却システムを開発」(2020)
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2020/200714_4940.html

*7
野村総合研究所「高度な環境性能を誇るデータセンター」
https://www.nri.com/jp/sustainability/environment/Green_of_NRI/data_center

*8
日経クロステック「Green of IT/Green by IT」(2008)
https://xtech.nikkei.com/it/article/Keyword/20081028/317939/

*9
国立研究開発法人 国立環境研究所「グリーン物流」(2021)
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=24

*10
一般社団法人 電子情報技術産業協会「IoT 活用によるグリーン貢献に関する調査研究報告書 ~第一次報告 物流・農業~」(2007)
https://home.jeita.or.jp/greenit-pc/contribution/pdf/lot-report.pdf, p.11

*11
一般社団法人 電子情報技術産業協会「物流の省エネを実現するIT/IoTソリューション」(2019)
https://home.jeita.or.jp/eps/pdf/201902.pdf, p.25

*12
農林水産省「農業生産活動に伴う環境影響について」(2004)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/10/pdf/h160514_03_siryo.pdf, p.2

*13
日本農薬株式会社「スマート農業への取組み」(2021)
https://www.nichino.co.jp/csr/csr_smart.html

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