EU圏内でスマートフォンやタブレットの充電規格が統一へ 日本への影響は?

今やスマートフォンやタブレットは私達の生活の一部と言っても過言ではありません。一人で複数のデバイスを持つことも珍しくなくなりました。

そんな生活必需品であるデバイスに欠かせないのが充電ケーブルです。ワイヤレス充電も可能ですが、多くの方が充電ケーブルを使っているのではないでしょうか。

充電ケーブルには、USB-A、USB-B、USB-Cなどの種類が存在し、アップル製品はLightning(ライトニング)という独自の端子規格を採用しています。

端子の種類を間違って充電ケーブルを購入してしまった経験がある方も少なからずいるでしょう。

この充電ケーブルについて、2022年6月欧州議会は、2024年秋までにEU圏内で販売されるスマートフォン、タブレット、カメラなどに共通充電規格(USB Type-C)の採用を義務づけると発表しました。

2022年6月現在、日本では充電ケーブルの規格統一は行われていませんが、今回の決定が日本企業や私達の生活にどのような影響があるのか考察していきます。

 

充電ケーブルの種類

ケーブルを使ってデバイスを充電するためには、コンセントやパソコン、モバイルバッテリーなどの電源に接続する必要があります。ケーブルを使って接続を行う場合、メーカーによって接続端子の規格が違うためデバイスごとにケーブルを使い分けている方も多いのではないでしょうか。

現在、主流になっている端子の規格は以下の7種類です[*1], (図1)。

様々な種類のケーブルの使い分けが必要になることがわかります。

図1: USBケーブル端子の種類
出典: ソフトバンク株式会社「【解説】USBケーブルの種類がまるわかり! ケーブルの見分け方や使い方を解説します」(2022)
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20220221_02

  • USB Type-A(2.0)
    主にパソコン側に用いられることが多い、最も標準的な規格。
  • USB Type-B(2.0)
    主にプリンターやスキャナー、外付けのHDDなど、パソコンに接続する「周辺機器」側に用いられる。
  • mini USB Type-B
    主にデジタルカメラやICレコーダーなど、比較的小型の機器に用いられる。
  • Micro USB Type-B(2.0)
    主に数年前に発売されたAndroidスマートフォンや、タブレット機器に使用される。
  • Micro USB Type-B(3.0)
    主に周辺機器側、ポータブルHDDや外付けDVDドライブなどに使われる。
  • USB Type-C
    近年発売されたAndroidスマートフォンや、AppleのMacBook、そのほかノートPCやワイヤレスイヤホンなどに用いられており、対応機器が増えつつある。
  • Lightning
    Appleが開発した規格でiPhoneやiPad、AirPodsなどをパソコンや充電器に接続するために用いられる。

 

欧州で充電端子を「USB Type-C」に統一

前述の通り複数種の端子があることで、消費者はデバイスごとにケーブルを購入する必要があり、その分廃棄物も多くなるという問題がありました。日本でもケーブルの種類にわずらわしさを感じている方もいるでしょう。

これらの問題を解決するため、2022年6月7日、EU理事会と欧州議会は無線機器指令の改正案について暫定合意に達したと発表しました。この法改正で、EU域内で販売されるデバイスの充電端子規格が「USB Type-C」に統一されます[*2]。

EUは規格の統一によって年間2億5000万ユーロ(約350億円余り)の消費者支出を節約でき、年間およそ1,000トンの廃棄物の削減につながると予想しています[*3]。

充電端子規格統一の対象となるデバイスは以下のとおりです[*2, *4]。

携帯電話
タブレット端末
電子書籍端末
デジタルカメラ
携帯型ゲーム機
ワイヤレスキーボード
ワイヤレスマウス
イヤフォン
ヘッドフォン
携帯型ナビゲーション機器
※ノートパソコンも施行後40カ月以内(2026年まで)に新規則の対象機器となる。

 

さらに、今回の改正案では端子の規格統一の他にも以下のような内容が盛り込まれています[*2]。

  • 消費者が新たなデバイスを購入する際に、充電器の有無と充電性能について製品ラベルに表示することを義務付ける。
  • 消費者が充電器が必要かどうか選択できるように、充電器を含まないデバイス本体のみの販売を義務付ける。
  • 充電器と電子機器本体とのセット販売は引き続き認められるが、同指令の発効から4年後に欧州委員会がセット販売の禁止の義務付けの必要性について評価を行う。

消費者にとっては不要な充電器を購入する必要がなくなり、利便性が向上する法改正となっています。

 

「USB Type-C」統一への反発

ここで気になるのが、Lightning端子という独自の接続規格を作っていたAppleの動向です。

Appleは2021年9月に今回の接続規格統一に関する方針が発表された際、「1種類のみを義務づける厳格な規制は、技術革新を抑制し、ヨーロッパや世界中の消費者に害を及ぼす」として反発しました[*3]。

Appleが接続規格の変更に対応する場合、設計やサプライチェーンの変更で最大10憶ドル(約1,400億円)の費用が発生するとの試算もあり[*4, *5]、反発するのは当然でしょう。

その一方でiPhoneの接続端子はLightning端子のままですが、Appleは2015年よりMacBook、2018年からはiPad ProもUSB Type-Cに移行しています。今後はAppleもiPhoneの接続規格をUSB Type-Cに変更するとの見方もあります。

Lightning端子は表裏どちらでも挿せるという特徴がありますが、同様に裏表関係なく接続できるUSB Type-Cの登場により、優位性は薄れています[*4]。

2023年のiPhone 15をProモデル限定でUSB Type-C対応にするとの情報もあり[*6]、今後のAppleの対応に注目が集まります。

 

「USB Type-C」のケーブルを買ったのに「思ったものと違う」?

複数ある充電ケーブルの接続規格がUSB Type-Cに統一されれば、1本の充電ケーブルで複数のデバイスの充電ができるようになり非常に利便性が向上すると予想されます。

ただし、注意点もあります。

USB Type-Cはデータ転送やディスプレー出力にも利用できますが、このデータ転送にも様々な規格があります。

その中のひとつがThunderbolt(サンダーボルト)です。Thunderboltは、Intel社とApple社の共同開発によって2011年に誕生したデータ伝送技術とその対応規格の総称です。高速・大容量のデータ伝送に特化しており、これまでに「Thunderbolt 4」までリリースされています[*7], (図2)。

図2: Thunderboltの変遷
出典: アンカー・ジャパン株式会社「高速通信規格「『Thunderbolt (サンダーボルト) ™』とは?USB Type-Cとの違いや『Thunderbolt 4』もあわせて解説」(2021)
https://magazine.ankerjapan.com/what-is-thunderbolt

Thunderbolt 3とThunderbolt 4は端子にUSB Type-Cを採用しているため、両者が同じものであると誤解されることがあります。USB Type-Cは端子の形状を表すものであり、Thunderboltは通信規格を表すものです[*7]。

さらに、転送規格ではUSB 3.1やUSB 3.2、給電規格にはUSB PDという規格があります。これらも端子にUSB Type-Cを採用しているため混同されやすく、デバイスがUSB Type-Cポートを搭載していても、通信速度や使える機能は製品によって異なってしまうのです[*8]。

USB Type-Cのケーブルを買ったものの、目的の機能が使えないということも十分起こり得ます。現段階では接続規格がUSB Type-Cに統一されたとしても、1本のケーブルですべての機能を利用することは難しいようです。

 

充電ケーブル接続規格統一により浮き彫りになる日本の環境対策の遅れ

AppleがLightning端子という独自の接続規格を持っているにもかかわらず、共通充電規格・USB Type-Cへ統一することはEUの強気の姿勢とも言えます。

実は、この背景には、EU域内でのリサイクル率の高さがあると言われています[*9]。

「E-waste」や 「WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)」と呼ばれる電子ゴミのリサイクル率は、電子ゴミを最も多く排出しているアジアが11.7%であるのに対し、ヨーロッパは42.5%です。その他、南北アメリカのリサイクル率が9.4%、アフリカが0.9%、オセアニアが8.8%であることを見ても、ヨーロッパのリサイクル率の高さがわかります(図3)。リサイクルが、自然枯渇や自然災害に備える安全保障の問題に関わるとの認識が浸透しているのです。

なお、上記のデータは、ロシアや英国などEU以外の国もヨーロッパに含まれています。

図3: 各国の電子ゴミ発生量とリサイクル率(2019)
出典: 独立行政法人国民生活センター「増え続ける電子ごみ -デジタル化時代、生活は便利になったけど?」(2021) 」
https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202108_07.pdf, p.17

また、EUでは2012年にWEEE指令(Directive on Waste Electrical and Electronic Equipment: WEEE)が改正されました。

WEEE指令は、電気・電子機器廃棄物が分別されずに埋立・焼却処分されることを防止し、適切に処理されるシステムの構築を要求するものです[*10]。

日本でも電気・電子機器のリサイクルに関する法律は「家電リサイクル法」と「小型家電リサイクル法」がありますが、主に家庭から排出される電気・電子機器を対象としています。

一方で、WEEE指令は、生産者の義務として、WEEE処理システムを構築することや再利用、解体、リカバリーを考慮した製品設計を心掛けることも要求しています。

消費者だけでなく、生産者にまでごみ処理に対する配慮を求めている点が日本とは異なります[*10]。

電子ゴミを含めたゴミのリサイクル率で見てみると、EU諸国と比較すると日本はかなり低いことがわかります(図4)。

これは、日本のごみ処理方法のほとんどが焼却処分である一方で、EUでは有機性ごみの分別収集・リサイクルが日本よりも普及していることが理由です[*11]。

日本のリサイクル率は、2015年以降19~20%にとどまっています[*10]。今後、いかにしてリサイクル率を上げるのか、ゴミの処分方法を検討していく必要がありそうです。

図4: 日本とEU加盟国におけるごみのリサイクル率(%)
出典: 国立研究開発法人国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター「なぜ日本のごみのリサイクル率はヨーロッパに比べて低いのか?」(2020)
https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kenkyu/202008.html

今回の充電ケーブル接続規格統一は、リサイクル率には直接の影響を与えることは少ないかもしれませんが、EU圏内における電子ゴミの排出量は確実に減少するでしょう。

EUは市場規模が大きいため統一規格を浸透させる力があります。世界的に環境に対する意識が高まっているいま、規格統一の波はアメリカやアジアにも広がることが予想されます[*12]。

 

充電ケーブルの接続規格統一 手放しで喜べない一面も

一人で複数のデバイスを持つことが珍しくない現代では、充電ケーブルの接続規格の統一は消費者の利便性を向上させ、なにより環境負荷を少なくするというメリットがあります。

EU域内の充電ケーブルの接続規格統一の動きは、世界の電子ゴミ削減の流れをさらに加速させるかもしれません。そうなれば、日本政府や日本企業も今よりも強い対策を求められるでしょう。

消費者にも今以上に細かい分別が求められるかもしれません。

今回のEU圏内の充電規格統一が世界へ波及するのか、日本がどのような対策を行っていくのか注視していく必要がありそうです。

また、USB Type-Cに統一されるからと言って、すべてのケーブルが同じ性能というわけではありません。同じUSB Type-Cという規格でも通信速度や機能が異なるものが存在します。

消費者もUSB Type-Cのケーブルだからといって安易に購入するのではなく、自ら規格や機能について学び、確認する必要があることを忘れてはいけません。

 

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参照・引用を見る

*1
ソフトバンク株式会社「【解説】USBケーブルの種類がまるわかり! ケーブルの見分け方や使い方を解説します」(2022)
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20220221_02

*2
独立行政法人 日本貿易振興機構「EU、充電端子を『USBタイプC』に統一する指令案に暫定合意、2024年秋適用へ」(2022)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/62da0f5a00bd3f4c.html

*3
NHK「EU スマホの充電器端子『USBタイプC』に規格統一へ」(2021)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210924/k10013274011000.html

*4
アイティメディア株式会社「スマホなどの充電端子を『USB Type-C』統一 欧州で2024年秋までに」(2022)
https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2206/08/news101.html

*5
日本経済新聞「欧州委、iPhoneにUSB-C採用迫る『10年戦争』に転機」(2021)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN241D50U1A920C2000000/

*6
フォーブスジャパン「アップルが来年のiPhone15でUSB-C導入へ、ただし『Proモデル限定』説」(2022)
https://forbesjapan.com/articles/detail/48114?internal=top_firstview_03

*7
高速通信規格「『Thunderbolt (サンダーボルト) ™』とは?USB Type-Cとの違いや『Thunderbolt 4』もあわせて解説」(2021)
https://magazine.ankerjapan.com/what-is-thunderbolt

*8
株式会社 日経BP「万能だが難解、普及進むUSB Type-Cを理解」(2018)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00495/110600008/

*9
日本経済新聞「危うしリサイクル先進国、日本は欧州に大きく見劣り」(2021)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC248YE0U1A920C2000000/

*10
一般社団法人 産業環境管理協会「リサイクルデータブック 2019」(2019)
https://www.cjc.or.jp/data/pdf/book2019.pdf, p.36, p.168, p.169

*11
国立研究開発法人国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター「なぜ日本のごみのリサイクル率はヨーロッパに比べて低いのか?」(2020)
https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/kenkyu/202008.html

*12
日本経済新聞「EU充電規格統一の是非 法制化なら革新阻むリスク」(2022)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB151150V10C22A6000000/ikkei.com)

 

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