「デジタル変電所」とは? 海外での導入事例や最新の技術動向

変電所とは、発電所で作られた電気の電圧を変える施設です。送電効率のために高くしたり、反対に、一般家庭や工場などの消費地に届けるために低くしたりします [*1]。

変電所は電力供給になくてはならない設備ですが、近年設備の老朽化や高経年化が進み、施設の保守や運用にかかる課題が山積しています。そこで注目されているのが、「デジタル変電所」と呼ばれる仕組みです。

デジタル変電所とは、どのような技術を活用した変電所なのでしょうか。近年の変電所におけるデジタル技術の動向や、海外の導入事例とあわせて解説します。

 

電力系統の仕組み

電気を運ぶために全国に張り巡らされた電力ネットワークを、「電力系統」と呼びます。

日本の電力系統は、電気を効率的に運ぶために変電所で電圧を変換しており、発電所から消費者へまでは、特別高圧、高圧、低圧と電圧を変えています[*2], (図1)。

図1: 発電所から消費者までの電気の流れ
出典: 電力広域的運営推進機関「電力ネットワークの仕組み」
https://www.occto.or.jp/grid/public/shikumi.html

 

変電所の役割

変電所は発電所から送られてきた電気の電圧を調整して必要な箇所に届けるために、電力系統の発電所と消費者の間を中継しています[*3], (図2)。

図2: 変電所のイメージ
出典: 電気事業連合会「電気が伝わる経路」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/keiro/index.html

図2にあるように、変電所には、超高圧変電所や一次変電所など様々な種類が存在します。超高圧変電所は、発電所から送られた27万5,000V~50万Vの電圧の電気を15万4,000Vまで下げる変電所です。その後、一次変電所に送られると6万6,000Vにまで下げられ、一部が鉄道会社や大規模な工場に送られます。また、残りは中間変電所でさらに低い2万2,000Vまで変電され、その一部は大規模な工場やコンビナートなどへ供給されます。

大規模な工場等へ送られた電気以外については、配電用変電所で6,600Vに変電された後、中規模な工場などへ配電されます。これらの電気は街中の電線にも配電され、電柱の上にある柱上変圧器(トランス)で100Vまたは200Vに変圧されて、各家庭へと送られます。なお、発電所と変電所間を経由する線を「送電線」と呼び、変電所から各家庭へ電気を配る線を「配電線」と呼びます。

また、変電所施設内は、電圧を変える変圧器や、変電所の運転状態や負荷状態などを検知する計測機器、電流の開閉を行う遮断器・断路器など様々な設備で構成されています[*4]。

さらには、保護制御システムによって主要機器の保護、ならびに監視制御を行うことで系統の安定運転を維持しており、図3のように、電気設備の間に敷かれた多数の制御ケーブルによって各機器が相互に結ばれたうえで、情報の受け渡しを行っています[*5], (図3)。

図3: 変電所における保護制御システムの構成
出典: 株式会社日立製作所「高度センシング技術を適用したデジタル変電所の実現」(2020)
https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2020/02/pdf/02a06.pdf, p.77

 

電力業界が抱える変電所設備に関する課題

変電所設備の高経年化

 
電気の送配電に重要な役割を果たす変電所には様々な装置が設備されていますが、近年では高経年化の課題を抱えています。

実際に国内では現在、約1万6,000台もの変圧器が稼働していますが、その内の40%以上が1970年代以降の電力系統拡充期に設置され、30年以上経過した設備です[*6]。例えば、株式会社東芝が納品した高電圧遮断器の納入年別分布をみると、1970年代から2000年までに特に多く設置されており、故障や深刻な被害を引き起こさないためにも、設備の入れ替えや保全が求められています[*7], (図4)。

図4: 株式会社東芝による高電圧遮断器の納入年別分布
出典: 株式会社東芝「変電所設備の保全・更新状況と今後の課題」(2018)
https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2008/12/63_12pdf/a02.pdf, p.1

保守及び運用に関する課題

 
変電所設備の保守及び運用に取り組むにあたっては、系統運用面や人材面での課題があります[*7], (図5)。

図5: 変電所設備を取り巻く環境及び課題
出典: 株式会社東芝「変電所設備の保全・更新状況と今後の課題」(2018)
https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2008/12/63_12pdf/a02.pdf, p.4

具体的には、(1)古くなった設備を継続して保守しながら延命するか、更新するかという設備形成の課題や、(2)設備の計画停止が取りにくい状況での系統運用の課題、(3)世代交代による技術や技能の継承の問題、(4)多くの設備の更新時期が重なる中での工事対応の課題などがあります。

 

デジタル変電所とは

変電所の新設・更新に向けては、コストを抑えながらも、先述したような保守や運用に関する課題を克服する必要があります。そこで近年注目を集めているのが、「変電所のデジタル化」です[*8]。

デジタル技術によって設備構成を最適化し、ケーブルを省線化することで、工事期間の短縮やコスト削減など、様々な課題を解決することができます[*5], (図6)。

図6: 従来のシステムとデジタル技術を活用した変電所システムの構成比較
出典: 株式会社日立製作所「高度センシング技術を適用したデジタル変電所の実現」(2020)
https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2020/02/pdf/02a06.pdf, p.77

既存の変電所では、設備更新のたびに数多く存在する設備の連携が必要になり、工期が長くなってしまうといった課題や、労働人口の減少により十分な保守員が確保できないといった課題がありました。

デジタル化によって、制御ケーブルではなくネットワーク経由で情報が受け渡しできるようになり、主器へ直接接続するMU(Merging Unit)と主器間以外の敷設ケーブルを大幅に削減できるようになるため、現場での作業を最小限に抑えた工事が可能となります[*5]。

また、センシング技術によって設備内の情報をデジタル化し、データを分析することで高精度な設備の劣化診断が可能となるため、人の手による点検作業を減らしながらも、設備の故障等を事前に予測できるようになります。それにより、効率的な点検・更新計画の立案につながるなど、デジタル変電所への移行には多くのメリットがあると言えます。

変電所デジタル化の海外事例

 
国内では本格的な導入事例はまだ報告されていませんが、海外ではすでに様々な地域でデジタル変電所が導入されています。

例えば、インドネシアでは、東ジャワ州のシドアルジョ工業団地において2021年からデジタル変電所の商用運転が開始されました[*10], (図7)。

図7: 東ジャワ州におけるデジタル変電所
出典: 株式会社日立製作所「東ジャワ州初のデジタル変電所が支援するインドネシアの経済成長と脱炭素化」
https://www.hitachi.co.jp/products/energy/portal/case_studies/case_007.htm

データ活用による高度な監視・管理、予兆診断・意思決定支援が可能なデジタル変電所の建設によって、現地で増大する電力需要への対応に加え、工業団地への電力供給の安定化やレジリエンス(災害発生時にも維持できる電力インフラの強靭さ)の確保も実現できると期待されています。

また、変電所内でデータを送るケーブルを光ファイバーに置き換えたことで、銅線を80%近く削減でき、大幅なコストカットと銅線によるデータ損失のリスク減少につながりました。

さらに、デジタル技術の活用によって、変電所内での作業を最小限に抑えることができるようになったため、現場従事者の健康と安全の水準が改善するなど、様々なメリットが報告されています。

変電所デジタル化技術の国内動向

 
国内においても、変電所へのデジタル技術の導入に向けた実証事業や試験的導入が進んでいます。

(1)デジタル技術を活用した遮断器の状態監視

例えば、北陸電力送配電株式会社及び東芝エネルギーシステムズ株式会社は、2022年からデジタル技術の導入に向けた「遮断器の状態監視」や「制御ケーブル接続状態のデジタル管理」の実証事業を開始しました[*11]。

北陸電力送配電管内には約1,800台の遮断器(ブレーカー)があり、開閉回数等を基準に定期点検が実施されています。遮断器の中には、電圧調整のために年間数百回開閉動作を行うものがあるため、これまでは設備保全業務に多くの労務量や費用を要していました[*11]。

そこで、東芝エネルギーシステムズ株式会社は遮断器に監視ユニットを取り付け、開閉時に得られる計測値を取得し、オンライン上で設備の状態を把握することで、設備保全業務の高度化に取り組んでいます[*11], (図8)。

図8: 遮断器の状態監視に向けた取り組み
出典: 東芝エネルギーシステムズ株式会社「変電所へのデジタル技術の導入に向けた実証を開始」
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2022/04/news-20220421-01.html

この実証試験が成功し、監視ユニットが変電所に導入されれば、デジタルデータによって劣化度合いを確認できるようになり、点検周期を伸ばすことが可能となるため、作業の効率化につながります。

(2)制御ケーブル接続状態のデジタル管理

変電所には多くの制御ケーブルが使用されていますが、現状、設備工事の際には切り離し・接続が必要となり、その作業本数は年間数千本にのぼります[*11]。

制御ケーブルの切り離し・接続作業においては、事前に作業手順書を作成しますが、従来、ケーブル接続状態を示した図面は紙で管理されているため、複数の図面の突合作業が大きな負担となっていました。

2022年より、北陸電力送配電が実施する変電所設備工事において、東芝エネルギーシステムズ株式会社は、デジタル管理ツールの実証を行っています [*11], (図9)。

図9: 制御ケーブル接続状態のデジタル管理に向けた取り組み
出典: 東芝エネルギーシステムズ株式会社「変電所へのデジタル技術の導入に向けた実証を開始」
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2022/04/news-20220421-01.html

デジタル管理ツールの導入によって、デジタル空間で図面の確認ができるようになり、複数の図面の突合や手順書の作成も容易に行えます。また、管理業務の省力化にもつながり、従来の変電所が持つ人材面の課題の解決に貢献できるとしています。

(3)高度センシング技術を用いた送電ケーブルの劣化診断

株式会社日立製作所では、デジタル変電所の構成要素の一つとして、ケーブルの絶縁劣化診断システムの開発を検討しています[*5]。

送電ケーブルは、電気を伝える導体が絶縁体及び金属シース(外皮)で覆われています。経年劣化により、絶縁体に油隙や空隙などの欠陥が生じると、部分放電が発生してしまいます。

そこで、株式会社日立製作所は、運転中の設備から発生する放電信号を高感度センサーで収集・分析することで、設備の劣化状況をオンラインで推定するサービスを検討しています[*5], (図10)。

図10: 日立が検討中のケーブル絶縁劣化診断システム
出典: 株式会社日立製作所「高度センシング技術を適用したデジタル変電所の実現」
https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2020/02/pdf/02a06.pdf, p.79

部分放電が発生した場合、センサーが検知した放電信号がデジタルネットワークを経由して分析用PCに集約され、オンライン上で劣化状況を判定することができます。

このように、省人化などの課題に対処できる点が、変電所デジタル化の大きなメリットと言えるでしょう。

 

環境負荷の低減にもつながるデジタル変電所

デジタル変電所の導入は、環境負荷の低減にもつながります。例えば、デジタル化に伴いケーブルを従来の銅ケーブルから光ファイバーに変更することで、CO2排出量の削減に貢献できるとともに、設備のスリム化によって省スペース化を図ることができます[*12]。

また、近年拡大が進む再生可能エネルギーには、電力ネットワークの信頼性とレジリエンス向上が必要不可欠です。変電所のデジタルへの転換は、設備の高経年化や人材面など従来の変電所の課題の解決に寄与するほか、様々なかたちで脱炭素社会の実現に貢献します[*13]。

 

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参照・引用を見る

*1
電磁界情報センター「電気の流れ(変電所)」
https://www.jeic-emf.jp/explanation/1001.html

*2
電力広域的運営推進機関「電力ネットワークの仕組み」
https://www.occto.or.jp/grid/public/shikumi.html

*3
電気事業連合会「電気が伝わる経路」
https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/keiro/index.html

*4
株式会社ダイヘン「受変電設備とは?役割や構成について」
https://www.daihen.co.jp/technologygeeks/cat01/cat01_03/120/

*5
株式会社日立製作所「高度センシング技術を適用したデジタル変電所の実現」(2020)
https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2020/02/pdf/02a06.pdf, p.76, p.77, p.79

*6
電気新聞「【特集】高経年化進む変圧器/診断技術高度化が急務に(1)」
https://www.denkishimbun.com/20170331_001

*7
株式会社東芝「変電所設備の保全・更新状況と今後の課題」(2018)
https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2008/12/63_12pdf/a02.pdf, p.1, p.4

*8
富士電機株式会社「高度な保守・運用を実現するデジタル変電所技術」(2019)
https://www.fujielectric.co.jp/about/company/gihou_2019/pdf/92-03/FEJ92-03-048-2019.pdf, p.1

*9
日本工営株式会社「変電所のデジタル化構築支援」
https://www.n-koei.co.jp/rd/technology/pdf/114.pdf, p.1

*10
株式会社日立製作所「東ジャワ州初のデジタル変電所が支援するインドネシアの経済成長と脱炭素化」
https://www.hitachi.co.jp/products/energy/portal/case_studies/case_007.html

*11
東芝エネルギーシステムズ株式会社「変電所へのデジタル技術の導入に向けた実証を開始」
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2022/04/news-20220421-01.html

*12
日本経済新聞「日立ABB、ノルウェーでデジタル変電所の建設着手」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64945980T11C20A0X20000/

*13
株式会社日立製作所「日立ABBパワーグリッド社が、Lumadaの活用により、予兆診断や故障予測を備えたスマートデジタル変電所ソリューションの提供を開始」
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2021/02/0224a.html

 

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