「スマートごみ箱」とは? 国内外での導入事例や導入のメリット

ICT等の新技術を活用して、地域の抱える諸課題の解決を目指す都市を「スマートシティ」と言います。現在、スマートシティ化に取り組む都市は世界各国で増えており、廃棄物処理や気候変動、感染症対策など様々な課題に取り組んでいます[*1]。

スマートシティ化に向けた課題の一つに挙がるのが、都市におけるごみ問題です。そして、ごみ処理の効率化やポイ捨てなどのごみ問題を解決する手段として近年、デジタル技術を活用した「スマートごみ箱」の導入が広がっています。

それでは、スマートごみ箱はどのようなものなのでしょうか。また、スマートごみ箱にはどのようなメリットがあり、国内外でどのように導入されているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

ポイ捨て問題とごみ箱設置にかかわる課題

現在、世界全体で年間数百万トンを超えるプラスチックごみが海洋に流出しています。流出したごみは海洋汚染につながるため、海洋の生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されています[*2]。

環境省の調査によると、2016年度に全国で回収された漂着ごみは約3万トン。海外から漂着したごみもありますが、その多くは国内から出たごみです[*3]。

ポイ捨てをすることによって、街中にごみが散乱し、川から海へ流出してしまいます。流出したごみは海岸に散乱したり、魚や貝などがごみをエサと間違えて食べてしまうため、ポイ捨て対策が求められています[*2], (図1)。

図1: ポイ捨てによって発生する問題
出典: 岐阜市「海洋汚染につながるプラスチックごみのポイ捨てはやめましょう!」
https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/seikatukankyo/1002916/1012050.html

海洋汚染を防ぐためには、一人ひとりが意識を持ってポイ捨てをしないようにすることはもちろんですが、いつでもごみを捨てやすいように、公共のごみ箱の設置を増やすことも手段の一つです。

しかしながら、ごみ箱の設置・維持にはコストがかかります。実際、渋谷駅前の3か所にごみ箱を設置すると管理費を含めて年間1,800万円かかるという試算も出ています。そのため、ごみ箱を設置する場合には、管理費やごみ収集コストをどれほど低減できるかが重要です[*4]。

 

スマートごみ箱とは―導入のメリット―

スマートごみ箱とは、IoT(Internet of Things)技術を活用した次世代型ごみ箱のことです。ごみ箱設置のコストの低減や、ごみ回収効率の向上を目指す取り組みとして、国内外で導入が進んでいます[*5, *6], (図2)。

図2: スマートごみ箱「SmaGO」のイメージ
出典: 株式会社西武ライオンズ「IoT活用のスマートゴミ箱『SmaGO』を設置!」
https://www.seibulions.jp/news/detail/00004760.html

 

ごみ収集作業効率化によるコスト削減

 
スマートごみ箱導入による一つ目のメリットは、蓄積されたごみを自動で圧縮できるとともに、ごみの蓄積状況をリアルタイムで確認できるため、回収頻度の低減およびコスト削減につながるという点です[*7, *8]。

例えば、アメリカのBig Belly solar社が開発したスマートごみ箱「BigBelly」は、一定量を超えるとごみを約5分の1にまで自動で圧縮するため、ごみ収集の頻度を減らすことができます[*7]。

また、ごみ箱に内蔵したセンサーが蓄積状況を感知してデータを送信するため、リアルタイムにごみ箱の状況を確認できます[*7], (図3)。

図3: ごみの蓄積状況のモニタリング画面
出典: アイティメディア株式会社「太陽光パネル付きの『スマートゴミ箱』、ゴミを圧縮して蓄積状況を無線で送る」
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1601/23/news017.html

実際に、アメリカのジョージタウン大学で60個のごみ箱を20個の「BigBelly」に置き換えたところ、ごみ収集作業にかかる労働時間を年間約1,560時間削減することに成功しました[*8]。

また、フィラデルフィア市においてごみ箱700個を「BigBelly」500個に変更したところ、一週間あたりのごみ回収頻度を17回から3回、ごみ収集担当者の人数を33人から9人に削減することができました。同時に、年間コストも230万ドルから72万ドルに削減することができ、スマートごみ箱によってごみ収集の効率化とコスト削減を実現しています。

再生可能エネルギーの推進とCO2削減

  
二つ目のメリットは、スマートごみ箱の推進によって再生可能エネルギーの推進やCO2の削減に貢献できるという点です[*7, *8]。

「BigBelly」の動力源は、ごみ箱の上面に搭載した太陽光パネルです。内部にある蓄電池を使って電力を供給する仕組みとなっているため、化石燃料由来の電気を使うことなく動かすことが可能です[*7]。

また、ごみ収集作業の効率化を実現できるため、ごみ収集車の燃料使用量を低減し、移動により発生するCO2排出量を削減することができます[*8]。

先ほど紹介したジョージタウン大学での導入事例では、ごみ収集車の移動にかかる年間燃料費を約1,300km分削減できたことに伴い、約600L分のCO2排出量を削減できたと報告されています。

 

国内外でのスマートごみ箱導入事例

海外におけるスマートごみ箱導入事例

  
ジョージタウン大学やフィラデルフィア市などアメリカ以外でも、海外ではスマートごみ箱が積極的に導入されています。

例えば、スペインのバルセロナ市は、2000年からスマートシティ化を推進しており、取り組みの一つとして、スマートごみ箱の設置を行っています[*9]。

市は、街中にセンサーを実装してネットワーク経由でデータを送受信し、集めた情報を集約する「センティーロ」と呼ばれるシステムを導入しています。気温や温度をセンサーが監視して公園の散水栓を調整するなど様々なデジタル化を図るとともに、ごみ問題に対してはセンサー付きのごみ箱を導入し、蓄積量を検出して、必要時のみごみ収集車を巡回させるシステムを構築しました。その結果、ごみ収集車の走行距離が減少し、CO2排出量やコストの削減に成功しています[*9. *10]。

国内におけるスマートごみ箱導入事例

(1)広島県におけるスマートごみ箱導入

広島県は、カルビー株式会社や株式会社フォーステックと連携し、2022年10月25日からスマートごみ箱「SmaGO」を県内4地点、計12台設置し、運用を開始しています[*5, *11], (図4)。

図4: 広島県におけるスマートごみ箱設置の様子
出典: 広島県「中四国初となるIoT技術を活用したスマートごみ箱“SmaGO”を運用開始!」
https://gship.jp/special/565/

海洋プラスチックごみ削減を目的としたこの取り組みでは、「SmaGO」にごみが溜まる時期や時間帯の傾向を分析し、ポイ捨て削減とごみ回収業務効率化の両方に資する適切な回収頻度の検証を行っています。また、広島県は、検証結果から今後の課題や解決策等を整理し、更なる展開を図る上での基礎資料とすると発表しています[*5]。

(2)渋谷区におけるスマートごみ箱導入

株式会社フォーステックは、森永製菓株式会社および商店街振興組合原宿表参道欅会と連携して、2020年10月8日に表参道沿いの歩道において、34台の「SmaGO」を運用しました[*12], (図5)。


図5: 渋谷区におけるスマートごみ箱設置の様子
出典: 株式会社共同通信ピー・アール・ワイヤー「表参道に日本初“スマートゴミ箱”、森永製菓が支援」
https://kyodonewsprwire.jp/release/202010075434

実証の結果、設置によってごみ箱付近の散乱ごみを軽減することができたと報告されています[*13]。

また、2021年6月からはショッピングセンター「RAYARD MIYASHITA PARK」内にスマートごみ箱を設置しています。設置後のごみ回収頻度が5割以下となるなど、ごみ収集作業の効率化を実現しており、今後の更なる発展が期待されています。

 

行政と企業の連携が設置促進のカギ

ただし、現在のところ、スマートごみ箱の設置には、行政との連携に時間がかかります。例えば、株式会社フォーステックが表参道の歩道沿いでスマートごみ箱設置を進めた際には、東京都による設置許可までに1年半ほどかかり、事前の調整に時間を要しました[*14]。

そのため、このような公共の場所でのスマートごみ箱の円滑な導入に向けては、公道の管理主体である行政と設置当初から連携していくことが重要です。広島県の事例のように、行政と企業が連携して取り組むことが、今後スマートごみ箱の更なる普及のカギとなるでしょう。

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参照・引用を見る

*1
NECソリューションイノベータ株式会社「スマートシティとは? 海外事例や日本独自の構想から現状を解説」
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20220210.html

*2
岐阜市「海洋汚染につながるプラスチックごみのポイ捨てはやめましょう!」
https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/seikatukankyo/1002916/1012050.html

*3
内閣府大臣官房政府広報室「海のプラスチックごみを減らしきれいな海と生き物を守る!
~『プラスチック・スマート』キャンペーン~」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201905/1.html

*4
筑波大学「渋谷駅周辺地域におけるゴミ箱設置の最適化問題」(資料中のスライド「最少のゴミ箱設置数で地域をカバーする」p.11)
https://datasci.sk.tsukuba.ac.jp/koudai/869/

*5
カルビー株式会社、広島県、株式会社フォーステック「~中四国初!海洋プラごみ削減に向けた新プロジェクト始動!~IoT 技術を活用した『スマートごみ箱“SmaGO”』運用開始!」
https://gship.jp/wp-content/uploads/2022/11/%EF%BD%9E%E4%B8%AD%E5%9B%9B%E5%9B%BD%E5%88%9D%EF%BC%81%E6%B5%B7%E6%B4%8B%E3%83%97%E3%83%A9%E3%81%94%E3%81%BF%E5%89%8A%E6%B8%9B%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%9F%E6%96%B0%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E5%A7%8B%E5%8B%95%EF%BD%9EIoT%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%82%92%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%8C%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%94%E3%81%BF%E7%AE%B1SmaGO%E3%80%8D%E9%81%8B%E7%94%A8%E9%96%8B%E5%A7%8B%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%A8%98%E8%80%85%E7%99%BA%E8%A1%A8%E4%BC%9A.pdf, p.1, p.2, p.3

*6
株式会社西武ライオンズ「IoT活用のスマートゴミ箱『SmaGO』を設置!」
https://www.seibulions.jp/news/detail/00004760.html

*7
アイティメディア株式会社「太陽光パネル付きの『スマートゴミ箱』、ゴミを圧縮して蓄積状況を無線で送る」
https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1601/23/news017.html

*8
NSW株式会社「BigBelly Solar」
https://www.nsw-cloud.jp/cloud/service/m2m/bigbellysolar/

*9
トヨタ自動車株式会社「【現地取材】街とモビリティが調和するスマートシティ、バルセロナ 20年目の挑戦―スマートシティ最先端都市バルセロナ編1」
https://gazoo.com/mobility/smartcity/barcelona/20/02/28/

*10
トヨタ自動車株式会社「【現地取材】いつのまにか毎日が快適に。生活に溶け込むスマートシティのサービス―スマートシティ最先端都市バルセロナ編2」
https://gazoo.com/mobility/smartcity/barcelona/20/02/29/

*11
広島県「中四国初となるIoT技術を活用したスマートごみ箱“SmaGO”を運用開始!」
https://gship.jp/special/565/

*12
株式会社共同通信ピー・アール・ワイヤー「表参道に日本初“スマートゴミ箱”、森永製菓が支援」
https://kyodonewsprwire.jp/release/202010075434

*13
株式会社共同通信ピー・アール・ワイヤー「IoT活用のスマートゴミ箱『SmaGO』でゴミ5割削減!」
https://kyodonewsprwire.jp/release/202112155057

*14
アイティメディア株式会社「表参道に『IoTゴミ箱』を設置して1年、ゴミはどうなったのか」
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2109/25/news006_2.html

 

 

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