Society 5.0とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新しい社会の概念で、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題解決の両立を目指すものです。
Society 5.0が実現した未来では、AI(人工知能)やビッグデータによってエネルギー分野にもさまざまな変革が起こります。
たとえば、需要予測や気象予測の精度向上による再生可能エネルギーの主力電源化や、電気自動車の普及、エネルギーの見える化による省エネなどが可能になると期待されています。
この記事では、Society 5.0のコンセプトや私たちの暮らしにもたらされる変化、Society 5.0を支える未来のエネルギーシステムについて解説します。
デジタル化が進んだ未来の社会”Society 5.0”とは
Society 5.0は、2016年1月に閣議決定された第5期科学技術基本計画において、初めて提唱された新しい概念です。
第5期科学技術基本計画では、Society 5.0を「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義していました。
その後、2021年3月に閣議決定された第6期科学技術・イノベーション基本計画では、「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と表現しています[*1]。
「5.0」とナンバリングされているのには、これまで人類が進化の過程で歩んできた4つの社会、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5つ目の新たな社会を、科学技術イノベーションが先導して構築するという意味合いがあります[*1, *2], (図1)。
図1: Society 5.0とは
出典: 内閣府「Society 5.0」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
Society 5.0では、「サイバー空間とフィジカル空間の融合」と「人間中心の社会」の2つが重要なキーワードとなっています。
現実の社会から収集した膨大なデータをもとにサイバー空間を構築し、フィジカル空間にフィードバックさせていくプロセスを人間中心という価値観に組み込むことで、私たち一人一人が主役となれるようなより良い社会を目指します[*1]。
フィジカル空間の要素をサイバー空間に双子のように再現する手法はデジタルツインと呼ばれ、現実と連動したリアルタイムデータを取得し、分析・シミュレーションすることで、社会が抱える課題解決と国民のQOL(Quality of life)向上を目指します[*3],(図2)。
図2: デジタルツインとは?
出典: 東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」
https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/
Society 5.0で私たちの暮らしはどう変わる?
Society 5.0では、AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどをあらゆる産業や社会生活に取り入れることで、これまでの社会が抱えていたさまざまな課題を解決し、新たな価値を創出することが期待されています[*4],(図3)。
図3: Society 5.0で実現する社会
出典: 内閣府「Society 5.0とは」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/society5_0-1.pdf, p.2
Society 5.0で実現される多様なニーズに対応したモノやサービスは、気候変動や少子高齢化、地方の過疎化などの社会的課題の解決と経済発展の両立を目指すことができると考えられています。
ロボットや自動運転車などを活用し、少子高齢化、地方の過疎化によって生ずる課題を克服したり、IoTやAIの活用によって温室効果ガス削減を目指したエネルギーの多様化や地産地消などを進めることが可能になります。
最先端の科学技術によって年齢や性別、地域などによる格差をなくし、一人一人に合わせた最適なサービスが提供されます[*4]。
次に、Society 5.0が私たちの暮らしにどんな新しい価値を与えてくれるのか、具体的な事例についてみていきましょう。
たとえば、家族でドライブにいくとき、現代の社会ではインターネットから情報収集したり、これまでの経験から判断して、移動方法や目的地を決定するのが一般的でしょう。
そのため、渋滞や天候、目的地の混雑状況などの複数の懸念事項をクリアできる最適なプランを検討することは難しいのではないでしょうか。
Society 5.0では、各自動車のセンサー情報や天気、交通などのリアルタイム情報、過去の履歴などのビッグデータをAIが解析し、渋滞や事故のリスクが少ない最適な移動方法や、カーシェアや公共交通期間を利用したスムーズな移動、天気や混雑を考慮した観光ルートなどをアウトプットすることができます[*5],(図4)。
図4: Society 5.0での新たな価値の事例(交通)
出典: 内閣府「Society 5.0 新たな価値の事例(交通)」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/transportation.html
他にも、ヘルスケアの分野では、交通事情や年齢、疾患などのさまざまな事情で通院が困難な患者の負担を減らすオンライン診療を可能にすることを目指しています[*6],(図5)。
図5:オンライン診療の目指す姿
出典: 経団連「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/005_honbun.html
予約から診療、服薬指導、会計、薬の配送に至るまですべてオンラインで完結させることで、患者の生活スタイルに合わせて都合の良い時間・場所で受診することが可能になります。
受診のハードルを下げることで、医療アクセスにおける地域格差を是正することができ、予防医療の強化や国民の健康増進につながります。
Society 5.0を支える未来のエネルギーシステム
Society 5.0はエネルギー分野にも変革をもたらし、エネルギーの安定供給や災害時への備え、気候変動への対応といった、既存のエネルギーシステムが抱える課題も解決します。
気象情報やエネルギーの使用状況、発電所の稼働状況などのビッグデータをAIが解析することで、エネルギーの地産地消や家庭での省エネ、電源の多様化が可能になります[*7],(図6)。
図6: Society 5.0での新たな価値の事例(エネルギー)
出典: 内閣府「Society 5.0 新たな価値の事例(エネルギー)」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/energy.html
あらゆる分野に変革をもたらすSociety 5.0を支えるためには、エネルギーシステム全体の構造転換も必要であると考えられています。
そのため、大規模電源が主体である従来の電力システムから、脱炭素化、分散化、デジタル化などを実現する新しいシステムへの移行が急速に進められています[*8]。
また、「人間中心の社会」を目指していることから、個人の生活が主役となるように、地域社会ごとに特色のあるエネルギーシステムが構築されます[*8], (図7)。
図7: エネルギーシステムの全体像
出典: 経済産業省「Society5.0 を支える電力システムの実現に向けて」
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/008/pdf/008_008_02.pdf, p.3
地域社会と基幹システムの共存を前提としたシステムの再構築や、急増する分散リソースの統合によって、社会全体の3E+S(Energy Security(安定供給)、 Economic Efficiency(経済効率性)、 Environment(環境への適合)、Safety(安全性))を向上させます[*8, *9]。
Society 5.0において、さまざまなエネルギーデバイスがネットワークに接続され、情報交換をすることで相互にエネルギーの需給制御・管理を行うことを、IoE(Internet of Energy)と呼ばれます[*10]。
IoE社会では、IoTによってあらゆるデバイスの情報が収集できることから、機器の状態監視やリアルタイム制御が可能になり、エネルギー分野と他分野の連携も可能になります。
たとえば、電力網のデータと交通網のデータをIoTによって収集し、ネットワークでやり取りすることで、地域PV(太陽光発電)の余剰電力をバスの充放電に有効活用することができます[*11], (図8)。
図8:交通とエネルギー分野のセクターカップリングのイメージ
出典: 科学技術振興機構「IoE社会のエネルギーシステム」
https://www.jst.go.jp/sip/dl/p08/pamph.pdf,p.2
エネルギー分野が交通、水素、熱などの他分野と連携するセクターカップリングによって、社会全体のエネルギー消費の無駄を減らし、持続可能な脱炭素社会を構築します。
まとめ
最先端の科学技術によって形成されるSociety 5.0は、年齢、性別、地域、言語などによる格差が是正され、国民一人一人の意思決定が尊重される、人間中心の豊かな社会です[*1, *2]。
Society 5.0を支える、再生可能エネルギーを主力とする分散型のエネルギーシステムは、「人間中心の社会」の価値観を実現し、消費者が主体的にエネルギーを選択できるようになります。
Society 5.0の実現には、社会を支えるインフラであるエネルギーシステムの大胆な構造転換が必要不可欠と言えるでしょう。
参照・引用を見る
※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
内閣府「Society 5.0」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
*2
国立環境研究所「内閣府における『第5期科学技術基本計画』の策定」(2016)
https://www.nies.go.jp/kanko/news/35/35-1/35-1-03.html
*3
東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」
https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/
*4
内閣府「Society 5.0とは」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/society5_0-1.pdf, p.2, p.4
*5
内閣府「Society 5.0 新たな価値の事例(交通)」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/transportation.html
*6
経団連「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/005_honbun.html
*7
内閣府「Society 5.0 新たな価値の事例(エネルギー)」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/energy.html
*8
経済産業省「Society5.0 を支える電力システムの実現に向けて」
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/008/pdf/008_008_02.pdf, p.1, p.3
*9
経済産業省「グラフで見る世界のエネルギーと『3E+S』経済効率性 ~電気料金から読みとく」(2019)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/3es_graph04.html
*10
内閣府「IoE社会のエネルギーシステム」
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/230316/shiryo11.pdf, p.3
*11
科学技術振興機構「IoE社会のエネルギーシステム」
https://www.jst.go.jp/sip/dl/p08/pamph.pdf, p.2