エコロジカル・フットプリントとは何か? 地球環境を踏みつけにしない暮らしをしよう

人間活動は、温室効果ガスの排出、森林破壊など地球環境にさまざまな負荷を与えています。本来、地球の自然は自ら再生する力を持っていますが、人間の消費はそれ以上に自然資源を収奪しています。

そのような環境問題の解決に踏み出すために、人間活動によってもたらされる環境負荷を、目に見える形で数値化しようとする試みが、エコロジカル・フットプリントです。

エコロジカル・フットプリントとは何かについて理解した上で、それを減らすためにはどのような暮らしをすればいいのかみていきましょう。

「エコロジカル・フットプリント」とは

そもそも、エコロジカル・フットプリントとは何なのでしょうか。エコロジカル・フットプリントのこれまでの歴史と、それに関連するワードの「オーバーシュート」について解説します。

エコロジカル・フットプリントの歴史

エコロジカル・フットプリントとは、人間活動が地球環境に与えている負荷の大きさを、面積に換算して示す指標です。木材などを生産している森林や、魚介類などをもたらす海洋、農作物を収穫する農場、牧草地といった、現在人間が消費している物を生み出すために必要な、生産性のある「土地」を架空の面積に置き換えたものです[*1]。

ちなみに、フットプリントとは英語で「足跡」のことです。「人間活動が地球環境を踏みつけにした足跡」という比喩を使って、「人間活動が地球環境に与えている負荷」をエコロジカル・フットプリントと表すようになりました(図1)。


図1: エコロジカル・フットプリントのイメージ
出典: WWFジャパン「地球1個分の暮らしの指標 〜ひと目でわかるエコロジカル・フットプリント〜」
https://www.wwf.or.jp/staffblog/upfiles/20150903eco_pdf.pdf, p.6

概念としては1990年代の初めから提唱されていましたが、エコロジカル・フットプリントという言葉が文献に登場したのは、1992年のことです。

エコロジカル・フットプリントには、gha(グローバル・ヘクタール)という独自の単位が使われます。1ghaとは、「世界の平均的な生産力を持つ生物生産が可能な面積1ha」のことです[*2]。

気候や土地の利用方法によって、土地の生物生産力は異なるため、この差を補正して計算するためにghaが考案されました。

例えば、牧草地1haは、生物資源として牧草を生産するだけなので単位面積あたりの生産力が低いことから0.5ghaと換算されます。一方で、農耕地1haは穀物や野菜などの農産物を生産するため生産力が高いので2.2ghaと換算されます。

また、日本の一人あたりエコロジカル・フットプリントの約65%は、二酸化炭素を吸収するのに必要な土地面積である「カーボン・フットプリント」です(図2)。すなわち、二酸化炭素の排出が多いので、それを吸収するのに必要な土地面積が多くを占めているのです。

図2: 日本の一人あたりエコロジカル・フットプリント
出典: WWFジャパン「地球1個分の暮らしの指標 〜ひと目でわかるエコロジカル・フットプリント〜」
https://www.wwf.or.jp/staffblog/upfiles/20150903eco_pdf.pdf, p.12

図1は下から色別に、耕作地、牧草地、森林地、漁場、生産能力阻害地(建物・道路など)、カーボン・フットプリントを表しています。

 

オーバーシュートとは

エコロジカル・フットプリントに対して、「バイオキャパシティ」という概念があります。これは「生物生産力」のことで、自然資源を生産し二酸化炭素などを吸収できる能力を、土地、水域の面積で示したものです。エコロジカル・フットプリントが「人間活動によって消費される自然資源」を表すならば、バイオキャパシティは「地球によって生産される自然資源」という相反した意味になります。

一方、「オーバーシュート」とは、エコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティを超えており、持続可能ではない状態のことです。

1970年代以降、地球全体ではオーバーシュートの状態が続いています。2018年のデータでは、バイオキャパシティが121億ghaで、エコロジカル・フットプリントが212億ghaであり、差し引き91億ghaオーバーシュートの状態となっており、過去最大です(図3)。(エコロジカル・フットプリント)÷(バイオキャパシティ)= 約1.75 ですので、人類全体の生活は地球1.75個分を必要としていることになります。

図3: 世界のエコロジカル・フットプリントとバイオキャパシティ
出典: Global Footprint Network「Country Trends」
https://data.footprintnetwork.org/?_ga=2.260232845.1299698600.1650175117-943779136.1626919039#/countryTrends?cn=5001&type=BCtot,EFCtot

赤い線がエコロジカル・フットプリントで、緑の線がバイオキャパシティを表しており、エコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティを上回っている部分が赤く塗られています。年々、オーバーシュートを示す赤い部分が広がっていることが読み取れます。

海外のエコロジカル・フットプリントはどうなっているか

ここでは、エコロジカル・フットプリントを算出するための計算式を紹介します。また、海外におけるエコロジカル・フットプリントの状況についても紹介します。

エコロジカル・フットプリントの計算式

エコロジカル・フットプリントの計算式は次の通りです[*3]。

(エコロジカル・フットプリント)=(人口)×(1人あたりの消費)×(生産・廃棄効率)

さらに、国民の国内消費の影響を正しく評価するために、消費に関するエコロジカル・フットプリントを、次の式によって計算します[*4]。

(消費に関するエコロジカル・フットプリント)=(生産に関するエコロジカル・フットプリント)+(輸入品のエコロジカル・フットプリント − 輸出品のエコロジカル・フットプリント)

エコロジカル・フットプリントを押し上げる主な環境負荷としては、温室効果ガスの排出、森林破壊、過剰な漁獲などが挙げられます。

 

エコロジカル・フットプリントの現状〜海外

海外のエコロジカル・フットプリントの多い国ランキングベスト10(2018年)は、図4の通りです。

順位国名エコロジカル・フットプリント(gha)
1中国5,540,000,000
2アメリカ2,660,000,000
3インド1,640,000,000
4ロシア774,000,000
5日本586,000,000
6ブラジル542,000,000
7インドネシア460,000,000
8ドイツ388,000,000
9韓国323,000,000
10メキシコ301,000,000

図4: 世界各国のエコロジカル・フットプリントのランキング(2018年)
出典: Global Footprint Network「COUNTRIES RANKED BY TOTAL ECOLOGICAL FOOTPRINT (in global hectares)」
https://data.footprintnetwork.org/#/

中国、アメリカなどの大国、急成長しているインド、ブラジル、それから日本も上位にランクインしています。やはり、経済大国が環境に負荷をかけていることがわかります。

例えば、中国では、人口が世界一多いことに加えて、経済成長のために、食生活が大きく変化しています。畜産物消費の増加、それに伴う飼料穀物の輸入増加などのために、エコロジカル・フットプリントは増えてきています[*5]。

また、インドにおいても人口の多さと、経済の急成長を背景にして、中国と同様の状況になりつつあると見られています[*6]。

穀物飼料を大量に投入する畜産物など環境負荷の高い食料を食べることは、間接的にもエコロジカル・フットプリントの上昇につながる行動です。畜産業における温室効果ガスの排出、飼料・畜産物生産のための森林破壊、飼料や食料の大量輸入など、さまざまな環境負荷が付随して発生します。

日本のエコロジカル・フットプリント

それでは、国内のエコロジカル・フットプリントの状況はどうなっているのでしょうか。日本のエコロジカル・フットプリントの特徴は、以下の通りです[*7]。

  • 国全体で見ても、国民1人あたりで見ても、国内のバイオキャパシティよりもエコロジカル・フットプリントが大きい(オーバーシュートの状態になっている)
  • ただし、土地別に見ると、エコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティの範囲に収まっている土地の方が多い(図5)

図5: 日本のエコロジカル・フットプリントの分布
出典: 環境省「平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010301.html

右側の図の水色と青色で塗られた部分が、エコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティの範囲に収まっている土地の面積の割合を示しています。首都圏以外では、オーバーシュートになっていないことがわかります。

日本では、国内で消費するさまざまな資源の多くを輸入しているため、エコロジカル・フットプリントは、国全体で見ても、国民1人あたりで見ても、バイオキャパシティを超えています。ただし、特に人口が集中している都市部のエコロジカル・フットプリントが大きいため、農村部に比べて都市部の環境負荷は高くなっています。

日本のエコロジカル・フットプリントを押し上げている要因は、家計消費活動における二酸化炭素の排出です(図6)。

図6: 日本の家計消費がエコロジカル・フットプリントに占める割合
出典: WWF「エコロジカル・フットプリント・レポート 日本 2009」
https://www.footprintnetwork.org/content/images/uploads/Japan_EF_Report_2009_JA.pdf, p.23

家計部門がエコロジカル・フットプリントの67%を占め、その内訳は、食糧が36%ともっとも大きく、次いでサービス(17%)、交通(17%)、住居(15%)となっています[*8]。さらに、特に人口が集中し、比較的所得が高いため多くのものを消費する都市部のライフスタイルが大きな影響を与えています。

例えば京都市では、グローバル・フットプリント・ネットワークらの調査により、エコロジカル・フットプリントが全国平均よりも「住居、光熱費」で約45%低いと試算されています。これは、一戸建てよりも共同住宅の割合が大きいことと、都市ガス利用が多いためです。また、公共交通機関の利用が多いことから「交通」では約24%小さいこともわかりました[*9]。

また、高齢化率が高い方がエコロジカル・フットプリントが高いという調査結果があり、加工食品の消費が多い食生活の影響ではないかと考えられています(図7)。

図7: 都市化および高齢化と都道府県別エコロジカル・フットプリントの関係
出典: 総合地球環境学研究所「あなたの都道府県の暮らしは地球何個分?~地域別エコロジカル・フットプリントと都市化や高齢化との関係を解明~」
https://www.chikyu.ac.jp/publicity/news/2021/0303.html

図からは、高齢化が進んだ都道府県では、特に食におけるエコロジカル・フットプリントが高いことが読み取れます。

エコロジカル・フットプリントを減らすために

エコロジカル・フットプリントの国内対策はまだ始まったばかりです。世界全体及び各国のエコロジカル・フットプリントの状況を把握した上で、各地域、自治体ごとの対策に落とし込む作業を始めようとしている段階です。

WWFジャパンは、エコロジカル・フットプリントを減らすために、「持続可能なまちづくり」として各自治体に次のような取り組みを求めています[*10]。

  • 環境負荷を下げる(=エコロジカル・フットプリントを減らす)こと。温暖化対策、食品ロス削減、効率よい資源利用のための技術革新
  • 土地の生産性を高める(=バイオ・キャパシティを増やす)こと。土壌の改善、適切な土地の利用、責任ある調達方針の設定
  • これらを支え、つなぐこと。教育プログラムの実施、市民参加の場づくり、自治体間の連携

また、個人としてできる取り組みとしては、次のようなものが考えられます。

  • 畜産業からの温室効果ガスを削減させるために、肉を食べる量を減らして菜食にシフトしていく
  • 持続可能な林業を目指す「FSC認証製品」や、持続可能な漁業を目指す「MSC認証製品」を選ぶ
  • 食品ロスを減らしたり、生ごみコンポストを導入したりする
  • 省エネ住宅、再生可能エネルギーを選択する
  • 公共交通機関を利用する
  • 環境問題に力を入れている政治家を支持したり、環境団体に参加・寄付したりする

日本のエコロジカル・フットプリントは、家計部門による環境負荷が拍車をかけているという現状があります。以上のような対策に一人ひとりが取り組むことで生活における環境負荷を下げ、エコロジカル・フットプリントを減らすことが可能なのです。

 

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参照・引用を見る

エコロジカル・フットプリント・ジャパン「エコフットについて」
https://ecofoot.jp/what-is-ef/

*2
国土交通省「指標:エコロジカルフットプリント」
https://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/monitoring/system/contents/06/6-1-2.pdf

*3
WWFジャパン「地球1個分の暮らしの指標 〜ひと目でわかるエコロジカル・フットプリント〜」
https://www.wwf.or.jp/staffblog/upfiles/20150903eco_pdf.pdf, p.6

*4
WWFジャパン、グローバル・フットプリント・ネットワーク「エコロジカル・フットプリント・レポート 日本 2009」
https://www.footprintnetwork.org/content/images/uploads/Japan_EF_Report_2009_JA.pdf, p.7

*5
小西孝蔵「世界の食料需給見通し」
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/review/attach/pdf/070629_pr24_02.pdf, p.6~7

*6
小西孝蔵「世界の食料需給見通し」
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/review/attach/pdf/070629_pr24_02.pdf, p.9

*7
環境省「平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010301.html

*8
WWF「エコロジカル・フットプリント・レポート 日本」
https://www.footprintnetwork.org/content/images/uploads/Japan_EF_Report_2009_JA.pdf, p.23

*9
環境省「平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010301.html

*10
WWFジャパン「あなたの街の暮らしは地球何個分?」
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4033.html

 

 

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