世界全体の3分の1を占める「食」の分野からの温室効果ガス排出 脱炭素化に向けた取り組み事例を紹介

気候変動問題の解決に向けて、世界各国で脱炭素化の取り組みが進む中では、エネルギー部門や交通部門のほか、食に関連する分野「食料システム」における脱炭素化も求められています[*1]。

食料システムにおける温室効果ガス排出量は、世界全体で人為的に排出される温室効果ガスの3分の1を占めるという調査結果もあり、対策が欠かせません[*2]。

それでは、食料システムの脱炭素化に向けて、国内外でどのような取り組みが行われているのでしょうか。詳しくご説明します。

 

国内外の食料システムにおける温室効果ガス
世界の食料システムと温室効果ガス排出量

「食料システム」とは、食料の生産、加工、輸送及び消費に関わる一連の活動のことです[*3]。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告では、2007年から2016年にかけての食料システムからの温室効果ガス排出量は、世界全体の人為起源総排出量の21~37%を占めるとされています[*1, *4]。

このうち、食品ロス(生産・収穫から小売り手前までに廃棄されたもの)及び食品廃棄物(家庭・外食・小売り段階で廃棄されたもの)からの温室効果ガス排出量は、総排出量の8〜10%であり、生産される食品の25〜30%が無駄になっています[*1, *5]。

EUの共同センターの調査では、1990年から2015年までの食料システムにおける温室効果ガス排出量のおよそ半分がCO2と報告されています。CO2は、主に森林伐採等による土地利用や、梱包・輸送・加工段階で排出されます。また、排出量の3分の1はメタン(CH4)が占めており、牛や羊などの家畜のゲップほか、米の生産や生物系廃棄物の処理が主な排出源です[*2]。

国内の食分野における温室効果ガス排出量

国内における2021年度の温室効果ガス排出量は11億7,000万トンで(CO2換算)、このうち、2.8%が農業分野から排出されています。また、食品飲料製造業由来のCO2排出量は2,000万トンと、産業部門全体の5.3%を占めています[*6, *7], (図1)。

図1: 産業部門におけるCO2排出量(2021年度)
出典: 環境省「2021 年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値1)について」
https://www.env.go.jp/content/000128750.pdf, p.18

また、温室効果ガス排出量を消費ベース(カーボンフットプリント)で見ると、平均的な日本人の食事の場合、一人当たり年1,400kg相当のCO2が排出されていると報告されています[*8]。

カーボンフットプリントは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表示する仕組みです[*9]。

食品の中でも肉類、穀類、乳製品の順でカーボンフットプリントが高くなっています[*8]。

 

食の脱炭素化に向けた国外の動向

世界各国では、食の脱炭素化に向けた戦略の策定が進んでいます。例えば、EUでは2020年5月に欧州委員会が「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」を発表しました[*10]。

同戦略は、①食料生産の持続可能性、②食料安全保障、③加工・流通・食品サービスの持続可能性、④持続可能な消費と食生活、⑤食品廃棄の削減、⑥食品偽装との闘い、を政策課題として、様々な数値目標が設定されています[*11], (表1)。

表1: 欧州委員会によるFarm to Fork戦略案の主な内容

出典: みずほ情報総研株式会社「3章 F2F戦略の各論詳細の把握」
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/attach/pdf/itakur2-13.pdf, p.38

例えば、化学肥料の一部は製造時に化石燃料を必要とするため、過度な使用は温室効果ガス排出量の増加につながります。「有機農業」の推進に関する目標では、2030年までに全農地の25%を有機農業とすることを目標としています。[*12]。

また、「フードロス対策」に関しては、消費段階での一人当たりの食品ロスを50%削減することを目標としています[*11]。

アメリカでも、2021年2月に「2030年までに食品ロスと食品廃棄物を50%削減」を目指す農業イノベーションアジェンダが策定されています[*13]。

また、中国では、2021年4月に、大量に食べ残すなどした客からごみ処理費用を飲食店が徴収できる法律が可決しました。さらに、2023年6月には食糧の節約などについて具体的に定めた「食糧安全保障法」の草案が公表されています[*14, *15]。

このように、様々な国や地域が食の脱炭素化に向けた目標を設定しています。

 

日本における食の脱炭素化
「みどりの食料システム戦略」の策定

国内でも、食の脱炭素化に向けた戦略の策定が進んでいます。2021年5月には、持続可能な食料システムの構築に向け、「みどりの食料システム戦略」が策定されました[*16], (図2)。

図2: みどりの食料システム戦略が目指す姿と取り組み方向
出典: 農林水産省「みどりの食料システム戦略」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-43.pdf, p.3

2050年までに農林水産業におけるCO2排出ゼロの実現や、化学肥料使用量の30%低減等を目指すとしています。また、耕地面積に占める有機農業の取り組み面積割合を25%に拡大することを目指すなど、食の脱炭素化に向けて様々な目標を設定しています。

目標達成に向け、農林水産省は、ドローンによるピンポイント農薬・肥料散布や、AIを用いた病害虫の画損診断技術などスマート農林水産業を推進するとしています。また、メタン発生の少ない稲品種や水田管理技術など、地球に優しい品種や技術の開発・普及によって環境負荷低減を図る予定です[*17]。

農業における取り組み

行政だけでなく、生産者による脱炭素化の取り組みも進んでいます。例えば、三重県伊賀市でいちごやトマト栽培を行う株式会社伊賀の里モクモク手づくりファームは、再生可能エネルギーを活用した農業経営を実践しています[*18], (図3)。

図3: 株式会社伊賀の里モクモク手づくりファームによる取り組み概要
出典: 経済産業省「農業経営でCO2排出量年間40t削減と燃料コストの20%削減を実現」
https://japancredit.go.jp/case/01/

当ファームは、いちごとトマトの温室ハウスの暖房に、木質バイオマス燃料の加温器を導入し、エネルギーの地産地消を図っています。その結果、燃料コストは化石燃料より20%削減でき、CO2排出量も年間40トン削減を実現しました[*18], (図4)。

図4: 導入された木質ペレット加温器や消費者へのPR風景
出典: 経済産業省「農業経営でCO2排出量年間40t削減と燃料コストの20%削減を実現」
https://japancredit.go.jp/case/01/

また、当ファームを訪れた見学者を対象に環境学習を行い、環境保全への取組みを紹介しています。

畜産における取り組み

国内における畜産由来の温室効果ガス排出量は、農業全体の3分の1を占め、脱炭素化が求められています。とりわけ酪農経営においては、家畜のゲップやふん尿によるメタンの放出と、機械を稼働するときに使用する化石燃料の燃焼に伴うCO2の削減が求められています[*19]。

牛や羊などの反芻動物は、草などを分解するために細菌を有しますが、牛のゲップから発生するメタンの量は、この胃の中にいる細菌の種類によって異なることが分かっています[*20]。

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は近年、「メタンの排出が少ない牛」が持つ細菌の特定を進めており、この細菌を別の牛の胃の中でも増やしたり、この細菌を多く持つ牛を交配したりすれば、メタンの排出が少ない牛を増やすことが可能です。

農研機構では、ゲップに含まれるメタンの量を2030年までに25%削減、2040年までに80%削減することを目指しています。これらの牛が普及すれば、畜産業における脱炭素が実現に大きく近づくと言えるでしょう。

食品ロス削減に向けた取り組み

先述したように、温室効果ガスの主要な排出源となっている食品ロスや食品廃棄物の削減のため、小売事業者を中心に様々な取り組みが広がっています。

イオン北海道株式会社では、食品廃棄物全体を2025年度までに2015年度比で32%削減する目標を設定し、削減に向けた取り組みを展開しています。店舗では、商品棚の手前にある賞味期限が差し迫った商品を選ぶ「てまえどり」のPOPやポスターの掲示を通じて、本来ならまだ食べられるのに捨てられてしまう食品を減らす取り組みへの呼びかけなどを実施しています[*5, *21], (図5)。

図5: イオン北海道株式会社における取り組み
出典: 農林水産省「令和4年度 消費者啓発に取り組む小売・外食事業者の取組事例集」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/cyuukankeihatsu-2.pdf, p.3

また、MAP包装した商品の導入も進めています。MAP包装とは、パッケージの中の空気を食品の保存に適した食品ガスに置き換え、包装する方法のことです[*22], (図6)。

図6: MAP包装のメリット
出典: 株式会社アルティフーズ「マップ包装とは」
https://www.altyfoods.co.jp/feature/map/

MAP包装を行うことが、消費期限の延長につながるため、家庭内や店舗における食品ロスが減るというメリットがあります。

また、農林水産省は恵方巻きをはじめとする季節商品の需要に見合った販売の推進を食品小売業者に呼び掛けています。2020年度からは、小売店が行う恵方巻きのロス削減の取り組みをホームページで紹介するなど、消費者への周知を行っています[*23]。

 

食の脱炭素化に向けて消費者ができる行動

これまで紹介してきたように、食料システムにおいて、日々多くの温室効果ガスが排出され

ています。排出量を削減するためには、行政や事業者のみならず、消費者一人ひとりの取り組みも重要です。

現在、農林水産省では、農産物の温室効果ガス削減の「見える化」実証事業を行っています[*24], (図7)。

図7: 農産物の温室効果ガス削減の「見える化」
出典: 農林水産省「見つけて! 温室効果ガス削減の『見える化』ラベル」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/being_sustainable/mieruka/mieruka.html

当実証事業に参加している生産者の農産物には、温室効果ガス削減率が分かる「見える化」ラベルが貼られています。消費者は商品を購入する際に、このラベルが付いている農産物を選択することで脱炭素化に貢献できると言えます。

さらに、食品廃棄物を減らすことも重要です。購入前に家にある食材を確認したうえで、必要な分だけ購入したり、食品の保存方法を工夫するほか、食品の期限表示を正しく理解し、有効に使うことで廃棄物の削減につながります[*25]。

まずは日々の生活でできることを実践してみましょう。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

\ 自然電力からのおしらせ /

かけがえのない地球を、大切な人のためにつないでいくアクション。
小さく、できることから始めよう!

▶︎ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
環境省「サステナブルな食に関する環境省の取組について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000760254.pdf, p.3, p.10, p.11, p.14

*2
AFPBB News「温室効果ガス発生源、3分の1は『食』に関係EU研究」
https://www.afpbb.com/articles/-/3336993
https://www.afpbb.com/articles/-/3336993?page=2

*3
農林水産省「国連食料システムサミット」
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kanren_sesaku/FAO/fss.html

*4
環境省「政策決定者向け要約(SPM)の概要(ヘッドラインステートメント)」
https://www.env.go.jp/content/900514094.pdf, p.1

*5
株式会社朝日新聞社「食品ロスと食品廃棄物の違いは? 国内外で区分にも差異 データで見るSDGs【13】」
https://www.asahi.com/sdgs/article/14554151

*6
国立環境研究所 地球環境研究センター「日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2023年」
https://www.nies.go.jp/gio/archive/nir/jqjm1000001v3c7t-att/NIR-JPN-2023-v3.0_J_gioweb.pdf, 概要2, 概要4

*7
環境省「2021 年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値1)について」
https://www.env.go.jp/content/000128750.pdf, p.18

*8
公益財団法人 地球環境戦略研究機関「1.5°Cライフスタイル – 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢 – 日本語要約版」
https://www.iges.or.jp/jp/pub/15-lifestyles/ja

*9
経済産業省「カーボンフットプリント(CFP)の概要」
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sangi/carbon_neutral/pdf/001_04_01.pdf, p.1

*10
独立行政法人 日本貿易振興機構「EUの新しい食品産業政策『Farm To Fork戦略』を読み解く」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/a718804066114a95.html

*11
みずほ情報総研株式会社「3章 F2F戦略の各論詳細の把握」
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/attach/pdf/itakur2-13.pdf, p.37, p.38

*12
株式会社 日本経済新聞社「有機農業、農水省なぜ推進? SDGsの流れが後押し」
https://reskill.nikkei.com/article/DGXZZO72677880Y1A600C2000000/

*13
有限責任監査法人トーマツ「食品ロスの削減を通じてカーボンニュートラル社会を実現しよう」
https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/d-nnovation-perspectives/2021/foodloss-and-carbon-neutral.html

*14
株式会社日本経済新聞社「中国『食べ残し禁止』法可決 浪費ならごみ処理費負担も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM290PK0Z20C21A4000000/

*15
独立行政法人 日本貿易振興機構「『食糧安全保障法』(草案)公表、食糧事情などに基づいた食糧安全保障システム構築」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/07/a2583c740a497db8.html

*16
農林水産省「みどりの食料システム戦略」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-43.pdf, p.3

*17
農林水産省「みどりの食料システム戦略(本体)」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-10.pdf, p.9, p.10

*18
経済産業省「農業経営でCO2排出量年間40t削減と燃料コストの20%削減を実現」
https://japancredit.go.jp/case/01/

*19
酪農学園大学「酪農における温室効果ガス排出と削減に向けて」
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/4081.html

*20
NHK「牛も脱炭素の時代!」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210524/k10013048061000.html

*21
農林水産省「令和4年度 消費者啓発に取り組む小売・外食事業者の取組事例集」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/cyuukankeihatsu-2.pdf, p.3

*22
株式会社アルティフーズ「マップ包装とは」
https://www.altyfoods.co.jp/feature/map/

*23
農林水産省「季節食品のロス削減」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/kisetsusyokuhin.html

*24
農林水産省「見つけて! 温室効果ガス削減の『見える化』ラベル」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/being_sustainable/mieruka/mieruka.html

*25
消費者庁「食品ロス 削減ガイドブック」
https://www.no-foodloss.caa.go.jp/digitalbook/02/#page=43, p.41

 

メルマガ登録