気候変動の解決に向けて、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーである太陽光発電の活用が進んでいます。
2012年に固定価格買取制度が導入されたことで急速に普及した太陽光パネルですが、その製品の大半の寿命は約25~30年であり、2030年代後半以降に大量の使用済み太陽光パネルが廃棄されることが予測されています。
太陽光パネルの大量廃棄には、有害物質の流出や最終処分場の確保など、さまざまな懸念があります。政府は太陽光パネルのリサイクルに向けたガイドラインを作成し、再資源化を推進しており、太陽光パネルの適切な廃棄を促す仕組み作りに関する議論が進められています。
2030年代後半に多くの太陽光パネルは寿命を迎える
カーボンニュートラルの実現に向けて、日本国内における太陽光発電の普及は着実に進んでいます。太陽光パネルの導入が急速に進んだきっかけは、2012年からスタートした固定価格買取制度(FIT)です。
2009年に太陽光発電の余剰電力の買い取りが電力会社に義務付けられ、住宅用システムを中心に太陽光発電の導入が進みました。そして、2012年に開始されたFITでは、太陽光発電にくわえて、風力、水力、地熱、バイオマスも買い取りの対象となり、再生可能エネルギーの更なる普及拡大を目指しました。
結果として、投資家を巻き込んだ売電事業が急速に成長し、太陽光発電に関しても小規模な住宅用だけではなく、メガソーラーなどの大規模発電の設置が相次ぎました[*1]。
FIT制度開始前の2011年は太陽光発電の累積導入量は約5GW程度でしたが、2023年3月末時点の累積導入量は約70GWとなり、太陽光発電は加速度的に増加しています[*2], (図1)。
図1: 太陽光発電システムの導入状況
出典: 経済産業省「太陽電池パネルの適正処理・リサイクルの推進について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/pdf/007_04_00.pdf, p.7
FITをきっかけに大量に導入された太陽光パネルは、今後寿命をむかえ、使用済み太陽光パネルとして廃棄されます。政府の推定によると2030年代後半以降、年間で最大約50万トンもの太陽光パネルが廃棄される見込みです[*3], (図2)。
図2: 太陽光パネルの排出量予測
出典: 経済産業省「太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/solar_power_generation/pdf/001_03_00.pdf, p.17
50万トンの排出量は、自動車や家電などの年間廃棄量と同程度。すべてが直接埋め立て処分された場合、2021年度の最終処分量の約5%に相当します。
太陽光パネルの有害物質は本当に危険?
太陽光パネルの廃棄において問題となるのが、太陽光パネルに含まれるとされている有害物質の扱いです。
太陽電池は主にシリコン系、化合物系、有機物系に分類され、種類によって鉛、カドミウム、セレンなどの有害物質が含まれているものがあります[*3], (図3)。
図3:太陽電池モジュールの種類
出典: 経済産業省「太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/solar_power_generation/pdf/001_03_00.pdf, p.19
現在世界で運用されている太陽光電池の約95%は、シリコン系に分類されます。
普及の多数を占めるシリコン系の太陽電池セルの電極には、微量の鉛が添加剤として使用されることがあります。しかし、太陽光パネルの電極は外部環境から保護するために封止材(接着剤)で強固に装着されているうえに、図4のようにカバーガラスとバックシート、アルミフレームで保護されています[*2, *4]。
図4:シリコン系太陽電池モジュールの構造
出典: 経済産業省「太陽電池パネルの適正処理・リサイクルの推進について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/pdf/007_04_00.pdf, p.9
事故や災害などで太陽光パネルが破損したり、折れ曲がったりした場合でも、有害物質が直ちに流出したり、拡散される可能性は構造上極めて低いと言えます。破損した太陽光パネルが長期にわたり放置された場合などは、有害物質による汚染の可能性がゼロではないため、適正な処分やリサイクルが必要です[*4]。
また、市場の5%未満とシェアは少ないものの、化合物系の太陽光パネルにも有害物質が微量に含まれています。化合物系の場合、有害物質は半導体ウェハに添加されていますが、これは太陽光パネルに限らず、世の中に流通しているさまざまな半導体電子機器も同様です。化合物系の太陽光パネルはシリコン系と異なり処理方法が一般化されていないため、有害物質の処理に関するノウハウを持った製造事業者が自主回収や処理をおこなっています[*4]。
太陽光パネルに含まれる有害物質に関しては、FIT/FIP制度の事業認定段階から、鉛、カドミウム、ヒ素、セレンの4物質の含有情報を確実に把握する仕組みが整えられています。
資源エネルギー庁は太陽光パネルの含有物質に関するデータベースを構築しており、2024年4月に改正された再エネ特措法施行規則では、含有物質情報の登録がある型式の太陽光パネルの使用が義務付けられています[*3]。
太陽光パネルの製造・販売業者への情報開示を求めることは、適切な廃棄処理やリサイクルを促すことにつながります。
太陽光発電のリサイクル・リユースに関するルールの動向
太陽光パネルの大量廃棄に備えて、リユースの推進やリサイクル義務化などの制度やルールの検討も進んでいます。
政府は、発電事業者やパネルの解体・撤去事業者などの関係者向けに「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン」を公表しています。
2024年に第三版が公表されたこのガイドラインでは、パネルの撤去から処分に至るまでの留意事項や事例が整理されており、平常時と災害時それぞれにおける使用済太陽光発電設備の処理方法がまとめられています[*3]。
2021年には、「太陽電池モジュールの適切なリユース促進ガイドライン」も公表され、リユース品の条件や発電作動性の検査例、適切な梱包方法などの具体的な方法を関係者に周知しています[*3], (図5)。
図5:「太陽電池モジュールの適切なリユース促進ガイドライン」の概要
出典: 経済産業省「太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/solar_power_generation/pdf/001_03_00.pdf, p.13
このようにリサイクルやリユースを推進するガイドラインは公表されているものの、現行法では使用済み太陽光パネルのリサイクルは義務付けられていません。そのため、現状では廃棄物処理法と循環型社会形成推進基本法に基づき、発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)、熱回収、埋立処分の優先順位で、適正に処分されています[*6], (図6)。
図6:太陽光パネルのリユース、リサイクル、埋立処分の全体像
出典: 環境省「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに係る現状及び課題について
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/disposal_recycle/pdf/001_03_00.pdf, p.5
太陽光パネルのリサイクルフローには、アルミフレームやガラスなどを分類してリサイクルする高度選別リサイクルフローとパネル自体を粉砕する単純粉砕処理プローの2種類があり、リサイクルの範囲は、事業者の判断に委ねられているのが現状です[*6], (図7)。
図7:太陽光パネルの高度選別リサイクルと単純破砕処理のフロー
出典: 環境省「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに係る現状及び課題について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/disposal_recycle/pdf/001_03_00.pdf, p.10
政府は使用済み太陽光パネルのリサイクルを義務化する制度を検討していますが、2025年5月に通常国会での法案提出を見送ると発表しました。この制度は、太陽光パネルの製造業者に対して使用済みパネルのリサイクル費用負担を求めるものですが、新設パネルには対応しやすいものの、既設設備はどのように費用負担を求めるべきか、まだ議論の余地があります。事業者の負担手法のさらなる検討や他の関係法令との調整が必要であると判断され、法案提出が見送られることとなりました。
いずれにせよ、太陽光パネルのリサイクルは喫緊の課題であることは変わりないため、政府は早期段階での法案提出を目指しています[*7]。
太陽光パネルのリサイクルに関する最新技術
法整備だけでなく、国内では太陽光パネルのリサイクルに関する技術開発も進められています。
2023年には、資源循環事業を手がける株式会社新菱が日本初となる熱分解処理方式の高度リサイクル工場の運用を福岡県北九州市で開始しました[*8]。このリサイクル工場では、素材の高度選別によるアルミ、銅、銀などの金属やガラスの水平リサイクルを実現しており、年間9万枚のパネルリサイクルが可能です[*9], (図8)。
図8:太陽光パネル高度リサイクルプラント
出典: 経済産業省「株式会社新菱『太陽光パネル リサイクル』」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/saisei_kano_energy/pdf/003_06_00.pdf, p.8
素材別の高度なリサイクルによって、太陽光パネル1MWにつき合計約200トンのCO2が削減できます。リサイクル工場から排出される廃棄物はほぼゼロで、リサイクル率は99%以上を見込んでいます[*8 ,*9]。
2024年には太陽光発電システムの開発・販売を手がける新見ソーラーカンパニーが、CO2を排出せずに高純度で素材を抽出できる熱分解装置の開発に成功しています。これは世界唯一の独自技術で、600度以上の過熱水蒸気で封止材やバックシートを気化させ、ガラス片や、銅線、電池セルを分解して取り出すことができます[*10, *11], (図9)。
図9:佐久本式ソーラーパネル熱分解装置によって実現する循環型社会
出典: 株式会社新見ソーラーカンパニー「佐久本式ソーラーパネル熱分解装置」
https://niimi-solar.co.jp/service/atmos/
新見ソーラーでは今後熱分解装置を全国展開していくとともに、廃棄太陽光パネルを新しい太陽光パネルに生まれ変わらせる水平リサイクルの実現を目指しています。
おわりに
近い将来訪れる太陽光パネルの大量廃棄に備えて、リサイクルに関するルールの検討とリサイクル技術の開発の両方が進められています。太陽光パネルのリサイクル技術が確立されることは、太陽光発電のさらなる導入拡大にもつながります。
太陽光発電が長期的に安定した主力電源となり、脱炭素社会を実現するためには、太陽光パネルの廃棄問題の早期解決が不可欠と言えるでしょう。
参照・引用を見る
※参考URLはすべて執筆時の情報です
*1
経済産業省 「再生可能エネルギーの歴史と未来」(2018)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienerekishi.html
*2
経済産業省「太陽電池パネルの適正処理・リサイクルの推進について」(2024)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/pdf/007_04_00.pdf, p.7, p.9
*3
経済産業省「太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/solar_power_generation/pdf/001_03_00.pdf, p.10, p.12, p.13, p.17, p.19
*4
自然電力 HATCH 「太陽光発電所の廃パネル問題とは? 何が問題で何が正しい?(前編)」(2022)
https://shizen-hatch.net/2022/02/02/shizenenergy_blog_interview/
*5
一般社団法人 太陽光発電協会「太陽電池パネルの適正処理・リサイクルについて」(2022)
https://www.jpea.gr.jp/wp-content/uploads/sympo39_s3_doc0.pdf, p.11
*6
環境省「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに係る現状及び課題について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/disposal_recycle/pdf/001_03_00.pdf, p.5, p.10
*7
日本経済新聞「太陽光パネルのリサイクル法案、今国会の提出見送りへ 政府」(2025)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA131VU0T10C25A5000000/
*8
北九州市「太陽光パネルリサイクル工場のご紹介」(2023)
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/001022540.pdf, p.1
*9
経済産業省「株式会社新菱『太陽光パネル リサイクル』」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/saisei_kano_energy/pdf/003_06_00.pdf, p.8
*10
日本経済新聞「新見ソーラー、CO2排出ゼロの廃パネル分解装置完成」(2024)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1619G0W4A410C2000000/
*11
株式会社新見ソーラーカンパニー「佐久本式ソーラーパネル熱分解装置」
https://niimi-solar.co.jp/service/atmos/