もしも、地域にふりそそぐ太陽の力で、地域を育てられるとしたら。発電収益の地域循環で産業を強くする、熊本県合志市が描く未来

地域にふりそそぐ太陽の力を、太陽光発電所では電気に変えています。
でもそれだけではなくて、もしも、太陽の力をその地域が元気になるための力に変えることができたら、素敵だと思いませんか?

太陽で豊かな森が育つように、自然の恵みで地域が育つ。
新たな産業が生まれ、多様な才能が集まり、まちが持続的に発展する。

自然電力がつくる発電所のひとつを訪ねると、そんな可能性を感じました。
発電による収益の一部をその地域の振興のために還元する。そんな取り組みを自然電力は進めています。

目指すのは「エネルギーから世界をかえる」こと。世界を変えるためには、きっと地域を一つひとつ変えていく必要があるのでしょう。自然電力の発電所がある地域は、いったいどんな風に変わったのでしょうか?「自然電力のでんき」の産地でお話を伺いました。

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「住みよさ」九州トップのまちも抱える地域課題

今回取材したのは、自然電力が地域還元事業に初めて取り組んだ発電所がある熊本県合志市。農業が基幹産業です。


合志市は熊本市に隣接する人口約6万人のまち。都市が近く自然も豊かな「便利な田舎」として人気で、人口は増えています。子どもが多く、0歳から14歳までの子どもたちが人口の6分の1を占めています。東洋経済新報社の「住みよさランキング」では3年連続で九州トップとなりました。

そんな合志市にも地域の課題があります。たとえば、市の自主財源の減少。景気の影響などで個人市民税や法人市民税が減少する一方で、人口増加や高齢化の進展のため福祉予算は増加が進んでいます。

将来の人口減少にそなえ、新たな行政需要にも応えていくための「攻めの予算」をつくりたいものの、他の多くの自治体と同様に「守りの予算」を捻出するのにも一苦労する状況なのです。

なんとかして「稼げる市」となって、財源を増やしたい。あるいはまちの財源を使わずにして、次世代のためにまちを元気にしたい。合志市はそう考えていました。そんな時に、合志市は自然電力と出会います。

そうして生まれたのが「合志農業活力プロジェクト」。合志市と民間企業が一緒につくる太陽光発電所の収益の一部を使って、合志市の基幹産業である農業を長期的・多角的に振興していくプロジェクトです。

合志農業活力プロジェクト
合志市、熊本製粉株式会社、および自然電力の子会社である自然電力ファーム株式会社の3者による、地域の自然エネルギー導入と農業振興とを両立させる取組。2014年3月に完工した「合志農業活力プロジェクト太陽光発電所」の年間売電収益の5%を、合志市の農業インフラ整備事業に活用している。さらに3者に入る配当金の一部を「一般社団法人合志農業活力基金」に集約し、農業分野における新たなチャレンジを後押しするために活用。農林水産省「地域還元型再生可能エネルギーモデル早期確立事業」に採択された。またアジアのエネルギー業界で権威ある賞の一つ「Asian Power Awards 2015」において、「Solar Power Project of the Year」金賞を受賞した。

合志市は、どのようにして自然電力と一緒にこのプロジェクトをスタートしたのでしょうか?プロジェクトを推進した合志市の濱田副市長(当時は政策部長)にお話を伺いました。そして見えてきたのは、まちの未来への想いと、合志市と自然電力の強い絆でした。

 

地域の次世代のために、行政と民間が連携

濱田さん 合志市は、行政・地域・民間企業と三方よしができる民間企業さんと手を組む方針です。それが具現化したのが自然電力との取り組みで、合志市の地域のためになる発電所を一緒につくっています。

合志市副市長 濱田善也
38年間の行政職員暦では主に政策関係を担当。住民参加のまちづくりを大学と一緒に取り組んだ経験から、まちづくりにおける地域住民の「価値観」の大切さに気づく。現在は副市長として、市長のビジョン具現化に注力している。

濱田さん 最初の発電所ができたのは2012年12月。地元企業の熊本製粉株式会社の太陽光発電事業に、合志市の遊休地を貸しました。その土地は環境にあまり配慮されていない時代の古い焼却場跡地で、用地として利活用が難しくなっていたのです。しかも毎年数十万円の維持管理経費もかかる、言ってみれば「負の遺産」。そこに地元企業の新しい事業をおこすことができました。

濱田さん さらに熊本県内で地元企業がメガソーラー発電に取り組んだ最初の事例となったため、合志市の話題づくりとしても成功しました。何かをマネした2番目よりも、はじめてのことをつくる先駆者になろうと市長ともいつも話をしているので、これも嬉しかったですね。

佐々木 自然電力グループにとっても、創業して初めてのプロジェクトでした。当社パートナーであるドイツのjuwi(ユーイ)社が初めて日本でプロジェクトに参加した発電所でもあります。

自然電力株式会社 事業推進部ジェネラルマネージャー 佐々木周
長期的に地域によりそう姿勢が事業のポイント。地域を主体として開発してベネフィットを共有することで、自然エネルギーを通した地域活性化を目指す。土地探しから地域の方たちと一体で行い、施工やメンテナンスにできるだけ地元企業を起用する地元雇用創出にも取り組む。

濱田さん 佐々木さんと出会った時には、私はまだまちづくり戦略室の室長だったかな。熊本製粉さんから自然電力の磯野社長を紹介していただいて。信頼する地元企業からの紹介というのも大きかったですが、自然電力さんと一緒にやろうと思った一番のポイントは「人」だったんです。

磯野社長や自然電力の社員さんの熱意がすごかった。本当に将来的に自然エネルギーで世界を変えていこうと、大きな考え方を持っているんです。そして磯野社長は、創業前に7年間取り組んでいた風力発電事業での失敗談も真摯に話してくれて。苦労して地域のことを理解してきた人たちだ、ということが伝わりました。

濱田さん そのうえで、目指す未来に向けて一緒に1からやりたいと。そこで私も、自然電力さんが新しい価値観で描く地域の未来を、具現化していくお手伝いをしたいと思ったんです。自然電力のような若い会社さんからも教えてもらいながら、次世代が求めるものを自分たちの代がお手伝いしていきたい。まちの住みよさの価値観も変わってきていて、自然エネルギーへの転換も価値観の変化のひとつなんです。

 

自然電力との連携で地域のために「稼ぐ市」へ

濱田さん 2013年1月からは、合志市と自然電力との間で包括協定を締結して、本格的に売電収益を地域に還元する枠組みを検討しました。その結果生まれたのが「合志農業活力プロジェクト」。

佐々木 はい。このプロジェクトのしくみは、売電収益の5%と、発電所オーナーへの配当金の一部でつくる基金をもとに、「守りの農業」と「攻めの農業」という2本の柱で地域の農業振興に協力していくというものです。

試算では毎年約500万円〜800万円程度を、合志市の地域に還元できるようになるんですね。20年間という固定価格買取期間では、1億円〜2億円ほどの予算が地域に生まれるというわけです。これは地域にとって大きいのではないのでしょうか。

地域の発電所で生まれたこのお金をもとに、「守りの農業」では用水路などの農業インフラの整備や改善を進めていくことができます。一方で「攻めの農業」では、新規事業創出や育成を通して地域農業を強くしていくことができるでしょう。「合志農業活力プロジェクト」の発電所は、電気エネルギーを作るだけではなくて、地域が未来や夢に向けて走っていくための“エネルギー”も生み続けていく発電所なんです。

濱田さん この考えを聞いた時は、非常におもしろかった。自然電力さんとの取り組みで、役所の人間も変わってきたという面はあると思います。職員の中には「本当にできるのか?」という者もいました。長期スパンの収益事業に取り組むというのは、感覚自体が無かったんですよ。行政職員は単年度事業しかできないという頭があって。そこは私が「儲ければ、農家や地域のためになる。やろう!」と説得してきました。

濱田さん 地元住民さんにプロジェクトを伝えて理解を求めるのは私たち行政の役割。絶対に地元のためになる事業だという想いを持って、私が地域に行って「お願い!」と言ってきました。市が前面に立つことで、何かあれば市に言えばいい。住民の方たちにとっても安心もできます。結果、地元にも認められる事業となりました。

次は自然電力さんと何をするかというと、今度はクラフトビールを一緒につくっていますからね。おもしろいですよ。佐々木さんや磯野社長たちとは、創業期から一緒にやっていますけど、自然電力の会社が大きくなるとまた違う仕事をやっていて。一緒に取り組んでくれる領域が広くて、話もしやすい。「合志市は今度こんなことを考えているけどどう?」と問いかけもできる会社です。

佐々木 私たちは発電所づくりを今は進めていますが、インフラや産業をつくっていくことを描いています。私たちなりのステップアップがあるのですが、合志市さんはそういうところも求めてくれるので、一緒に高めあえる存在になれたらと思っています。

 

多様なプロジェクトが派生。チャレンジし続ける合志市へ

濱田さん 今年に入って「合志市東京ネットワーク」というのを設立しました。場所や制度面で応援させていただくので合志市と組みたい企業さんは合志市に来てください、という連携窓口をつくったのです。このネットワークも自然電力が核になってくれています。

それから民間企業の株式会社ロボットと組んで「合志市クリエイター塾」もはじまりました。今年で2年目になります。地元でクリエイターを育てて、地元でビジネスにつなげたいと考えているんです。特に「農業×クリエイティブ」をやりたいのですが、これは「合志農業活力プロジェクト」から派生した部分もあります。今年の卒業生には、合志市の福祉施設ではたらく介護士の仕事の魅力を伝える映像をつくってもらうんですよ。おもしろいでしょう?

濱田さん 「合志農業活力プロジェクト」のスタートが成功し、外部からの評価も高まって「合志市っておもしろいよ」といろんな方に言ってもらえるようになりました。さらにたくさんの、新しいことをやりたい企業さんに合志市に集まってもらえれば、合志市には新しい産業ができてもっと強いまちになります。

そのためにたとえば規制を変える必要があるとしたら、市長のリーダーシップで相手が国であっても働きかけをしていきます。そこはもう、できるできないではなくて言い続けていく。地域のために本当にいいことは何か、本質はそこですからね。

現行法の規制の範囲内だけで考えるのではなくて「本当はこういうものがあったら地域のためにいいよね」と合志市は考えるんです。現状維持ではもうどうしようもありません。発想を、変えていかないと。

今年の夏にも新しく「合志マンガミュージアム」をつくるのですが、重要なのはそこからまた何が派生していくか。施設をつくって終わりなのではなく、産業に結びつけていく。この考えは自然電力の「合志農業活力プロジェクト」と同じです。

拡大成長ではなく、生活の豊かさや質的充実が実現される地域社会を追求し、そこに新たな産業をつくりだすこと。それこそが、私に課せられた仕事だと思っています。

そのために38年の経験を生かして、と言いたいところですが…地域の課題は山積みで、これまでにない課題も生まれています。自治体職員としてのこれまでの経験則だけでは、対応できない時代がきているんですね。だからこそ、新しい発想や優れた能力を持った人たちと一緒に手を組んでいきたい。合志市をぜひ新たな事業の場として活用してほしいと考えています。

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「もしも」を信じるみんながつくる電気

いかがでしたか?「エネルギーから世界をかえる」自然電力のでんき。その産地の人にもまた、強いエネルギーを感じました。

「もしも」を信じ、地域の未来を考えて本当にいいことは何かを追求していく。そんな考え方が好きだ、と濱田副市長は笑顔で話してくれました。地域の人が地域のために笑顔でつくった「自然電力のでんき」は、こちらも使ううちに笑顔になってしまいそうです。

 

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