自然エネルギーを選び取る意思 ドイツと日本にはどんな違いがあるのか

この特集はgreenz.jpと自然電力が共につくっています(greenz.jpより転載)

 

ドイツと聞いて思い浮かぶものはなんでしょう?
ビール、ソーセージ、ジャーマンポテト。
荘厳なお城や、クラシック音楽。
個人的には、世界一と称されるクラブ、ベルグハインに行ってみたいなぁと思い、早10年が経ちます。エネルギーに関心のある人にとっては「環境先進国」というイメージでしょうか?

ドイツでは、2022年までに脱原発を目指すという大方針が決まり、2017年時点で既に、全国民の使用電力の30%以上を自然エネルギーで賄っています。一方の日本は、15%(大規模水力を含む)を超えたところ。ドイツと日本には倍の開きがあります。両国で何が違うのでしょうか?

今回お話を伺った、ヤン・ヴァルツェヒャさんは、経営コンサルタントを10年務めた後、自然エネルギー分野における世界トップレベルのドイツ企業「juwi(ユーイ)」にて、研究開発や事業開発、太陽光・風力発電所の建設業務の責任者を歴任してきた方です。ドイツの自然エネルギーについて、専門家としてだけでなく、市民としてもよくご存知のヤンさんに疑問をぶつけてきました。

そこから見えたのは、日本とドイツの制度や意識の違い。そして一人ひとりが持っている強い“意思”が、国や企業を動かした民主主義のお手本のようなドイツの姿です。

 

ヤン・ヴァルツェヒャ
juwi自然電力株式会社 代表取締役
juwi自然電力オペレーション株式会社 代表取締役
大学卒業後9年間、ヨーロッパを拠点とする OC&C strategy consultants 社にて勤務し、異なる業界に対し、ロジスティクス、マーケティング戦略の策定、M&A関連業務等といった企業経営戦略に関するコンサルティング業務に従事した後、2007年juwi AGに経営企画メンバーとして参画。2007年から2016年にかけ、ドイツ、EMEAにおいて、juwiグループの研究開発、事業開発、太陽光・風力のエンジニアリングおよび建設業務の責任者として様々な役職を歴任してきた。 2016年juwi自然電力株式会社に参画、同年12月から現職。10年以上にわたる自然エネルギー業界におけるマネジメント経験や高い専門性によって培われた戦略・分析スキルを持ち合わせる。ヨハネス・グーテンベルク大学マインツにて物理学博士号取得。
自然エネルギーをつくり、運用していくプロフェッショナル

まずは、ヤンさんの現在のお仕事について、お話を伺いました。

 

自然電力株式会社(以下、自然電力)には、いくつかのグループ会社があり、発電所の開発段階から、メンテナンスまで、一貫して行うことができます。ヤンさんは、自然電力とドイツのjuwi(ユーイ)のジョイントベンチャーであるjuwi自然電力株式会社(以下、juwi自然電力)とjuwi自然電力オペレーション株式会社(以下、juwi自然電力オペレーション)の2つの会社の代表取締役を務めています。

juwi自然電力では、太陽光をはじめとする自然エネルギー発電所のEPCを行っています。EPCとはEngineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設)の略で、実際に自然エネルギーの発電所を建設するプロフェッショナルです。juwi自然電力オペレーションでは、建設後の自然エネルギー発電所の運営と保守を担当しています。

発電所の建設と一口に言っても、なかなか想像がつきにくいですよね。具体的に言うと、どういうお仕事なのでしょう。

自然エネルギーの発電には、様々な工程があります。土地の条件から適切な発電方法を選択したり、近隣住民の方がたのご理解やご協力を得るための話し合いや説明会を行ったり、建設に必要な様々な許認可を揃えたり。前提条件が整ったところで、発電所の建設がスタートします。

建設にあたっては、効率よく発電するために発電所の敷地内をどう活用するか、パネルの設置場所や向きを設計し、パネルやパネルを固定する架台など発電所をつくるために必要な部材を調達することではじめて、重機や工具をつかって実際に建設作業を行うことができます。

もちろん、施工する職人さんも必要です。建設した後は、適切な運用と保守によって、実際に発電を行っていきます。

 

数年前まで、日本国内にはあまりノウハウのなかった自然エネルギー発電所のEPCと運営・保守。2011年創業の自然電力は、1996年創業のドイツのjuwiと一緒にそれらの事業を行うことで、世界トップレベルの品質を早いうちから確保できたと言えるでしょう。

状況は変化する。それでも自然エネルギーの未来は明るい

ここからは、ドイツのお話を聞いていきましょう。自然エネルギー発電所の建設がどんどん増えているイメージがありますが…。

ドイツでは、総発電量における自然エネルギーの割合は30%を超えています。日本では大規模水力を含めて15%ほど、大規模水力を除くと7%ほどですね。ただ、太陽光発電の年間新規導入量に関して言えば、ドイツより日本のほうが多いのです。ドイツでは2013年から急激にスローダウンしています。

 

それはどういったことが原因なのでしょうか? 様々な要因があり、原因を1つに特定することはできません、と前置きをしつつ、いくつかのポイントを話してくれました。

いったん2013年にFIT(固定価格買取制度)の価格が大幅に引き下げられた後、2014年の夏に、FIT(固定価格買取制度)から入札制度への変更がありましたが、その際、太陽光発電の設置容量が政府によって制限されるようになりました。

これによって、ドイツにおける太陽光発電の年間新規導入量が減少し、太陽光発電のマーケットの拡大は他の国へと移り、現在での主要マーケットはアメリカ、日本、そして中国です。

日本でも、同じようにペースが下がるのか、気になります…。

 

実は、1〜2年前と比べると、すでに日本でも少しスローダウンしています。ドイツは大きなピークを迎えたあとにスローダウンしていますが、日本は最近少しだけスローダウンし始めました。

確かに、ドイツに比べると、日本は山が多いなどの土地の条件によって建設のハードルが高かったり、許認可のプロセスも複雑だったりなど、そもそも自然エネルギーを拡大させるのにマイナスの要因もあります。

しかし、私は日本の市場にまだ大きな期待を寄せています。私は、太陽光発電事業に10年以上関わっていますが、様々な事業者や研究者などの努力により、その発電コストは大きく下がってきました。自然エネルギーの経済性が向上していることは、太陽光発電の普及にかなり貢献していると考えています。

事業者として、私たちもさらにコストを下げていかなくてはなりませんし、そうすることで太陽光発電は日本でもまだまだ広がっていくでしょう。ペースが下がっている、という事実はあるかもしれませんが、その速度が早いか遅いかの問題で、自然エネルギーの波は誰にも止めることはできませんよ。

 

大手の電力会社も方針転換するほどの、自然エネルギーの勢い

力強いコメントをもらって、なんだかホッとしました。日本で自然エネルギーをもっと増やしていくために、私たちにできることはあるのでしょうか?

まずは、自然エネルギーで発電している電力会社から電気を買うことが重要ではないでしょうか。自然電力でも、現在は電力の小売を行っています。私もドイツにいたとき、自然エネルギー100%の電気を供給する電力会社から電気を買っていました。

「私たちはクリーンな電力がほしいんだ」と、言葉だけではなく、購買行動でしめすこと。ドイツでは、国民の声と行動に影響されて、大手の電力会社に変化が起きています。

 

ドイツではここ最近、電力発電市場に新規参入してきた企業はすべて、自然エネルギー事業者で、どんどん成長しています。逆に、いわゆる大手電力会社の株価が下がるなどの現象も起きています。

自然エネルギーを求める社会の変化には、誰もが対応せざるをえない。彼らのウェブサイトを見るとよくわかります。過去には、信頼性や低価格をウリにしていましたが、今は自然エネルギーの導入を始め、エコフレンドリーであることや、「グリーン」「自然」といったイメージを伝えようとしています。

日本とドイツ、違いは仕組みとトップダウン

大手の電力会社を動かすほどの、一人ひとりの声。日本よりもドイツのほうが自然エネルギーの普及が進むのは、日本よりもドイツの国民の環境意識が高いからでしょうか?

 

ドイツの国民は、確かに環境問題やエネルギーへの関心は高いです。私が幼いころ、ライン川はとても汚かったのですが、今は違う川かと思うほどきれい。工場の煙による公害などもありましたが、環境の法規制が厳しくなり、そういった問題も抑えられてきています。

ただ、日本のみなさんと比べてものすごく意識が高いかというと、そういうわけではありません。ドイツでは、厳しいごみの分別が義務付けられていますが、東京ではさらに多くの分別がされているし、みなさんも実践しています。日本人の環境意識が低いとは思いません。

このコメントにもホッとしました(笑) 人々の環境意識に大きな違いがないのであれば、法律や社会の仕組みが違うのでしょうか?

日本に比べてドイツが先進的だったのは、例えば国の方針として、脱原発を法律で決めて、自然エネルギーに大きな投資をしたことです。政府からのトップダウンで、根本的な方針の変更をしたほうが効率が良いこともあります。一人ひとりの節電努力はもちろん大切ですが、夏の日本でエアコンを止めることはあまり現実的ではないですよね(笑)

 

ドイツではトップダウンによる大きな決断がありました。当初は原発推進派だったメルケル首相は、東日本大震災と日本の原発事故をきっかけに、2022年末までにドイツの全原発を停止することを、わずか4ヶ月の期間で法制化したのです。

メルケル首相は、マジョリティを理解するセンスに長けていると思います。日本で起こったことを受け、国民の多くがどんなことを考えているのか、そのうねりを鋭くキャッチしていました。当時は、ドイツでも産業界では原発推進派が主流でしたし、自然エネルギー業界も、影響力のない状態でした。

それでも、彼女は国民が原発よりも自然エネルギーを望んでいると判断し、すぐさま行動に移しました。あのとき、違う人が首相であれば、今とは違う現実になっていたかもしれません。

意志を信じる力が、国を動かし、企業を変える

ドイツの自然エネルギーの成長は、国のエネルギー政策転換と密接な関係がありました。そして、その180度の政策転換の判断は、国民の意見が反映されたもの。それを考えると、やはりドイツの国民から学べることがあるはず。

 

私が幼少期を過ごした1970年代には、すでに国内で環境問題やエネルギー問題に関するデモや議論が盛んでした。私の父も、環境問題を真剣に考えていましたし、環境政党である“緑の党”は1980年に生まれました。

ヤンさんが、環境問題に取り組む思いの源泉は、ご両親の影響ですか? と聞くと、確かにその影響はあるけれどと言いつつ、もっと強い自分自身の意思を教えてくれました。

ドイツでは「個」が重要視されます。自分自身の判断を信じるという気持ちが強い。それは第二次世界大戦から学んだことです。巨大な力に左右されるのではなく、自分が信じたことを実行しようという、反抗・反逆の精神でもあります。

自分にとって自然環境が大事であれば、その気持ちを大切にする。だからこそ、例えば自然エネルギーの方が高かったとしても、お金を払って買うのです。人生は自分の納得したことや、信念に基づいた判断でできあがってきます。

「何を選択するか」それは自分が様々な経験をしてそれらの経験や周りの人々に影響を受けてきた“結果”です。

ドイツにおける自然エネルギー(風力および太陽光)の初期の先駆者たちには、しきたりにとらわれず、自由な考え方を持った人が多くいます。

 

ドイツには、環境意識の高い人が、たくさんいます。でも、意識だけじゃない。ちゃんと自分の判断を信じて、行動に移す。その国民の代表である政治家が、民意を汲み取り、国が動く。企業も変わる。民主主義のお手本のような流れが見えてきます。

日本でも電力自由化により、電力会社を選べる時代になりました。お金の使い方は、投票と一緒だという人もいますが、私たちは誰から何を買うか、自由に選択できます。ちょっと高いけれど、自分の心が穏やかになるものを買う、ということもできるのです。どうせなら、そんな気持ちのいい買い物をしたいものです。

ドイツでの変化や仕組みを、そのまま日本に当てはめることが正解とは限りません。でも、ドイツに学ぶことが、きっとある。そう思います。

ライター:葛原 信太郎
greenz シニアライター。「暮らしかた冒険家」スタッフと、オーガニック&エコロジーをテーマにしたイベント制作オフィス「earth garden」を兼業。住む場所も札幌と横浜の2拠点。日本の「揺れやすさ」と地震防災を考えるサイト「ユレッジ」にてライターもしてます。Think Future, Live Now.なウェブマガジン「earth garden」からの転載もこちらのアカウントから。

※この記事はgreenzに2018年6月19日に掲載されたものを転載しています。

 

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