IPCCの取り組みとIPCCが求める気候変動の緩和・適応の考え方について

IPCCの取り組みとIPCCが求める気候変動の緩和・適応の考え方について
IPCCとは?

IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change, 気候変動に関する政府間パネル)というキーワードについて、多くのメディアで見聞きする機会が年々増えいます。しかし、そもそもIPCCとは何なのか、どんな役割を持っているかについては詳細を把握している人は少ないのではないでしょうか?

IPCCとは一体何者で、どんな役割を持っているのでしょうか。

IPCCとは地球温暖化を含む気候変動についての専門家で構成されている、国連総会で認められた国際的な組織です。気候変動のメカニズムや今後の予測、環境・社会・経済への影響や対策に関する最新情報について、膨大な研究論文などの学術的な文献を整理・評価して社会に提供することを目的としています。*1

社会への情報提供の方法として、IPCCは気候変動に関する主要な国際条約である国連気候変動枠組条約(UNFCCC)にて定められる、各国の方針や取り組み等を議論する際の重要な参考となる報告書を作成しています。UNFCCCの総会は、京都議定書やパリ協定が可決されたことで有名なCOPです。

UNFCCCの目的は気候変動に危険な影響を与える人為的な活動を防止し、大気中の温室効果ガス濃度を安定させることを目標とした各国の政策方針を議論・決定することにあります。そのため、IPCCが作成する報告書は、UNFCCCにとって目標を達成するための議論に不可欠なものであると言って良いでしょう。

IPCCが公開する報告書は作業部会(ワーキンググループ)と呼ばれるグループがテーマを設けて毎年作成し、年に一回の総会(パネル)で承認するプロセスを経ることでクオリティが管理されています。全てのテーマについて網羅的な情報の集約が完了すると、第〜次報告書として5~6年に一回まとまった報告書を作成します。音楽アーティストでいうところのシングルCDとアルバムCDといったところでしょうか。

そのため、IPCCの組織は運営する事務局、報告書を作成する作業部会、年一回の総会(パネル)で主に構成されます。作業部会には主に研究者が集まって報告書の作成に当たります。総会には参加国の政府に任命された代表者のみが参加できます。例えば、2018年10月で開催された第48回総会では64カ国から約700人が参加し、うち20%が政府高官、46%が研究者でした。*2

UNFCCCが毎年開催する締約国会議(COP)では196カ国から政府関係者が集まって、気候変動の状況と各国の対策状況を報告し、方針を議論・決定します。各国はIPCCの報告書に記載されている方法に沿って排出状況を推計し照らし合わせ、最新の気候変動の将来予測状況を元に目標や足元の政策を議論するなどします。報告書は上述のような研究者や政府高官が参加する緻密なプロセスに基づいて作成されているため、その影響力は絶大です。

 

IPCCの取り組みについて

これまで述べた通り、IPCCは気候変動のメカニズムや影響評価、対策や予測に関する報告書を作成して報告し、UNFCCCを通じて温室効果ガスを安定させるために必要な知見を提供することが主な取り組みです。具体的には1990年を初回として、これまで次の5回の大きな報告書を作成しました。*3

  1. 第1次報告書 [1990年]:主に地球温暖化の実態について
  2. 第2次報告書 [1995年]:主に地球温暖化の実態と予測、影響評価について
  3. 第3次報告書 [2001年]:主に地球温暖化や気候変動のメカニズムと脆弱性、緩和(気候変動を緩和するために温室効果ガスの排出を削減する技術や方策)や適応方法(気候変動の影響を緩和する技術や方策)について
  4. 第4次報告書 [2007年]:主に地球温暖化の将来シナリオについて
  5. 第5次報告書 [2014年]:主にこれまでのテーマに沿った内容の高精度化と最新状況

なお、第6次報告書の公表は2022年を予定しています。

これら5つの報告書以外に、温室効果ガスの排出量を推定するための方法論をまとめた方法論レポートというものがあります。*3

  1. IPCC国内温室効果ガスインベントリガイドラインの改訂[1996年]:UNFCCCで各国が報告する温室効果ガス排出量を推計する方法をまとめた報告書です
  2. 国家温室効果ガスインベントリのためのIPCCガイドライン[2006年]:UNFCCC締約国の要請に応じて新たに更新した、UNFCCCで各国が報告する温室効果ガス排出量を推計する方法をまとめた報告書です。例えばある種類の自動車一台が排出するCO2の量など、温室効果ガスを排出したり吸収したりする対象物における単位あたりの温室効果ガス排出量や吸収量を原単位と呼びますが、この原単位を当時の最新の値へ更新しています。車もハイブリットカーが増えるなど、技術の革新に合わせて更新する必要があります。

なお、求められた割にはUNFCCCの各国の温室効果ガス排出量報告での使用については、まだ正式に認められていません。

2019年の5月8日〜5月12日に第49回IPCC総会は日本の京都での開催となりました。この会議では13年ぶりに温室効果ガスの排出量を推定するための方法論が更新されることが大きな目的の一つとして位置付けられました。

第49回IPCC総会では、日本が開発した温室効果ガスの濃度を計測する衛星「いぶき」で観測したデータを使って温室効果ガスの排出量を推計する方法についても提案されました。これまでUNFCCCの総会で各国が報告してきた温室効果ガスは各国の統計データ等を使って推計されているため、統計データが正しく得られていない可能性もあるためです。また、植物等の温室効果ガスの吸収量についても科学的に明らかにされていないこと点が多く、改善点が多い状況も課題として位置付けられているためです。

提案された新しい手法は、より実態に近い温室効果ガスの排出量を推計し、また各国の報告する温室効果ガス排出量を検証することができるようになると期待されています。*4

図 衛星で観測されたCO2濃度からCO2の排出量を推定するスキームの一つ
Step 3と記載されたところで衛星観測データを使い、ラグランジュ粒子モデルというCO2排出源をトレースする方法と組み合わせてCO2排出量を推定する方法(出典:Wu et al.(2018)*5

さらに、上記の報告書以外に、次の4つの特別レポートを作成して公開しています。*3

  1. 排出シナリオに関する特別報告書(SRES)[2000年]:気候変動シナリオの設定と温暖化シミュレーションの詳細を整理した報告書です。
  2. 再生可能エネルギーと気候変動緩和に関する特別報告(SRREN)[2012年]:気候変動の緩和に必要な再生可能エネルギービジネスに関する既存の文献をレビューし、6つの最も重要な再生可能エネルギー技術を集約した報告書です。
  3. 気候変動への適応を促進するための災害リスク管理に関する特別報告(SREX)[2012年]:気候変動に基づく自然災害リスクと影響範囲を整理し、それに適応するための技術や方策について整理した報告書です。
  4. 5℃の地球温暖化に関する特別報告(SR15)[2018年]:地球温暖化が2030年から2052年の間に産業革命前のレベルを1.5℃上回る可能性が高いということを示した報告書です。ただし、2030年までに世界中の温室効果ガスの純排出量を約45%削減し、2050年までにゼロに達すれば1.5℃以下もしくは1.5℃程度の地球温暖化で済むかもしれない旨をまとめています。*6
IPCCが求める気候変動の緩和・適応方法

IPCCは温暖化の警鐘を最新情報として鳴らすだけでなく、対策方法として緩和・適応方法についても具体的に整理しています。まず2012年に、IPCCは再生可能エネルギーと気候変動緩和に関する特別報告(SRREN)にて気候変動を緩和する技術や方策をまとめて報告しました。また同年、気候変動への適応を促進するための災害リスク管理に関する特別報告(SREX)にて、気候変動に適応する技術や方策をまとめて報告しています。これらをベースに、2018年に公表した1.5℃の地球温暖化に関する特別報告(SR15)では、2030年から2052年の間に産業革命前からの温暖化レベルを1.5℃程度に抑え、気候変動のもたらす災害に適応するために必要な技術の導入量と時期を明示しました。

緩和策としては、バイオエネルギー・太陽エネルギー・地熱エネルギー・水力・海洋エネルギー・風力エネルギー等の自然現象を動力のエネルギー源とするいわゆる自然エネルギー(この場合、再生可能エネルギーと同内容)の供給割合を2050年までに80%程度へ普及させないといけないと推定しています。*6

適応策としては、過去に観測された気象データから考えられるしきい値を超える現象を極端現象と定義した場合の、極端現象に適応する技術や方策をまとめています。具体的にはより甚大な洪水や波浪からの被害を軽減するインフラの整備や、干ばつによる水不足から飲食料を安定的に提供するための水の再生利用技術やバイオ技術、農協システムといった例が挙げられます。また、緩和策として今後普及させる必要のある自然エネルギーによる発電設備も、極端現象からの被害を受けないような技術やシステムを構築して適応に向けた準備をする必要があるとしています。*6

日本で開催された2019年の第49回総会では、これらSR15に対する承認や対策方法の議論も盛り込まれました。多くの関連業者やESG投資でも欠かせない情報を提供し続けるIPCC。今後UNFCCCの総会であるCOPだけでなく、IPCCからも科学的根拠に基づく情報を早く正確にキャッチアップして、緩和だけでなく適応準備も進めていく必要があります。

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参照・引用を見る

*1 IPCC<https://www.ipcc.ch/about/>

*2 IPCC<https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/12/100920181041-INF1Rev1CitiesReport.pdf>

*3 IPCC<https://www.ipcc.ch/reports/>

*4 NHK NEWS WEB<https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20190508/2010003468.html>

*5 Wu, D., Lin, J. C., Fasoli, B., Oda, T., Ye, X., Lauvaux, T., … & Kort, E. A. (2018). A Lagrangian approach towards extracting signals of urban CO 2 emissions from satellite observations of atmospheric column CO 2 (XCO 2): X-Stochastic Time-Inverted Lagrangian Transport model (“X-STILT v1”). Geoscientific Model Development, 11(12), 4843. <https://www.geosci-model-dev.net/11/4843/2018/>

*6 IPCC(2018) Global Warming of 1.5 ºC <https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/02/SR15_Chapter4_Low_Res.pdf>