16歳の活動家、グレタさんの演説と「1.5℃特別報告書」

16歳の活動家、グレタさんの演説と「1.5℃特別報告書」

「あなた方は、その空虚なことばで私の子ども時代の夢を奪いました」

国連の温暖化対策サミットで各国首脳を痛烈に批判し、一躍有名になったのがスウェーデンの16歳の活動家、グレタ・トゥーンベリさんです。

力強い熱弁の様子もそうですが、グレタさんがこの場で話したことの中には、温暖化とその対策について具体的かつ興味深い内容も含まれています。

ここでその内容と、温暖化対策の現在について紹介します。

グレタさんが語ったことと、その意味

グレタさんの演説は、このように始まります。

「私が伝えたいことは、私たちはあなた方を見ているということです。そもそも、すべてが間違っているのです。私はここにいるべきではありません。私は海の反対側で、学校に通っているべきなのです。」

グレタさんとは
グレタさんが「学校に通っているべき」と言うのは、彼女が行なっている活動の様子を表しています。

グレタさんは、15歳だった2018年の8月、「気候変動のための学校ストライキ(Stlike for Climate)」という方法で活動を開始しました。

賛同者が増えるにつれて、ストライキは「Fridays for Futere」として毎週金曜日に行われるようになり、その運動はSNSなどを通じて世界中に広がりました。

現在では定期的なイベントとして、世界中で多くの学生がそれぞれ集まるようになり、2019年2月には世界で400万人の若者がストライキに参加するまでになっています。

図1 グレタ・トゥーンベリさんのTwitterより

グレタさんが地球温暖化の問題に関心を持つようになったのは8歳の時だといいます。

電気を節約したり、紙をリサイクルしたりするように教えられる一方で、大人たちが温暖化を本気で防ごうとしてはいないことに、強い違和感を覚えたといいます。

この問題についてうつ病になるまで悩み続け、スウェーデンでも猛暑や異常気象による山火事が頻発した2018年に、行動を起こしたのです。

国連気候変動サミットへの登壇

また、グレタさんは温室効果ガスを排出する飛行機に乗らない、というスタンスを貫き、ヨットで海外へ渡航して活動を続けています。

グレタさんのツイッターには、ヨットでの航海の様子が多く掲載されています。

2019年9月の国連気候変動サミットに登壇するにあたっても、ヨットでニューヨークに渡りました。

そして各国首脳を目の前に、強い非難の言葉を連ねたのです。

「あなた方は、私たち若者に希望を見いだそうと集まっています。よく、そんなことが言えますね。あなた方は、その空虚なことばで私の子ども時代の夢を奪いました。」

「あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。」

「もし、この状況を本当に理解しているのに、行動を起こさないないのならば、あなたたちは邪悪そのものです。」

この厳しい言葉が、世界中に報じられました。

グレタさんが示したデータ

グレタさんの演説は、「各国首脳を目の前に厳しい非難をした」ということにとどまりません。

2018年にIPCC(=気候変動に関する政府間パネル)が提出した報告書をベースに、具体的な危機を語っているのです。

それは、

「今後10年間で(温室効果ガスの)排出量を半分にしようという、一般的な考え方があります。しかし、それによって世界の気温上昇を1.5度以内に抑えられる可能性は50%しかありません。」

「IPCCが出した最もよい試算では、気温の上昇を1.5度以内に抑えられる可能性は67%とされています。
しかし、それを実現しようとした場合、2018年の1月1日にさかのぼって数えて、あと420ギガトンの二酸化炭素しか放出できないという計算になります。」

というものです。

図2 「1.5℃特別報告書」ヘッドライン(出典:IPCC)

IPCCは2018年に10月に「1.5℃特別報告書」を報告しました(図2)。

パリ協定では「今世紀末までに、世界の平均気温上昇を産業革命の前に比べて2℃未満に抑える」という決定の一方で、「1.5℃に抑えることが、リスク削減に大きく貢献する」とも指摘しています。

これに対し、UNFCCC(気候変動に関する連合枠組条約)が、2℃ではなく1.5℃を目標とするためのシナリオをIPCCに要請し、実際に作成されたのがこの報告書です。

「気温上昇を1.5度未満に抑えられる可能性は50%」

まず、IPCCのこの報告書では、1.5℃の地球温暖化に対する理解として、

「産業革命以前から現在までの人為的排出による地球温暖化は、数百年から数千年に渡って、海面水位の上昇など、気候システムへのさらなる長期的変化を起こし続ける(確信度は高い)。

しかしながらこれらの排出量だけで1.5℃の地球温暖化をもたらす可能性は低い(確信度が中程度)。」

と記述されています*1。

この「確信度」というのは、100%を三分割して「確信度は低い」「確信度は中程度」「確信度は高い」という意味合いです。

よって、「1.5℃の地球温暖化をもたらす可能性は低い」としているものの、その「確信度は中程度」であり、半々程度(33~67%)だということです。

「最もよい試算では、気温の上昇を1.5度未満に抑えられる可能性は67%」

また、この「1.5℃特別報告書」では、今世紀末の気温上昇を1.5%に抑えるための「カーボンバジェット」について触れています。

「カーボンバジェット」とは、文字通り「炭素の予算」というものです。

これまでにどのくらいの量の温室効果ガスが排出され、今世紀末までに1.5℃の気温上昇にとどめるには、あとどのくらいのCO2を排出できるかというものです。

この「カーボンバジェット」について、IPCCの報告書では、いくつかのパターンが示されています(図3)。

図3 地球温暖化を1.5℃に抑えるための残余カーボンバジェットの推定値(確信度が中程度)
(出典:環境省作成資料)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

これは、2018年1月1日時点からの数字で、CO2以外の温室効果ガスについては温暖化への寄与度をCO2の単位に換算し、算出されたものです。

上の表の中で、「最も良い試算」である、地球温暖化を1.5℃に抑えることができる確率が高い(66%超)シチュエーションとして2つ(下段)が挙げられています。

このうち、右下の「GMST」に基づいた試算では、陸地よりも海水の方が温まるのが遅いというラグを反映しないため、結果として上昇幅が小さくなる特徴があります*参照2。

一方、UNEP(国連環境計画)によると、2018年に排出された温室効果ガスは、CO2換算にして55.3ギガトンで、過去最高を更新しています*参照3。

このまま排出量の削減が進まなければ、420ギガトンのカーボンバジェットは8年程度で尽きてしまいます。

また、UNEPは「2020年から2030年までの間に毎年、排出量を7.6%ずつ削減していかなければ、世界は産業革命前に比べて温暖化を1.5℃に抑える、というパリ協定での目標を達成する機会を失う」ともしています*参照4。

「1.5℃特別報告書」が示す温暖化の現状

このIPCCの「1.5℃特別報告書」には、他にも温暖化と現時点の対策について、厳しい見通しが示されています。

まず、実際に1.5℃に抑えるためには、今後排出量をどのようにコントロールしていかなければならないか、についてです。

温室効果ガス排出の3つのシナリオ

「1.5℃特別報告書」では、今後の温室効果ガスの排出量とパリ協定での目標達成の見込みについてのデータが示されています(図4)。

まず、現在の温暖化の進行具合です。

上段のグラフの左側、オレンジの線で示されているのが、1960年から2017年までの気温上昇の経過です。

グラフでは1960年からになっていますが、数値は1850年~1900年の世界平均気温に対する気温上昇の様子を示していて、2017年の段階で、すでに1℃温暖化していることが確認されています。

図4 「観測された地球全体の気温変化並びに定型化された人為起源の排出及び強制力の経路に対するモデル応答」(出典:IPCC)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/06/SR15_Full_Report_High_Res.pdf

そして、右部分は、2017年以降の見通しです。

オレンジの破線で示されている矢印は、温室効果ガス排出量がこのまま維持された場合で、この場合、2040年には、1.5℃の温暖化が進むという推計です。

目前に迫っていると言っても良いでしょう。

さらに、どのような対策が講じられれば、2100年にどの程度温暖化が進むかを示しているのが、右側の3つの色に分かれた分析です。

①1950~2100年の気温上昇を1.5℃に抑えるシナリオ

まず、グレーで示されている部分(1.5℃に抑えられるシナリオ)のような経過をたどる可能性を高めるのは、以下の条件が揃った場合です。

・2020年から2040年または2055年までにCO2排出量が実質ゼロになる
・かつ、CO2以外の温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素、エアロゾルなど)の正味の放射強制力が2013年以降減少する

②1.5℃未満に抑えるシナリオ

次に、緑で示されているように、気温上昇が最も低い範囲に収まり、2100年に1.5℃未満の上昇に抑える可能性が高まるためには、次のようなシナリオが想定されています。

・CO2排出量が2020年以降に減少を始め、2040年までに正味ゼロとなる

③最大2℃の上昇に抑えるシナリオ

そして、紫で示されている、最大2℃までの上昇が見込まれるのは、このような条件の時です。

・2020年から2055年までにC02の排出量が実質ゼロになり、
・かつ、CO2以外の温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素、エアロゾルなど)の正味の放射強制力が2030年以降減少しない場合

いずれのシナリオにも必要な「2040年(あるいは2055年)までにCO2排出量を正味ゼロ」にするためには、温室効果ガスの排出量は今後、下段b)に示されるような経過をたどらなければなりません(図5)。

図5 気温上昇を1.5℃に抑える可能性を高めるCO2排出量(出典:IPCC)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/06/SR15_Full_Report_High_Res.pdf

これがどこまで現実的なのかは、疑問の残るところです。

1.5℃上昇の世界と2℃上昇の世界の違い

1.5℃の上昇と2℃の上昇では世界に与える影響がどのくらい違うのか、いくつかの具体的な数値も出されています。

現象・リスク 1.5℃の地球温暖化に関する予測 2℃の地球温暖化に関する予測
極端な気温 ・中緯度域の極端に暑い日が約3℃昇温する(確信度が高い)。
・高緯度域の極端に寒い夜が約4.5℃昇温する(確信度が高い)。
・中緯度域の極端に暑い日が約4℃昇温する(確信度が高い)。
・高緯度域の極端に寒い夜が約6℃昇温する(確信度が高い)。
洪水 ・1976~2005年を基準として、洪水による影響を受ける人口が100%増加する(確信度が中程度)。 ・1976~2005年を基準として、洪水による影響を受ける人口が170%増加する(確信度が中程度)。
生物種の地理的範囲の喪失 ・調査された105,000種のうち、昆虫の6%、植物の8%及び 脊椎動物の4%が気候的に規定された地理的範囲 の半分以上を喪失する(確信度が中程度)。 • 調査された105,000種のうち、昆虫の18%、植物の16%及び脊椎動物の8%が気候的に規定された地理的範囲の半分以上を喪失する(確信度が中程度)。
海水の消失 ・昇温の安定後、少なくとも約100年に1度の可能性で、夏の北極海の海水が消失する(確信度が中程度)。 ・昇温の安定後、少なくとも約10に1度の可能性で、夏の北極海の海水が消失する(確信度が中程度)。
サンゴ礁の消失 ・さらに70~90%が減少する(確信度が高い)。 ・99%以上が消失する(確信度が非常に高い)。
漁獲量の消失 ・海洋での漁業について世界全体の年間漁獲量が約150万トン損失する(確信度が中程度)。 ・海洋での漁業について世界全体の年間漁獲量が300万トンを超える損失となる(確信度が中程度)。

図6 「予測される気候変動、潜在的な影響及び関連リスク」(環境省資料より作成)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

他にも環境について、1.5℃の温暖化よりも2.0℃でリスクの高まる項目が多数報告されています。

パリ協定の各国目標だけでは3℃の上昇も

この「1.5℃特別報告書」では、グレタさんが指摘したように厳しい現状が綴られています。

また、パリ協定の目標について分析しているCAT(=Climate Action Tracker)は、パリ協定で各国が提出している目標が守られた場合でも、地球の気温は2100年には2.6℃~3.2℃上昇するとの分析結果を公表しています*参照5。

2019年12月にスペイン・マドリードで開かれたCOP25では、グレタさんは途上国の若者と一緒に記者会見を行い、途上国ではすでに、温暖化による深刻な被害が広がっていることを訴えました。

各種分析も示すように、温暖化対策は「今すぐ」本格化させなければならないという現実がそこにあるのです。

参照・引用を見る

図1 グレタ・トゥーンベリさんTwitter
https://twitter.com/GretaThunberg/status/1091710612831432706

図2 「Global Warming of 1.5℃」(IPCC)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/06/SR15_Headline-statements.pdf

図3 「残余カーボンバジェットの推定値」(「IPCC『1.5℃特別報告書』の概要」環境省作成資料、2019年7月版)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf p47

図4、5 「Global warming of 1.5℃」(IPCC)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/06/SR15_Full_Report_High_Res.pdf p6

図6 「予測される気候変動、潜在的な影響及び関連リスク」(「IPCC『1.5℃特別報告書』の概要」環境省作成資料、2019年7月版)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf p32~39

*参照1 「Summary for Policymakers – Global Warming of 1.5℃」(IPCC)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2019/06/SR15_Full_Report_High_Res.pdf p5(のA2)

*参照2 「残余カーボンバジェットの推定値」(「IPCC『1.5℃特別報告書』の概要」環境省作成資料、2019年7月版)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf p47

*参照3、4 「Cut global emissions by 7.6 percent every year for next decade to meet 1.5°C Paris target – UN report」
https://www.unep-wcmc.org/news/2019-emissions-gap-report

*参照5 「Improvement in warming outlook as India and China move ahead, but Paris Agreement gap still looms large」(Climate Action Tracker、2017年)
https://climateactiontracker.org/publications/improvement-warming-outlook-india-and-china-move-ahead-paris-agreement-gap-still-looms-large/

ご参考
UNEP報告(参照3,4)にかかる原文スクリーンショット

 

Photo by Markus Spiske on Unsplash