次世代にも影響! 地球規模の海洋プラスチック問題を解決するために

私たちの生活はプラスチックで溢れています。その利便性が私たちを魅了し、大量生産・大量消費を招いてきたのです。しかも、その多くは使い捨て。

そうしたライフスタイルの陰で海洋プラスチック問題が深刻度を増しています。

では、その問題とはどのようなものなのでしょうか。その問題を解決するために、現在、どのような取り組みが行われているのでしょうか。そして、今後の展開は・・・・・・?

海洋プラスチック問題とは

私たちは便利なプラスチック用品を手軽に買い、「使い捨て」をしてきました。製品以外でも、ビニールや発砲スチロールなどの梱包、緩衝材やケースなど、プラスチックはさまざまなものに加工されています。
こうしたプラスチックごみの一部が海に流れ込み、大きな問題になっています。
では、その問題とはどのようなものなのでしょうか。

海洋プラスチックとは

プラスチックが使用後、「ポイ捨て」されたり屋外に放置されたりすると、雨や風によって河川に入り、最終的には海洋へと行きつきます。海のプラスチックのほとんどは陸からのプラスチックごみです *1。

下の図1はそうしたプロセスを表しています。

図1 プラスチックが海洋に流れ込むプロセス
出典(図1・図2):政府広報オンラインHP(2019)
「海のプラスチックごみを減らしきれいな海と生き物を守る!~『プラスチック・スマート』キャンペーン~」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201905/1.html

こうして海洋に流れこんだプラスチックを「海洋プラスチック」と呼びます。
以下の図2は、海洋プラスチックの3つの種類を表しています。

図2 海洋ブラスチックの種類
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201905/1.html

海洋プラスチックの現状

現在、既に世界の海に存在しているプラスチックごみは、合計で1億5,000万トンあり、さらに毎年、少なくとも年間800万トンのプラスチックごみが新たに海洋に流入していると推定されています *2:「今、世界でおきている『海洋プラスチック』の問題」。

以下の図3は、海岸から50m以内で発生し不適正処理されたプラスチックごみの推定量を地図で示したものです。また、図4は、海洋プラスチックの発生量ランキングです。

     図3 海岸近くのプラスチックごみの推定量        図4 海洋プラスチックの発生量ランキング
       (不適切処理されたもの、2010年)            (2010年推計)         
         出典(図3・図4):環境省HP(2018)「海洋プラスチックを取り巻く国内外の状況」p.17
              http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2r3.pdf

これらの図をみると、海岸近くで適切に処理されなかったプラスチックが海洋プラスチックの発生につながっていることがわかります。
また、海洋プラスチックの発生量ランキングでは、アジア諸国が上位にランキングされています。海洋プラスチックはアジア諸国からの発生によるものが、世界全体の82%を占めるといわれています *2:「『海洋プラスチック』2050年の予測」。

海洋プラスチック問題の背景と原因

ここでは、この問題の背景と原因についてお話ししたいと思います。

まず、この問題の背景は私たちのライフスタイルにあるといっていいでしょう。
プラスチックは加工しやすい性質をもち、しかも安価です。また、使い勝手もいいことから、大量生産・大量消費されています。

下の図5は世界のプラスチックの用途別生産量を表しています。

図5 世界の用途別プラスチック生産量
出典(図5・図7・図8):WWF HP(2018)「海洋プラスチック問題について」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html

この図の右側の濃い青色の部分が使い捨てが予想される容器包装類で、その割合は36%に上っています。

次に、下の図6は日本におけるプラスチックの生産量を用途別に表したものです。

図6 日本の用途別プラスチック生産量
出典:一般社団法人 プラスチック循環利用協会HP(2019)「プラスチックリサイクルの基礎知識2019」p.11
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf

図6で使い捨てが予想されるのは、少なくとも右側の「フィルム・シート」および下側の「容器類」で、これらを合わせると、その割合は57.8%に上ります。日本のプラスチック生産高は世界で第3位ですが、1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量は、世界第2位なのです *2:「日本として取り組むべきこと」。

このように大量生産されたプラスチックですが、リサイクルされているのは生産量の9%にすぎません *2:「拡大する問題と原因 特にアジアの課題」。

以下の図7は、これまでに生産されたプラスチックの分布を表しています。

図7 これまでに生産されたプラスチックの分布

海洋プラスチック問題を深刻にしている原因はこれだけではありません。
プラスチックは自然分解するまでに数百年もかかり、その間ずっと残り続けます。それは、この問題の影響が次世代にまで及ぶことを意味します。

以下の図8は、海洋ごみが自然分解されるまでにかかる年数を表していますが、図中の「アルミ缶」以外はすべて海洋プラスチックです。

図8 海洋ごみが自然分解するまでに要する年数

海洋プラスチックの影響

次に海洋プラスチックの影響についてお話ししたいと思います。
この問題の影響は、広範囲にわたっています。具体的には、生態系を含めた海洋環境、人体、船舶航行、観光、漁業、沿岸域居住環境への影響です *3:p.14、*2:「今、世界で起きている『海洋プラスチック』の問題」。
例えば、海洋プラスチックによる経済的損失は、アジア太平洋地域では年間、観光業6.2億ドル、漁業・養殖業3.6億ドルと推定されています *2:「拡大する問題と原因 特にアジアの課題」。

生態系や人体への影響については後ほど詳しくお話しすることにして、ここでは観光や沿岸域居住環境に影響を与えている漂着ごみについてみてみましょう。

以下の図9は、酒田市と対馬市の海岸に漂着したごみの写真です。

図9 酒田市と対馬市に漂着した海洋ごみ
出典(図9:p.14・図10:p.18・図12:p.18):環境省HP(2018)「海洋プラスチックを取り巻く国内外の状況」
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2r3.pdf

以下の図10は、日本沿海の観測地点別に人工的な漂着ごみの構成比を表したものです。

図10 観測地点別人工的な漂着ごみの構成比(個数、2010-2014年合計)

この図をみると、いずれの地点においてもプラスチック類の割合が最も高いことがわかります。

次に、下の図11は全国の人工的な漂着ごみの構成比を、重量、容積、個数別に表したものです。

図11 全国の人工的な漂着ごみの構成比(2017年)
出典:環境省HP(2018)「平成29年度 漂着ごみ対策総合検討業務 報告書 (概要版)」p.13
http://www.env.go.jp/water/marirne_litter/hyouchaku_gaiyouban.pd

先ほどの図10では、ペットボトルも「プラスチック類」に含まれていましたが、この図ではプラスチックとペットボトルを分けて計上してあります。
図11から、重量ベース、容積ベースではプラスチックの割合が最も高く、個数ベースではペットボトルが最も多いことがわかります。各調査地点別にみても、プラスチックは重量と容積では多くの調査地で1位~3位でした。一方、個数ではペットボトルが1位で、プラスチックが2位~3位になっている調査地が多かったことが報告されています *4:p.12。

以下の図12は日本に漂着したペットボトルの製造国別の割合を表しています。

図12 漂着ペットボトルの製造国別割合(個数、2010-2014年合計)

図12から、外国製のペットボトルが各地点で確認されていることがわかります。
このことからもわかるように、海洋はつながっているため、その影響は広海域に及びます。

マイクロプラスチックの脅威

ここでは、海洋生物の生態系や人体に影響を与えるマイクロプラスチックについてみていきたいと思います。

マイクロプラスチックとは

5mm以下の小さなプラスチックをマイクロプラスチックと呼びます。
マイクロプラスチックは以下のように2種類に分けられます *3:p.15。

一次的マイクロプラスチック:マイクロサイズで製造されたもの。洗顔料や歯磨き粉などのスクラブ剤として利用されているマイクロビーズなど。排水溝から流出。
二次的マイクロプラスチック:大きなサイズで製造されたプラスチックが自然環境の中で砕けてマイクロサイズになったもの。

このマイクロプラスチックは製造の際や漂流中に化学物質が添加されたり吸着したりするため、有害物質
が含まれていることが少なくありません *2:「今、世界で起きている『海洋プラスチック』の問題」。

マイクロプラスチックの密度分布

現在、マイクロプラスチックは世界中の海洋に分布し、北極や南極でも観測されたという報告があります *3:p.16。

以下の図13は、マイクロプラスチックの密度分布を表しています。

図13 マイクロプラスチックの密度分布
出典:環境省HP(2018)「海洋プラスチックを取り巻く国内外の状況」p.16
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2r3.pdf

このように、マイクロプラスチックは世界規模で分布していますが、日本近海でのマイクロプラスチックの濃度は、世界平均の27倍に相当するという調査結果もあります *2:「プラスチックごみへの日本と海外の対応」。

マイクロプラスチックの影響

マイクロプラスチックは、海洋の生態系に多大な影響を与えています。
海洋ごみは700種類もの生物に影響を与えていますが、そのうちの92%がプラスチックに起因していると報告されています *2:「今、世界で起きている『海洋プラスチック』の問題」。
2018年のダボス会議(世界フォーラム)では、2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量が魚の量を超えるという試算が報告されました *3:p.17。

図14 マイクロプラスチィックが食物連鎖を通じてさまざまな生物にとりこまれていくイメージ
出典:WWF HP(2018)「海洋プラスチック問題について」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html

上の図14はマイクロプラスチックが食物連鎖を通じてさまざまな生物にとりこまれていくイメージを表しています。こうした生態系を通じ、ボトル入り飲料水や食塩にも含まれている可能性が指摘されていますが、マイクロプラスチックが人間を含めた生物の身体や繁殖に及ぼす影響がどのようなものかはまだわかっていません *2:「今、世界で起きている「海洋プラスチック」の問題」。

外国の取り組みと国際動向

ここでは、海洋プラスチック問題に対する、外国の取り組みと国際動向をみていきたいと思います。

EUの取り組み

まず、2018年1月に欧州委員会が策定した、EUプラスチック戦略をみていきましょう。
この戦略の概要は以下のとおりです *3:p.5。

  1. プラスチックリサイクルの経済性と品質の向上
    ・2030年までにすべてのプラスチック容器包装を、コスト効果に配慮しながら、リユース・リサイクルが可能なものにする
    ・分別収集と選別のガイドラインを発行する
  2. プラスチック廃棄物と海洋ごみ量の削減
    ・海洋ごみのモニタリングとマッピングの向上を図る
    ・製品へのマイクロプラスチックの添加を制限する
    ・タイヤ、繊維、塗料からの二次的マイクロプラスチックの放出を抑制する
  3. プラスチックに対する戦略的研究イノベーション
  4. 国際的なアクション
    ・国際行動の要請
    ・多国間イニシアティブの支援
    ・協調ファンド(欧州外部投資計画)の構築

次に、欧州委員会が2018年5月に提案した使い捨てプラスチックに関するEUの規制案を見てみましょう(表1)。

表1 EUの使い捨てプラスチックに関する規制案

出典(表1:p.6・表2:p.7・表3:p.22・表4:p.8):環境省HP(2018)「海洋プラスチックを取り巻く国内外の状況」
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2r3.pdf

さらに、欧州議会は2018年10月に、ストロー、食器、綿棒、マドラーなどの代替可能な使い捨てプラスチックの使用を2021年から禁止する法案を可決しました。また、たばこのフィルターも2030年までに80%削減することを決めています *2:「問題の解決に向けて」。
このようにEUはさまざまな面で海洋プラスチック問題に対する取り組みを強化しています。

世界各国の取り組み

次に世界各国の取り組みについてみていきたいと思います。
下の表2は各国の使い捨てプラスチックに関する動向を表しています。

表2 各国の使い捨てプラスチックに関する動向

この表をみると、先進国、発展途上国を問わず、多くの国が使い捨てプラスチックの削減に取り組んでいることがわかります。

次にマイクロビーズ(一次的マイクロプラスチック)に対する各国の取り組みをみてみましょう(表3)。

表3 マイクロビーズに対する各国の取り組み

この表から、先進各国は既にマイクロビーズの製造や輸入の禁止に踏み切っていることがわかります。

グローバル企業の取り組み

次にグローバル企業の取り組みをみてみましょう(表4)。

表4 グローバル企業の使い捨てプラスチックに対する取り組み

この表からわかるように、グローバル企業はこぞって使い捨てプラスチックに対する取り組みを加速させています。
また、2018年、海洋保全の国際会議で、この表に載っている企業も含め250を超える企業・団体が、プラスチックごみを削減する共同宣言を発表しました。これらの企業のプラスチック生産量は世界全体の20%を占めるといわれています *5。

国際的枠組み・会議における目標と取り決め

ここでは、国際的な動向についてみていきたいと思います。

海洋プラスチック問題は、これまで国際的な枠組みや国際会議などでも度々、取り上げられてきました。
例えば、SDGs、G7伊勢島サミット、国連環境総会、G20ハンブルクサミット、日・中・韓三カ国環境大臣会合、G7シャルルポワサミット、G20大阪サミットなどで、海洋プラスチック問題に対する認識が国際的に共有され、さまざまな決議が採択されました *3:p.20。

このうち、2018年のG7シャルルポワサミットでは、「海洋プラスチック憲章」がカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国及びEUの首脳によって承認されました。この憲章は、プラスチックの製造や使用、管理や廃棄に関して達成期限つきの数値目標を含むものですが、日本とアメリカはこの憲章に署名しませんでした *6:別添p.2、*2:「日本として取り組むべきこと」。

翌2019年6月に開催されたG20大阪サミットでは、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有されました。
このビジョンは、海洋プラスチックによる新たな汚染を、2050年までにゼロにすることを目指すものです *7。
このビジョンを実現するために、日本政府は「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げましたが、このことについては後ほど詳しくお話ししたいと思います。

 日本における取り組み

では、日本はどのような取り組みをしているのでしょうか。
ここでは、日本の主な取り組みについてみていきたいと思います。

国内資源循環体制の整備

日本は年間、約150万トンものプラスチックごみを「資源」として中国を中心としたアジア諸国に輸出していました *3:p.12。
ところが、中国はリサイクル処理による環境汚染などを理由に、2017年12月末から2018年12月末にかけてプラスチックごみの輸入を停止しました。

以下の図15は日本のプラスチックごみ輸出量の推移を表していますが、この図をみると、上述のような状況が輸出量に反映していることがわかります。

図15 日本のプラスチックくずの輸出量
出典(図15:p.11・図16:p.12):環境省HP(2018)「海洋プラスチックを取り巻く国内外の状況」
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2r3.pdf

また、中国の対応に続き、他のアジア諸国も2018年6月以降、プラスチックごみの輸入規制・禁止に踏み切りました (表5) *8。

表5 アジア諸国のプラスチックごみの輸入規制・禁止状況

出典:JETRO(2019)日本貿易振興機構「東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化、日本の輸出量は減少―
輸出国側にも規制、求められる国内処理―」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/32168afb4b8f0bfe.html

こうした状況を受けて、日本はプラスチックごみに関して、輸出から国内資源循環体制の整備への転換を目指し、2019年11月からそのための財政支援制度を整えることにしました *3:p.12。
次の図16は、そうした体制を表したものです。

図16 日本の国内資源循環体制と国の財政支援制度

「プラスチック資源循環戦略」

先ほどお話ししたG20大阪サミットに向け、サミット直前の2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」が発表されました *9。
この戦略の基本原則は「3R+Renewable(再生可能)」です。この3Rとは、リデュース(発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)のことです。

下の表6はこの戦略のマイルストーン(中間目標)を表しています。

表6 「プラスチック資源循環戦略」のマイルストーン

出典:外務省HP(2019)「プラスチック資源循環戦略(概要)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000485683.pdf

このように、日本も3Rを基本にして段階的な達成目標を掲げ、この問題に取り組みつつあります。

バイオプラスチックの導入

上の表6の一番下にある「バイオマスプラスチック」とはどのようなものでしょうか。

「バイオマスプラスチック」とは、その名前のとおりバイオマスを原料に製造されるプラスチックのことですが、これと微生物によって生分解される「生分解性プラスチック」を合わせて、「バイオプラスチック」と呼んでいます。
このバイオプラスチックは、それぞれの特性を生かすことで、海洋プラスチック問題を含むこれまでの環境問題を改善するのに役立ちます *10:p.4。

以下の図17は、バイオプラスチックの環境への貢献を表しています。

図17 バイオプラスチックの環境への貢献
出典(図17:p.4・図18:p.14・図19:p.7・図20:p.13):環境省HP(2018)
日本バイオプラスチック協会「バイオプラスチック概況」(プラスチック資源循環戦略小委員会 資料)

http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-02/y031202-5r.pdf

次に以下の図18は、バイオプラスチックによるCO2削減量の推移を表しています。

図18 バイオプラスチックのCO2削減量

この図をみると、バイオプラスチックは、海洋プラスチックの影響を低減するだけでなく、CO2削減にも貢献することがわかります。

下の図19はバイオプラスチックの主な用途をまとめたものです。

図19 バイオプラスチックの主な用途

図19の左側の「主要用途」蘭の青色部分は生分解性プラスチックを、緑色部分はバイオマスプラスチックを表しています。
この図をみると、バイオプラスチックは従来のプラスチックと代替可能な分野が多いことがわかります。

以下の図20は2017年の日本におけるバイオプラスチックの出荷量(推計)を表しています。

図20 日本におけるバイオプラスチックの出荷量推計(2017年)

先ほどみた「プラスチック資源循環戦略」のマイルストーンでは、2030年までにバイオマスプラスチックの導入量目標を200万トンと定めていますから、目標を達成するためには、導入に向けての取り組みを加速する必要がありそうです。

ただし、バイオプラスチックが環境にとって本当にいいのかどうかについては、さらなる検証が必要だという意見もあります *11-a・b。
ここで、もう一度、図17をみてみましょう。

図17 バイオプラスチックの環境への貢献

図中の楕円の下部、「管理された循環システム」に注目してください。
バイオプラスチックのライフサイクルを考えたとき、使用後の処理方法は、埋め立て、リサイクル、堆肥化処理(コンポスト化)が考えられます *11-a。
こうした処分段階と、その前段階の利用、廃棄段階でも、海洋流出を防ぐための対策は欠かせません *12:p.16 図13。
こうして、循環システムが適切に管理されてこそ、バイオプラスチックのメリットが生かされるのです。

「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」

先ほどお話ししたように、G20大阪サミットでは、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有され、このビジョンを実現するために、日本政府は「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げました。

以下の表7は、マリーン・イニシアティブにおける重点項目をまとめたものです。

表7 マリーン・イニシアティブにおける海洋プラスチック対策の重点項目

出典:外務省HP(2019)「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン実現のための 日本の「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000493727.pdf

政府は、こうした重点項目を推進するための具体的な施策を立てています *13。
たとえば、表中の③・④に関しては、1) 二国間ODAや国際機関経由の支援等の国際協力、2) 日本企業・NGO・地方自治体による活動の国際展開、3) 日本の官民の取組におけるベスト・プラクティス(経験知見・技術))の発信・共有を掲げています *14。

「プラスチック・スマート」キャンペーン

最後に、個人レベルでも参加できるキャンペーンをご紹介したいと思います。
環境省は、海洋プラスチック問題に対する取り組みを応援し、さらに広げていくために、「Plastics Smart(プラスチック・スマート)」キャンペーンを実施しています *1。

図21 「プラスチック・スマート」キャンペーンのロゴ
出典:政府広報オンラインHP(2019)「海のプラスチックごみを減らしきれいな海と生き物を守る!~『プラスチック・スマート』キャンペーン~」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201905/1.html

このキャンペーンでは、ウェブサイトやSNSを通じ、プラスチックと賢く付き合うための取り組みやアイディアを国内外に発信しています。同キャンペーンは、個人、企業、団体、行政を問わず、あらゆる立場にある人の参加を呼びかけています。

今後の取り組み

これまで海洋プラスチックの深刻な状況とこの問題に対する国内外の取り組みをみてきました。
最後に、さらに今後、どのような取り組みが必要か、主に日本の立場から考えてみたいと思います。

これまでお話ししたように、日本は世界的にみてもプラスチックの生産量が多く、しかも使い捨てにつながるものがその多くを占めています。
例えば、使い捨てプラスチックの代表ともいえるレジ袋は、国内で年間450億枚流通していると推計されています *15。
プラスチック大国の日本は、他の国にも増して積極的にこの問題に取り組む責任があるといえるでしょう。

サーマルリサイクルからリデュースへの転換

では、現在、日本ではプラスチックごみがどのように処理されているのでしょうか。
以下の表8は日本におけるプラスティックごみの処理状況を表しています。

表8 日本におけるプラスチックごみの処理

出典:一般社団法人 プラスチック循環利用協会HP(2019)「プラスチックリサイクルの基礎知識2019」p.5
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf

表の「有効利用量」にあるように、プラスチックのリサイクル方法は3種類あります *16:pp.16-23。
まず、マテリアルリサイクルとは、プラスチックごみをプラスチッ クのまま原料にして新しい製品をつくる技術です。次に、ケミカルリサイクルとは、プラスチックごみを化学反応により組成変換した後にリサイクルすることです。最後にサーマルリサイクルは熱回収とも呼ばれ、ごみを焼却する際にその熱を利用したり発電したりすることです。

表中の2017年のデータをみると、プラスチックごみの有効利用率は86%に上っていますが、このうちサーマルリサイクルが約58%を占めています。
石油が原料のプラスチックを燃やすことは、生産する際にも焼却する際にもCO2が排出されることから、サーマルリサイクルに批判的な意見もあります *2:「『海洋プラスチック』2050年の予測」

今後、目指すべきは、サーマルリサイクルからリデュースへの方向転換です。特に使い捨てプラスチックの生産・消費の削減はこの問題に対する有益な対策となり得るでしょう。

科学的知見の集積と共有

「海洋プラスチックごみ対策プロジェクトチーム(PT)報告書」 によると、この問題に関する科学的知見はまだ十分とはいえません。
そのため、今後、国際的な協力体制のもとに、以下のことに関する研究を進め、知見の集積と共有を図る必要があると同報告書では述べられています*17:p.7 。

海洋プラスチックの分布の実態や海洋生態系への影響を継続的に把握し将来予測すること
大型のプラスチックごみからマイクロプラスチックに至るプロセスの解明
国際的に協調した調査研究のベースとなる、モニタリング手法の開発と標準化
3Rによる適正なごみ処理の減量効果と海洋プラスチック削減効果を評価するための手法の開発

おわりに

これまでみてきたように、海洋プラスチック問題は私たちのライフスタイルと密接な関係があります。また、次世代にまで影響がおよぶ世界規模の問題でもあります。
個人や企業、自治体、国、国際の各レベルでそれぞれの主体が責任を引き受け、協力しあって、この問題の解決に向けた取り組みを推進していくことが望まれます。

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参照・引用を見る

*1:政府広報オンラインHP(2019)「海のプラスチックごみを減らしきれいな海と生き物を守る!
~「プラスチック・スマート」キャンペーン~
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201905/1.html

*2:WWF HP(2018)「海洋プラスチック問題について」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html

*3:環境省HP(2018)「海洋プラスチックを取り巻く国内外の状況」
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2r3.pdf

*4:環境省HP(2018)「平成29年度 漂着ごみ対策総合検討業務 報告書 (概要版)」
http://www.env.go.jp/water/marirne_litter/hyouchaku_gaiyouban.pdf

*5:朝日新聞デジタル(2018)「H&M、バーバリー、ネスレ…プラ削減を250社が宣言」(2018/10/29)
https://www.asahi.com/articles/ASLBY2D4KLBYUHBI006.html

*6:環境省HP(2018)「G7シャルルボワサミット結果報告 (気候変動及び海洋関係)」
https://www.env.go.jp/council/03recycle/%E3%80%90%E5%8F%82%E8%80%83%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%91%E3%80%91%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%AF%E3%82%B5%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%88%E7%B5%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdf

*7:外務省HP(2019)「G20大阪首脳宣言 (仮訳抜粋)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000529032.pdf

*8:JETRO HP(2019)日本貿易振興機構「東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化、日本の輸出量は減少―輸出国側にも規制、求められる国内処理―」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/32168afb4b8f0bfe.html

*9:外務省HP(2019)「プラスチック資源循環戦略(概要)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000485683.pdf

*10:環境省HP(2018)日本バイオプラスチック協会「バイオプラスチック概況」(プラスチック資源循環戦略小委員会 資料)
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-02/y031202-5r.pdf

*11:NIKKEI STYLE(2018)「ナショジオ ニュース:バイオプラスチック、プラゴミ問題の決め手になるか」
a;https://style.nikkei.com/article/DGXMZO38100800S8A121C1000000/?
b;https://style.nikkei.com/article/DGXMZO38100800S8A121C1000000/?page=2

*12:NEDO(2019)TSC Foresight バイオプラスチック分野の技術戦略策定に向けて」
https://www.nedo.go.jp/content/100899114.pdf

*13:外務省HP(2019)「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン実現のための 日本の「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000493727.pdf

*14:環境省HP(2019)「海洋プラスチック官民イノベーション協力体制のご紹介」
http://www.env.go.jp/earth/20190613brochure.pdf

*15:日本経済新聞HP(2018)「レジ袋有料化、コンビニも対象 環境省が素案提示」(2018/10/19)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36683740Z11C18A0EA2000/

*16:一般社団法人(2019)プラスチック循環利用協会HP(2019)「プラスチックリサイクルの基礎知識2019」
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf

*17:政府官邸HP(2019)「海洋プラスチック ごみ対策 プロジェクトチーム(PT)報告書」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/sanyo/dai45/shiryou2_6.pdf

・外務省HP(2019)「G20大阪サミットにおける海洋プラスチックごみ対策に関する成果」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000529033.pdf

・外務省HP(2019)「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組の概要」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000529034.pdf

・外務省HP(2019)「海洋プラスチックごみ対策アクションプランの概要」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000485681.pdf

・外務省HP(2019)「海洋プラスチックごみ対策に関する国際協力」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000452234.pdf

・外務省HP(2019)「海洋プラスチックごみ対策―日本企業の先進的な取組例―」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000429394.pdf

・外務省HP(2019)「海岸漂着物対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針の変更について」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000485685.pdf

・環境省HP(2019)「海洋プラスチックごみ問題」
https://www.env.go.jp/council/01chuo/%E3%80%90%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%93%EF%BC%8D%EF%BC%97%E3%80%91%E6%B5%B7%E6%B4%8B%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%94%E3%81%BF%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%20.pdf

・経済産業省HP(2019)「海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップ」
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190507002/20190507002-1.pdf

・国際環境経済研究所HP(2019)松本 真由美「海洋プラごみ対策が世界で加速!日本も対応策
日本企業の技術は課題解決のポテンシャル秘める」(東京大学環境エネルギー科学特別部門 駒場キャンパスDiary)
http://ieei.or.jp/2019/07/special201310_01_068/

・国連広報センターHP「やめようプラスチック汚染」
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/beat_plastic_pollution/

・日本プラスチック工業連盟HP「主なプラスチックの特性と用途」
http://www.jpif.gr.jp/2hello/conts/youto_c.htm

Photo by Angela Compagnone on Unsplash

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