温室効果ガス排出量の現状と今後求められる取り組み

温室効果ガス排出量の現状と今後求められる取り組み

2015年に第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定では、産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を2℃より十分低く、1.5℃に抑える努力をする目標が設定されました。その実現に向け、各国に温室効果ガス(greenhouse gas、以下GHG)削減の取り組みが求められています。(*1)

続いて、2018年には国連事務総長主催のグローバル気候行動サミットが開催され、各国に対してGHG排出量削減に向けた貢献(nationally determined contributions、以下NDC)を2020年までに強化するよう求めました。(*2_4P)

ところが、現時点における各国のNDC達成だけでは、パリ協定の目標が実現できないことが分かっています。本記事では、GHG排出量の現状、及びパリ協定の目標達成のために今後求められる取り組みを説明します。

排出ギャップとは

2015年に採択されたパリ協定では、「産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を2℃より十分低く、1.5℃に抑える努力をする」目標が設定されました。しかし、現時点における各国のNDC達成だけでは、パリ協定の目標が実現できないことが科学的に示されています。

現時点のNDC達成で予想されるGHG排出量と、実現すべきGHG排出量の差を「排出ギャップ」と呼びます。国際連合総会の補助機関である国連環境計画(UNEP)では、科学的研究に基づく最新の排出ギャップをまとめており、年次レポートを発行しています。報告書の英語名は「Emissions Gap Report」、日本語名は「排出ギャップ報告書」です。

パリ協定と1.5℃特別報告書

排出ギャップ報告書の説明の前に、「パリ協定」と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した「1.5℃特別報告書」を理解しておきましょう。 (*3_11P) (*4_7P)

【気候変動に関する政府間パネル(IPCC)】
1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)により設立された組織。GHG排出による気候変化や環境への影響、及び対策について包括的な評価を行っている。(*3_12P) (*4_5P)

パリ協定のポイント

現時点の各国のNDCでは、パリ協定の目標が達成できないことが分かっています。パリ協定採択時にEU、アメリカ、日本、中国、ブラジル、インドなどがNDCを宣言していますが、世界各国のNDCがすべて達成されたとしても、2100年に3.3~3.9℃の上昇が予想されています。そのため、5年毎で各国のNDCを改善していくことが決められています。また、2℃上昇より1.5℃上昇に抑えることが環境に与える影響が小さいことにも言及しています。(*3_7~10P)

つまり、各国NDCを継続的に改善して排出ギャップを小さくしていくために、科学的根拠に基づいた最新の排出ギャップの分析と各国の理解が大切です。

1.5℃特別報告書のポイント

2015年のCOP21では、温暖化の影響を受けやすい国々が1.5℃目標を主張しました。合わせて、1.5℃上昇による地球環境への影響分析をIPCCに要求しました。(*3_11P) この分析報告書は「1.5℃特別報告書」と呼ばれます。

本報告書では、脆弱国にとって1.5度目標でも温暖化の影響は生存問題であるこという危機感を示しています。ポイントは以下の通りです。

  • 産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇は既に約1℃上昇している。既に人類、生態系に影響を与えている。
  • 現在のペースで気温上昇が続くと、2030年から2052年の間に1.5℃の上昇が予想される。
  • 地球温暖化2℃上昇と1.5℃上昇を比べると、地球温暖化による影響(リスク)に差異がある。2℃上昇ではなく1.5℃上昇に抑制することは、人類にとって明らかに便益がある。
  • 1.5℃上昇に抑制するには、CO2排出量を2030年までに45%削減(2010年比)、2050年頃には正味ゼロを達成する必要がある。
    (*3_15~16P) (*4_4P)
排出ギャップ報告書2019の概要

パリ協定と1.5℃特別報告書を踏まえた上で、国連環境計画(UNEP)から公表された「排出ギャップ報告書2019」を説明します。

2018年のGHG排出量

2018年のGHG排出量はCO2換算で過去最高の553億トンに達しました。現時点のGHG削減量では今世紀中に3.2℃温暖化と予想されます。2℃上昇に抑えるためには2030年までにGHG削減量を2018年より25%、1.5℃上昇に抑えるためには2030年までにGHG削減量を2018年より55%低くする必要があります。なお、G20メンバー国からのGHG排出量は、世界の排出量の78%を占めており、各メンバー国のNDC改善が重要です。(*2_4~6P)

国・地域別の比較

主要排出国別の排出量は、各国のNDCの策定、及び評価にとって貴重なデータとなります。各国の排出量は、総排出量と一人当たりの排出量の両方で比較することにより、各国の特徴を探ることができます。例えば、突出して総排出量の多い中国ですが、一人当たりの排出量は日本、EU連合と大きな違いがないことが分かります。(*2_6P)

出所:公益財団法人 地球環境戦略研究機関
排出ギャップ報告書 2019(エグゼクティブ・サマリー)(日本語翻訳版) 6P
https://www.iges.or.jp/jp/pub/unep-emissions-gap-report-2019/ja

2030年における排出ギャップ

以下の図では、2030年時点における、1.5℃上昇、2℃上昇を達成するためのGHG削減量と、現時点で提案されている対策案で予想されるGHG削減量の差(排出ギャップ)が示されています。条件付きのNDCシナリオとは、「資金、技術、能力育成などの面で支援が得られたら」という条件付きのNDCです。特に途上国で条件を付けるケースが見られます。無条件のNDCシナリオとは、言葉通り条件がないNDCです。2030年における排出ギャップは下図の通りで、各国のNDCを著しく強化する必要があります。(*2_9P)2℃上昇より十分低くするためには各国の排出削減レベルを3倍に、1.5℃上昇を達成するには各国の排出削減レベルを5倍にしなければなりません。(*2_10P)

出所:公益財団法人 地球環境戦略研究機関
排出ギャップ報告書 2019(エグゼクティブ・サマリー)(日本語翻訳版) 9P
https://www.iges.or.jp/jp/pub/unep-emissions-gap-report-2019/ja

IPCCが2019年に特別報告書を発表

特別報告書とは気候変動に関わる特定の問題に関して分析・公表される資料のことです。2019年に下記の報告書がIPCCから発表されました。

IPCC特別報告書「気候変動と土地(Climate Change and Land)」

地球温暖化により、乾燥地の水不足、土壌侵食、植生の損失、山林火災、永久凍土の融解が引き起こされ、食料供給の不安定化のリスクが大きくなることを警告しています。また、気温上昇を1.5℃に抑えたとしても、食料供給が不安定になり世界の食料システムに問題が生じる可能性があることを示しています。(*5_2P)

一方、農業の生産性向上は、気候変動の緩和、適応、砂漠化防止、土地劣化防止、食料安全保障のすべてに対して、大きなスケールで良い影響を期待できると評価しています。(*5_4P)

「IPCC海洋・雪氷圏特別報告書」ハンドブック:背景と今後の展望

海洋は産業革命以降に排出されたCO2の約3分の1を吸収しています。また、海洋は地球の表面積の約4分の3を占めます。(*6_7P) 氷や永久凍土が融けると海水温度が上昇し、さらに融解が進む悪循環が生じます。(*6_10P)

IPCCではRCPシナリオを定義し、それぞれのシナリオに基づいて将来の予測を行っています。

出所:全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)
将来予測における「RCPシナリオ」とは?
https://www.jccca.org/ipcc/ar5/rcp.html

最悪のケースであるRCP8.5シナリオの下で永久凍土の減少が続くと、2100年までに数百から数千億トンの永久凍土炭素がCO2やメタンとして大気中に放出され、気候変動を悪化させる可能性があると予想しています。例えば北極圏及び寒帯の永久凍土には1460~1600ギガトンの有機炭素が含まれており、大気中の炭素の約2倍に相当します。永久凍土融解が気候変動に与える影響は、とても大きいことが分かります。(*6_8P)

排出ギャップに関する国外での状況

排出ギャップ報告書2019では、次の5つのエネルギー転換を提案しています。(*2_13P)

  • 自然エネルギーの電力の拡大
  • 石炭の段階的廃止
  • 輸送の脱炭素化(輸送エネルギーの削減及び電化、バイオエネルギーや水素の利用 など)
  • 産業の脱酸素化(熱プロセスの電化、エネルギー効率改善など)
  • 将来の排出回避とエネルギーアクセス(エネルギー利用と排出削減をリンクさせる補助金制度 など)

また、住宅と自動車からの排出量改善の可能性を示唆しています。(*2_14~15P)

  • 製品の軽量化、及び低炭素素材への代替
  • 素材、製品製造における産出高向上
  • 製品の高度利用、長寿命、部品の再利用、再製造、修理の仕組みや制度
  • リサイクル強化

上記のような大きな方針を念頭に置いて、GHG排出量の多い中国とアメリカについて、排出ギャップに対する対応を説明します。

中国

2017年以来、中国の国家エネルギー管理局(NEA)は、石炭火力発電所への投資に対する警告システムを開発しており、投資収益率、電力需要、環境問題に基づいて、新しい石炭火力発電プロジェクトのリスクを評価しています。評価の悪い新規投資の禁止などの処理を行い、石炭利用を抑制しています。(*7_15P)

また、中国の新エネルギー車(new energy vehicle)促進のため、ナンバー優遇や購入費用支援を実施、過去10年で指数関数的な成長を遂げています。なお、関連する補助金は、市場の成熟に連動して、段階的に削減しています。(*7_15P)

その他にも、100%カーボンフリー電力システムに向けた開発加速、公共交通機関への移行、排出ゼロに近い建物開発促進を行っています。(*2_11P)

アメリカ

アメリカ合衆国がパリ協定を離脱するとの発表後、合計で人口の半分以上を占め、GDPで11.7兆米ドルをも有する25州の知事が、パリ協定の目標に沿ってGHG排出量の削減に取り組む連合であるU.S. Climate Allianceに参加しています。(*7_20P)

トランプ政権と各州の動きの両方に注目する必要がありますが、実際には下記の対策が進んでいます。(*2_11P)

  • 発電所、クリーンエネルギー基準、炭素価格設定に関する規制導入
  • 産業部門からの排出における炭素価格設定
  • 2030年における新車のゼロ排出に沿って、車両と燃費の基準強化
  • 2030年までに新しい建物が100%電化されるよう基準を策定
排出ギャップに関する国内での状況

自国のNDCの下、日本はGHG排出量を2013年レベルから2030年までに26%削減を目指しています。2019年3月、環境省は電力部門に対して新しい脱炭素化の方針を発表しました。その中には、CO2排出抑制技術を導入しない新石炭火力発電所の建設停止があります。 (*2_11P) (*7_17P)

自然エネルギーに関しては、電気料金の上昇を抑制するため、FIT法の見直しが実施されています。風力発電については、関係省庁および地元の利害関係者と協議した後、最大30年間、登録地域を占有できる法律が2019年に施行されました。洋上風力発電所の開発促進が期待されています。(*7_17P)

また、自動車メーカーが生産する新車について、2010年と比べて2050年にtank-to-wheel(走行時)でのCO2排出量を80%削減する長期目標が経済産業省から発表されました。乗用車に対しては90%削減する目標が設定されました。トヨタ、日産、ホンダなどの大手自動車メーカーのCEOが全員パネルのメンバーであるため、これらの長期目標に向けた開発は日本の輸送部門の脱炭素化に向けた重要なステップと言えます。(*7_17P)

その他にも、ネットゼロエネルギービル、ネットゼロエネルギーハウスに向けたロードマップの取り組みも進んでいます。(*2_11P)

まとめ

2015年にパリ協定では、産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を2℃より十分低く、1.5℃に抑える努力をする目標が設定されました。一方、2018年の世界の温室効果ガス(GHG)排出量がCO2換算で553億トン過去最高を記録しています。

国連環境計画(UNEP)から公表された「排出ギャップ報告書2019」によると、2℃に抑えるためには、2030年までにGHG削減量を2018年より25%低くする必要があります。温暖化の影響を受けやすい国では、1.5℃を目標にすべきという意見が多く、1.5℃に抑えるためには、2030年までにGHG削減量を2018年より55%低くする必要があります。

現時点で各国から発表されている、GHG排出量削減に向けた貢献(NDC)では、パリ協定は達成出来ないことが分かっています。2020年内に各国のNDCを強化、つまりGHG削減量を大幅に引き上げ、これを出来るだけ早く実施しないと気候変動が避けられない状況です。後送りにすればするほど、地球温暖化を抑制するのが難しくなります。

出典

*1
出所)環境省
パリ協定の概要
http://www.env.go.jp/earth/Paris_agreement.pdf

*2
出所)公益財団法人 地球環境戦略研究機関
排出ギャップ報告書 2019(エグゼクティブ・サマリー)(日本語翻訳版)
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policyreport/jp/10436/UN_Emissions+Gap+Report_2019_J.pdf

*3
出所)公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
WWF勉強会「1.5度特別報告書とパリ協定ルールブック」
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20190204_climate_Konishi.pdf

*4
出所)環境省
IPCC「1.5℃特別報告書」の概要
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

*5
出所)公益財団法人 地球環境戦略研究機関
IPCC特別報告書「気候変動と土地(Climate Change and Land)」
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/briefing/jp/10377/Briefing+Note+for+IPCC+SRCCL_Yamanoshita.pdf

*6
出所)公益財団法人 地球環境戦略研究機関
「IPCC海洋・雪氷圏特別報告書」ハンドブック:背景と今後の展望
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policyreport/jp/10449/IPCC_ocean+and+cryosphere_1219_rev.pdf

*7
出所)国際連合環境計画(UNEP: United Nations Environment Programme)
Emissions Gap Report 2019 (Full Report)
https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/30797/EGR2019.pdf?sequence=1&isAllowed=y

 

Photo by Chris Liverani on Unsplash