加速する都市部のヒートアイランドとわたしたちにできること

加速する都市部のヒートアイランドとわたしたちにできること

真夏の急激な気温上昇や熱帯夜の増加など、わたしたちの住む街では肌で感じることができるほどの気候変動が起こっています。その原因の一つとして考えられているのが、ヒートアイランド現象です。いま、ヒートアイランド現象の進行を抑えるためにわたしたちにできることは一体何なのでしょう。

ヒートアイランド現象とは 〜わたしたちの暮らしへの影響〜

ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が周囲と比較して高くなる現象のことです。まるで島のように一帯の気温が上昇することから、ヒートアイランド(heat island=熱の島)と呼ばれています。図1のように、東京を中心として高温域が広がっていることがわかります。東京都市圏を中心とした等温線が、孤島の等高線のようです。

図1 2013年8月11日5時(左図)、15時(右図)における関東地方の気温の分布図
*出典1:国土交通省 気象庁HP 「ヒートアイランド現象とはどのようなものですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/01/qa.html

東京を中心とした関東近郊では、30℃以上を記録する時間数が20年前の約2倍になっています。図2に示すとおり東京では過去100年間で3℃以上も上昇しており、中小規模都市の平均が1℃程度の上昇であることと比較すると、地球規模の地球温暖化だけでなくヒートアイランド現象の影響が強いと考えられています。

図2 東京と世界の年平均気温の経年変化
*出典2:環境省ヒートアイランド対策ガイドライン平成24年度版「ヒートアイランド現象とは」(2012)p1
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf

また気温の上昇だけでなく、熱帯夜の増加も問題となっています。熱帯夜とは夜間の最低気温が25℃以下にならない夜のことで、過去40年間で熱帯夜の日数は2倍になっています。夜間の気温がなかなか下がらないところが、温暖化とは異なるヒートアイランド現象の特徴と言われています。
このようなヒートアイランド現象、要因は一体何なのでしょうか。

まずは都市部で発生していることからわかるように、アスファルトやコンクリート地面が大きく関係しています。草地や森林などの緑地は保水力が高く、植物の蒸散による熱の消費によって空気が冷やされます。さらに放射冷却によって夜間の空気を冷やす作用もあります。
しかし緑地と比較するとアスファルトやコンクリートは、空気を温めやすく熱を蓄えやすい特徴があります。そして日中に蓄積した熱を夜間になっても保持し続けるため、熱帯夜が増える要因になっています。加えて都市部の高層ビル群などによって熱が大気中に逃げにくく、放射冷却作用が弱まるだけでなく、風通しも悪くなるため気温の低下が妨げられます。

図3 地表面の状態と気温の関係
*出典2:環境省ヒートアイランド対策ガイドライン平成24年度版「ヒートアイランド現象とは」(2012)p8
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf

次に、エアコンや自動車、工場などから排出される人工排熱の増加も要因の一つとして挙げられます。このような排熱が都市部の大気を暖め、気温の上昇につながっています。図4に示すエネルギー消費量のグラフをみてもわかるとおり、人工排熱量は日本の経済発展とともに、増加の一途をたどっています。

図4 日本の最終エネルギー消費とGDPの推移
*出典3:国土交通省 国土技術政策総合研究所 「ヒートアイランド現象とその影響」p11
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0406pdf/ks0406005.pdf

アスファルトやコンクリート地面の拡大と、人工排熱によってヒートアイランド現象が引き起こされていると言えます。

図5 ヒートアイランド現象の概念図
*出典4:国土交通省 気象庁HP 「ヒートアイランド現象の要因は何ですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/02/qa.html

ヒートアイランド現象によって、わたしたちの暮らしは様々な影響を受けています。

まずは日中の高温化や熱帯夜の増加により引き起こされる、熱中症などの健康被害です。熱帯夜が続くことでエアコンの使用量が増え、ヒートアイランド現象の要因でもある人工排熱が増加してしまうという悪循環となっています。
次に生態系の変化や植物への影響です。温暖化の影響もありますが、ヒートアイランド現象によって、桜の開花や紅葉の時期に変化が起こる可能性も指摘されています。
また、高温化により都市が亜熱帯化することで、蚊などの感染媒介生物の生息域が広がることも懸念されています。
地面の高温化や人工排熱などのによる上昇気流が原因とされる夏場のゲリラ豪雨も増加しています。ゲリラ豪雨とヒートアイランド現象との因果関係ははっきりとは証明されていませんが、関連性が高いとみられ現在研究が進められています。

海外でのヒートアイランド現象と改善事例

日本国内だけでなく、世界各国の都市部でもヒートアイランド現象は現れているのでしょうか。

図6は、ニューヨーク、パリ、ベルリンの年平均気温の推移と世界平均を比較したものです。東京が一番顕著ですが、ニューヨークやパリでも世界平均と比較して大幅に気温が上昇していることがわかります。

図6 世界の各都市及び世界平均の年平均気温の長期的な変化
*出典5:国土交通省 気象庁HP 「都市化の影響は外国の都市でも現れているのですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/06/qa.html

緑地の減少や人工排熱の増加、高層建築の密集などは世界各国の都市部でも共通している都市形態なので、同じようにヒートアイランド現象を引き起こしているのです。

次に、海外で行われているヒートアイランド対策の中で、一定の成果や改善がみられた事例について紹介します。
まずは韓国ソウル市で実施されている都市計画、「風の道の創出」事業です。この事業はソウル市の気候や自然環境を活かし、河川を整備することで海風と川風を組み合わせて都市の風通しをよくすることを目的としています。

図7 清渓川の再整備による風の道の創出(ソウル市)
*出典6:国立環境研究所 環境展望台HP「ヒートアイランド対策技術」(2016)
http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=18

 

「風の道の創出」事業は日本の国立環境研究所と共同研究で気象観測を行い、一定の改善がみられたことが証明されています。街全体の風通しをよくすることで、風速1m/sにつき0.3〜0.4℃の気温低下をもたらすという成果がありました。

アメリカのワシントンD.C.では、市民による街路樹管理制度を取り入れることでヒートアイランド対策をおこなっています。この活動は、ヒートアイランド対策のために毎年4500万本植樹するにあたり、特定の街路樹の管理者を市民が請け負うことで街路樹を適切に管理していくことを目指しています。
この活動によってヒートアイランド対策だけでなく、街の景観の向上や生態系保全などの効果も期待されています。市民はボランティアで参加し、2011年には1400人が参加しています。ワシントンD.C.では2035年までにD.C.の40%を緑地化することを目標としており、樹木が増えていく様子を植樹マップにして公表しています。

図8 ワシントンD.C.の植樹マップ(2012年版)
*出典7:環境省 ヒートアイランド対策マニュアル 「海外における関連施策」p72
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/manual_01/04_chpt2-2.pdf

愛着をもって街路樹を管理することで喜びを感じることができるこの事業は、市民が環境問題に当事者意識を持ち参画できる事例として成果をあげています。

最後に香港で実施している都市の風通し確保を推進する制度について紹介します。この制度は2003年のSARS流行をきっかけに導入されたもので、主な目的な感染予防のための衛生的なまちづくりですが、ヒートアイランド現象の緩和にも効果が期待されています。
この施策では、道路の向きや建物の高さを規定することでエリア内の風通しを確保し、技術的に歩行者空間の風通しの評価やシミュレーションを行います。

図9 風の向きと道路の配置(左図)と風のよどみを作らない高さ配置(右図)(Air Ventilationによるガイドラインより)
*出典7:環境省 ヒートアイランド対策マニュアル 「海外における関連施策」p76
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/manual_01/04_chpt2-2.pdf

これは国家プロジェクトの都市計画ですが、民間企業などにも同じガイドラインを使用するように推奨しています。技術的な評価ツールを用いることで定量的に評価可能なヒートアイランド対策プロジェクトとして期待されています。

ここまで海外での施策を紹介しましたが、ヒートアイランド対策は行政が行う都市計画などの規模の大きいものから、わたしたち一人一人が参画できる事業まで幅広いレベルの取り組みがあります。
このような海外での様々な施策は日本のヒートアイランド対策を推進するにあたり、ヒントとなる可能性が高いものばかりです。特に、ソウル市や香港で行われている風通しを促進させるための事業は日本ではあまり進んでおらず、詳細な手順やガイドラインは今後の参考になるでしょう。

ヒートアイランド現象による国内の環境変化

ヒートアイランド現象は東京だけでなく、国内の主要都市においても観測されています。
ここでは、日本国内の現状や環境変化について細かくみていきましょう。

以下の図10、11に示す通り、ヒートアイランド現象の影響による最高気温、最低気温の上昇は日本全国の主要都市で記録されています。

図10 関東地方・全国主要都市における100年あたりの気温上昇量
*出典3:国土交通省 国土技術政策総合研究所 「ヒートアイランド現象とその影響」P4
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0406pdf/ks0406005.pdf

 

図11 季節別の主要都市における気温の長期変化
*出典2:環境省ヒートアイランド対策ガイドライン平成24年度版「ヒートアイランド現象とは」(2012)p2
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf

図10をみてもわかる通り、各都市において特に最低気温の上昇が顕著に表れています。図11は季節別の主要都市における気温の長期変化ですが、気温変化率を見ると夏よりも冬の方が変化率が高くなっています。
ヒートアイランド現象は生活の快適性低下や熱中症などの健康被害などの問題から夏季の高温化が特に問題となっていますが、実際には冬季の方が影響を受けていることがわかります。これは、先に紹介したとおり、一度暖まった空気がなかなか下がりにくいというヒートアイランド現象の特徴によるものです。

このように東京以外の都市でもヒートアイランドが進んでいますが、それにより夏季の熱中症の救急搬送患者数も増加しています。熱中症は高温により体温の調節機能が失われ、体内の水分や塩分のバランスが崩れることで発症する健康被害です。死に至るケースも多く、夏場の熱中症の増加は近年社会問題となりつつあります。

図12 季節別の主要都市における気温の長期変化
*出典2:環境省ヒートアイランド対策ガイドライン平成24年度版「ヒートアイランド現象とは」(2012)p16
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf

図12を見ると、最高気温が30度を超えるあたりから死亡率が急激に上昇することがわかります。ヒートアイランド現象によって東京では20年前と比較して30℃を超える日が約2倍になっていることから、熱中症被害が深刻になっているのです。

図13 6都市(東京都、大阪市、名古屋市、新潟市、広島市、福岡市)の暑さ指数と熱中症による緊急搬送数
*出典6:国立環境研究所 環境展望台HP「ヒートアイランド対策技術」(2016)
http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=18

さらに図13で示すように、暑さ指数(WGBT)と熱中症の緊急搬送人員は相関も明らかです。暑さ指数とは、人間の熱バランスに影響を与える気温、湿度、輻射熱の3つの指標を取り入れたものです。環境省などは熱中症の予防のために情報提供を行なっています。
さらに熱帯夜による睡眠阻害についても深刻で、睡眠不足により更に熱中症リスクも高まります。
このように、東京だけでなく日本の各都市でヒートアイランド現象が起こっており、それに伴う深刻な被害も問題となっています。

ヒートアイランド現象の施策と今後の展望

最後にヒートアイランド現象が進む日本の都市部で行われている緩和策や適応策、今後の展望について紹介します。

日本のヒートアイランド対策や対応技術の研究に関しては、世界各国と比較しても進んでいます。海外の対策事例の項でもふれましたがヒートアイランド対策は、公園の整備や緑地化などの都市計画レベルのものから、地域の緑化活動への参加や省エネなどの市民レベルまで幅広いものです。
日本国内の多くの地方自治体では、熱帯夜日数を減らすことを具体的な目標としてさまざまな取り組みを行なっています。大阪府では、2025年までの夏季の熱帯夜日数を2000年と比較して3割減らすこと、屋外のクールスポット活用による環境改善を目指しています。

表1 地方公共団体におけるヒートアイランド対策の目標
*出典8:環境省 ヒートアイランド対策ライン平成24年度版「効果的なヒートアイランド対策の推進手法」(2012)p40
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt2.pdf

 

埼玉県のヒートアイランド対策ガイドラインでは家庭レベルでだれでも取り組める事例を紹介しています。ヒーアイランドの要因となっている人工排熱は、各家庭での毎日の工夫によって抑制することができます。

図14 家庭から出る排熱の抑制
*出典9:埼玉県 環境農政局環境部環境都市課 環境展望台HP「埼玉県ヒートアイランド対策ガイドライン」(2009)P43
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0502/onheat/documents/307677.pdf

上記の他にも冷房の温度設定や使いすぎに注意したり、適度に部屋を換気して風の道を確保することで建物周辺のヒートアイランド現象を緩和することもできます。これらの活動は温室効果ガス排出抑制にもつながり地球温暖化対策としても効果があります
また、日射を遮り蒸発散作用を活用できることでおすすめなのは緑のカーテンです。ゴーヤなどの緑のカーテンをベランダに設置することで、夏のエアコン利用を2〜3割抑えられることが期待されます。さらに、自家用車ではなく徒歩や自転車、公共交通機関を利用することで自動車からの排熱を抑制することもできます。

ヒートアイランド現象を解消するには、わたしたちのライフスタイルを見直す必要があります。また、ヒートアイランド現象はすぐ解消されるものではなく、長期的に取り組む必要があります。熱中症などの日々の生活に直結する被害だけでなく、生態系の変化や気象変動などの大局的な問題にも関心をもち、当事者意識をもって参加することが大切です。

参照・引用を見る

国土交通省 気象庁HP 「ヒートアイランド現象とはどのようなものですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/01/qa.html

環境省ヒートアイランド対策ガイドライン平成24年度版「ヒートアイランド現象とは」(2012)
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf

国土交通省 国土技術政策総合研究所 「ヒートアイランド現象とその影響」
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0406pdf/ks0406005.pdf

国土交通省 気象庁HP 「ヒートアイランド現象の要因は何ですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/02/qa.html

国土交通省 気象庁HP 「都市化の影響は外国の都市でも現れているのですか?」https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/06/qa.html

国立環境研究所 環境展望台HP「ヒートアイランド対策技術」(2016)
http://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=18

環境省 ヒートアイランド対策マニュアル 「海外における関連施策」https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/manual_01/04_chpt2-2.pdf

環境省 ヒートアイランド対策ライン平成24年度版「効果的なヒートアイランド対策の推進手法」(2012)
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt2.pdf

埼玉県 環境農政局環境部環境都市課 環境展望台HP「埼玉県ヒートアイランド対策ガイドライン」(2009)
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0502/onheat/documents/307677.pdf

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