オゾンホール 地球を守るオゾン層の破壊を食い止めるために私達ができることとは

有害な紫外線を吸収するオゾン層は地球上の生き物を生存可能にする重要な役割を担っています。
しかし1980年代、フロンなどの化学物質によるオゾン層破壊や、南極のオゾンホールが発見され環境問題として認識されることになりました。
温室効果のあるフロンの放出を抑えることは、地球温暖化問題の解決にも貢献します。
この記事ではオゾンホールの現状やオゾン層保護の取り組みを紹介します。

オゾンホールとは 〜オゾン層の役割と仕組み〜

地球の高度10〜50kmの成層圏にはオゾン濃度が90%以上のオゾン層があります。
オゾンは酸素原子3個からなり、常温常圧で気体として存在します。
図1は成層圏のオゾン層の分布図です。高度20km前後はオゾン濃度が特に高くなっていることがわかります。

図1 大気中のオゾン
*出典1:環境省 「オゾン層を守ろう」(2019)p1
https://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2019_ozone_whole.pdf

 

地上に近い部分でオゾン濃度が高くなっているのは、大気汚染によるオゾンの増加とみられています。

 

図2 オゾンのサイクル
*出典1:環境省 「オゾン層を守ろう」(2019)p1
https://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2019_ozone_whole.pdf

 

オゾンの密度が高いオゾン層では、太陽からの強い紫外線による分解と結合を繰り返すことで一定のバランスを保っています。

オゾン層の役割は太陽の光に含まれる有害な紫外線を吸収することです。
約4億年前、オゾン層が形成されたことで生命は海から陸へと進出していきました。
オゾン層によって太陽から発せされる有害な紫外線の約90%は吸収され、地球上の生命の命を守っているのです。
さらに成層圏では紫外線を吸収することで大気を暖め、地球上の大気を循環させます。

オゾンの量は太陽の照射量などと関係するため、経度や緯度そして季節によって異なります。
図2の衛星観測によるオゾン全量の分布図によると、南極や南半球、赤道近くはオゾン量が少ないことがわかります。

図3 世界の年平均オゾン全量
*出典2:環境省 「平成30年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書(2019)第1部オゾン層の状況」(2019)p11
http://www.env.go.jp/earth/report/ozone_annual_H30_1-1_chap1.pdf

 

さらに季節によってもオゾン量は変動し、春が最大で秋が最小になります。
これは成層圏の大気の大規模輸送が冬に最も活発になるためです。
その他、2年周期で訪れる赤道上空の風向き変化、太陽黒点活動、大規模火山の噴火などもオゾン量変動の要因となります。

このように季節や大気の流れによって変動するオゾン量ですが、近年は人工化学物質や人間活動に起因するオゾン層破壊が問題となっています。
オゾン全量は1960年代から世界的な観測が始まっていますが、オゾン量の減少が見られるようになったのは1980年代に入ってからです。

図4 世界のオゾン全量の推移
*出典1:環境省 「オゾン層を守ろう」(2019)p2
https://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2019_ozone_whole.pdf

図4を見ると1980年代から1990年代前半にかけて地球規模で大幅にオゾン量が減少していることがわかります。

南極の上空では、このオゾンの層が薄くなっているオゾンホールと呼ばれる場所がありま
す。
オゾンホールは1982年に日本の観測隊によって初めて発見され、オゾン量が大幅に減少した1980年代から1990年代前半に急激に拡大しました。
オゾンホールの面積は南極大陸がすっぽりと入ってしまうほどの大きさです。

図5 オゾンホールの年最大面積の経年変化と南半球の10月の月平均オゾン量分布
*出典1:環境省 「オゾン層を守ろう」(2019)p2
https://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2019_ozone_whole.pdf

では、地球の生命の営みを守るオゾン層が破壊されるとどのような影響があるのでしょうか。

オゾン層は生命にとって有害な波長の短い紫外線(UV-B)をほぼ吸収しますが、一部は地表に届きます。太陽の紫外線によって日焼けやしみ、そばかすができるのはUV-Bの影響です。

1%のオゾンの減少により、地上に届くUV-Bは1.5%増加すると言われています。
UV-Bが健康に与える影響は日焼けだけでなく、皮膚ガンや白内障などの皮膚や眼の病気の発症、免疫機能の低下などがあります。また、紫外線が地表に降りそそぐことで光化学スモッグを引き起こします。

さらに人間だけでなく、動植物の生態系にも悪影響を及ぼします。

図6 動植物や物質への影響
*出典3:NPO法人 ストップ・フロン全国連絡会「第1章 オゾン層ってなんだろう?」p15
https://www.jason-web.org/wp/wp-content/uploads/2015/04/pumph150501_15_17_.pdf

オゾン層が破壊されることで有害紫外線の影響を受けやすいプランクトンや様々な動植物の成長が妨げられ、食物連鎖をさまたげる恐れがあります。
また有害な紫外線にさらされることで、色褪せやプラスチックの劣化など物質への影響もあります。

オゾン層破壊の原因とオゾンホールの現状

オゾン層破壊の原因は、1980年代に発明されたフロンです。
フロンは自然界には存在しない人工的な物質で、かつて冷蔵庫やクーラー、プリント基盤、スプレーなどに幅広く使用されていました。
このようにフロンが使われた機器などがゴミとなって破壊される際にフロンが放出され、オゾン層が破壊されています。

フロンは安定性の高い物質で自然分解するには長い年月がかかります。
そのため分解されず成層圏まで達して塩素を放出することでオゾンを減少させるのです。
オゾン層を破壊する物質は、フロンだけでなくハロンや臭化メチルなど他にも存在しています。

図7 オゾンの破壊のしくみ
*出典4:国立環境研究所HP 「フロンによるオゾン層の破壊」(2004)
https://www.nies.go.jp/escience/ozone/ozone_02.html

 

南極で観測されるオゾンホールは、南極の成層圏にできる雲と渦状に取り巻いているジェット気流(極渦)が原因で発生します。
極渦の変動によっては、オゾンホールの規模も変化します。

またオゾン層を破壊するフロンは、温室効果を持つ気体であることから地球温暖化にも影響を与えています。
特にフロンの生産規制によって使用されるようになったHFC(ハイドロ・フルオロ・カーボン)をはじめとする代替フロンは強力な温室効果をもっており地球温暖化へ影響を及ぼします。

図8 フロン類の地球温暖化係数
出典1:環境省 「オゾン層を守ろう」(2019)p7
https://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2019_ozone_whole.pdf

 

このように、同じ重さの二酸化炭素と比較するとフロン類は数百倍から一万倍超の温室効果があります。排出の絶対量が二酸化炭素より少ないため、地球温暖化への寄与も二酸化炭素ほど大きくはないですが、排出抑制に積極的に取り組む必要があります。
環境問題の多くがそうであるように、地球温暖化とオゾン層の破壊、この2つも関連性がある環境問題なのです。

図9 温暖化とオゾン層破壊との関係、およびその要因
*出典5:国立環境研究所 地球環境研究センターHP「オゾン層破壊が温暖化の原因?」
http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/9/9-2/qa_9-2-j.html

 

次に、最新(2019年)のオゾンホールの状況をみていきましょう。
2019年の観測結果では、大規模なオゾンホールが観測されるようになってから最もオゾンホールの面積が小さくなりました。
またオゾンホールは8〜9月ごろ発生し11〜12月に消滅しますが、消滅までの期間も最も短くなりました。


図10 オゾンホールの面積の推移
出典6:国土交通省 気象庁HP 「オゾンホールの状況(2019)」(2019)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/diag_o3hole.html

 

オゾンホールの拡大が抑えられた原因として、2019年8月ごろに成層圏の気温が上昇しオゾン層破壊を進行させる雲や極渦が縮小したことが考えられます。
そのような経年変化とは別に、オゾンホールは2000年代以降減少傾向にあり、長年にわたる国際的なフロン規制による一定の効果が出ているものとみられます。

国内外でのオゾン層保護の取り組み

1985年にオゾン層保護の国際的な取り組みとして「ウィーン条約」が合意されました。さらにこの条約をもとに、より具体的なオゾン層保護の取り決めを定めた「モントリオール議定書」が1987年に採択されました。
モントリオール議定書は改定を重ね、オゾン層を破壊する特定フロンをはじめとしたさまざまな物質の規制を定めています。

図11 モントリオール議定書に基づく生産量及び消費量の規制スケジュール
出典11:環境省 「モントリオール議定書に基づく生産量及び消費量の規制スケジュール」
https://www.env.go.jp/earth/ozone/montreal/Schedule_present.jpg

 

特定フロンに関しては、モントリオール議定書の規制によって、先進国では1990年代後半、途上国で2010年までに全廃することができました。
途上国は先進国を追う形でスケジュールが決められており、日本をはじめとした締結国が資金拠出する基金によって途上国での人材育成やオゾン層保護の取り組みを支援しています。

モントリオール議定書の締約国会合は毎年開催され、規制の状況や改正などを議論しています。
2016年に開催された会合では、HFCなど代替フロンの温室効果による温暖化問題を解決する規制について、合意がなされました。

また、海外ではフロンの排出抑制に関して各国独自の法規制が導入されています。
欧州では2006年にフロンの製造や販売に関する規制、Fガス(HFC、PFC、SF6 その他のフッ素を含む温室効果ガス)規制が採択されました。
さらに2015年のFガス規制改正では、温室効果のある代替フロンも規制事項に加わりました。
Fガス規制の他にも、欧州の各国ではフロン類に対して課税制度を導入しています。

表1 欧州におけるフロン類に対する課税制度の導入状況
出典9:環境省 「諸外国におけるフロン類の排出抑制施策」p5
https://www.env.go.jp/press/cfc_conf01/ref12.pdf

 

最も古い1989年に課税制度が導入されたデンマークは、欧州の中でも特に厳しい規制を先行して実施してきました。
さらに1992年には、デポジット制度が導入されたことでフロンを使用した機器の回収が進んでいます。
デポジット制度とは、フロン(冷媒)機器の購入時に上乗せした金額を資金管理団体へ支払い、回収やリサイクルによって払い戻しをする制度です。

図12 デンマークのデポジット制度のフロン(冷媒)回収・破壊時の仕組み
出典9:環境省 「諸外国におけるフロン類の排出抑制施策」p11
https://www.env.go.jp/press/cfc_conf01/ref12.pdf

 

次に日本国内でのオゾン層保護に対する取り組みを見ていきましょう。
日本ではモントリオール議定書をうけて、1988年に「オゾン層保護法」が施行されました。
そして「フロン排出抑制法」「家電リサイクル法」「自動車リサイクル法」によって、家庭用エアコン、冷蔵庫、業務用空調機器、カーエアコンなどのフロン類の回収と破壊をすすめています。

日本では世界各国同様にオゾン層保護法に基づいて特定フロンの製造を規制し、代替フロンへの転換を進めていました。
しかし代替フロンの地球温暖化への影響が指摘され、2016年のモントリオール議定書改正(ギガリ改正)に合わせてオゾン層保護法も改正されました。

図13 特定フロン・代替フロン・ノンフロンの環境への影響
出典8:環境省 パンフレット「ノンフロンで省エネ&エコに冷やす」(2018)p1
https://www.env.go.jp/earth/ozone/non-cfc/pamph_products/natural_pamph.pdf

 

現在はモントリオール議定書の改正(ギガリ改正)に基づいて、ノンフロンへの移行に向け、段階的な代替フロンの削減を目指しています。

図14 ギガリ改正に基づく国全体の消費量の限度の変化
出典9:経済産業省 環境省 「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法オゾン層保護法)の一部を改正する法律案 御説明資料」(2018)p5
https://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180306001/20180306001-1.pdf

 

ノンフロン機器には自然界にある二酸化炭素や水、空気、炭化水素などが冷媒(熱を移動させるためのガス)として使用されています。

日本では2018年度から冷凍冷蔵倉庫に加え、スーパーやコンビニなどの小売店でもノンフロン機器導入の補助金を交付しています。
ノンフロン機器の導入をすすめることは、オゾン層保護と温室効果ガス削減2つの効果があります。
さらにノンフロン機器は従来のフロン機器と比較して消費電力を大幅に抑えられるので省エネとエネルギー起源のCO2削減も期待できます。

図15 省エネ型自然冷媒機器補助事業における温室効果ガス削減効果の例(CO2換算)
出典8:環境省 パンフレット「ノンフロンで省エネ&エコに冷やす」(2018)p5
https://www.env.go.jp/earth/ozone/non-cfc/pamph_products/natural_pamph.pdf

まとめ

国際的なフロンの規制によってオゾンホールの大規模な拡大は抑えられていますが、代替フロンの温室効果による地球温暖化への影響が懸念されています。
また、フロンは自然分解に年月がかかる物質なので、これまでに放出されたフロンによってこれからもオゾン層の破壊は続くと予想されています。

オゾン層破壊物質であるフロンはわたしたちの生活のさまざまな場所で使用されています。

図16 身近なところにあるオゾン層破壊物質や代替フロン
*出典10:環境省HP「9月はオゾン層保護対策推進月間です!」(2019)
http://www.env.go.jp/earth/ozone/post_58.html

 

家庭でフロンが使用された古い家電を廃棄する場合は、家電リサイクル法に基づくリサイクル料金を支払うことで、適切な回収処理が可能です。
自動車の場合は、登録を受けた引き受け業者に引き渡す必要があります。
また、新たに家電を買い替える際は、オゾン層を破壊せず地球温暖化の影響も少ない物質を使用したノンフロン製品を選ぶと良いでしょう。

ノンフロンに関する技術開発や普及は、今後より進んでいきます。
オゾン層保護のためにわたしたちに出来ることは、現在使用しているフロン機器の適切な回収とノンフロン機器への転換と言えるでしょう。

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参照・引用を見る

1. 環境省 「オゾン層を守ろう」(2019)https://www.env.go.jp/earth/ozone/pamph/2019_ozone_whole.pdf
2. 環境省 「平成30年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書(2019)第1部オゾン層の状況」(2019)
http://www.env.go.jp/earth/report/ozone_annual_H30_1-1_chap1.pdf
3. NPO法人 ストップ・フロン全国連絡会「第1章 オゾン層ってなんだろう?」
https://www.jason-web.org/wp/wp-content/uploads/2015/04/pumph150501_15_17_.pdf
4. 国立環境研究所HP 「フロンによるオゾン層の破壊」(2004)
https://www.nies.go.jp/escience/ozone/ozone_02.html
5. 国立環境研究所 地球環境研究センターHP「オゾン層破壊が温暖化の原因?」
http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/9/9-2/qa_9-2-j.html
6. 国土交通省 気象庁HP 「オゾンホールの状況(2019)」(2019)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/diag_o3hole.html
7. 環境省 「諸外国におけるフロン類の排出抑制施策」https://www.env.go.jp/press/cfc_conf01/ref12.pdf
8. 環境省 パンフレット「ノンフロンで省エネ&エコに冷やす」(2018)
https://www.env.go.jp/earth/ozone/non-cfc/pamph_products/natural_pamph.pdf
9. 経済産業省 環境省 「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法オゾン層保護法)の一部を改正する法律案 御説明資料」(2018)
https://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180306001/20180306001-1.pdf
10. 環境省HP「9月はオゾン層保護対策推進月間です!」(2019)
http://www.env.go.jp/earth/ozone/post_58.html
11. 環境省 「モントリオール議定書に基づく生産量及び消費量の規制スケジュールhttps://www.env.go.jp/earth/ozone/montreal/Schedule_present.jpg

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