麦・ホップ・水、そして電気。自然の恵みを分かちあうビールがつくられる場所

麦・ホップ・水、そして電気。自然の恵みを分かちあうビールがつくられる場所

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●Fujiyama Hunter’s Beer柚野テイスティングルーム(醸造所)

静岡県富士宮市大鹿窪1428-1
営業時間:13:00-18:00(土・日)

自然のエネルギーでビールをつくる場所

Fujiyama Hunter’s Beerは、静岡県富士宮市、最寄駅から車で15分ほど山の方向へと進んだ場所にある小さなブルワリーです。

昔から米作りが盛んで、棚田が広がる景色がとても美しい場所で、晴れると富士山が間近に大きくみえます。ここで年間13,000リットルのクラフトビールがつくられています。

[左:深澤さんのご友人が間伐した地元の檜でつくられたブルワリーのエントランス]
[右:ブルワリーではヤギのメエちゃんがお出迎え]

 

このブルワリーには、ステンレスの大きなタンクが10個以上あります。

[ブリワリー内部の様子]

これらのタンクで、マッシング(麦芽を煮て糖化させる作業)し、そこにホップを加えて苦味・風味付けを行い、それを冷やして酵母を加え、タンクの中で1週間発酵、1ヶ月ほど熟成させ、ビールが完成します。

この醸造につかう原材料のうち、水は富士山からの湧水をつかっています。このあたりには水道がひかれておらず、蛇口をひねると湧水がでてくるのです。この美味しい富士山からの湧水をつかってビールをつくっています。

そして麦については、もともと米を育てている田んぼで二毛作での麦の栽培を行い、一部のビールには自家製の麦をつかっています。5反ほどの広さの畑で、無農薬の麦を育てています。ホップも同じく自家栽培を行っています。4種類のホップを200本栽培しており、ビールの全量を賄うのは難しいですが、少しでも自給できることを目指しています。発酵のもととなる酵母についても、乳酸菌の活用を行い、天然酵母も活用すべく研究を行っています。

[左:しっかりと実がなったホップ][右:ホップの中にあるルプリンという成分が味の決め手]

このように、麦・ホップの自給にこの土地ならではの美味しい湧水、そしてこの環境に棲む酵母を使うことで、自然の力を最大限に活用したビールが完成します。

さらに、お湯を沸かしたり冷やしたり、微妙な温度管理を行ったりと、ビールの醸造にはある程度の電力をつかいます。この電力についても、この度自然エネルギー由来100%の電力への切り替えを行いました。太陽光や風力で発電された電力をつかうプランに切り替えることで、ビールの醸造のプロセスがさらに自然の力を活用したものになりました。

野菜、肉、そしてビール

Fujiyama Hunter’s Beerの代表深澤道男さんは、静岡県富士宮市にある水田に囲まれた地域(旧芝川町)で生まれ育ちました。

実家が農家だったこともあり、深澤さんも農業の道に進みます。畑を増やし、無農薬でのお米・野菜づくりを進めていました。

そして農業を営むかたわら地域の活動にも参加、仲間と一緒に森を守るための植林活動なども行っています。

ある年の秋、地域の子供達と一緒に山に桜の木を400本植えました。そして翌春、木の成長を楽しみに山に入ると、なんと前年に植えた桜の木が全て、なくなっていたのでした。これは全て、鹿や猪による被害で、当時このあたりではこうした動物が異常に増え、田畑などへの被害も大きくでてしまっていました。

これがきっかけとなり、深澤さんは狩猟も始めます。猪や鹿など、増えすぎてしまった動物を適切な個体数に戻し、お互いに共生できる環境にするため、猟を始めました。そして深澤さんは猟で獲ったものはしっかり大切に頂きます。新鮮なうちに無駄のないようにさばき、仲間たちと分配し、食べられる部位はしっかりと美味しく頂いています。

[左:猟の様子] [右:猟の夜の宴会。猟友会のメンバーから色々な話を伺う]

そしてそんな日々を過ごすうち、ビールをつくることを思い立ったといいます。

もともとビールが好きだったということもあり、野菜・米があり肉も自給自足できるようになり、あとはビールがあればもっと食卓が楽しくなる!ということで、ビールづくりを始めました。

しかも農家である深澤さんがビールをつくるとなったら、原料の麦芽とホップからつくりたい、ということでビール用の麦とホップの栽培も始めます。農薬や化学肥料をつかわずに育てています。

[麦や稲の収穫が終わると、豆を植え、土の力を再生させます]

ホップの栽培には高い支柱を立てる必要がありますが、この支柱についても自分で伐採した木をつかい、なるべく土地への負担が低い方法をとりました(通常はアルミやステンレスなど金属のポールを利用することが多いです)。

[間伐材を利用してつくった自作の支柱]

本当はできるのに、みんながやっていないこと

自家製の麦・ホップ、そしてその土地で自然な形で手に入れることのできるおいしい水をつかって自分でビールをつくれるようになった深澤さん。

ついに、野菜・お米・お肉・ビール全て自家製という幸せな食卓を実現しました。

火をおこすのに使う薪ももちろん自分の畑で間伐した木を薪にしたもので手に入れることができ、温かいお湯を手に入れるための燃料も身の回りで手に入ります。

山があり、川があり、畑があり、水がある。自分の生活を離れた場所に頼るのではなく、身の回りでまかなうことができるのです。

こういった生活について、深澤さんは『本当はみんなができることなのにやっていないのはもったいない』と言います。

2011年の東日本大震災をきっかけに、この思いが加速したのだと言います。静岡県でも計画停電や物流の混乱などがありましたが、食べるものが手に入り、水があり、薪という燃料があるこの場所では他の離れた地域からの影響は最小限に生活することができたそうです。

そしてこの生活を『本当はみんなができることなのに、やっていない』と。たとえ都市部に住む人たちでも、ベランダでのちょっとした家庭菜園でもいいから始めることに意味がある。少しでも、一歩ずつでも、自分で何かをつくれる状態になることがこれからは必要になると考えています。

さらに深澤さんは、『こういう小規模な集落やコミュニティ内でなるべく衣食住を自給できるようにして、そんなコミュニティが色々な場所にできて広がっていく、ということが成り立ったらよい』という理想を語ります。そうすることで、多くの機能や物が都市部に集まり、そこからの物流や伝達がないと地方が成立しなくなる、という負荷とリスクの高い構造が、もっと自然な姿に戻っていくと。

そしてそんな理想に近づくために、深澤さんは仲間と一緒に2019年、“Brewing for nature”という企画を立ち上げます。

山・川・海といった自然環境が私たち人間の活動の影響を受け悪化していることに対し、ローカルブルワリーがそれぞれの地域の自然環境の現状を知り、それをビールを通して発信し、行動を広めていくことを目指し、静岡や東京から、ローカルなブルワリーが集まりました。

これまで、前述の鹿・猪の増加や人里への被害を食い止めるため、人工林を放置せず適切に管理し、動物たちが食べられる植物が育つ森の状態へ近づけていくことを目指した企画などを実行しました。この企画では、実際に参加したブルワリーの醸造家たちが山に入り間伐を行い、その木をチップにしてビールへの香りづけを行い、そうしてできたひのきのビールを飲み比べができるイベントを開催し、林業を行い森を守る大切さを参加者に伝えました。

[左:自然を楽しみながら、自分たちで間伐した木材を加工していく]
[右:各ブルワリーそれぞれの自由で、特色のある、様々な木こりのビール]

まさに、農家でもありハンターでもある深澤さんがビールという商品を通して、日本中に広がる飲み手のみなさんにこういった理想や想いを伝え・広げていくべく、活動しています。

良い選択、賢い選択

Brewing for Natureを通し、広げるというミッションに向かいながらも、引き続き自分のできる行動を進めていました。

例えば電力に関して、深澤さんは『いつかはオフグリッドにしたい』と決めています。

太陽光パネルを設置して電力を自給するのはもちろん、ビールをつくるために大量のお湯を湧かす作業は薪で行い、酵母も天然酵母をつかい、自然の力でビールをつくる。そういった形の、電気だけではない、“オフグリッド”についての夢を語ってくださいました。

しかしいきなり全てを理想に近づけることはビジネスとの両立という意味でも難しい。そこで深澤さんは日々あらゆる『良い選択・賢い選択』を繰り返しながら、しっかり影響力もだせるような方法でよりよい状態を追求しています。

今回は電力の自給自足に向けた第一歩として、まずは電力会社を切り替えるということを選びました。

深澤さんは無駄な電気をつかわないようにと、もともとブリュワリーでエアコンをつかっていなかったそうです。しかし熱湯をつかったり重い荷物を運んだり清掃も多い醸造の作業を冷房なしで行うことも次第に難しくなり、醸造の効率を保つためにも、クーラーを導入しました。

そしてオフグリッドまではいけないけれど、少しでも良い方に、ということで自然エネルギーをつかった電力会社への契約切り替えを決定してくださいました。一足飛びにオフグリッドにするのではなくまずは少しでもよい方に、というのが、深澤さんのいう『良い選択・賢い選択』でした。

麦を自分でつくり、目下の目標は、『年間を通して1銘柄は自家製麦で仕込むこと』。今後天然酵母での醸造も始めるとのことで、バランスをとりながら、一つ一つ日々の選択を通して理想のありかたに近づいています。

地域が豊かになり、つながっていくこと

先日、深澤さんの仲間のもとにあるミュージシャンの方が遊びにいらしたそうです。

しかしその方はなんと現金を350円しか持ち合わせておらず、音楽を演奏してもらい、その代わりにビールや食事を振る舞う、という物々交換をしたそうです。自分がつくった食べ物を提供して、かわりにその場に音楽が流れる。このように現金を介さずとも経済が成立することは深澤さんにとって当たり前のことでしたが、この経験からさらに文化(音楽)も、手触りのある物々交換という方法で楽しむことができることを実感したといいます。

そしてその後の新型コロナウイルスによる時期を経て、深澤さんは、より地域が本当の意味で豊かになり、そしてつながっていくことの重要性を実感したといいます。

食べ物を可能な限り自給でき、お互いがコミュニケーションをとりあって、足りないものは物々交換などで補うことで日々の暮らしが成立すること。さらに、そういった暮らしをする人どうしが、地域を超えてつながり、情報交換をしながらそういう暮らしをする人を増やしていくこと。そんなコミュニティのかたちが今後必要とされていくと確信しました。

例えば新型コロナウイルスの感染拡大による影響の一つが、震災時と類似して、人や物の移動・流通への制限でした。

移動自粛により、人の移動制限はもちろん、その影響で郵便や宅急便にも遅れが生じ、国内はもちろん海外からのものの動きにも影響がでました。

このような状況下では、まずは食べ物などのインフラの確保が安心につながります。

その点で、深澤さんのご近所では、食べ物・飲み水の心配はいりません。それ以外のものは多少遅れたり届かなかったりしても、当分は不自由なく生きていくことができます。

そして人・物の流通にお金はつきもので、それらの動きが止まるとお金についても動きが停止してしまうかもしれない。でも、地域でのつながりがあれば、食べ物も、文化も、物々交換で成り立つ部分も多い、と深澤さんは今の生活を通して実感しています。

それはあくまでも“理想”であり、すぐにかなう暮らしではないですが、少しずつ、そこに向かっていきたい、と深澤さんは決意しています。

 

そして最近では、野菜・米・肉・ビールに加え、養蜂も始めています。すでに、採集した自家製はちみつで、はちみつとレモンのハードセルツァー(サトウキビ由来の糖分による発酵でつくられる炭酸アルコール飲料)もつくっています。ますます、自分でつくれるもの、地域内でまかなえるものが増えています。自分のいる場所で、何もないように見えるけれど、しっかり周りを観察し、想像力を働かせると、そこから色々なものが見えてきて生み出せるようになるのです。

[丸太をくりぬいてつくった蜂蜜の樽]

現代、そしてこれからの未来こそ、私たちがもともと持っているこういった力に敏感になり活用し、自分のいる場所の豊かさを最大限引き出して、場所を超えて仲間たちとつながっていくことが求められていると深澤さんは締め括りました。

編集後記

以前ご紹介した徳島県上勝町のRISE&WIN BREWINGさんに続き、また素敵なクラフトビールのブルワリーが、自然エネルギー由来100%の電力での醸造をはじめました。

Fujiyama Hunter’s Beerに取材に伺ったのは7月の梅雨明け前、大雨の日でした。

大雨を抜けて目的地に近づくと雨上がりの、うっすらともやのかかったとても美しい田園風景がひろがっていました。

広がる棚田と、田植えを終えたばかりの稲が雨に濡れた新鮮な明るい緑色は、まさに目が覚めるような鮮やかさで、自然が元来持つ美しさや力強さを感じる景色でした。

[雨上がりの田園風景]

そしてブリュワリーに到着すると、お店の前に建てられた大きなテントからもくもくと煙があがり、香ばしい香りが漂っています。深澤さんがシカやイノシシを燻製にしているところでした。

[左:ブルワリーの前のテントで薫製をつくる] [右:イノシシ肉のベーコン]

もちろん、自分で仕留めたものということ。そしてブリュワリーの周囲を案内してくださいました。

モルトミル(粉砕機)は、精米機を改造して自分でつくったもの。その他にも、庭先においてある椅子やテーブルなども、さりげなく手づくりや再利用されたものであることがわかります。

[精米機を改造して自作した精麦機]

この土地にある貴重な資源・素材をよく理解しているからこそ、自分の身の回り、生活につかうものはまず自分でつくったり賢く再利用している様子が伝わってきました(しかも見た目もかっこいい!)。

自分で仕留めたイノシシを薫製してベーコンを作っていたのですが、これも試行錯誤しながら自己流で作業している様子。途中でブルワリーに立ち寄った隣町のシェフに、“つくってよー教えてよー”なんて言いながらわいわいと作業している様子は、“仕事”ではなく、“生活”を楽しんでいるように映り、きっとここはそんな深澤さんの姿勢に共感した仲間が集まってくる場なのだなと、私自らも深澤さんの魅力に惹かれもっとお話を色々伺いたいと思いました。

決して商業的な方法ではなく、創業から2年弱の間は1人で全ての作業をこなしながらブルワリーを続け成長させてきた深澤さんは、自らが農家として、猟師として、そしてときには山に入り木を整えて自然と向き合い、そこで体験したことや感じたことをビールを通して表現しています。

ビールを飲んで『おいしい!』というのはもちろんですが、その1本に込められたストーリーにもぜひ思いを馳せながら味わって頂きたいビールです。

Fujiyama Hunter’s Beerでは、ホップの支柱立て作業や田植えや狩猟体験など、お手伝いを受け入れ実際に自然の中での体験をしてもらうイベントを開催しています。

私も以前狩猟体験に参加させて頂き、“美味しい”素材としてテーブルに並ぶお肉がどうやってつくられているのかを見て、決して美しいだけではない“命を頂き生きる”という自然の中での人間の営みを体験することができました。また実際にその地に足を運んで色々な方と交流しお話を聞くことでこそ深まる学びも多くあります。

最近は新型コロナウイルスの影響をみながらの開催となっていますが、ぜひ一度、東京から車で2時間程のこの場所に足を運び、ローカルな自然と人間の循環を感じながら、おいしい1杯を味わって頂きたいです。

[左から、愛知県でイタリア料理店を経営しながらビール醸造を学んでいる小野権三さん、深澤さん、Fujiyama Hunter’s Beerのブルワーと福山康大さん]

 

[富士宮市街地にあるタップルーム。地元食材をつかったお料理を楽しみながらビールを飲むことができる]

 

なんと、この地に移住して一緒にビール作りを行う方を募集中とのこと(2020年7月現在)!SNSなどご確認の上、直接ご連絡ください!

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もしかしたらそう遠くない未来に今までの当たり前が、当たり前ではなくなるのかもしれません。

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▶︎今日からできる4つのこと。「Take Action」まとめ

Text by Rico Sato