雨水利用による省資源と災害予防 ~雨は古くて新しい自然エネルギー~

雨水利用による省資源と災害予防 ~雨は古くて新しい自然エネルギー~

人類文明は雨の恵みとともに歩み、ときに雨のもたらす災いと戦いながら進んできました。
現代では都市化の進展とともに雨の恵みの利用は限定されていき、災いをもたらす雨や、無駄な雨水を技術によって生活から排除するのが基本的な流れとなっています。
しかし、気候変動により雨の災いは力を増しており、天からもたらされる雨水というエネルギーを無駄にすることへの反省も広まっています。

古くて新しい自然エネルギーである雨水の有効利用について、現在の取り組みを紹介し、これからのあり方を展望してみます。

雨水利用とは ~なぜ必要?どう利用する?~

近年はさまざまな異常気象が問題となっていますが、最初にここ100年 ほどの日本の降水量を確認してみましょう。
下記のように、1970年代以降は渇水が頻発し、多雨の年と少雨の年の降水量の開き(振り幅)がそれ以前より大きくなっていることが注目されます(図1)。

つまり、大きな水害をもたらすほど多量に雨が降る年と、深刻な渇水が発生するような少雨の年とが、周期的に繰り返されるような状況になっているのです。降水について予測が立てにくい状況だとも言えます。

図1:日本の降水量の経年変化(気象庁資料をもとに国土交通省水資源部が作成)
出所)国土交通省「令和元年版 日本の水資源の現況 第1章 水の循環と水資源の賦存状況(3ページ)」
https://www.mlit.go.jp/common/001316355.pdf

また、都市化に伴い地面の大半が建物やアスファルトなどで覆われ、雨水が土壌に浸透することなく下水道や河川に殺到するようになっており、水害予防の面で問題があります。

こうした現状に対処するため、雨水を溜めて水資源の節約や渇水対策のために利用しつつ、下水道や河川への流れ込みを抑制して水害を予防することが緊急の課題となっているわけです。

ある試算によると、東京都全域のすべての建物で「建物面積×60mm」の雨水を貯留できるシステムを導入することで、水道水使用量の約10%、下水道へ流れ込む雨水の約25%が削減できます*1。
地上に降り落ちた雨水は飲用水や衛生管理用水には適しませんが、水洗トイレの洗浄や草木への灌水には十分利用可能です。
ヒートアイランド対策のために街中に散水するといった利用方法も考えられます。

雨水という自然エネルギーを有効活用する上で鍵となるのは「分散利用」です。
各地に降った雨を大規模な施設に集約して管理するというやり方では、そのために必要なエネルギーコストのほうが大きくなってしまいます。
雨水は降ったその場、その地域で貯留し、いわば「地産地消」することが重要です。

さらには、分散した雨水利用施設をつないでひとつのシステムとして運用していくことが、今後の方向として期待されます。ドイツなどではそうしたシステムを導入する先進的なプロジェクトが行われています。

雨水利用に関する世界の取り組み

雨水利用については世界各地で法制化が進められており、米国やEU諸国では敷地から流出する雨水に対して処理料金を課すことで雨水利用を促進するという政策が取られています*2。
日本でも2014年に「雨水の利用の推進に関する法律」が施行され、本格的な取り組みが開始されました。

ここでは、雨水利用の先進国ドイツの事例と、日本に先行して法制化を進めた韓国の事例を紹介します。

ドイツ ~地域全体で雨水利用をシステム化~

ドイツでは世界に先駆けて雨水利用の法制化が進められ、多くの自治体が流出雨水の処理料金を徴収しています。
料金は基本的に敷地面積に応じて決められますが、地下の土壌に雨水が浸透するようになっている地面や、屋上緑化を行っている部分などについては料金が割り引かれる仕組みになっています*2。

また、ドイツ工業規格により雨水利用の基準が定められ、それに基づいて雨水貯留技術などの関連産業が発展してきました*3。

こうした取り組みを背景に、地域レベルで雨水利用のシステムを構築するという先進的なプロジェクトも行われています*4。

ベルリンのポツダム広場再開発プロジェクトでは、高層ビル群を含む敷地全体に雨水循環システムを作り上げました。
ビルの屋根から雨水を収集して地下のタンクに貯留し、敷地内のすべての建物の水洗トイレ洗浄、植物栽培、水景施設の運営などに利用するとともに、植物やフィルターを使って浄化し再利用しています。

シュトゥットガルト近郊シャーンハウザー地区にある150ヘクタールにわたる軍用地跡には、敷地全体の雨水を統一的に管理する仕組みを備えた住宅地が構築されました。敷地を1.5kmにわたり貫通する貯水池(兼公園)に、住宅や街路のすべての雨水が流れ込むように設計されています(図2)。

図2:シャーンハウザー住宅地の雨水貯留システム
出所)神戸大学工学研究科建築学専攻 持続的住環境創成講座 Research(2012年度)福岡 孝則特命准教授「ドイツ住宅地における水循環に配慮した技術・デザイン手法に関する一考察」
http://www.edu.kobe-u.ac.jp/eng-arch-sled/dat/research/fukuoka-2/1.pdf

韓国 ~産学官連携による取り組み~

韓国では21世紀初頭から産学官連携による雨水利用の取り組みが進められています*4。

国としては、大規模公共体育施設に雨水利用設備設置を義務づけた水道法(2001年)を皮切りに、自然災害対策法(2004年)、低炭素・Green Growth基本法(2010年)、水の再利用の促進及び支援に関する法律(2010年)など、雨水の貯留と利用に関する規定を含む法律の制定を進めてきました。
ソウル市やスウォン市など各地の自治体も独自に雨水利用についての条例を制定しています。

これに呼応して公共施設や大規模施設を中心に雨水利用設備の導入が進み、産業界では雨水利用に関する業界団体の設立や関連技術の特許出願*5などの動きが進展しています。
また、ソウル大学の雨水研究センターなど、雨水利用に関する専門研究機関も設立されています。

雨水利用に関する日本の取り組み

日本でも雨水利用は大きな流れとなってきています。法制化の取り組みと雨水利用設備の導入状況、雨水利用に関する先進的な研究を紹介します。

雨水利用を推進するための法律と支援制度

日本では2014年に「雨水の利用の推進に関する法律(雨水法)」が施行され、国や自治体の取り組みが本格化しました。
雨水法は雨水の有効利用と下水道・河川などへの集中抑制を目的とし、自治体に対し総合的な施策の実施を求めています*6。

具体的には、集水・貯留・処理・給水を初めとする施設の設置や、水質管理、施設の維持管理などに関して国が基本方針を定め、各自治体がそれに基づきながら独自の方針と計画にしたがって雨水利用を推進することとされています。

さらに、雨水利用技術や規格標準化に関する調査研究、技術者の育成、雨水利用にむけた普及啓蒙活動と助成事業を行うことなどが定められており、すでに実際に全国の自治体でさまざまな助成金制度が実施されています*7。

雨水利用の現状

日本での雨水利用の普及は雨水法の施行前から始まっています(図3)。
雨水法の施行をきっかけに今後さらに普及が進展していくことが期待されます。
用途としては水洗トイレと散水が代表的です(図4)。

図3:雨水利用施設数の推移(2017年度末現在)
出所)国土交通省「令和元年版 日本の水資源の現況 第3章 水の適正な利用の推進(39ページ)」
https://www.mlit.go.jp/common/001316731.pdf

図4:全国3,529施設の用途別雨水利用施設数(2017年度末現在)
出所)国土交通省「令和元年版 日本の水資源の現況 第3章 水の適正な利用の推進(40ページ)」
https://www.mlit.go.jp/common/001316731.pdf

地域別では東京などの関東臨海と東海地方でとくに導入が進んでいます。
例えば、東京国際フォーラム、恵比寿ガーデンプレイス、ホテルニューオータニ、自動車部品製造大手のアイシン・エィ・ダブリュ株式会社岡崎工場などでは、雨水を厨房排水・工場排水の再生水とともにトイレ洗浄や灌水、冷却、洗車などに利用しています*8。

その他の地方でも、むつ市立第三田名部小学校、仙台市高砂学校給食センター、市立奈良病院、高知県立あき総合病院、東福岡高等学校など、全国各地に雨水を水洗トイレなどに利用している施設があります。

雨水発電技術の開発

さらに進んだ取り組みとして、雨水から電力を作り出そうという試みもあります。
ダムなどを使った大規模な水力発電も元はといえば雨水を利用しているわけですが、ここで紹介するのは小水力発電*9と呼ばれる小規模で分散型の水力発電です。

小水力発電のなかでもとくに規模の小さいマイクロ水力発電(出力100kw以下)は、工場やビル空調の排水を利用したものがすでに実用化されています。
水が高いところから低いところに流れ落ちる際に生じるエネルギーで水車を回し電力を作り出します(図5)。
この技術をビルの屋上などに溜まる雨水に応用すれば、天からの贈り物を電気に変えることができるというわけです*10。

図5:NHK放送センターの空調システムに導入されたマイクロ水力発電
出所)NHK Information 技術情報「NHKエコ開発(その1)空調用の水流で発電!!」
https://www.nhk.or.jp/pr/marukaji/m-giju217.html

雨水利用のこれから ~標準化と統合化~

雨水を有効活用するための鍵は分散利用にあります。
一般家庭も含め、地域の各地点に雨水利用設備を普及させていくことが最も基本的な方針となりますが、そのためには設置・利用のコストが大きなネックとなります。
雨水利用の技術に関する規格を標準化すれば開発・生産コストが削減でき、普及しやすい状況がもたらされると考えられます。

先に見たようにドイツでは工業規格により雨水利用の基準が定められており、これをEU諸国に広めようという動きもあります*3。
日本でも日本建築学会により雨水法施行に先だつ2011年に「雨水活用ガイドライン」がまとめられ(2019年に改訂)*11、さらに2016年には「雨水活用技術規準」*12が公表されました。
将来的には国際的な標準化も模索されることでしょう。

もう一つの方向性として、地域レベルでの統合化があります。
各地の建物に配置された雨水利用施設を相互につなぎ地域レベルで統合したり、ドイツの事例で見られるように初めから統合的な都市計画に基づいて設備を設置したりすることで、より効率的な雨水利用が可能になります。
さらには、太陽光発電など他の自然エネルギー技術とも統合していくことにより、雨水利用の有効性が一層高まっていくものと期待されます。

 

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▶︎今日からできる4つのこと。「Take Action」まとめ

参照・引用を見る

*1
出所)環境工学研究論文集・第36巻・ 1999 「GISを用いた東京都区部における人工系水循環モデルによる雑用水供給システムの導入効果の検討」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/proes1992/36/0/36_0_341/_pdf/-char/ja

*2
出所)環境省「ヒートアイランド対策の環境影響等に関する調査業務報告書(平成21年2月)Ⅲ.2.海外の制度事例」p67
https://www.env.go.jp/air/report/h21-06/03_2.pdf

*3
出所)一般社団法人住総研 研究論文集No.38,2011年版「低炭素型住宅へ向けた雨水利用の可能性」(1.はじめに)p235
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jusokenronbun/38/0/38_1017/_pdf

*4
出所)雨水ネットワーク「第5回 雨水ネットワーク会議 全国大会2012in東京 資料」(24~27ページ)
https://www.rain-net.jp/images/past/RNJ2012_shiryo.pdf

*5
出所)日本貿易振興機構「知的財産ニュース 捨てられる都市の雨水、特許で管理する」
https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2012/1dd80b71dd639112.html

*6
出所)国土交通省雨水の利用の推進に関するガイドライン(案)」
https://www.mlit.go.jp/common/001263451.pdf

*7
出所)国土交通省「雨水・再生水に関する主な助成制度等」
https://www.mlit.go.jp/common/001067300.pdf

*8
出所)国土交通省「雨水・再生水利用施設実態調査 事例集(平成27年2月)」
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk1_000056.html

*9
出所)全国小水力利用推進協議会「小水力発電とは」
http://j-water.org/about/

*10
出所)電気設備学会誌 2012 年 4 月「マイクロ水力発電の事務所ビル等への適用」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieiej/32/4/32_266/_pdf/-char/ja

*11
出所)日本建築学会「日本建築学会環境基準AIJES-W0002-2019 雨水活用建築ガイドライン」
https://www.aij.or.jp/books/productId/616367/

*12
出所)日本建築学会「日本建築学会環境基準AIJES-W0003-2016 雨水活用技術規準」
https://www.aij.or.jp/books/productId/590181/