自然電力は「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げています。この目的を共にする、11人のチェンジメーカーたちがいま考えることを探求するシリーズ「The Blue Project」。 記念すべき第一回は、メイクアップアーティスト/ビューティディレクターとして活躍する早坂香須子さん。コロナ禍を経て人と自然との関係性も変わるなか、早坂さんは「人」「自然」「美」のつながりをどのように捉えているのでしょうか。
まずは「人間中心」を脱する
――早坂さんはどんなときに自然とのつながりを意識されますか?
最近は朝と晩に犬と散歩するときに自然を意識しますね。日照時間や木々の変化や、落ち葉を踏む感触、雨上がりのアスファルトの匂いなど、五感がフル活動していて。いま住んでいるのは都心ですが毎日近所の公園を訪れているので、季節の変化も感じられます。
――COVID-19によって自然との向き合い方に変化はありましたか?
何かを育みたいという気持ちが生まれてベランダでハーブを育てたり生産者さんから無農薬の野菜を届けていただいて料理をしたりすることで、人とのつながりや身近なコミュニティを意識するようになりました。食材や料理をおすそ分けすることもあれば、京都の友人から味噌を送ってもらうこともあって。離れていてもつながりは感じられるのだなと。
――気候変動の悪化が進むなかで、人間や社会は自然との関わり方をどう変えていくべきでしょうか。
COVID-19を経て、これまでは人間を中心に物事を見ていたのだと気付かされました。わたしたちが人間中心に生きてきた結果、環境破壊も引き起こされているわけですよね。最近注目されている「発酵」も、人間に良い影響を及ぼすかどうかで「腐敗」と区別されています。実際は腸内細菌のようにわたしたちは細菌とともに生きているし、微生物がゴミを分解することで自然の循環も成り立っているのに、わたしたちはそれを忘れてしまっていた。人間目線から視点を変えていくことがこれからは重要なのだと思います。
――いつごろからそういった意識の変化は生まれてきたの でしょうか?
2年前にアイスランドを訪れたのは印象的な経験でした。現地の方々のほうがダイレクトに自然とつながっている感覚があって、より環境問題に対する意識も強い。そのころからわたしも自然電力の方々と出会ったり、ドイツのシュヴァルツヴァルトを訪れて自然との共生について学んだり。自分でもなにかできることがないか探していくようになりました。
インタビューは早坂さんがいつも訪れる都内公園で行なわれました。
身体は最も身近な自然
――一方で、環境問題は複雑でどんなアクションをとればいいのか分かりづらいですよね。早坂さんはどんな基準で判断されているの でしょうか。
わたしにとっては誰を通して情報を得るかが重要で、信頼できる人からの情報や人とのつながりによって得るものを大事にしています。もちろん決まった正解はないので気になったことがあればその都度調べますが、何かを「しなきゃいけない」という言い方は自分の首を絞めてしまうので、ワクワクするか、その先にいい未来が見えるかどうかを重視していますね。人はいつでも変われるものだから、一度決めたことでも状況に合わせて変えていけばいいと思うんです。事実、自分が発信するなかでフィードバックを受けることも多いです。たとえばSNSで「自然電力のでんきを使っているよ」と発信することでフォロワーの方から意見をいただいてさらに詳しく学べる機会をつくったり、自分が意識していなかった側面に気付かされたり。わたしは“旗振り役”みたいなところがあるし、学びながら変わっていくしなやかさは大事にしていきたいですね。
――早坂さんをはじめ少なからぬ人が自然との向き合い方を変えるなかで、30年後の2050年にはどんな世界が待っていると思われますか?
わたしが手掛けるオーガニックブランドも、50〜100年後の未来を考えるためのプロジェクトとして立ち上げました。やはり人間は自然と離れて暮らせないと思うんです。いまは二拠点生活やノマド的な働き方を選ぶ人も増えていますし、都市にいなくても仕事ができるようになっている。もっと自然に触れたいと思う人はこれから増えていくと思っています。わたし個人も、30年後には自分で食べる分は自分の畑でつくっている気がしますね。自然との距離が近づき環境意識が高まっていくことで、虫や鳥、あるいは宇宙など、人間以外の存在を意識できるようになっていく。自分の身体が一番小さな自然ですし、食べることから始まって、身の回りのことを見直していくようになっていくのだと思います。
早坂さんが首から下げているのは、自然電力とも関わりの深い「Little Sun」。
美と自然のサイクルをつくる
――早坂さんは「発酵」や「禅」といった文化にも造詣が深いですが、日本的な文化と自然の関係性についてはどうお考えですか?
発酵の文化自体は世界中にあるのですが、国ごとにカルチャーや歴史が異なっていて。日本は世界に比べて多くの取り組みが遅れていると言われるけれど、伊勢神宮の式年遷宮のような形で自然と人間の活動のサイクルを設計したり、自然のなかに神様がいるという発想があったり、いまこそ見直すべき考え方を昔からもっています。しばしば日本人は流行に乗りやすいと言われるけれど、それは柔軟性が高いことでもある。SDGsをはじめとする環境に対する活動にもどんどん乗っていくことで、文化として定着させてしまえばいいように思います。
――発酵や禅は自然と美をつなぐものでもあると思います。自然との向き合い方の変化によって美のあり方も変わっていくものなの でしょうか。
仕事柄、「美しさとはなんですか」と聞かれることは多いのですが、表面的なことだけでなく自分の心に余裕や優しさがあることが重要だと思っています。美しさは心のありようとつながっている。単に体の機能を整えるだけでなく、気持ちもふくめて自分のなかの自然を整えていくことが美と呼応するのかなと。オーガニックプロダクトをつくっているのも自然の力にはかなわないと思っているからで、自分と自然のサイクルが噛み合うような機会をつくることが美につながると思っています。
――美の感覚はCOVID-19によっても変化 しましたか ?
わたしは人の内側からにじみ出る輝きやヘルシーさが美しさに関わってくると思ってきたのですが、今回の変化を経てさらにその思いを強くしました。COVID-19によってマスクの時代になったことで、顔だけがその人を表すわけではなくなったようにも思います。その人全体から立ち上がるものこそが美しさなんだなと。
早坂さんの愛犬「ダン」は保護犬だったそう。
媒介としての「触れること」
――緊急事態宣言や「STAY HOME」によってメイクの捉えられ方も変わったように思います。
これまで美容って「不要不急」と思われがちでしたが、実際は人間にとってとても重要なものなんだなと気付かされました。たしかにファッションやジュエリー、メイクがなくても生きていけるかもしれないけれど、いま本当に多くの女性たちが美容を求めていて、それによって心を潤してもいる。肌を整えるとか触るってもちろん表面を整えることでもあるけれど、同時にセルフヒーリングでもある。肌は五感をもっているとも言われますが、「肌が合う/合わない」という言葉があるように人は肌を通じてコミュニケーションしているんですよね。だから肌や触れることを大切にすることで自分の心にも影響が表れる。自然を感じるうえでも、やはり土を触ることが重要だったりしますよね。美容は「触れる」ことを通じて生まれるコミュニケーションのツールにもなりうると思うんです。
――触れることって、必然的に対象とのコミュニケーションを生みますからね。早坂さんは単に「メイクアップ」や「美容」をお仕事とされているというより、それらを媒介として自然や人々をつなぐインタラクションを生みつづけているように思いました。
そうですね。だからわたし自身もつねに新たなことを勉強しつづけているのかなと。いまはオーガニックプロダクトの制作にとどまっていますが、将来的にはリトリート施設をつくりたいと思っているんです。小さくても、自然のなかでさまざまな体験を味わえて、心身ともに元気になって自分の持ち場へ帰れる場所。もちろんその施設が再生可能エネルギーによって運営されていたら最高ですよね。単に人間が元気になるだけでなく、自然も一緒に元気になっていくようなリトリート施設をいつかつくれたらなと思っています。
*「The Blue Project」とは、「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げる自然電力のプロジェクト。その目的を共にするチェンジメーカーたちと、いま考えることを探求していきます。
* 黄色い照明は、自然電力の活動に賛同するLittleSunのプロダクトです。