自然電力は「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げています。この目的を共にする、11人のチェンジメーカーたちがいま考えることを探求するシリーズ「The Blue Project」。第三回は、現代美術家オラファー・エリアソンが手掛けるソーラーライトによって社会課題の解決に取り組む「Little Sun」のCEO、ジョン・ヘラーさんが登場。ジョンさんのお話からは、人間と自然がもっとつながるための考え方が見えてきました。
自然と人間のバランス
――ジョンさんはどんなときに自然とのつながりを感じますか?
そもそも、わたしにとって自然と人間は切り離されたものではありません。わたしは自然の一部なんです。だからどこにも行かなくたって、自然を感じられる。ただ息を吸って吐いているだけで十分自然とつながっていますからね。もっとも、ニューヨークや東京のように大都市に住んでいる人々はつながりを感じづらいかもしれないですけどね。わたしたちはみんなコンクリートや鉄からつくられた小さな箱の中で生きているから、落ち着いてつながりを思い出さなければいけない。たとえばわたしの住んでいるアパートメントはニューヨークシティーのイーストリバーの近くにあるので、毎朝日の出が見えるんです。ゆっくりした時間を確保すれば、のぼっていく太陽や流れていく川に感謝する気持ちを思い出せるでしょう?
――アメリカでもCOVID-19の感染者はいまなお増えつづけていますが、COVID-19によって自然との関わり方は変わりましたか?
変わったでしょうね。まるで冬眠しているのかのように、すべてがスローダウンしましたから。わたし自身、ニューヨークシティーを離れて郊外にある父の家で家族としばらく過ごしていたのですが、鳥やリス、鹿など野生動物がたくさんいて、自然とともに暮らせました。友人のなかにはニューヨークのアパートメントを引き払って自然の多い地域に引越した人もたくさんいます。社会がスローダウンし時間的な余裕を得たことで、多くの人が地球とのつながりを求めているんでしょうね。
――こうした状況のなかで、人間は自然との関わり方をどう変えていくべきでしょうか。
今回のCOVID-19を振り返ってみると、人間は自然とのバランスを崩してしまったのだと感じます。本来はウイルスも自然の一部ですし、自然は無駄のない循環を生んでいるのに、バランスが崩れてしまっている。人間のさまざまな活動のコストを自然環境が負担していたわけで、わたしたちはすべてを変えていかなければいけないでしょう。再生可能エネルギーへのシフトはもちろんのこと、単に持続可能な生活を送るだけではなく、地球へ恩返しができるような方法を見つけねばなりません。
ジョンさん(右)と現代美術家オラファー・エリアソン(左)
COVID-19が気づかせてくれたこと
――人々が経済成長を追い求めた結果、より一層バランスが崩れたのかもしれないですね。
そうですね。みんな金融市場のなかで常に成長を追い求めてきたわけですが、地球上の資源は限られていることをわたしたちは忘れていた。COVID-19による社会の変化は、わたしに少しだけ希望も感じさせてくれました。これまで人々や社会が大きく行動を変えることは難しかったですが、COVID-19によってみんなオンラインへとシフトし行動を変えていった。わたしたちが強い意思をもてば、気候変動に対応するだけの大きな変化も起こせるなと感じられました。
――気候変動については選択肢も多く、どんな行動をとるか判断するのが難しいですよね。ジョンさんはどんな基準をもって動いているのでしょうか?
たしかに自然の問題は多面的で複雑ですが、わたしもまた自然の一部であり、やるべき仕事がある。よりよい世界を未来に残すために、自分ができることはなにか考えることは重要です。わたしの場合は、再生可能エネルギーへのシフトを加速させることが自分の仕事だと思っていますね。
――気候変動はますます加速しているといわれますが、30年後の社会を想像すると、人間と自然はどのような関わり方をしていると思いますか?
自然とのバランスがとれた生き方を見つけて、人間が地球へ恩返しできる関係性を築いていてほしいですよね。そんな生き方が見つからなければ、世界は壊れてしまう。すでにアメリカでは大型ハリケーンも増えていますし、西海岸では大規模な森林火災も増加している。このまま気候変動が加速すれば海面が上昇しニューヨークも水没してしまうかもしれない。そんな世界が訪れないようにするためにも、わたしたちは目を覚まさなければいけないでしょう。
Little Sunは夜中に作業をする人々の助けとなっている
「物語」がもつ力
――Little Sunはソーラーライトによってクリーンで安価な太陽エネルギーを世界中に広げるプロジェクトであると同時に、生活のなかにアートを持ち込むことで世界を変えるプロジェクトでもあるかと思います。アートは気候変動のために何ができるでしょうか?
気候変動に関する議論のほとんどは科学とデータと合理的な思考に基づいたもので、たしかにそれは重要なのですが、アートや文化、感情を通じて考えることもできるはずです。あなたが何を感じるかによって何を信じるかが変わり、何を信じるかによって何をするかが変わる、といいますからね。アートを通じて何かを感じることが、行動の変化につながるかもしれない。Little Sunはライトとして機能しますが、自然との個人的なつながりをもつ機会を生み出します。いまわたしたちに求められているのはよりよい世界で生きるために根本的な考え方を変えていくことですが、アートが常に時代の最前線で社会を新しい方向やよりよい方向にシフトさせようとしてきたことは重要です。
――Little Sunに携わっているアーティストのオラファー・エリアソンからも影響は受けましたか?
彼の影響は大きいですよ。彼は見る人がアートの一部になれるような新しい方法を考えていて、自分の創作活動を再生可能エネルギーの世界へつなげたいのだと語っていました。Little Sunをつくるにあたって、彼は「最大の資産は物語だ」と言っていました。再生可能エネルギーの物語に人々を巻き込み、彼/彼女らを物語の一部にしていく。彼はアーティストであると同時にストーリーテラーでもあって、その創造的なストーリーテリングには感銘を受けますね。
――Little Sunは世界中へ広がっていますが、これまでどのようなフィードバックがあったのでしょうか。
本当にさまざまなフィードバックがありました。停電のときに使ったり、電気が通っていないアフリカの村で学生が夜出歩くときに使ったり、夜に家で宿題をするときに使ったり。アフリカでは6億人もの人々が電気の通っていないところで暮らしていると言われますが、そこで使われている灯油ランプはコストが高い上に危険性もあるため、Little Sunによってお金を節約できたという話も聴きました。称賛するものだけでなく、プラスチックを使っていることで環境に負荷をかけていると指摘されることもあります。いまリサイクルの方法を検討しているところではありますが、わたしたちも現状に満足しているわけではないので、フィードバックを受けてさらによりよいものをつくっていきたいです。
Little Sunを使って勉強する非電化地域の子どもたち
自然との“ダンス”
――気候変動はアートや文化のあり方を変えると思いますか?
わたしたちは自らが見ているものに影響を受けますから、アートや文化も変わっていくでしょう。同時に、アートや文化が気候変動へのアプローチを変えていく側面もある。わたしたちの行動が変わることで、さらにアートも変わっていく。わたしたちは気候とダンスしているんですよね。アートの多くは自然界から影響を受けていて、自然界の変化に応じてアートも変わっていく。お互いにリアクションしながら踊っていくように、気候とのダンスをつづけていかなければいけません。
――そう考えると、Little Sunは人間と自然のダンスを仲介するものだといえそうです。
そうですね。Little Sunは太陽の力によって人間と自然をつなぐものでもあるし、ほかの行動へとつづいていく入り口でもあると思います。たとえばLittle Sunをきっかけにつながりが生まれたナイジェリアのコミュニティでは、太陽光発電によって精米を行うプロジェクトが進みだしていて。Little Sunは始まりにすぎなくて、架け橋のようになって人々を新たな場所や新たな活動へと連れて行ってくれるはずです。
――まずは自然とのつながりを意識していくことが重要なんですね。
今回のCOVID-19を受けてわたしたちがそうしたように、スローダウンすることは重要です。あくせく走り回っていると、自然のことを忘れてしまいますから。Little Sunを通じて太陽のことを思い出すように、少し立ち止まって自然のことを思い出す。太陽が毎朝昇ってくることを。地球の重力を。空気を吸っていることを。自然とつながるためにどこかに行く必要はないんです。すでにわたしたちはつながっているわけですから。
*「The Blue Project」とは、「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げる自然電力のプロジェクト。その目的を共にするチェンジメーカーたちと、いま考えることを探求していきます。
*黄色い照明は、自然電力の活動に賛同するLittleSunのプロダクトです。