大気中のCO2をプラスチックにリサイクル? 未来の環境対策を切り拓くナノテクノロジーの世界とは

大気中のCO2をプラスチックにリサイクル? 未来の環境対策を切り拓くナノテクノロジーの世界とは

「ナノテクノロジー」の研究に世界が注目しています。

ナノテクノロジーとは文字通り「ナノメートル=1メートルの10億分の1」というごくごく小さい単位を制御することで、このスケールで材料や物質を作り出すというもので、2000年頃から様々な国が国家戦略を立ち上げるようになり、幅広い分野で活躍する技術です。

もちろん、環境分野への応用も進んでいます。

ナノテクノロジーとはどのようなものか、どのような形で環境問題解決が期待できるのかを紹介します。

未来を変える「極小の世界」

材料や物質を構成する最小の単位が「原子」です。

原子の大きさが概ね0.1ナノメートルで、ナノテクノロジーは原子1個から100個程度の領域で展開される「原子・分子レベルのものづくり」です。

ナノテクノロジーに注がれる世界の熱視線

「ナノ」や「原子」の小ささを実感できるものとして、次のような例えがあります。

1円玉はアルミニウム1グラムでできていますが、1円玉は何個の原子でできているでしょうか。

答えは「二百二十二垓(がい)」個です[*1]。気が遠くなる世界です。
しかしナノテクノロジーに関する研究は世界で加速しており、論文執筆研究者数も右肩上がりです(図1)。

図1: 世界のナノテクノロジー論文執筆研究者数
出典: 科学技術振興機構 研究開発戦略センター「研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野」(2019)
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2018/FR/CRDS-FY2018-FR-03.pdf, p.26

おもな応用分野はIoTやAI、ヘルスケアですが、環境・エネルギー分野での関心も高まっており、論文数も急増しています(図2)。

図2: 環境・エネルギー分野でのナノテクノロジー論文数
出典: 科学技術振興機構 研究開発戦略センター「研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野」(2019)
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2018/FR/CRDS-FY2018-FR-03.pdf, p.28

主要国が国家戦略とも位置づけているナノテクノロジーの魅力とはどのようなものなのでしょうか。

「ナノ」サイズの物質が発揮する特殊能力

先ほど例に挙げた1円玉は、アルミニウム原子が繋がってできている巨大な結晶とも言えます。
しかし中には、同じ原子でできている物質でも、性格が大きく異なるものがあります。

有名なものとして、炭素原子の巨大な結晶として存在するグラファイト(黒鉛)とダイヤモンドがあります。
どちらも炭素原子の集合体ですが、かたや鉛筆にも使われる黒くもろい物質であり、かたや透明で非常に硬い物質です。

この違いを生むのは「原子の繋がり方」です。

グラファイトは六角形の編み目が層状に重なっているのに対し、ダイヤモンドは炭素原子が四面体を作って強固に結合しているという状態です(図3)。

図3: グラファイトとダイヤモンドの結晶構造
出典: ナノテクジャパン「わかる入門講座: ナノテクの世界、その8」(2002)
https://www.nanonet.go.jp/pages/about_nanotech/primer/nano08.html

グラファイトやダイヤモンドは3次元の結晶ですが、実は炭素原子は2次元に厚さ10ナノメートル程度のシートを形成することもできます(グラフェン)。

また、炭素原子60個だけで形成される「フラーレン」、炭素原子のシートを丸めたような「カーボンナノチューブ」などのように炭素原子がナノサイズの結晶を作ると、グラファイトやダイヤモンドにはない性質を持つようになります。これらはナノスケール物質と呼ばれます。

そして、その性質が様々な産業で利用されています(図4)。

図4: ナノ炭素材料の特徴
出典: NEDO「ナノカーボン×NEDO」(2017)
https://www.nedo.go.jp/content/100861186.pdf, p.3

炭素原子の結晶に限らず、3次元結晶(バルク)とナノスケール物質で全く違う特性を持つ原子は他にもあります(図5)。

図5: ナノスケール物質の特徴
出典: ナノテクジャパン「わかる入門講座: ナノテクの世界、その8」(2002)
https://www.nanonet.go.jp/pages/about_nanotech/primer/nano08.html

従来の素材より電導力の高い物質を家電製品などに使えば省エネになりますし、小型化も可能です。また、電導力の高さは太陽光パネルの効率性向上や軽量化を実現できると期待されています。

これらのナノスケール物質を発見し、新素材として様々な分野の技術に応用しようというのがナノテクノロジーの世界です。

環境分野へのナノテクノロジーの応用

さて、省エネ以外の環境分野でのナノテクノロジー活用について見ていきましょう。
ナノスケール物質は電導性などの特徴だけでなく、小さな分子を吸着できるという性質を持ちます。

特に注目されているのが「多孔性配位高分子(PCP)」と呼ばれる物質です。

「多孔性」とはその名の通り、「多くの穴を持つ」という意味で、例えば消臭剤として使われる活性炭がその一つです。活性炭にはミクロ単位の小さな穴が無数にあり、その穴から悪臭成分を吸着して脱臭するという仕組みです。

「多孔性配位高分子(PCP)」とはそれよりも小さいナノメートル単位の穴を無数に持つ化合物です。

水資源の確保に向けて

汚染水の浄化や海水淡水化で注目されているのが炭素原子のナノシートであるグラフェンです。

グラフェンの膜にあるナノサイズの穴に注目し、2017年にはイギリスのマンチェスター大学が、水分子は透過させるものの塩の分子は通さない濾過膜の量産方法を開発しました[*2]。

また日本では、信州大学などのグループも水中の塩分や色素を高い性質で取り除く処理膜を簡易製造する方法を開発しています[*3]。

また、2018年にはオーストラリアの研究チームがグラフェンを用いた海水淡水化の効率を大幅に上昇させるグラフェン膜を開発し、この技術でシドニー湾の水を飲むことができたと発表しています[*4]。

いずれも用途を拡大し、世界の水不足問題解消に繋がることが期待されています。

温暖化防止の一助として

また、多孔性配位高分子は、未来の温暖化対策に向けた大きな一歩を踏み出そうとしています。
CO2のみを選択的に取り込む多孔性配位高分子の開発に京都大学などのグループが成功しているのです[*5]。

大気中から特定の分子を取り出すのは液体よりも難しいとされていますが、ナノスケールの穴の中にCO2だけを取り込み、プラスチックなどの原料になる他の有機物質に変換して再利用します(図6)。

図6: 多孔性配位高分子を利用したCO2再利用の概念
出典: 京都大学「プロペラ様の構造をもつ多孔性材料を開発―二酸化炭素を捉えて有機分子へ―」
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2019documents190925_101.pdf

この過程では副生産物が発生しないため環境に優しく、CO2の固定化の方法として注目されています。

人工光合成によるCO2再利用

また、用途によって好ましい形の結晶を作り出すナノテクノロジーの手法は、「人工光合成」への応用が期待されています。

人工光合成とは、水から水素を取り出し、発電所や工場から排出されるCO2と化学合成させて、プラスチックなどの原料を作り出すプロジェクトです(図7)。

図7: 人工光合成のプロセス
出典: NEDO「世界初、100%に近い量子収率で水を分解する光触媒を開発」(2020)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101311.html

人工光合成の過程では高性能の触媒を必要としますが、NEDOなどのグループはこの触媒にナノテクノロジーを活用することで、100%に近い太陽光子の利用効率をあげる光触媒の開発に成功しています[*6]。

AIドープという光触媒物質を、これまでになかった効率的な形に設計して結晶化させるという技術です。

従来の光触媒では効率は50%に達するものはほとんど報告されていなかったため、人工光合成の実用化に向けた大きな一歩を踏み出したことになります。

技術の進歩の裏側で

ナノテクノロジーによって、これまでの素材では不可能だった様々な化学反応が可能になりました。

まだ発見されていないナノ物質や化学反応は無数にあります。この中から今後も環境対策に利用できる物質や素材が見つかる可能性は大いにあります。

特にCO2の再利用は化石由来の原料使用を減らす効果も併せ持つ技術です。

加速度的に研究が進められるナノテクノロジーでの環境対策ですが、その一方で最も重要なのは、やはりCO2を極力発生させないことです。技術の進歩のペースをCO2排出量が上回ってしまっては、温暖化は解決できません。

わたしたちの努力とテクノロジーが相まってはじめて、本格的な対策になるのです。

 

 

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参照・引用を見る

*1

物質・材料研究機構「原子の世界であそぼう!」
https://www.nims.go.jp/chikara/workshop/atomkids/index.html

*2

BBC News Japan「海水を真水にする新素材の『こし器』、英研究チームが量産開発」(2017)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-39490727

*3

信州大学、科学技術振興機構「世界の水問題の解消に貢献 酸化グラフェン/グラフェン ハイブリッド積層構造水処理膜の簡便な生成法開発と高性能化に成功」(2017)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170829-2/index.html

*4

CRISO「Sydney’s iconic harbour has played a starring role in the development of new CSIRO technology that could save lives around the world.」(2018)
https://www.csiro.au/en/News/News-releases/2018/Tiny-membrane-makes-Sydney-Harbour-drinkable

*5

京都大学「プロペラ様の構造をもつ多孔性材料を開発―二酸化炭素を捉えて有機分子へ―」
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2019documents190925_101.pdf

*6

NEDO「世界初、100%に近い量子収率で水を分解する光触媒を開発」(2020)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101311.html