世界中で気象災害が増加? 地球温暖化によって勢力を増す低気圧が及ぼす影響とは

近年大型台風や集中豪雨が増加しており、国内外で甚大な被害が多数報告されています。

さらには、短時間で急速に発達する低気圧である「爆弾低気圧」という言葉を耳にすることも増えているのではないでしょうか。

これらの異常気象は地球温暖化との関係が指摘されており、地球温暖化による気候変動を食い止めることができなければ低気圧の発達がより加速することが懸念されています。

年々勢力を増す低気圧に対処していくためにはどうすれば良いのでしょうか。
この記事では、国内外での大型台風や爆弾低気圧などの異常気象による被害や今後の適応策を紹介します。

世界各地で発生する大型台風や豪雨災害

毎年世界各地で発生している大型台風や集中豪雨は、大きな人的・経済的被害をもたらします。

また近年では、夏季の台風だけでなく冬季に発生する爆弾低気圧も局地的な豪雪や高波被害などの気象災害の原因になっています。

爆弾低気圧とは温帯低気圧が24時間以内に急発達した低気圧のことです。厳密には正式な呼称ではありませんが、気象学分野やメディアなどで慣例的に用いられている用語です。

図1で紹介するのは2019年に発生した世界の主な異常気象・気象災害です。

図1: 世界の主な異常気象・気象災害
出典: 内閣府 防災白書令和2年版「特集 激甚化・頻発化する豪雨災害」(2020)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r02/honbun/0b_1s_00_00.html

図1を見ても分かる通り、2019年は世界各地で豪雨の頻発や台風の大型化によって土砂災害や水害が多数発生しています。
7月から10月までにインドを中心に発生した大雨では、南アジアで死者2300名以上に及ぶ甚大な被害をもたらしました。

また前年の2018年には北米で「スーパー爆弾低気圧」と呼ばれる通常では考えられないほど急速に発達した低気圧が発生しました。

爆弾低気圧によってカナダやアメリカ各地は大雪や気温低下に見舞われ、約11億ドルもの経済損失が生じています[*1]。
気象災害による被害は、人的被害のみではなく農作物被害やライフラインの損失などの経済損失も深刻です。

次の図2は2019年に日本で発生した主な自然災害です。

記憶に新しい2019年の2つの大型台風は関東地方に大きな被害をもたらし、今後の経験や教訓とするべく令和元年房総半島台風(台風15号)と令和元年東日本台風(台風19号)と名付けられました。

図2: 令和元年に発生した主な災害
出典: 内閣府 防災白書令和2年版「特集 激甚化・頻発化する豪雨災害」(2020)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r02/honbun/0b_1s_01_01.html

また、日本は自然的条件により台風以外の気象災害も発生しやすく、平成29年7月北九州豪雨、平成30年7月豪雨のように毎年のように豪雨災害・土砂災害・水害などが発生しています。

気象庁アメダスが観測したデータでは、局地的大雨(ゲリラ豪雨)や時間降水量80ミリ以上の「猛烈な雨」が増加しています。

次の図3は時間降水量80ミリ以上の猛烈な雨の年変化です。

図3: 「猛烈な雨」の発生回数の年変化
出典: 総務省 株式会社ウェザーニュース「最近の気象現象の変化について」(2013)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000526164.pdf, p.4

図3のデータを見ると、「猛烈な雨」はここ30年で約1.7倍増加しています。

「猛烈な雨」とは息苦しくなるような圧迫感や恐怖を感じるほどの非常に激しい雨のことで、雨による大規模災害への厳重な警戒が必要になるレベルです[*2]。

さらに時間降水量50ミリ以上の「激しい雨」に関しても約1.3倍増加しています[*3]。
「滝のように降る」と表現されるように短期間で集中的に激しい雨が降ることが増えており、雨の降り方が変わっていることがわかります。

次にご紹介するのは、気象庁が1900年から計測している約120年にわたるデータです。長期的に見ても1日に200ミリ以上の大雨を観測した日が増加傾向を示しています(図4)。

図4: 日降水量200ミリ以上の年間日数の変化
出典: 国土交通省 気象庁「特集 激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」(2020)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/hakusho/2020/index1.html

データで紹介したように、国内外で集中豪雨や大型台風、爆弾低気圧などの異常気象による気象災害が頻発化しています。
本来、異常気象とは平均的状態から大きく偏った状態のことを意味しています。

気象庁の定義では異常気象は30年に1回以下の出現確率の現象としており、一生の間でも数回しか経験しないものであるはずです[*4]。

これまで、発生はまれなものであった異常気象の回数は目に見えて増えており、今後もさらに増加していくことが懸念されています。

地球温暖化と低気圧の発達の関係

集中豪雨や台風の大型化、爆弾低気圧などの異常気象は地球温暖化との関連が指摘されています。

まず二酸化炭素排出などの人間活動の影響によって長期的に気温が上昇していることは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル) 第5次評価報告書においても疑う余地のない事実だと認められています[*5]。

地球温暖化が雨の降り方に影響を及ぼすのは、気温上昇によって海洋からの蒸発が活発化し、大気中の水蒸気が増加することが原因です。

気象庁が観測したデータにおいても、上空約1500メートルの空気中に含まれる水蒸気は増加傾向にあります[*6]。
増加した水蒸気は発生した熱帯低気圧をより強いものに発達させ、最大風速がある一定の基準値を超えると台風やハリケーン、サイクロンとなります。

なお、西部太平洋では台風、東部北太平洋や大西洋ではハリケーン、インド洋や南太平洋ではサイクロンという呼称になり最大風速などの基準は異なります。

このように地球温暖化にともなって、勢力の強い台風が増加することは確からしいということが判明しています。

一方で台風の経路や上陸数、どのくらい勢力が強まるかなどの詳細なシミュレーションは今後の研究課題となっています。
2019年に発表された研究では、爆弾低気圧の発生に関して多量の水蒸気凝結が原因であることが報告されています。

この研究ではスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて2018年1月上旬に北米で発生した爆弾低気圧の発達要因を解明しました。現実に近い雲構造を再現し、低気圧の発達や地上降水の分布も詳細にシミュレーションしています(図5)。

図5: 雲の三次元構造と地上降水の分布
出典: 国立研究開発法人海洋研究開発機構 立正大学 九州大学 名古屋大学「『スーパー爆弾低気圧』の発達要因を解明」(2013)
https://www.ris.ac.jp/pressrelease/2019/hsu163000000hmm2-att/shosai.pdf p.2

図5(b)地上降水の分布において、気圧の中心付近に見られる赤くなっている部分で局所的に降水量が多くなっています。この局所的な降水の原因は世界最大規模の暖流であるメキシコ湾流の熱や水蒸気の供給によるものです。

分析により、降水の源である水蒸気が雨に変わる凝結の際に生じた熱が、低気圧の発達を加速させたことを確認しています。

日本列島の周辺にも暖流である黒潮が流れているため、メキシコ湾流が流れるアメリカ東方海上と並んで爆弾低気圧が発生しやすい環境です。そのため日本ではひと冬で数十個の爆弾低気圧の発生が記録されています。
日本での爆弾低気圧は、日本海沿岸や北海道・東北地方の太平洋沿岸における局地的豪雪、さらに高波被害の原因となります。
加えて船舶の座礁や転覆といった海難事故を引き起こす恐れもあり、過去には死亡事故も発生しています。

気候変動の将来予測〜発達する低気圧にどう対処していくのか〜

今後も二酸化炭素の排出が抑えられることなく、地球温暖化が進行していくと台風や降雨量はどのように変化していくのでしょうか。

気象庁がスーパーコンピュータを用いて行ったシミュレーションでは、すべての季節・地域において1日に200ミリ以上の大雨の頻度が増加するという結果が確認されています。

このまま二酸化炭素の排出が高いレベルで続くと、大雨の発生回数は21世紀末には2倍以上になることが予測されます(図6)。

図6: 日降水量200ミリ以上の大雨の年間発生回数の変化(二酸化炭素の排出が高いレベルで続く場合)
出典: 国土交通省 気象庁「特集 激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」(2020)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/hakusho/2020/index1.html

また、たとえ低気圧が発達していなくても、大気中の水蒸気が多いだけで降雨量が増えることから、夏は真夏日が増加し、悪天候も増えることが予測されています(図7)。

図7: スーパーコンピュータによる将来の気候変動予測
出典: 国立環境研究所 地球環境研究センター「台異常気象と地球温暖化の関係について」
http://www.cger.nies.go.jp/ja/news/2013/130911.html

さらに台風や局所豪雨、梅雨前線に関しても、地球温暖化はさまざまな影響を及ぼします(図8)。

図8: 顕在化している気候変動の影響と今後の予測(現象の変化)
出典: 国土交通省 気象庁「気候変動の影響について」(2019)
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou_suigai/1/pdf/09_kikouhendounoeikyou.pdf, p.3

このようにさまざまなシミュレーションによって、将来的に豪雨や大型台風などが増加することが予測されています。

では、年々勢力を増していく低気圧に対処していくためには、どうすれば良いのでしょう。

地球温暖化の緩和に取り組んでいくことは当然ですが、台風の大型化や降雨パターンの変化などの気候変動に適応して被害を軽減していく取り組みも重要です(図9)。

図9: 緩和と適応の関係
出典: 環境省 環境白書令和版「気候変動影響への適応」(2018, 2019)
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/pdf/1_2.pdf, p.29

気候変動への適応策として天気予報の精度向上や防災気象情報の伝え方改善などの取り組みが行われています。

台風進路予測や降水予測に関しては、2019年に導入された気象庁の数値予報モデルの改善手法により予測精度が向上しています。

次の図10を見ても分かる通り、改善後は実際の観測結果と近い予測が得られています。

図10: 大雨の予報制度の改善(平成30年7月豪雨の例)
出典: 国土交通省 気象庁「特集 激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」(2020)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/hakusho/2020/index1.html

また爆弾低気圧に関しても予測の研究は進められており、現在は1週間から4日前の範囲で予測が可能になっています[*7]。

1日程度の短時間で急速に発達する爆弾低気圧は、数日間の進路を予測できる台風とは異なり予測が難しいことが課題です。さらに暴風域が予報円で表現される台風とは異なり、爆弾低気圧は風速分布が非対称かつ広範囲に広がります。

温帯低気圧の発達に関するシミュレーションなどの研究により、爆弾低気圧のメカニズムの解明や予測精度向上が進められています。

防災気象情報の伝え方改善としては、土砂災害などの災害危険度が高まる地域を見える化し、迅速な避難につながるように情報提供しています。

図11: 1日先の予測「危険度分布」等の提供開始を検討
出典: 国土交通省 気象庁「特集 激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」(2020)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/hakusho/2020/index1.html

図11のように1日先の予測を公開することで長時間のリードタイムを確保した警戒や避難の呼びかけを検討しています。

まとめ

地球温暖化は気温上昇だけではなく、降水量の変化や低気圧の発達による台風の大型化などの影響を及ぼします。台風や大雨による気象災害は私たちの命や生活を脅かす甚大な被害をもたらします。

このまま地球温暖化が進行していくとより深刻な事態になることは、さまざまなシミュレーション結果からも明白な事実と言ってもいいでしょう。

すでにここ数年でも「数十年に一度の大雨」「経験したことのないほどの台風」などが複数発生し、従来の防災の常識が通用しなくなっています。

まずは地球温暖化の影響でこれまでとは違う気象現象が起こる可能性があることを知り、台風や豪雨などの気象災害に対する危機感や防災意識を持つことが大切です。
ハザードマップや避難経路の確認し、気象災害から身を守る準備をするなど個人で取り組める適応策もあります。

そしてやはり地球温暖化の進行を少しでも緩和するための取り組みをしていくことが最優先でしょう。

温室効果ガス排出削減などの取り組みを着実に進めながらも、既に現れている影響や中長期的に避けられないであろう気候変動への適応に取り組むことが大切です。

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

\ 自然電力からのおしらせ /

1MW(メガワット)の太陽光発電所で杉の木何本分のCO2を削減できるでしょう?
答えは約5万2千本分。1MWの太陽光発電所には約1.6haの土地が必要です。

太陽光発電事業にご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

国内外で10年間の実績をもつ自然電力グループが、サポートさせていただきます。

▶︎お問い合わせフォーム

▶︎太陽光発電事業について詳しく見る

▶︎自然電力グループについて

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1

国立研究開発法人海洋研究開発機構 立正大学 九州大学 名古屋大学「『スーパー爆弾低気圧』の発達要因を解明」(2013)
https://www.ris.ac.jp/pressrelease/2019/hsu163000000hmm2-att/shosai.pdf p.2

*2

内閣府 防災情報ページ「特集 大雨です、あなたはどうしますか?」(2016)
http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h22/07/special_01.html

*3

総務省 株式会社ウェザーニュース「最近の気象現象の変化について」(2013)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000526164.pdf, p.3

*4

環境省「異常気象とは」
https://www.env.go.jp/council/06earth/y064-11/mat02-2.pdf, p.1

*5

環境省「IPCC 第5次評価報告書の概要」(2014)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_overview_presentation.pdf, p.10

*6

国土交通省 気象庁「特集 激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」(2020)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/hakusho/2020/index1.html

*7

九州大学 爆弾低気圧情報データベース「爆弾低気圧はどのくらい前から予測できるのか?」
http://fujin.geo.kyushu-u.ac.jp/meteorol_bomb/recentworks/03.php

メルマガ登録