死者も続出する異常気象、世界で相次ぐ猛烈な熱波・寒波と温暖化の関係

夏場になると、北海道の気温が東京より高くなる—

そんな現象が記憶にある人は多いことでしょう。
また、世界では、殺人的とも言える熱波・寒波に見舞われる地域が相次いでいます。

これらの異常気象について温暖化との関係を指摘する研究者は多くいます。「寒さも温暖化の影響」と言われるとすこし矛盾を感じるかもしれませんが、そのメカニズムを読み解いていきましょう。

記録的な熱波・寒波、欧米で死者相次ぐ

近年、驚くような数字の気温をニュースで見かけます。
2021年に入ってからも猛烈な熱波、寒波のニュースが相次いでいます。

米テキサス州の大寒波

2月には米南部を大寒波が襲い、テキサス州でマイナス18℃まで気温が下がり、ここ30年の記録を更新しました[*1]。
砂漠地帯の多いテキサスの主要都市であるダラスの近年の年間気温推移は下のようになっています(図1)。

図1:ダラスの年間気温の変化
出典:気象庁「地点別データ・グラフ   (世界の天候データツール(ClimatView 月統計値))」
http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/climatview/graph_mkhtml.php?&n=72259&p=24&s=1&r=0&y=2020&m=12&e=0&k=0&d=0

夏場の最高気温が35℃程度、冬場の最低気温は0℃ほどといったところでしょうか。
ですから、テキサスでマイナス18℃の寒さというのが、どれほど異常であるかがわかります。

この寒波によってテキサス州では大規模な停電・断水が起きたほか、少なくとも70人の死者が出ていると報じられています[*2]。

カナダでは70人近くが突然死

そして2021年6月には、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のリットンで49.5℃の高温を記録し、猛暑が原因と思われる死者は70人近くに上ったと報道されています[*3]。

リットンの平均気温は下のようになっています(図2)。

図2:リットンの年間平均気温
出典:気象庁「地点別データ・グラフ   (世界の天候データツール(ClimatView 月統計値))」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/climatview/graph_mkhtml_nrm.php?n=71891&y=2021&m=1&s=1&r=0&e=6&k=0

平均的には、夏場でも20℃を少し超える程度の気温です。49.5℃というのは、かなりの異常気象であることがわかります。

寒波の理由も温暖化?

さて、異常な高温については温暖化との関係がイメージしやすいものの、寒波と温暖化というのは一見矛盾しているように感じるかもしれません。

世界の年間平均気温は、実際右肩上がりとなっています(図3)。

図3:世界の年平均気温の推移
出典:気象庁「世界の年平均気温」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html

それを考慮しても異常と言わざるを得ない熱波、それどころか大寒波が度々観測される理由については、諸説あります。

北極海の気温と偏西風の蛇行

三重大学などの研究チームが、2017年から18年かかけての大寒波について研究した結果があります。

このときも、北米を大寒波が襲っています。
一方で同時期に、ベーリング海峡の近くでは、歴史的な高温を記録していました。

南からの暖かい風がベーリング海にめりこむように侵入し、その結果、寒気が東西に押し出される形で北米などの上空を襲ったというものです(図4)。

図4:2017年~2018年にかけての気温と偏西風イメージ
出典:scientific reports「Warm hole in Pacific Arctic sea ice cover forced mid-latitude Northern Hemisphere cooling during winter 2017–18」(2019年)
https://www.nature.com/articles/s41598-019-41682-4

また、この温度分布の変化が、寒気と暖気の境目を吹く偏西風(ジェット気流)を大きく蛇行させる要因になったとしています。

2020年12月中旬以降の冬は日本でも大雪が降りました。2021年初旬にアメリカに大寒波をもたらした時期と重なりますが、この時期にも寒帯前線ジェット気流が大きく蛇行したことを気象庁が公表しています(図5、上にある紫の線)。

偏西風(ジェット気流)は本来であれば、ある程度蛇行することによって南から北へ暖かい空気を、北から南へ冷たい空気を運び、地球全体の温度を緩和する役割を果たしています。しかし、大きすぎる蛇行が異常気象をもたらしたという観測結果です。

図5:2020年12月中旬以降の日本での大雪の低温をもたらした大気の流れ
出典:気象庁「令和2年12月中旬以降の大雪と低温の要因と今後の見通し」(2021年)
http://www.jma.go.jp/jma/press/2101/15b/press_r02ooyuki20210115.html

つまり、北極付近の温暖化が続くと、偏西風(ジェット気流)の蛇行が頻繁に起きることが考えられます。この蛇行が比較的南に位置する地域に大寒波をもたらす現象は、今後もじゅうぶんに起こりえることです。

北極近海の海氷減少がもたらす大陸寒冷化という説

他に指摘されているのは、北極域にあるバレンツ海の海氷と気温の関係です。

過去の観測によって、バレンツ海の海氷表面積と平均気温の推移に相関関係があることが示されています(図6)。

図6:バレンツ海の氷床面積と日本の気温の関係
出典:海洋研究開発機構「バレンツ海の 海氷減少は、北極の温暖化を強め、大陸を寒冷化させる!」
https://www.jamstec.go.jp/j/kids/press_release/20120201/

 

上の図6は、バレンツ海の海氷面積と東京の気温を比較したものです。
バレンツ海の海氷面積が多いときには気温は高い傾向にあり、逆に少ないときには気温が低い傾向にあることがわかります。

今後温暖化で北極域の海氷面積が減少すると、日本にさらに冬の気温低下がもたらされる可能性があります。

熱波の影響も地球寒冷化が原因?

地球寒冷化によって熱波が発生するという説もあります。

たしかに、地球の長い歴史を考えれば、その変化はじゅうぶんに考えられることです。経済産業研究所の藤上席研究員は、「太陽活動が200年ぶりの低調な状態にある」と報告しています[*4]。

同時に、寒冷化への移行期には異常気象が発生しやすいことがわかっている、としています。

太陽活動の低下は、地球に寒冷化をもたらします。しかし、なぜ熱波まで生まれるのでしょうか。

2021年には北米が熱波・寒波に見舞われました。しかし2020年6月には、それを超える熱波が到来しています。
ロシア・シベリアに「世界の寒極」と呼ばれるベルホヤンスクという都市があり、マイナス67.8℃を記録したこともあるこの都市の気温が、2020年6月に38℃まで上昇しているのです[*5]。ベルホヤンスクの6月の平年気温は14℃ですから[*6]、明らかな異常気象です。

ここでも指摘されているのが「偏西風(ジェット気流)の蛇行」です。太陽活動が低下すると偏西風(ジェット気流)が蛇行する可能性がある、という論文は1998年にチェコの気象学者からも発表されています[*7]。

急激で大きな変化に対応できる世界へ

ここまで、熱波・寒波と地球大気の関係についての見解を紹介してきました。

様々な見方はあるものの、間違いないのは、わたしたちは地球規模の自然の法則に従って生きる必要があるということです。

頻発する異常気象による被害を目の前に、指をくわえて見ているわけにはいきません。積極的なレジリエンスを発揮すべきという点では地球温暖化説も地球寒冷化説もどちらの見解も共通しています。

経済格差や住居が位置する場所によって、異常気象で命を落としたり住む場所を追われたりする人が世界には多く存在しています。しかし、これを見逃してしまうと、結果的には世界中で食糧や物品の需給が乱れ、あらゆる社会に混乱を招くこととなります。

過去にも頻発してきた異常気象から、わたしたちは多くの学びを得て対策を練る必要があると言えるでしょう。

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参照・引用を見る

*1、2

BBCニュース「寒波で急増の電気代は『テキサス州が負担すべき』 米市長が主張」(2021年)
https://www.bbc.com/japanese/56150628

*3

BBCニュース「カナダ、記録的な高温で70人近い死者 3日連続で最高気温を更新」(2021年)
https://www.bbc.com/japanese/57661374

*4、7

独立行政法人経済産業研究所「偏西風の蛇行、地球寒冷化の前兆か…シベリアが気温38度の猛暑、世界で豪雨の異常気象」(2020年)
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fuji-kazuhiko/174.html

*5

CNNニュース「北極圏の町で38度、史上最高の暑さを記録 ロシア極東」(2020年)
https://www.cnn.co.jp/world/35155723.html

*6

気象庁「地点別平年値データ・グラフ」
https://www.data.jma.go.jp/cpd/monitor/climatview/graph_mkhtml_nrm.php?n=24266&m=1

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