デジタルと自然エネルギーが作り上げる新しい地域社会

自然電力でデジタル事業の責任者をしている松村です。本記事では、私たちが取り組んでいるデジタルサービスとスマートサービスがどういう地域を作っていきたいかをご説明します。

コミュニティ価値のあるまちづくり

まず、地域への活動の背景ですが、私の個人的な問題意識として低成長と過疎化があります。

左のグラフは縦軸が実質GDPの成長率、横軸は時間の経過です。1人当たりの実質GDPの成長率は日本はずっと低下しています。右の図は、869の自治体が2050年までに消滅するとされる予測です。

こうした「低成長と過疎」というのはかなり構造的な問題だと考えており、私は従来とは全く違うアプローチを我々は取らなきゃいけないのではないかと考えています。

そこで考えているのがコミュニティ価値追求へのモデルチェンジです。

従来はとにかく投資を拡大して売上を伸ばすというのがベースでした。機能的な分業と大規模な機械化を導入し、集中管理することによる規模の経済ですね。多く作れば作るほど単価が安く経済的になります。

我々が考えていかなければならないのは、こうした活動では地球環境や地域社会のインパクトがかなりあるわけです。コミュニティのためになるかといえば、必ずしもならない。

地域に機能を分散させて、その地域の中における機能を統合するということで、これを「幅の経済」と呼んでいます。

技術の側面といたしましては、不足しているという理由から大規模な機械化を導入するのではなく、今あるものをデジタル技術を使って、なるべくスマート化する。

そして有休の財(今ある使っていないもの)をシェアしていく。そうしたアプローチをかなり細かい単位で、地域分散型で行っていくことが必要なのではないかと考えています。

そうして実現していくのがコミュニティ価値のあるまちです。

まず安全・快適に暮らせるインフラはどういう地域においても必要だと考えています。

でもそれだけではダメで、それに加えてコミュニティ、社会的な承認をしっかり生み出せるような場づくりが必要ですし、もちろんそれだけではなくて、そこに文化がある。創造性があるということですね。

こうしたものをすべて提供する。こういったことが高いコミュニティ価値がある町だという風に考えていまして、これを実現するために我々は今取り組んでおります。

幅の経済(セクターカップリング)

次にそのコミュニティ価値を高めるための方法ですが、これは「幅の経済」であると考えています。

例えば我々は電気をやっておりますが、例えば、電気をやるのとセットで水についても同時に運用したり、ガスについても運用するとします。そうすると販管費、メンテナンス費が下がってきます。

「地下に土管を埋めているのであれば、そこの土管の横に電線を通せば良い」という形でメンテナンスコストが下がってくる。

そうしたことを自治体と民間が手を組んで地域のインフラを一挙集中して行うという統合管理を行っていくこと。こうしたことによって効率化をするということを考えています。

さらに住民サービスですね。例えば通信というものがあります。これも我々の方で行えるのではないかと考えました。あとは行政の方は役場とか、教育・医療があります。

こうした通信から遠隔化するというエリア、行政の会議室を予約するとか、そういうものをとにかくデジタル化しようという話が急に高まっています。

ですので、元々のライフラインに加えて住民サービスのIT化・遠隔化の基盤を提供するために「地域のインフラ会社を行政としっかり作っていこう」ということを考えています。

ただし、私たちは、ただ単に今のレベルのインフラをやるというだけではあまり意味がないと思っています。

「より人が暮らす価値のある町を作っていく」ということをどのように実現するかということで、サービスの展開を考えています。

図の下から読んでいきます。インフラ、これは道路やエネルギーインフラです。まずこれをスマート化してIoTによって制御するということに取り組み、エネルギーマネジメントやビルの監視などに取り組んでいきます。

その上で、もう少し人と人をつなげることを行っていきたいと考えております。これはまだ表には出ていませんが、ワーキングスペースであったり、あるいはカーシェアなど車のモビリティに関するシェアリングのサービスを開始していきたいと思っております。

このシェアリングエコノミーをエリアとして描きながら、同時にその場所やテクノロジーを通じて、交流や創造発表の場を作っていくわけです。

プールやサッカーのスタジアムの運営も行うかもしれません。そしてデジタル技術を使ってシェアリングとスマート化を進めていく。そうした取り組みを行っていこうと思っております。

小布施町の地域新電力「ながの電力」

こうした構想の下に小布施町で「ながの電力」という取り組みを行っておりまして、こちらをご紹介させていただこうと思います。

小布施町は人口1万人の長野県で一番小さい町です。1970年代からまちづくりを積極的に推進しておりまして、現在では年間100万人を超える観光客がいらっしゃるということでまちづくりの成功モデルケースになっています。

農産物という風土の遺産、葛飾北斎の文化的遺産というものもあるのですが、それだけではなく、この町が極めて特徴的なのは町並みの修景事業です。

「町並みを良くしよう」「歩いて楽しい町を作ろう」という、外はみんなのものという考えがあります。

町長室の前には「こういう町の景観を作りたいよね」という町長の意思を表すような絵が飾られています。

「絵に描いた餅が第一歩」というお言葉があるのですが、まず道作りから町を作ろうというところで、景観保護の方面から極めて積極的に進めて、それによって観光客を増やしていく。そういったことを実現したのが小布施町という町のプロフィールです。

このまちづくりを進めて行く中で、町長が「未来を考えた話がしたい。特に環境やエネルギーの課題を小布施町としてどのように解決していくべきか?」ということを大きなビジョンとして考えさせていただくということになりました。

私たちも「Obuse Energy Meeting」という形で、 様々な議論を活発的に行いまして、みんなで一緒にどういう風にエネルギーがあるべきかということを議論をさせていただきました。

その1つの結実というのが、ながの電力という地域新電力です。

ながの電力は小布施町と地元のCATV会社グーライトさんとの共同出資で作った電力の会社です。元々は小水力発電を作ったことがきっかけです。350世帯分くらいの電力を生み出す小さい水力発電ですね。

発電したエネルギーを単純に電力会社さんに売っているだけでは、町の中で経済が循環してきません。町で作った電気を町で売ることにすれば、全て町の中で経済が循環してくるし、町にお金が残るのではないかと考え、エネルギーを地産地消しようということになりました。

ですが、ただ単に地産地消しているだけではあまり大きな話になりません。

どうして事業に地場のケーブルテレビ会社が加わったのかというと、会社の創設にあたって、行政と民間が組んでまちづくりの事業をしっかり行なっていこうということを考えまして、通信・水道・ガス・防災・防犯のIoT、そして移動手段の確保のためのMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)ですね。

こうしたものに向けて電力を軸に暮らしを支えるインフラを作ろうとした、冒頭に申し上げたようなお話が詳細になってくるのですが、町や我々民間企業が出資して「共同でこういうことを実現しよう」ということが行われております。

限界費用ゼロで災害に強い「ベーシックインフラ」

小布施での取り組みで重要な背景となるのは、昨年度に発生した台風19号です。このエリアにも台風が直撃いたしまして、近くにある千曲川が越水し停電あるいは断水という被害が発生しました。

激甚化する災害に対して、何か我々が出来る対策はないかということが課題としてありました。

我々は堤防などは作れません。私たちが作りたいと考えたのは災害に強いライフラインです。

図のように、災害時であってもエネルギーが使えて、停電せず、EVにも乗れ、通信も使えて、断水を起こさずに水を確保できる状態にする。更にそうした限界費用をゼロにする。

太陽光発電の場合は太陽が照っていれば電気が発生します。もちろん保守費もありますし最初に建てるイニシャルコストもあります。でも一度建ててしまえば、追加的コストなくエネルギーを作れるということです。

EVを動かす、通信の基地局を動かす、地域のIoTサービスを動かす、水の循環をするという、生活に必要なものを限界費用ゼロに近い形で使っていただくことができるということがコンセプトです。

通信に関してですが、これは「地域BWA」という自治体に承認してもらうと使える2.5GHz帯の電波域があります。その電波域を使えるアンテナをグーライトさんというケーブルテレビ会社に建てていただいて、使っていただくということです。

モビリティ、地域通信、地域IoTサービス、水の循環。何を起きてもこうした必要なものが使える状態を作るということがひとつ大きなコンセプトです。

こうした拠点を、例えば町に3個か4個作れば、停電が起きても電気が使えて、EVにも乗れます。あるいは停電でキャリア網が不通になったとしても、通信や見守りやWeb会議ができます。

あるいは小水力発電はずっと水が流れていれば発電するので、こうした電気を病院に送ったり、あるいは車というのは動く蓄電池というところもありますので、拠点外にも電気を供給したりもできます。

「パーク&ライド」にエネルギーを組み合わた公共交通の利便性向上

また、私はエネルギーインフラを通じて公共交通のありかたも変えていけると考えています。

地域での公共交通の状況は「買い物難民」などの課題となっています。公共交通の利便性が低いから車にのり、車で移動するから公共交通が利用されず、更に公共交通の利便性が低くなるという悪循環があります。

私が考えているのは「パーク&ライド」と「カーポートPV」と「EVによるVPP(仮想発電所)」の組み合わせです。順に説明します。

まず「パーク&ライド」ですが、これは近くの公共交通の拠点までは車で移動するが、そこで駐車して(パーク)、そこからは公共交通に乗る(ライド)ことを促進することで、先程の悪循環を好循環に変えられるという考え方です。

そして、私はこのパーク&ライドにエネルギーを組み合わせることを考えています。公共交通の拠点となる場所の駐車場にカーポートPV(太陽光発電設備)を導入する。するとその土地で発電という収入が得られます。

また「VPP(Virtual Power Plant: 仮想発電所)」というのですが、電力会社の要請に従って充放電制御することで収益をえることもできるようになってきています。

電力系統で電力が余ったり足らなくなると今は火力発電所などを動かして調整しているのですが、これを民間の蓄電池やEV(電気自動車)の充放電を数万台、数十万台と遠隔集合制御することで、火力発電と同等の調整をする力を生み出せるという技術です。

今後EVが普及したら、通勤のため朝と夕に利用はされるがあとは駐車場に駐車されるEVが増えます。そのEVを集合的に制御することでVPP収益をえることもできるわけです。

こうしたカーポートPVの売電収益とEVのVPP収益を原資として、駐車場利用料やEV充電量や公共交通利用料の低減をすることができるわけです。それにより公共交通利用が増加することで公共交通の利便性を向上していくという好循環を生み出せると考えています。

電力設備を基盤としたスマートサービスのプラットフォーム

こうした取り組みでは当然に経済性が重要なのでその点をご説明します。

まず現時点でも多くのお客様で電力会社から電気を買うよりも、屋根に太陽光パネルを置いた方が安いです。

ただ初期費用が負担だということもあると思いますので、我々が初期費用を負担して「電気代が1割ぐらい安くなりますよ」という形で、屋根を貸していただいて太陽光パネルを設置することも行っています。

これを「PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)」というのですが、私たちはお客様から電気代として初期費用を回収するモデルです。そうすることでお客様はわかりやすく電気代削減のメリットを得られるわけです。

それに加えまして、EVのチャージングは単純に充電してしまうと電気を大きく消費してしまいます。ですのでAIといいますか、アルゴリズムで充電を制御することによって電気代を下げます。また蓄電池を入れる場合でも同様にアルゴリズムで充電を制御します。

我々はこうしたところを全て踏まえたトータルのパッケージサービスを提供いたしまして、災害への強さと経済性を向上させる電力設備の提供を目指しています。

そして、こうした遠隔検針や遠隔制御を行うためには現場にコンピューターを置く必要があります。私たちはそれを「Shizen Box」という製品名で設置をしています。

このShizen Boxですが、通常のコンピューターですので電力まわり以外にも利用できます。

そして、これまでのスマートハウスやスマートシティで課題になるのが、通信やコンピューターの設置・維持コストなのですが、電力サービスのついでで提供することでコスト削減をすることができて、色々なスマートサービスの経済合理性が出てくるのではないかと考えています。

先ほどの幅の経済と一緒なのですが、1個インフラを入れた際、そこにコンピューティングリソースがあれば、そこに様々なサービスを追加していきます。必要に応じてセンサーや分析のアルゴリズムを増やしていけば良いわけです。

我々の太陽光を見守るためのインフラを解放し、それを利用して色々なスマートサービスを実現していく。そうすることで特に人の少ないエリアでの生活レベル向上につながっていくということを考えています。

IoTのデータに関して、サービスごとにバラバラにデータを習得しておりますが、1個のデータ基盤にまとめる、新しいプラットフォームを作っていくということを試行しております。

データをクロスで集計できるので、一連の人の流れを統合的に分析することが可能となり、そこから新しい価値を生み出すことができます。これにより特に観光客、情報を持っていない人に色々な情報提供ができる可能性があります。提供することによって新しい生活体験、あるいはエンターテインメント体験が出来る町を作りたいです。

こうした情報はプライバシーが重要ですので、私たちが全て制御できるのはおかしいと考えています。

データのガバナンスについては、スマートホームのように私的空間のサービスについてはお客様がデータ利用のコントロールやデータ削除を行えることが重要ですし、スマートシティのように公共空間のサービスについては自治体がデータ利用やデータ削除などを行えることが重要であると考えています。

また将来的なことを見据えて、我々はブロックチェーンについて取り組んでおります。

一般的なデータベースを使用する場合ですと、運用者の視点から考えればデータの閲覧や改ざんは容易です。

Web3という分散インターネットの文脈でも議論されますが、プライバシー・ブロックチェーンという技術がございまして、これを使うことで当事者以外は誰も情報にアクセスができないし、改ざんもできなくなります。

スマートサービスが進展するとデータ・セキュリティ、データガバナンスの課題に直面するはずですので、このような形のものを作るということにも取り組んでいきたいと思っています。

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