忘れられてしまった本当の豊かさを取り戻す、暮らしを巡る物語 新作ドキュメンタリー映画「おだやかな革命」渡辺智史監督インタビュー

この特集はgreenz.jpと自然電力が共につくっています(greenz.jpより転載)

 

ドキュメンタリー映画「おだやかな革命」の劇場公開が、2018年2月3日に迫っています。監督した渡辺智史さんは、前作「よみがえりのレシピ」(2011年公開)で、山形の伝統野菜のタネにスポットをあてました。「食と地域」の次に渡辺監督が着目したのが、全国各地の「エネルギーによるまちづくり」というテーマです。

渡辺監督は取材の過程で、人口流出などで衰退しつつある地域をよみがえらせるカギは、地域に恵みをもたらす自然を守り、自然とつながること、そして、ローカルなカルチャーを守り、さらに更新していくことにあると感じたと言います。この記事では、映画に登場する地域の取り組みと渡辺監督のインタビューを紹介しながら、これからの「暮らし」について考えていきます。

渡辺智史(わたなべ・さとし)
1981年、山形県鶴岡市生まれ。鶴岡市在住。ドキュメンタリー映画監督。2008年フリーとなり、『湯の里ひじおり~学校のある最後の1年~』を監督。2012年に『よみがえりのレシピ』を全国劇場公開、香港国際映画祭、ハワイ国際映画祭にて正式招待上映。

地域の自立を切り開く「おだやかな革命」家たち

 「おだやかな革命」には、原発事故のあと全国各地で続々と誕生した、地域が主体となったエネルギープロジェクト、いわゆる「ご当地エネルギー」が登場します。

エネルギーは、食と同様にわたしたちが生きるのに欠かせないものです。しかし電気やガス、石油といったエネルギー源は、誰もが日々使っているにも関わらず、自分たちの暮らしと切り離された「どこか遠い存在」と感じる人が少なくありません。しかし、東日本大震災による原発事故によって、大きなシステムに依存し、何も考えなくても過ごせる暮らしが、いかに脆い土台の上に築かれているかに気づいた人たちが行動を起こしました。

この映画は、その動きに関わる人々の思いや行動を通して、エネルギーを自分たちの手に取り戻し、これからの暮らしがどうあるべきかについて丁寧に問いかけています。

なぜ「エネルギーとまちづくり」を追ったのか?

ここからは、なぜ「地域とエネルギー」をテーマにしたのか、渡辺監督のインタビューをお届けします。

食の映画(「よみがえりのレシピ」)をつくった渡辺さんが、なぜ「地域とエネルギー」をテーマにしたのでしょうか?

きっかけは、福島県で230年続く酒蔵大和川酒造を営む佐藤彌右衛門(さとうやうえもん)さんとの出会いでした。彌右衛門さんは、会津のうまい水とうまいお米に誇りを持って酒づくりをしてきた。でも、原発事故によって代々受け継いできた自然の恵みが一瞬にして台無しになってしまうという、ぼくらの想像を絶する危機に直面した。「自分とは関係ない」と思っていたことが自分の問題になった瞬間だったそうです。

でもまさか、そこから自分自身で電力会社をつくり上げたと伺って、驚きました。これまで大手電力会社などに独占されてきたエネルギーの分野で、地域の普通の人が出資をして事業を始めていることに希望を感じたんです。

そこで、「エネルギーによるまちづくり」という視点から、奪われてしまった暮らしの豊かさを取り戻していくことはできると、感じてもらえるような映画をつくりたいと思ったんです。

「エネルギー自治」とは何か?

エネルギーの映画というと、太陽光や風力といった自然エネルギーの発電所が主役だったような気がしますが、この映画はちょっと違っていて、地域の自立にスポットを当てていますね?

地域とエネルギーについて考える際に欠かせない視点は、生活に必要な燃料を買った際に、どれくらいのお金が地域に残るかというものです。電気やガス、ガソリンなどはいずれも地域の外から運ばれてきたもの。そのほとんどは地域外どころか海外から来ています。それをただ買うだけでは、地域のお金はどんどん外に流れていってしまう。

映画に出てくる人たちは、地に足のついた地域活性化をめざして、足元にある自然がもたらす恩恵に目を向けています。自分たちの地域の中から小さな経済圏をつくりながら、国や自治体、大企業など大きなものへの依存度を減らし、少しでも自立させていこうという気概を感じます。

例えば岡山県西粟倉村では、「電気をつくって売電」といういま流行しているビジネスモデルには頼らず、村の95%を占める森林の美しい循環を取り戻していくことをめざして、木材を利用しています。そして木材製品として売れないような、従来は捨てられていたレベルの材を、バイオマス燃料としてボイラーで燃やして温泉を沸かしている。そこから、いろいろな雇用が生み出されています。

そのような取り組みから生まれてくるのは、新しいコミュニティだったり、自分たちで事業をやり遂げた手応えだったり、結果的に移住者が増えたりといった、お金で計れない価値なんです。

西粟倉の森の風景

豊かな地域を増やしていくためには、国や行政に任せきりにするのではなく、エネルギーも食料も含めて、自治していくことから始まります。

もちろん、簡単なことではありませんが、自らの暮らしを自らが治めていく意識を持つ中で、地域に元々あった豊かさを取り戻す原動力が生まれるように思うのです。

古くて新しい地域の新しい姿

「おだやかな革命」の副題には、「これからの暮らしを巡る物語」とあります。映画を通じて、地域の新しいあり方は見えてきたでしょうか?

もっとも大切なのは、価値観の変化だったり気付きだと思います。例えば岐阜県の石徹白(いとしろ)地区は、人里離れた農山村です。都市部へのアクセスも不便な上に、豪雪地帯です。地元の人の中にも好んで住んでいるというより、都会に出たかったけど長男だからとか、いろいろな事情があって行けなかったと後悔している人もいる。

ところが、例えば東京の有名大学を出て大企業で稼いでいたような人が、「これからの未来はこういう地域の暮らしにある」と考えて移住してくる。そして、地域の人たちが気にもとめていなかったものの中にある、宝物を掘り出していくんです。そして移住者の姿を見ながら、地元の人たちの中にも「大切なものが地元にあるじゃないか」と気づく人が出てきたんです。

石徹白では、明治時代の先人が手掘りで築いた小さな農業用水路を地域ぐるみで守り継いできました。今回は、そこを起点として新たな小水力発電所が誕生したのですが、これは古いものと新しいもの、地元の人と移住者との融合を象徴しているように感じます。

それは、「よみがえりのレシピ」で描いた伝統野菜の話とも通じています。忘れられてしまったものの中に、未来に受け継いでいくべき宝物があるんじゃないかということです。昔のものをそのまま残すのではなく、新しいテクノロジーやアイデアを組み込みながら、地域ならではの文化とか風土を活かした価値を築いていくことが、これからの地域を存続させるために求められていることはないでしょうか。

石徹白での小水力発電設備設置風景

石徹白の小水力発電設備

忘れられてしまった本当の豊かさとは?

映画では、さまざまな地域が登場します。複数の地域を撮影した意味はどんなことでしょうか?

例えば映画の冒頭には、放射能の被害を受けた福島県が登場します。飯舘村に暮らす小林稔さんは、牧畜と農業を営んできました。牛を飼い、その堆肥で牧草を育てるという自然の循環を大切にしてきたのですが、丁寧に育んできたものが原発事故によってすべて奪われてしまいました。

あの事故は、ぼくたちが使っているエネルギーの多くが、見えないところで誰かの犠牲の上に成り立っていたということを知らしめるものでした。今までは、経済的だからという理由で化石燃料や原発が進められてきた。でも海外から輸入して巨大なものをやればやるほど、誰かが犠牲になってしまっていたんです。

いままでは、遠くの国でその影響があったので見えにくかったかもしれないけれど、ああいう形でより狭い国内の中で、広範囲で住めない土地が生まれてしまったというショックによって初めて気づいた人は、自分も含め多かったと思います。だからエネルギーと地域を描くこの映画では、どうしても飯舘村から始めたいと考えました。

飯館村から避難先で牛を育てる小林さん親子

小林さんは、現在は飯舘村に戻って牛を育て始めています。牧畜をしていた家庭は、事故前は200軒ありましたが、現在は小林さん含めてたったの3軒です。息子夫婦は戻ってこられないので、家族は分断してしまいました。それでも小林さんはあきらめないんです。

さらに、会津電力の彌右衛門さんたちのサポートを受けながら、まったく畑違いの電力事業を立ち上げました。そして、地域の人たちから出資を受けながら、その収益を地域に還元しようとしている。

巨大な原発のエネルギーによって奪われたものを、小さな再生可能エネルギー事業で少しでも取り戻そうとする小林さんのあきらめない生き様とか、どういう思いで帰村しているのかといったところを見てほしいです。

かつての飯館村にあった美しい循環によって支えられていた豊かな暮らしを取り戻そうという強い思いは、それぞれの地域の豊かさを取り戻そうと動き出した人々との思いと共鳴するものだと思うのです。ぜひ、各地域の挑戦を見て欲しいです。

都市と地方との関係性も変えていく

映画では、地方の話が中心に描かれています。都市部の人たちはどのように参加したらよいのでしょうか?

「地方の自立」といっても、農村や地方都市がその地域だけで閉じて、完結すればいいということではありません。食もエネルギーも、地域だけでは消費しきれませんし、都会の人だって地域の生活が維持できなければ、命を支える食やエネルギーが手に入らなくなるのです。「関係人口」という言葉がありますが、移住して定住する人が増えなくても、その地域との関係を持ち続けていくことで地域を活性化させることができます。

映画では、都市部に住む生活クラブ生協の人たちが、風車を建てた秋田県にかほ市に何度も通い、一緒に特産品を開発するシーンが出てきます。食でもエネルギーでも、生産する側の人々と消費する側の人々が積極的に関わり合い、顔の見える関係を築いていくことが大切なのだと感じます。その交流の中から、お互いのスキルを交換したり、困ったときに助け合うといった、お金では計れない価値をやりとりする関係も生まれてきます。

また、電力小売自由化がはじまったことで、一般家庭でも電気の購入先を選べるようになりました。映画の最後には、会津電力が発電した電気を生活クラブが設立した電力小売会社に売るシーンが出てきます。

そんなふうに、値段だけ安ければいいと判断するのではなく、顔が見える関係を選べるような選択肢ができたことは大きい。どういう人たちが、どのように、どういう思いで発電した電気を買うのか、それを気にして電気の購入先を選択していくことが、社会を変える一歩につながります。

生産者と消費者が直接交流するというケースも増えてくるでしょう。食べ物ではすでにそういう関係ができている人たちがいます。エネルギーでそうした都市と地方の新しい関係性が広がっていけばいいですね。

みなさんにも、行動できることがあるだろうと思います。それは、暮らしのエネルギーに興味を向けること、そして食と同じように、そのエネルギーがどのようにつくられたものかを知り、購入するエネルギーを自分で選ぶことです。

ドキュメンタリー映画「おだやかな革命」に出てくるような、地域の自立をつくることも、エネルギーを自分で選ぶことも、根っこにある思いは同じだろうと思います。「暮らしの選択」、その先にある未来を一緒につくっていきませんか。

映画「おだやかな革命」は、2018年2月3日(土)よりポレポレ東中野でロードショー公開。
本作のナレーションは女優の鶴田真由さんが担当しています。
また、2月3日には、「暮らしの選択」をテーマにマルシェも開催します(Space&Cafe ポレポレ坐にて)。

(写真: 関口佳代)

 

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